9 俺のモノ
それからはお互い照れくさくて、黙ったままアイスを食べ続けた。
もう少しでアイスがなくなるという時、左隣に座っているすずの方を見ると彼女はまだ赤い顔してアイスを口に運んでいた。
さっき触れたばかりの唇に目を奪われていると、それに気付いた彼女が「何?」と問いかけてきて俺は思わず「すずはキスしたことあるの?」と聞いてしまった。
【ばかっ! 何聞いてんだよ】
焦って質問を取り消そうとした時、すずは益々顔を赤くして「あるよ」と小さく答えた。
【すずは初めてじゃないんだ】
思いっきりショックを受ける俺。
「そっか......あるんだ」
「うん。あるよ......さっき」
「......さっき?」
「うん。慶とした」
俯いていた彼女は上目遣いに俺を見て、クスッと笑みを漏らせた。
「おまえっ......それズルくね?」
「だって、嘘じゃないよ」
「そうだけど......」
何だか彼女に一本取られた気分。
「じゃあ、慶はキスした事ある?」
ちょっと不安げに問いかけてくる彼女に「あるよ。さっき!」俺はそう答え「もう、真似しないでよ」って怒るすずをそっと抱きしめた。
「すず、好きだよ」
「うん。あたしも好き」
俺の腕の中で囁くように告げるすずの声に、胸の奥が熱くなる。
彼女の体を少し離すとすずは俺を見上げて、そっと瞳を閉じた。
ふっくらとして艶やかな唇に吸い寄せられるように顔を近づけると、何だか腿の辺りが冷たい気がして視線を落とすと、すずの持っているアイスが溶けて俺のズボンの上に雫を零していた。
「うわぁ......冷てぇ」
「えっ!あぁ~!! 慶ごめ~ん」
すずは慌ててハンカチをポケットから取り出すと、俺のズボンについたアイスを優しく拭き取り「ちょっとハンカチ濡らしてくるね」と言って立ち上がった。
濡れたハンカチを手にして帰って来たすずは、ベンチに座っている俺の前に跪くとトントンとズボンを優しく叩き「染みになるかなぁ。ごめんね」と謝った。
「これくらい大丈夫だよ。すずもういいよ」
「うん。でも、もうちょっとだけね」
俺を見上げるすずのブラウスの胸元から谷間がチラリと見え、俺は慌てて目を逸らし「すず、もういいから」と彼女の手をそっと離した。
「慶?」
ちょっと不思議そうに俺を見上げるすず。
「もう大丈夫だから」
「うん。ホントごめんね」
彼女が髪を掻き上げながら謝った時、俺の視線が彼女の首元に釘付けになった。
「すず、それ何?」
左側の首筋を指差すと「これ?」彼女は耳の後ろにある小さな赤い2つのアザにそっと触れながら聞き返した。
「生まれた時からあるアザ。子供の頃よく男の子にからかわれたんだ。
お前吸血鬼に襲われたんじゃねぇのって」
「吸血鬼?」
その言葉を聞いた時、俺の心臓がドクンと大きく跳ね上がった。
「小さい時はもう少し薄かったんだけど、最近急に濃くなったんだよね。
まぁ あたしは気にしてないからいいんだけど」
そう言ってスッと立ち上がり、また俺の隣に座るすず。
俺は無意識の内に右手を伸ばし、すずのそのアザにそっと触れた。
「慶?」
【これは、すずが俺のモノだって証だ。間違いない。これは俺が......おれが......】
「ねぇ どうしたの? 慶」
すずの言葉にハッとして、俺は視線を上げた。
「俺、今何か言った?」
「ううん。何も言ってないよ。どうしたの?」
「いや、何かよく覚えてない」
「大丈夫? 何か変だよ?」
何故だか急に切ない気持ちに襲われた俺は、心配そうに見詰めるすずをまた抱きしめた。
「慶?」
「何処にも行かないで! もう、いなくならないで」
「どうしたの? あたしは此処にいるよ。ずっと慶と一緒にいるよ」
自分でも何故そんな事を言ったのか分からない。
でも、いつかすずが俺の前から消えてしまいそうな気がして怖くなったんだ。
互いの思いを確認するように交わした二度目のキスは、ドキドキも恥ずかしさもなく、ただ俺に安心という温もりを与えてくれた。
この温もりだけは、もう二度と離さない。
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