23 もう大丈夫
ゆったりとした時間の中で切りがない程キスを交わして、俺達はお互いの気持ちを確かめ合った。
「慶、大好き!」
「お前それ何回目?」
「何回でも言いたいの。いっぱい言うのはダメぇ?」
くっ付いていた体を離して、すずは甘えた顔で俺を見上げた。
「......ダメじゃないよ」
「良かった」
零れ落ちそうな笑顔を見せ、すずはまた俺に体を預ける。
こんな風に甘えられて、ダメと言える男がいるのだろうか。
「すず......俺ちょっと下に下りて来ていいか?
お母さんと話して来たいんだけど」
俺がそう言うと、すずは「嫌だ。まだ離れたくない」俺の腕を掴んだ。
「お母さんと話したら直ぐに戻ってくるから」
そう言ってもフルフルと顔を横に振り、俺の体により一層しがみ付いてくるすず。
離れる事を怖がる彼女が安心するように「もう大丈夫だから」と俺は有りっ丈の思いを込めてすずの体を抱きしめた。
「約束しただろ? もうずっと一緒だよって」
「分かってる。分かってるの......」
「ごめんな。いっぱい不安にさせて、ごめん」
「じゃあ......あたしも一緒に下りていい?」
「イヤ、ここで待ってて」
「どうして? あたしいると話せない?」
「分からない。だけど、そんな話もあるかもしれないから」
俺の言葉に益々彼女の表情が曇る。
「そんな不安な顔すんなよ。大丈夫。
何があっても何を言われても、もうすずと離れようなんて思わないよ。俺を信じて」
俺の言葉に小さく頷くと不安そうな瞳を残したまま、すずは俺から体を離し「早く戻ってきてね」と言って微笑んだ。
一人階段を下りリビングのドアをゆっくりと開けると、ソファに座っていたお母さんが不安な表情を見せながら立ち上がった。傍には幼馴染もいる。
「鈴音は?」
「もう大丈夫です。ちゃんと食事も取るって約束してくれましたし、心配掛けてごめんなさいって謝ってましたから」
「良かったぁ。ホントにこのまま何も食べてくれなかったらどうしようって。
無理やりにでも病院連れて行くしかないって思ってたの。慶一くん、本当にありがとうね」
お母さんは瞳に涙を浮かべながら、何度も俺に頭を下げてお礼を口にした。
でも俺は......。
「違います。俺が悪いんです。
すずの思いに気付かずに、勝手に悩んで彼女を傷つけた俺が悪いんです。
それで彼女を追いこんでしまったんです。本当にすみませんでした」
「で、結局別れんの?」
傍で見ていた幼馴染が、単刀直入に聞いてくる。
「いや、別れない。そんな事出来る筈なかったんだ。
俺にはすずが必要なんだって改めて分かった。
それに、果たさなきゃいけない約束があるんだ」
「約束?」
「ずーっと昔に交わした俺達だけが知ってる、大切な約束。
今度こそ誓うから。これからは俺がすずを守るって。
......ありがとうな。すずの事教えに来てくれて。お前にはホント感謝してる」
「お前って言うなよ。2つも年上なんだよ俺は!」
「じゃあ何て言えばいいんだよ。俺に雄ちゃんって呼べって言うのかよ」
「は? お前に雄ちゃんなんて呼ばれたくねぇし」
「俺だって嫌だっつーの」
すると俺達の会話を聞いていたお母さんが「あなた達いつの間に仲良くなったの?」と言って俺達の顔を交互に見て笑い始めた。
「冗談じゃない! 誰がこんな奴と」
「こんな奴ってなんだよ。俺に『頼む、助けてくれ』って言った来たの誰だよ」
「それは鈴音の為だから仕方なかったんだよ。そうじゃなかったら誰がお前なんかに頼むか。
俺はまだお前を認めてないんだよ」
「お前が認めなくても、別に痛くも痒くもねぇし」
火花が見えるんじゃないかと思うくらい幼馴染と睨み合うと「あなた達が仲良いのは分かったから」お母さんはそう言って「すずにおかゆ持って行ってくれる?」と俺に問いかけて来た。
「お母さんも一緒に。きっとすずも謝りたいって思ってると思うんです」
お母さんがお盆に乗せて運んで来たおかゆを受け取ると、俺は彼女が待つ2階へ向かった。
「すず、入るよ」
声を掛けてドアを開けると彼女はベッドの上で正座をして、俺が戻ってくるのを待っていた。
「慶。遅いよ」
「ごめん。そんな怒んなよ」
「......ママは?」
「そう言うと思って呼んどいた。お母さん、すずが話したいみたいです」
ドアの外にいたお母さんに声を掛けると、お母さんはゆっくりと部屋に足を踏み入れた。
「ママ......いっぱい心配掛けてごめんなさい。あたし本当に死にたい訳じゃなかったの。
ただ......ただね......」
すずの大きな瞳から零れ落ちる涙が、彼女の言葉を詰まらせる。
「もう謝らなくていいから。ただ約束して。もう2度とこんなことしないって」
「うん、約束する。......雄ちゃんにもお礼言わなきゃね」
「それなら俺が言ったから大丈夫」
「そうなの?」
「慶一くんと雄ちゃん、なんだか仲良しになってたよ」
「ママ、それホント?」
さっきまで泣いていたのが嘘のように、嬉しそうに笑うずす。
「そんな訳ねぇだろ。すず、そんな事よりおかゆ食べな」
俺が否定しながらおかゆを差し出すと「慶、食べさせて!」すずは大きな口を開けて俺を見上げた。
「この子はもう......」
お母さんは可愛く甘える娘を見て、ほっとしたように微笑んでいた。




