24 救われた想い
「おいしぃ」
俺が口元に運んだおかゆを一口食べると、すずはそう呟いた。
「お米ってこんなに甘かったんだね」
「おいしいなら良かった」
「慶が食べさせてくれてるからかなぁ?」
「違うだろ! お母さんの愛情が入ってるからじゃね?」
「そっか......そうだね」
6日間殆ど何も食べていなかった彼女は、胃に負担がかからないようにとお母さんがトロトロになるまで炊いてくれたおかゆを、ゆっくりと味わいながら食べていった。
「全部食べれそう?」
茶碗にはまだ1/3程残っている。
「ちょっと......無理」
「大丈夫。無理しなくていいよ。ゆっくり戻していこう」
「うん」
すずが食べ終わった茶碗を持って一階に下りると、お母さんは茶碗を手に取って「こんなに食べてくれたんだ」と嬉しそうに微笑んだ。
「頑張って食べてましたよ」
「慶一くんが食べさせてくれたしね」
クスッと笑うとお母さんは「すずっていつもあんな風に甘えるの?」と聞いて来た。
「あんな風?」
「おかゆ食べさせて! とか言ってたから。
普段あんな風に甘えたりしない子だから、ちょっとビックリしたのよ」
「そうなんですか? すずって甘えん坊ですよね?」
「ドジで抜けてるところがあるからついつい心配しちゃうんだけど、自分から甘えるって事しないのよ。
子供扱いされたくないみたいで。
まぁ いつもはあの子が甘える前に雄ちゃんが先回りして甘えさせちゃうんだけどね」
俺はお母さんの言葉に苦笑いをした。
「慶一くんには本当の自分でいられるのかなぁ。
あの子は本当にあなたの事が好きなのね」
「俺も......俺も好きです......すずの事。
いい加減な気持ちじゃなくて、ちゃんと好きです」
「うふふふっ ありがとう。娘をそんな風に思ってくれて」
自分の思いを改めて口にするのは、恥ずかしくて仕方ない事だった。
だけど今、伝えておくべき事だと思ったんだ。
俺達の事を見守ってくれているお母さんには、ちゃんと分かっていて欲しかったから。
そのまま俺はすずと一緒に一日を過ごし、会えなかった時間を埋めるようにたくさんの事を話した。
「ねぇ 慶?」
ベッドの上で、俺の膝枕で寝ているすずが問い掛けてくる。
「慶は、あの夢を見るのが怖いって言ったよね?」
「うん。すげぇ怖かった。
前世を思い出してからはあの夢を見る事もなくなったけど、最後の方は夢を見る度に胸が苦しかった。
いつかすずを失ってしまうかもしれないっていう不安と、思い出したくない何かを思い出してしまいそうで怖かった。
今思えば自分の前世が吸血鬼だった事、そしてその為にすずを死なせてしまった事を思い出す事を心が拒んでいたんだろうな」
「あたしには慶の不安な思いを分かってあげる事が出来なかった。
だってあたしはいつも幸せだったから。
あの夢の中のあたしは、慶に愛されて凄く凄く満たされていたの。
悲しい思いも、苦しい思いも感じた事なくて、いつも幸せだったよ。
だけど、あたしは慶を苦しめていたんだよね。
あたしが愛されたまま死にたいって言ったから、慶はあたしの希望を叶えてくれた。
それがどれだけ慶を苦しめる事なのか考えもしないで。
......ごめんね。慶一人残して死んじゃって。
慶に悲しい思いさせて、慶の苦しみを分かってあげられなくて、ごめんね」
彼女の言葉で、俺の中にあった罪悪感が浄化されていく。
俺は彼女の命を奪った事を、ずっと後悔していた。
彼女を諦める事が、彼女の為だったのではないか。
幸せになる権利を、俺が奪ってしまったのではないかと......。
だけどすずは、幸せだったと言ってくれた。
いつも俺の愛に満たされていたと......。
俺が彼女を愛した事は、間違いじゃなかったと思っていいのだろうか。
前世の俺達は精いっぱい自分達の愛を貫き、幸せだっと思っていいのだろうか。
「慶、泣かないでよ。ごめんね。......ホントごめんね」
横になっていた体を起こし、すずは俺を優しく抱き締めた。
「ちが......違うんだ。俺今やっと前世の自分を許せると思ったんだ。
それに俺達がこんな風に出会った意味が、やっと分かったよ」
「出会った意味? 約束を果たす為......だよね?」
「それだけなら前世の記憶なんて思い出す必要なんてない。
俺達はきっとあんな夢なんて見なくても、お互いを見つけ出してたと思わないか?
俺は絶対に、すずを好きになっていたと確信できるよ」
「じゃあ、どうしてあんな夢を見せてまで前世を思い出させたの?」
「きっと俺の為だよ。
前世の俺はすずを失った後、一人で生きていく勇気がなくてお前の後を追った。
そうすれば自分の犯した過ちからも、苦しみからも逃れられる気がして。
だけど、そうじゃなかった。
俺の魂は、ずっと、もがき苦しみ続けていたんだと思う。
だけどさっきすずに『いつも幸せだったよ』って言われて、やっと救われた気がしたんだ。
これで心から、すずを愛していいんだって思えたんだ」
「じゃあ、もう前世を思い出した事後悔してない?」
「してないよ。むしろ感謝してる。
すずがどんなに俺の事を、思っていてくれたのか分からせてくれたから。
そして俺がどんなにすずを愛してるかって事も」
前世の俺には出来なかった事。
すずと一緒に生きて、彼女を誰よりも幸せにする事。
俺はその事を、改めて前世の自分に誓ったんだ。
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