10 夢の中で抱きしめて
夕方6時を過ぎ「そろそろ帰ろうか。送って行くから」そう言って立ち上がると、すずは不満そうな顔をして俺を見上げた。
「もうちょっと一緒にいたいよ」
「でも、遅くなったら怒られるだろ?」
「まだ6時だもん」
「昨日よりは早く帰らないと、また怒られるよ」
「怒られたっていいもん」
「俺は嫌だよ。俺のせいですずが怒られるのは」
「......分かった。......慶がそう言うなら帰る」
納得はしていないようだが、それでもずすは鞄を手にして立ち上がるとゆっくりと歩き出した。
「明日も、明後日も会えるから」
「嫌だ!」
彼女は歩みを止め振り向くと「明日と明後日だけじゃ嫌だ。ずっとがいい。ずっと慶と一緒にいたい」と泣きそうな顔して呟いた。
「うん。ずっと一緒ね」
優しく彼女を抱き締めると、言葉では言い表せない程の幸福感に包まれた。
言葉を交わしたのは昨日が初めてなのに、どうして俺達はこんなにもお互いを求めるのだろう。
どうしてこんなにも彼女の事が愛しいのだろう。
答えは、あの夢の中にあるのだろうか......。
彼女の家に着き「また明日ね」そう言って繋いだ手を離そうとすると、すずは俺の手をギュッと握り締めた。
「すず?」
「分かってる。分かってるよ。
でも、慶と離れたくないんだもん」
「それは俺も一緒だよ」
「ホント?」
「うん、ホント。でも、今日で終わりじゃないんだから。
すず、約束してくれただろ?
これからはずっと一緒にいてくれるって」
「バイバイしたら一緒にいれないもん」
「一緒だよ。ちゃんと俺の気持ちはすずの傍にあるよ。
それに、きっと今日も夢で会えるよ」
「夢で?」
「そう、夢で。
俺達出会う前からずっと夢で会ってただろ?」
「じゃあ、夢の中でもギュって抱き締めてくれる?」
「分かった。約束する」
「ぅん......じゃあ、また明日ね」
繋いだ手を離し、すずは少し寂しそうな笑顔を見せながら手を振り玄関のドアを開けた。
それを見届け来た道を戻ろうと振り返ると、角の所にすずの幼馴染が気に入らないという顔をして立っていた。
気まずい雰囲気を感じながら彼の横を通り過ぎると「お前、本当にケイって名前なの?」と突然声を掛けられ「そうだけど、それが何か?」俺は彼に聞き返した。
「あいつと、鈴音と付き合ってんのか?」
「あぁ、そうだけど」
【ちゃんと言ってないけど、両思いなんだから間違ってないよな?】
すずの幼馴染は、瞳の中の嘘や動揺を探すように俺の目をジッと見つめ「お前みたいな奴がケイだったなんて」そう呟いた。
「はぁ?お前みたいな奴って何だよ」
「お前みたいにチャラチャラした、いかにも遊んでそうな奴って事だよ」
「俺はチャラチャラもしてねぇし、遊んでもねぇよ」
「口では何とでも言えるだろ。俺はお前を認めねぇ」
幼馴染は捨て台詞を投げかけると、すずの家の玄関に当たり前のように入っていった。
【お前に認めてもらう必要なんかねぇよ。
ってか、『お前みたいな奴がケイだったなんて』ってどう言う意味だ?
あいつは、俺の事知ってた?......でも、どうして?】
俺の中に疑問符だけを残し消えた幼馴染。
あいつはやっぱり敵なのだろうか。
少しでも面白い、続いが気になると思ってくれた方は
ブクマ、評価をお願い致します。