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16 ひざまくら

本日2話目の投稿です。

次々と頭の中に浮かび上がる映像。


時代劇の映画で見たような古びた街並み。着物を着た女性にお侍。


そんな、色のない世界で俺は一人佇んでいる。


空虚感を感じながら、なんの目的もなくただ生きている。


今まで感じたことがないような虚しさにも似た感情に包まれ、生きる意味さえも分からない。


そんな日々の中で出会った愛しい人。


色のない世界から救ってくれた彼女と過ごす幸せな日々。


だけど俺はそんな彼女を失った。


彼女の亡骸をこの腕に抱きしめ、ただ泣くことしか出来ない俺。


息する事も出来ない程の悲しみの中で、俺は彼女の首に唇を押し当てる。


「慶......大丈夫?」


【......ここは何処?】


「けい! けい?」


「す......ず? 俺......」


「返事しないからビックリしたよ」


どうやら俺は、意識を失っていたらしい。


「......お母さんは?」


「買い物に出かけたよ。覚えてないの?

 ねぇ 慶、本当に大丈夫?」


「あぁ、もう眩暈は殆どしてないよ」


「それならいいけど。ベッドに横になる?」


「いや、ここで大丈夫だよ」


 俺は寄りかかっているベッドを軽く叩いた。


 すると「じゃあ慶、此処おいで」そう言って自分の腿をトントンと叩くすず。


「いいの?」


「うん。いいよ」


 まだハッキリとしない意識の中、俺は彼女の膝枕で床に寝転がった。


「ママがゆっくりして行きなさいって」


「ごめんな。急にこんなことになって」


「そんな事で謝らないでよ」


 俺の髪を優しく撫でる彼女の柔らかな手が、言いようのない悲しみと恐怖に支配されそうになった俺の心を救ってくれる。


「すず、俺達が見ている夢は前世の記憶なのかな?」


【だとしたら、今見たのも前世の記憶?

 死が俺とすずを引き離した? すずはどうして死んだんだろう】


「もし前世の記憶だとしても、関係なくない?」


「どうして?」


「だってもう終わった事だもの。ママが言ってたでしょ?

 大切なのはこれからだって」


 確かに彼女の言う事が正しい。だけど何かが引っかかるんだ。


 これが前世の記憶なのだとしたら、俺は一番大事なことを忘れている気がする。


 だけどそれを思い出す事が怖いのは何故だ。


 少しずつ鮮明になっていく記憶。蘇る感情。懐かしい感触。


 全てが俺とすずが出会った意味を教えてくれようとしているのに、本能がそれを拒んでいる。


 俺が拒んでいる真実ってなんなんだ。


 目の前にある彼女の体に顔を埋めると、「まだ気分悪い?」彼女は心配そうに問いかけた。


「すず、ずっと俺の傍にいろよ。どこへも行くなよ」


「当り前でしょ! どうしたの? 前にも同じような事言ってたけど」


「時々すずが消えてしまいそうで怖くなるんだ。どうしようもなく、不安になる」


「あたしはずっと慶と一緒にいる。約束するよ」


 優しく微笑む彼女を見上げ頬に触れると、彼女の方からキスをして来た。


「慶も約束してくれる? ずっと一緒にいるって」


「あぁ 約束するよ」


「指きりね」


 互いの小指を絡めて交わした約束。この約束だけは永遠だって信じたい。





 暫くして玄関が開いた音が聞こえると、階段を上ってくる足音が聞こえた。


【お母さん帰って来たのかな?】


 首を持ち上げ起きようとした時、部屋のドアがノックされ「鈴音いるか?」そう言って開いたドアの隙間から彼女の幼馴染が顔を出した。


「雄ちゃん、今日カテキョの日じゃないよね?」


「違うけど......って何でそいつがいんの?

 ってか、何で寝てんだよ」


「慶、ちょっと具合悪いの。それに雄ちゃんが怒る事ないでしょ?」


 俺を威嚇するように睨みつける幼馴染を見て、彼女が優しく宥める。


 仕方なくゆっくりと体を起こす俺に「まだ横になってた方がいいよ」と言うすず。


「もう、大丈夫だよ」


「でも、まだ顔色良くないよ」


「眩暈してないし、大丈夫だよ」


「それならいいけど......。ところで雄ちゃん何の用?」


 彼女の言葉に苛立ちを隠そうともせず「用がなきゃ来ちゃいけねぇのかよ」と言って、彼は思い切りドアを閉めて階段を駆け下りた。


 するとまた玄関のドアが開き「あらっ雄ちゃんいらっしゃい!」と言うお母さんの声が聞こえたかと思うと「おばさん、鈴音があいつ連れて来てんの知ってるの?」と問いかける幼馴染の声が聞こえた。


「知ってるわよ。あたしが会いたいって言ったんだもの」


「はぁ? 何であんな奴......」


「そんな悪い子じゃないわよ。慶一くん」


「おばさんまでそんな事言って。あんな奴ろくなもんじゃない。

 鈴音の膝枕で寝やがって......」


「あらっ雄ちゃんヤキモチ?」


「そんなんじゃなくて......。兎に角、俺はあいつを鈴音の彼氏とは認めない」


「雄ちゃんが鈴音の心配してくれるのは嬉しいけど、あの子も恋をする年になったのよ」


「おばさんは心配じゃないの?」


「あたしは鈴音を信じてるから。あの子の男を見る目、悪くないと思うんだけどなぁ。

 だってあたしの子だからね。

 それより今日もお母さん達帰り遅いんでしょ?

 夕ご飯食べていきなさい」


 筒抜けの二人の会話を聞いて、俺たちは笑いあった。


「ほらっ ママ、慶のこと分かってくれてるでしょ?」


「雄ちゃんがあんなに反対してるのに、気にならないのか?」


「大丈夫。雄ちゃんはいつも最後には、あたしの味方になってくれるから」


 すずの中の彼への信頼の強さに、俺は軽い嫉妬を覚えた。




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