12 初めては君がいい
「知りたいのに知りたくない」
矛盾した思いが俺の中を支配して、説明の出来ない不安が込み上げてくる。
出会った意味を知って、俺達は本当に幸せになれるのだろうか。
それとも、知るべきなのだろうか。
「でもね、もし同じ夢を見ていなくても慶とは出会ってた気がするな。
うん。絶対に慶を見つけたはずだよ。
あたし達が見てる夢に、出会った事に、どんな意味が込められていても、あたしの気持ちは変わらない。
慶、それだけは信じてね」
俺の肩に寄り掛かりながらすずが伝えてくれる思いが、俺の不安を包み込んでくれる。
今はただ彼女の思いを、自分の気持ちを信じてみるしかない。
俺達が出会った事が必然なら、その意味を知ることからも逃れられないのかもしれない。
髪を優しく撫でおでこにそっとキスをすると、彼女はちょっと不満そうな顔を見せた。
だけど俺はそれに気付かないフリをする。
「ねぇ、慶は運命って信じる?」
「信じる......ってか、感じてるかな」
「誰に?」
「さぁ......誰にだろうな」
「......もぅ!」
唇を尖らせるすずを見て笑うと「慶、今日は意地悪だね」と言われた。
「好きな子は苛めたいっていうじゃん」
「......嬉しくない」
「ごめん、ごめん。......大好きだよ。すず」
「それじゃあ、許さないもん」
「じゃあどうすればいい?」
「......」
黙り込む彼女の顔を覗き込み可愛くキスをすると、すずは顔を上げ「なんで?」と呟いた。
「顔にキスしてって書いてあったから」
「そんなの書いてないもん」
「書いてあったよ。おでこじゃなくて、こっち(唇)がいいって」
小さく尖らせた唇に人差指でそっと触れ「違う?」と問いかけると、すずは顔を赤くしながら「そんな事思ってない」と俯いた。
「すずは思った事全部顔に書いてあるから分かるよ」
「そんなこと......ないもん」
一段と強くなった雨音に掻き消されそうな程、小さな声で呟くすず。
行きかう人が誰もいなくなった公園で、俺はすずをそっと抱き寄せた。
「誰もいないって、やっぱりいいな」
「バカっ」
「ねぇ、すずの初恋って、やっぱりあの雄ちゃんって幼馴染だったりする?」
「ううん。雄ちゃんじゃないよ」
「違うの?」
「うん。雄ちゃんはお兄ちゃんだって言ったでしょ!
あたしの初恋は慶だよ。ずっと、ずっと慶が好きだった。
物心付いたころから、ずっと」
「......すず」
「おかしいでしょ!? 会ったこともない慶に恋してたなんて。
でもね、本当なの。
あたしはきっと生まれる前から、慶のこと好きだったんだよ」
「その気持ち俺にも分かるよ。
俺の中にもずっと、すずを思う気持ちがあったから」
「ホント?」
「今まで離れてた分、これからはずっと一緒にいような」
「うん!」
「だからこれからすずが体験する初めては、全部俺が貰うからね」
「全部?」
「そう、全部。あれっすず顔赤いけど今何考えた?」
「......何も考えてません」
「もしかしてエッチな事考えた?」
「考えてない!」
「初恋に初彼。初キスも俺貰ったし......。じゃあ次はどうする?」
「どうするって聞かれても」
益々顔を赤くして答えるすずに「次はやっぱ......初デートだよな」俺はクスクスと笑いながら告げる。
「デート?」
「そっ、デート! だから何だと思ったの?」
「もう、慶のバ~カ!!」
すずは真っ赤な顔を隠すように俺から体を離すとクルっと後ろを向き、パタパタと熱くなった顔を仰ぐような仕草を見せた。
そんな彼女を後ろから抱きしめ、肩に顎を乗せる。
「俺だって初恋もキスもすずにあげたよ。だから一緒。
これからの初めてはすずが一緒がいい」
「デート......とか?」
「それから、エッチもね。それは絶対に誰にもやらねぇ」
「......うん。あたしも慶がいいな」
「すずのエッチ!」
「もう、なんで意地悪言うの?」
「それは怒ってるすずが可愛いから」
「そんなの嬉しくない!!」
顔を赤くして文句を言いながら、すずは俺の腕をギュッと抱きしめた。
俺たちの未来に何があっても、俺はこの温もりを離さない。
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