1 夢の中の君
20XX年
今の俺の悩みの種。それはここ最近頻繁に見る夢。
顔も知らない誰かが夢の中に出てきては、何度も何度も俺の名前を呼ぶ。
その声は優しく、愛おしささえ感じるのに、何故か俺の胸を切なくさせる。
目覚めた時、涙を流している事さえもあるのは何故だろう。
声に出して呟くと、会いたいという思いが込み上げてくる。その人の名は『すず』
夢の中の俺は、その名前を泣きながら叫んでいる。
彼女を抱きしめ、狂いそうな程声を張り上げながら......。
幼い頃から何度も見てきた夢。
だけどその間隔は次第に短くなり、今ではほぼ毎日だ。
この夢は、俺に何かを伝えたいのかもしれない。
何の根拠もないけれど、俺にはそう思えて仕方がない。
だけど、どうすればその答えが見つかるのか分からない。
俺は一体、何をすればいいのだろう。
高校に入って2カ月。満員電車に揺られウンザリするような毎朝。
睡眠不足の今の俺には、地獄に近いものがある。
その上今朝は、何故か頭の中がスッキリしない。
【寝不足のせいかなぁ......なんか変な声聞こえんだけど】
こめかみに手をやりモヤモヤとする頭を軽く左右に振ると、眩暈を起こしそうになって足元がふら付いた。
【やべぇ......マジ寝不足】
立ち止まって駅の壁に寄り掛かかっていると、暫くしてクラスメイトの聖が声を掛けてきた。
聖は小学校からの友達で、見た目はもちろん性格までもチャライ女の子大好きな男だ。
「慶一、おはよう。お前朝から顔色悪いけど大丈夫か?」
「あぁ、ちょっと眩暈がしただけ」
「昨日も例の夢みたのか? また眠れなかったんだろ?」
心配顔で問いかけてくる聖に「大丈夫」俺はそう返事をして、壁から体を起してゆっくりと歩き出した。
「お前さぁ......空耳ってある?」
隣を歩く聖に話しかけると「空耳? まぁ、なくもないかな」そんな返事が返って来た。
「何、変な夢の次は空耳か? お前ホントに大丈夫かよ」
「空耳って程の事じゃないんだけど、何か声が聞こえる気がするんだよな」
「どんな?」
「それが良くわかんねぇんだよ」
「なんだそれっ」
呆れた顔で俺を見る聖に苦笑いを返すと「あっそう言えば、この前会った女の子達に、お前の連絡先聞かれたんだけどどうする?」顔色を伺うように聞かれた。
自分で言うのもなんだけど、俺は見た目が派手めでかなりモテる。
「教えなくていい。お前らがどうしても来いって言ったから行っただけだし興味ない」
「何で、超可愛い子たちだったじゃん」
「そうかもしんねぇけど......」
「お前さぁ彼女作る気ねえの? って言うか、誰か好きになった事あんの?」
「好きな人はいる......様な気がする」
「は? 何それ」
「自分でも良くわかんねぇけど、ずっと誰かがココ(心)にいるような気がすんだよ」
「お前が言ってる意味がわかんねぇよ」
「......うん。俺もわかんねぇ」
自分でも上手く説明出来ない。だけど物心付いた時から、ずっとそうだった。
可愛い子から告白されても、憧れる人は出来ても、絶対に揺るがない気持ちが俺の中にはある。
ただそれが誰に対してなのかが分からない。というか、思い出せないだけなんだ。
【やっぱ、あの夢に関係あんのかなぁ?】
そんな事が頭を過った時【もうすぐ会いに行くよ】今度ははっきりと女の子の声が聞こえた。
「えっ、何?」
驚き立ち止まると「お前急になんだよ」聖が怒りながら問いかけて来た。
「えっ? あ、ごめん」
彼に謝りながら一歩前に踏み出すと、ドンッと勢いよく女の子とぶつかった。
その拍子に彼女は足元がよろけ、俺は咄嗟に腕を掴んでそれを支え「ごめん。大丈夫?」掴んだ腕の主の顔を見ながら声を掛けた。
「私こそすみません。よそ見をしてて」
頭を下げた彼女が顔を上げ互いの視線が合った瞬間、俺の心臓が一瞬時を刻む事を忘れた。
【すず】
今度は男性の声が聞こえた。
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その他に「私はまだ恋を知らない」という異世界転移の恋愛小説も連載中です。
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