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15 めまい

 暫く三人で会話を交わしていると「慶、そろそろ部屋行こう」とすずがソファーから立ち上がった。


「ママ、あたしの小さい頃のアルバムって何処?」


「アルバム? 納戸かなぁ......ちょっと探してみないと分からないわね」


「じゃあ、見つかったら部屋に持ってきて」


 すずはそう言うと「慶、こっちだよ」と俺の手を引いて2階へと向かった。


「いいのかな?」


「何が?」


「だってアルバムならリビングでも見れるし......」


「慶が何を心配してるのか分かんない」


 もちろん俺だって、すずと二人っきりの方が嬉しいに決まってる。


 だけど、何処となく後ろめたい気もする訳で......。


 それはやっぱり下心のせいなのだろうか。




 すずの部屋に入ると、彼女が腕を廻しても届かないのではないかと思えるほどの大きな白い熊のぬいぐるみが目に入った。


 そのぬいぐるみは少し薄汚れているがとても大事にされているようで、ベッドの脇の椅子にドッシリと座りこちらを見て微笑んでいる。


「大きいな」


 熊の頭にポンと触れると、俺はベッドを背にして床に座った。すずも隣に腰を下ろす。


「子供の頃パパに買って貰ったの!

 あたしの一番最初のお友達」


「雄ちゃんは?」


「雄ちゃんはお兄ちゃん」


「あっ そうか!

 すずの友達は俺の事認めてくれるかな?」


「大丈夫! くまちゃんも慶の事大好きになるよ」


「くまちゃんって、それ名前?......まんまじゃん」


「だってぇ......小さい子供が付ける名前なんて、そんなものでしょ?」


「にしても、くまちゃんって」


 クスクスと笑う俺を見て思いっきり拗ねるすず。


「すず怒った?」


「怒ってない」


 唇を尖らせている彼女をそっと抱き寄せると「ママ来るからダメだよ」そう言われた。


「じゃあ、後ならいいの?」


「そうじゃなくて......くまちゃんも見てるし」


「じゃあ、見せつけてやるよ」


 ニヤリと笑い唇を重ね合わせると、文句を言っていたはずのすずは俺の背中にそっと手を廻した。


「ダメって言ったの誰だよ」


「だってぇ......」


「じゃあ、もうちょっとキスしていいですか?」


「もうちょっとだけだよ」


 彼女の可愛い抵抗に笑みを漏らすと「笑うんだったらキスさせてあげない」すずはそう言ってそっぽを向いた。


「ホントはすずがしたいくせに」


「そんな事ないもん」


「だって書いてあるよ......ここに!」


 目の前にある彼女の頬にチュッと音を立ててキスすると、すずはすぐに俺の顔をジッと見詰めてきた。


「慶の顔にも書いてあるよ」


「うん。俺はしたいって思ってるからね」


「でもやっぱりダメ! ママ来るから」


「もうちょっとならいいって言ったじゃん」


 言葉を交わしながら小さなキスを落とすと「そうだけど、やっぱりダメ」彼女は少し困ったようにキスを止めた。


 だけど、俺はそれを聞き入れない。


 そしてじゃれ合いながら重ねたキスは、少しずつ深いキスへと変わっていく。


 互いの思いを伝え合う深いキスは、まだぎこちない。


【もう離れなきゃ】


 そう思っているのに、重なり合った唇は離れることを拒んで求め合う。


 微かに漏れる甘い吐息に胸の高鳴りを抑えきれず、俺は彼女の耳に唇を寄せた。


 目を閉じたままピクンと弾ける彼女の体。


「くすぐったいの?」


「うん。......ちょっと」


「じゃあ、ここは?」


 俺はそう言って、恥ずかしそうにする彼女の首に優しく触れた。


 二つの赤いアザに誘われてそっと唇を押し当てると、体中の血液が逆流し始めたような感覚に陥り突然眩暈を起こしてふらついた。


「慶? どうしたの......けい?」


 俺の体を抱き留め何度も問いかけるすず。


 だけど突然襲われた眩暈のせいで俺は返事する事もままならない。


「ママ呼んでくるから待ってて」


 そう言って立ち上がろうとする彼女を引き止め「大丈夫だから、傍に......いて」俺はやっとの思いでそう口にした。


「慶、ホントに大丈夫? 顔色悪いよ?」


 心配して顔を覗き込んでくるすずに「急に眩暈がしただけだから」と言って、俺はベッドに体を預けた。


 するとその時部屋のドアがノックされ、彼女のお母さんが入って来た。


「鈴音、アルバムあったわよ。

 あれっどうしたの慶一くん?」


「ママ、急に慶が眩暈するって言って」


「大丈夫なの? 何なら、鈴音のベッドに横になりなさい」


「いえ、大丈夫です」


「でも顔色悪いわよ。無理しなくていいから」


「いえ、本当に大丈夫です」


「慶、無理しなくていいよ?」


「大丈夫」


 俺はすずの手をそっと握りながら、突然押し寄せて来た頭の中の映像に戸惑うばかりだった。


【一体これはなんだろう】






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