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17 仲良くなれる気がしない

 二人が過ごす柔らかな時間。


 それが終わりを告げるいつもの時間になると、すずは壁に掛けられた時計を見上げて溜息を漏らせた。


「慶、もうすぐ帰る?」


 甘えたように俺を見詰めるすず。


「そうだな。もうそろそろ帰らないと」


「もうちょっと一緒にいたい」


「でも、もうすぐ夕飯の時間だろ? それにまたあいつに嫌味言われるぞ」


「雄ちゃんは関係ないよ。......慶、ちょっと待ってて」


 すずはそう言うと部屋を出て階段を駆け下りて行った。


「ママ、慶も一緒に夕飯食べていい?」


「はぁ? 何でだよ。もう帰らせろよ」


「雄ちゃんに聞いてない!」


「お前はバカか! いいから帰らせろ!」


「そんなに嫌なら、雄ちゃんが帰れば」


 すずと幼馴染の言い合いが二人の仲の良さを俺に突きつける。


「もう、二人とも止めなさい」


「だってママ~。」


「すず、慶一くん呼んでらっしゃい。

 あなたの事だからそう言うと思って、慶一くんのご飯も用意してあるから」


「ホントに? やっぱりママは誰かさんと違って優しいなぁ」


 彼に対してどんな表情で嫌味を言ったのか想像がつくすずの言葉に苦笑いをしながら、俺は階段を駆け上がって来る彼女の足音を聞いていた。


「あのね、慶」


「全部聞こえてた」


「えっ?」


「お前、必死過ぎ」


「だって......慶は嬉しくない?」


「嬉しいって言うより緊張するよ」


「......ごめん」しゅんとした顔で謝るすず。


「別に謝らなくていいよ。嫌な訳じゃないし。

 すずは嬉しいか? 俺が一緒に夕飯食べるの」


「うん!」


 顔を上げ素直に頷く彼女の頭を優しく撫で「じゃあ、食べて帰るよ」俺はそう言って彼女をそっと抱き寄せた。


「慶、どうした?」


 すずと幼馴染の仲の良さに嫉妬を覚えた俺は、彼女の思いを確認するように唇を重ねた。


 俺の背中にそっと手を廻すすず。


 不安な気持ちを察しているかのように、優しく俺の背中を擦ってくれる。


「大丈夫? 何だか慶、おかしいよ。まだ気分悪い?」


「別におかしくねぇよ。気分ももう大丈夫」


「ならいけど......。無理だったら言ってね」


「わかった」


「ねぇ 慶」


「ん?」


「どんな事があっても、あたしを信じてね。あたしはずっと慶の事が好きだから」


「急にどうしたの?」


「ちょっと伝えたくなっただけ」


「信じるよ、すずの気持ち。お前も信じろよ・・・俺の事」


「うん。約束ね」


 この時俺は、幼馴染に嫉妬した事に気が付いた彼女が、俺の不安を取り除こうとして言ってくれたのだと思った。


 だけど本当はそうじゃなかった。


 自分が思っていた以上に、俺は彼女に愛されていんだ。





 一階に下りリビングのドアを開けると、ダイニングテーブルには御馳走が並べられ4つある椅子の一つに座っている幼馴染が俺を見て舌打ちをした。


【ちょっとは遠慮しろよって顔してんなぁ】


「雄ちゃん、今日はパパの椅子に座ってよ」


 すずがそう言うと「なんでだよ。俺の席はいつもここだろ」不機嫌な声で文句を口にする幼馴染。


「だって慶がパパの席っておかしいでしょ?

 ママの隣だよ? 慶はあたしの隣がいいの!」


 すずの言葉に納得がいかない様子の彼は仕方なく立ち上がると、向かい側の椅子にドカンと腰を下ろし「すいません」と謝る俺を見てまた舌打ちをした。


「もう、雄ちゃん感じ悪いよ。慶は此処座って」


「うん。ありがとう」


「お家の方には連絡したの? 急に夕飯要らないって言って怒られなかった?」


 ご飯をよそった茶碗を俺に渡しながら、お母さんが問いかけてくる。


「はい! さっき電話しました。夕飯要らないって言ったら兄弟が喜んでました」


「あら、それは良かったわ。兄弟は何人いるの?」


「男四人兄弟の3番目なんですよ。だから毎日夕飯は戦争です」


「それは過ごそうね」


 驚きながらも優しい笑みを漏らせるお母さんの隣で、不機嫌さ全開で黙ったまま黙々と食事を続ける幼馴染。


 俺達が気まずい空気を漂わせている中、すずとお母さんは楽しそうに会話を弾ませる。


「ホント仲いいんですね。二人とも」


「慶の家は違うの?」


「兄弟仲はいいけど、喋るより食べる方が忙しいって感じ?」


「なんか楽しそう」


「すずの家とはちょっと違うけど、かなり賑やかだよ」


「いつか行きたいな。慶んち」


 すずがそう言った時、夕飯を先に食べ終わった幼馴染が音を立てて箸を置き「お前いつ帰んの?」と棘のある言い方で俺に聞いて来た。


「えっ 食べ終わったら帰るけど。......何?」


「慶、直ぐ帰るの? じゃあ、あたし駅まで送って行くね」


「えっ!?」俺と幼馴染の声が重なる。


「送らなくていいよ」


「どうして?」


「どうしてって......。心配だからに決まってんだろ」


「鈴音。お前はバカか!駅から帰る時一人じゃ危ないだろう」


 俺と幼馴染がそう言って怒ると「二人して怒らなくてもいいじゃん」すずは拗ねた顔で俺達を見た。


「マジで送らなくていいから。帰り道分かるし」


「でも慶、また気分悪くなったりしない?」


「もう、大丈夫だから」


「でも......」


「子供じゃねぇんだから一人で帰れるだろ」


 聞こえるように呟く幼馴染に「雄ちゃんは黙ってて!」すずが文句を言い返す。


「全くバカみてぇ」


 呆れたように零すと幼馴染は立ち上がり「おばさん御馳走様でした」お母さんに頭を下げてリビングのドアを出て行った。


「あたしそんな心配される程子供じゃないよ」


「子供じゃないから心配なんだろ」


「......わかった。でもさっきの慶と雄ちゃん面白かったね。

 二人して同じように怒って」


「案外、気が合うかもね」


 俺達の会話を聞いていたお母さんにそう言われて俺は苦笑いをした。


【絶対に仲良くなれる気がしねぇ】





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