22 しょっぱいキス
明けまして、おめでとうございます。
今年もマイペースに頑張りますので、よろしくお願いいたします。
コン、コン......コン、コン。
すずの部屋のドアをノックする。
だけど中からの反応は聞こえない。
「すず、俺だよ。......すず?」
「寝てるのかもしれない。体がしんどいのか、最近寝てることが多いの。
鍵は掛けないように言ってあるから、開いてると思うんだけど」
すずのお母さんはそう言って、俺にドアを開けるように促してきた。
緊張しながらドアノブを廻しゆっくりとドアを開けると、部屋のカーテンを閉め切った薄暗い部屋ですずは寝息を立てて静かに眠っていた。
遠い昔、美鈴が目覚めることを祈るような気持ちで迎えていた朝。
その時の思いが鮮やかに蘇ってくる。
すぐにカーテンを開け部屋に光を導き入れると「すず......起きて。すず」俺はベッドの脇に跪いて優しく彼女の髪を撫でた。
その様子を黙って見つめるお母さんと幼馴染。
「すず......俺だよ。起きて」
何度目かの問いかけに彼女がゆっくりと目を覚ます。
「......けい?」
「そうだよ。起きたか?」
そう問いかけるとすずは少ししんどそうにしながらも体を起こし、「けい」甘えた声で俺にしがみ付いてきた。
「けい、......慶」
涙声で何度も俺の名前を呼ぶすずの体をしっかりと抱きしめ「ごめんな」俺は一言謝った。
「もうホントに会えないと思った。
会いたかった。......ただ慶に会いたかったの」
「うん。俺も会いたかったよ」
「じゃあ、どうしてもう会えないって言ったの?」
「それは......その......」
俺が言葉を濁すと「おかゆ作ってくるね。すず、少しは食べれるよね?」お母さんはそう言って、小さく頷いて返事をする娘に安堵の色を見せて、幼馴染と一緒に階段を下りて行った。
「すず。どうしてこんな事したんだ?
すずのお母さんやお父さんの気持ち分からない訳じゃないだろ?」
優しく問いかけると彼女は「ごめんなさい」と小さな声で謝った。
「最初は悲し過ぎて食べたくなかったの。ただそれだけだった。
だけど何故だかこのまま食べずにいたら、慶が会いに来てくれるような気がしたの。
慶が助けに来てくれる......そんな気がしたんだ」
「もし俺が来なかったら、どうする気だったんだよ」
「もしそうなら、それでもいいって......思った」
「何言ってんだよ」
「だって、だって......」
大粒の涙をポロポロと零し言葉を詰まらせながら、すずが俺への思いを口にする。
「慶に......会えないくらいなら、死んでもいいって......思ったの」
「いいわけないだろ!」
「だって......あたしは、慶に会う為に......生れて来たんだよ。
慶を、愛する......為に、生きて来たのに......慶を失ったら......生きてる、意味がないの」
「......すず」
何度も聞いた、美鈴の言葉と重なり合う。
「ねぇ 慶、お願いだから、傍にいさせて。
慶に......ずっと、好きで......いて、貰えるように......頑張るから。
我がままも......言わない。ただ傍にいたいの」
どこまでも深いすずの愛が、不安に押し潰されそうになっていた俺の心を包み込む。
俺は自分の腕の中に居る、彼女の小さな体をギュッと抱き締め囁いた。
「すず、ごめんな。
罪悪感とお前を失ってしまうかもしれないっていう不安に負けて、俺は逃げ出したんだ。
ただお前に嫌われるのが怖かった」
「どうしてあたしが慶を嫌うの? そんな事絶対にある訳ないよ」
「お前はまだ知らないから。俺達の前世の事。
お前が死んだ理由も、俺の正体も。
それを知ったら、すずが離れていくって思ったんだ」
首を傾げてきょとんとした顔を見せるすず。
「前世?」
「......おれさぁ、......実は」
「慶が吸血鬼だった事?」
「お前......知ってんの?」
「うん、知ってる。でもそんなの関係ないよ」
「俺の事怖くないの?」
「どうして? だって今は違うじゃない。
それにもしまた慶が吸血鬼に生まれ変わっても、あたしはきっとまた慶を好きになったよ。
あたし言ったでしょ! あたしの気持ち信じてねって。
ずっと慶が好きだよって」
あの時すずが言った言葉の本当の意味が、この時やっと分かった。
幼馴染みに嫉妬している俺を安心させる為に、言ったんじゃなかったんだ。
前世を思い出した俺が不安にならないように、すずは俺に思いを伝えてくれていた。
俺はこんなにも彼女に愛されていたんだ。
それなのに一人で勝手に不安になって、俺は彼女を傷つけた。
大切な約束を忘れて、自分から彼女を手放そうとするなんて。
俺はどこまでバカなんだろう。
「ごめん......すず。......ホント、ごめん。
もう、離れないから。今度こそ本当に約束する。
あの時交わした約束、絶対に果たすから。一生掛けてすずを幸せにするよ」
「ホント?......あたし慶と一緒にいられるの?
ずっと傍にいていいの?」
「うん。ずっと一緒にいよう」
「慶」
俺の腕の中に戻って来た温もりは、何よりも大切な、何よりも確かなモノ。
俺は頬を流れ落ちる涙を拭い、小さく微笑む彼女と何度も優しいキスを交わした。
久しぶりのキスは、ほんの少ししょっぱい味がした。




