11 夢の意味
次の日の朝、俺は昨日と同じ電車で彼女と待ち合わせている駅に向かった。
駅に着き改札口を抜けると既にすずがソワソワと落ち着かない様子で俺が来るのを待っていて、彼女は俺を見つけると飛びきりの笑顔で「慶!」と手を振った。
「ごめん。待たせた?」
「ううん。あたしが早く来ただけだから」
「もう少しゆっくり来てもいいよ」
「大丈夫。だって早く慶に会いたいもん」
照れた様子もなくニコニコとしている彼女を、思わず抱き締めてしまいたくなる。
「あっ すず、俺は約束守った?」
「約束?」
「そう、夢で俺はちゃんとすずを抱きしめた?」
「......うん」
少し顔を赤らめて俯く彼女に意地悪を言いたくなった俺は「それだけだった?」と問いかけた。
「ん?」
「俺は抱き締めただけだったのかなぁ......って」
するとすずは益々顔を赤くして「どうして、そんな事聞くの?」と聞き返して来た。
「すず、何か顔赤いよ。どうした?」
「そんな事ないよ」
ちょっと焦った様子の彼女を見て、俺はわざと問いかける。
「で、どんな夢見たの?」
「どんなって......」
「すず?」
「もう、慶のバカ!」
「何で怒ってんの? もしかして言えないような夢だった......とか?」
「ぅぅぅぅ~! 慶、嫌い」
拗ねたすずが可愛くて、俺はまた意地悪をしてしまう。
「ホントに嫌い?」
「......」
「すず?」
「嫌い......じゃない」
「うん。分かってるよ」
頬を膨らませツンと尖らせたすずの唇。
上目使いに俺を見上げる彼女が可愛くて思わず笑みが零れると「笑わないでよ」彼女はそう言って益々唇を尖らせた。
昼過ぎからパラパラと降りだした雨は放課後には雨足を強め、俺は駅ですずを待ちながら今日は何処に行こうか悩んでいた。
だけど待ち合わせ場所に来た彼女に聞くと「昨日のガゼボでいいよ」と返事。
「雨降ってるのに?」
「あのガゼボ屋根あったし、それに......」
「それに?」
「ファミレスだとイチャイチャ出来ないもん」
「イチャイチャしたいんだ?」
思わず笑ってしまった。
「もう、そうじゃなくて隣で話したいもん」
「ファミレスでも隣座れるよ」
「......」
「まぁ キスは出来ないけどね」
「もう、そんな事言ってないでしょ!」
そう言って怒ると、すずは一人公園に向かって歩き出した。
後ろ姿でさえも照れているのが分かる。
人気の少ない雨の公園。
そこに座り他愛もない話をしていると「ねぇ 慶?」囁くような声で問いかけてくるすず。
「どうしてあたし達は同じ夢を見るのかな?
しかも子供の頃から、ずっと。きっと何か意味あるんだよね?」
「そうだな。きっと意味があるんだろうな。
でも、俺はその意味が分からなくてもいい気がする」
「どうして?」
「あの夢に意味があってもなくても、俺がすずを好きになった事には変わりない。
ただすずに出会わせてくれたあの夢には感謝してるけど」
「そうだね。それにいつか夢の意味が分かる時が来るかもしれないしね」
本当はあの夢の意味が気になっている。
だけど心の何処かで、それを知ることが怖いと思っている俺がいるんだ。
今はただ、こうして二人一緒にいられる幸せに浸っていたい。
「そう言えば、あの声聞こえなくなったなぁ......」
俺の隣で彼女がぽつり呟く。
「声?」
「そう、慶に初めて出会った時、あと......再会した時も。
必ず慶を呼ぶ声が聞こえたの
う~ん。もっと昔にも聞いたことあるかなぁ?」
「俺も......すずを呼ぶ声を聞いた」
「ねぇ 慶。
あたしやっぱりこの意味が知りたいよ。
あたし達がどうして出会ったのか知りたい」
彼女の強い言葉に、俺は何も答えられなかった。
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