海賊
『前回のあらすじ』
海底へ向けて沈む貴紀を静久とベーゼレブルが救出。静久の問いを答える交換条件として、MALICE MIZER攻略を言われる。
謎のクラゲ娘と遭遇し怪物退治を頼まれるも、対価と言うやり取りが無い種族なのか不明なまま、彼女は寝てしまう。
外に設置した風呂で後から入って来た寧と禊を行った。
翌朝。利き腕たる右腕を失い、朝食にすら四苦八苦していたら、静久と寧の二人でひと悶着あった。
喧嘩の理由は日常生活も含め、サポートするのはどっちか──って内容。口論してる間に左手で食ったけどな。
朝食を採り片付けた後、右腕の無い違和感をローブの上から感じつつ、マキと二人で木材を密林で捜索中。
「うぅ~ん……」
「大丈夫か? 突然の環境変化で体調を崩したとかかも知れん。一度店へ戻ろう」
戻る途中、海岸付近に一隻の大きくて立派な船が停泊しているのを発見。
まあ、それだけなら生存者を見付けて、海上集落へ連れてって貰おう。で済む話なんだけどな……
此処で回避不能な出来事も発見した。風を受ける役目の帆に黒いドクロに巻き付く白い蛇マーク。
手っ取り早い話、海賊船だ、ありゃ。揉め事は可能な限り回避したい為、草に隠れて出方を見る。
「野郎共! 俺達は今日、此処セメタリーで波の様子を伺う為に一泊する。異論は有るか!」
「無いッス。頭!」
遠くからで分かり辛いけど……体格は大柄、大体の目測で身長は百九十代。
頭に帆と同じマークのある青いバンダナを巻いている、背中まで届く黒髪大男の声に乗員達は従っている様子。
乗員達も同じバンダナを巻いてる辺り、それを目印に判断すれば良さそうかな。取り敢えず見付からない内に、撤退撤退。
「あ……ごめん」
「あん?」
スキル持ちの自分は音も立てず、忍び足で進めていた反面。ずぶの素人であるマキは少し太めの枝に気付かず。
力強く踏んでしまい、思っていたよりも大きな音を鳴らせてしまった。一旦彼女だけ先に行かせ、自分はズボンの左ポケットへ手を伸ばす。
もう一歩近付いた時に早撃ちの感覚で恋月を抜き、左目を撃ち抜いて一撃で仕留める。これしかないッ!
「──!! おい、其処に隠れてる奴、出て来な。俺の左目を撃ち抜く気だろ?」
っ!! やはり気付かれた。直感から出なければ頭を撃ち抜かれるイメージが過る。いや、それよりも何故。
後一歩踏み出す前に、此方の狙おうとしている箇所すら的確に言い当てれる!? ……仕方なく恋月を抜き相手へ向けたまま立ち上がる。
「ほう、良い読みをしてるじゃねぇか。出て来なきゃ、脳天に一発撃ち込んでたところだ」
「此方としてはアンタ達、海賊と争う気はない。その銃を下げれば、此方も下げる」
此方と相手の距離は約一メートル。近くでよく顔を見ると強面かつ、声も渋くまさに海賊船の船長って感じ。
向けられている銃は映画で海賊の使ってるタイプ。名前までは知らん。
けど……古い銃と新しい銃の向け合いってのは意外と、男心をくすぐられるシチュエーションだな。
「……ハッ、久し振りに見るぜ。恐れつつも、覚悟を貫き通す良い眼だ」
「っ、で……返答は?」
「いいだろう。野郎共、テメェらも銃を下げて積み荷降ろしの作業へ戻れ。俺はコイツと話をする」
何を言っているんだ? と思っていたら、人に銃口を向ける左手が震えていると気付き、さっさと用件を済ませるべく有無を問う。
するとアッサリ要件を呑み、部下達にも銃を下ろすよう命令し作業へ戻らせた為、此方も銃を下ろす。
余程信用されているんだな、この人は。しっかし……クッソ。
今まで正義面した連中に銃口を向け続け、撃ち殺して来たと言うのに。何を今さら怖がっているんだか。
「お前さん、外から来た来訪者だな?」
「何を根拠に」
「俺はこの海を幾度も航海したが、お前さんは一度も見なかった。そんな服装の奴もな」
コイツ……相当頭のキレる奴だわ。堂々とした態度から吐き出す言葉は核心を突き。
服装なら~と。はぐらかすにも自分達は此処の住民達の衣服を知らない為、出任せは通じない。
一気に逃げ道を塞がれた、と言う訳か。しゃあない、こうなりゃ賭けだ。
「……あぁ。アンタの言う外から来た。いや、正確には飛ばされて来た、が正しいか」
「ほお、素直に喋るじゃねぇか」
良し、少なくとも疑われてる様子はないし、機嫌も損ねてはいない。腹の読めない相手だ、余計な口出しは控えよう。
そんでこの大男。少し話した感じだと、遠回しな言い方は嫌いそうだな。なら……
「単刀直入に言う。自分達は此処で要件を済ませ、国へ帰りたい」
「つまり、俺達に手伝って欲しいって訳か。けどなぁ、坊主。海賊に頼むって事は」
「判っている。ギブアンドテイク、そう言うんだろ?」
「ハハァッ、本当に話の早い坊主だ。で、どっちの要件から話す?」
予想通り、単刀直入な言い方で正解だったようだ。ゼロに近い性格なら、ある程度の話し方は理解している。
どちらの要件を先に話すか……か。少なくとも何か情報が欲しい為、海賊船長から話して貰おう。
「頭さんからどうぞ」
「あぁ、そう言やあ自己紹介はまだだったな。俺はパイソン=キク、呼ぶならパイソンでいいぜ」
「自分は──貴紀。コードネームはスレイヤー」
相手に優先券を渡そうと思ったものの、名前を知らない。なので頭さん、と呼んだら自己紹介が済んでないのを思い出し。
改めて自己紹介した。ただ……オメガゼロってのは隠し切れない時まで、黙っておこう。パイソンはスカルスネーク海賊団の船長なんだとか。
「そんじゃ、取り引きの話しと行こうか。俺達には三つの目的がある。それを手伝って欲しい」
「まあ可能な限りは手伝うけどさ、その目的って?」
パイソンの言う目的。一つ、仇であり、この海を支配する異形と生み出す根元を倒す。
二つ、海底に在る沈没大陸に眠るお宝を可能な限り回収する。基本的に二つ目的を果たせれば、それで良いらしい。
「三つ目は?」
「あぁ~……三つ目は個人的な目的っつうか、願望だから別にいい」
三つ目の目的を訊くと明後日の方向を向き、腕を組つつも少し恥ずかしそうな顔と声ではぐらかす為。
これ以上訊いてもいい結果は無いと読み、黙る。幾らか予想は出来るものの、プライバシーの侵害だと認識してやめた。
こう言うのはパイソン自身から話してくれるのを待つべきだ。多分、自身じゃ決め切れないタイプの話しだと思うし。
「ふぅ。そんじゃ、坊主の要件ってのを聞こうじゃねぇか」
「此処で遭遇した野郎共から右腕を取り戻し、リベンジを果たす。それから目的物の回収と仲間集め。大体はこんなもん」
「成る程、嘘は言ってねぇか……ハハッ、ハァ~ッハッハッハ!! 本当に久し振りだわ。こんなバカ正直野郎は!」
深く深呼吸をした後、表情や顔もスッキリさせて此方の話す内容に対し、最後まで黙って聞いてくれた。
何か納得したように言ったと思ったら。右手を顔に覆わせる形で当て大爆笑し始め、目に涙を浮かべて馬鹿にしていると思わしき発言をされた為。
自分としては何がなんだか理解出来ず、困惑気味。すると笑い終えたパイソンは深く息を吐き、真剣な顔で此方へ向き直る。
「気を付けろよ? この海にいる連中は色々とグチャグチャだからな。死にたくなきゃ、単独行動はするな」
「どう言う事?」
「自分の目で確かめてみな」
意味深な内容を話した後、海賊船にいる船員達へ向けてだろう。右手を口元に当て、大きな声で。
「お~い、テメェら。新人を呼んで来い!」確かにそう言い、船員達に笑われつつも一生懸命走って来た新人は──
「はいはい。何の用事です……?」
「……マジっスか」
正直、困惑した自分にはそれしか言えなかった。生きている、と言う前情報は知っていたけれど安否確認は出来ず終い。
最後に見たのはアバドンやベーゼレブル、白髪女と戦った後だ。それに知った環境下では生存は悲観的かつ。
保護しようにも行き方すら知らない未知の場所。学生服は少し破けているも、本来いるべき年代も違うのもあり、頭は混乱気味。
「紅……くん?」
「お、おう。久し振り……になる、のか?」
「なんだ、知り合いか。なら、俺は野郎共の様子を見てくるからよ。終わったら仲間共々船に来な」
心情とは名前で呼び合う程の関係ではない。何せ『スレイヤー』を様付けで呼ぶ熱狂的なファン。
少なくとも、自分にはそれ程の好意や友好関係は持っていないだろう。持ってないと思う。持ってない……よね?
親切心からか、パイソンは自分達を二人にして船員達の方へ歩いて行った。頼むから二人っきりは止めて!! 会話に詰まるから!
「あ、あぁ~、そうだ。どうして海賊船に?」
「それが私にも、分からなくて。紅くんはどうして此処へ?」
浜辺を歩きながら質問には答えてくれたものの、質問を返され返答に困った。
バカ正直に言ってもはぐらかしても、心情を困らせたり不快にさせるかも知れない。心の中で不安と恐怖心が渦巻いて気持ち悪い。
自分の正体やスレイヤーである事も、絶対隠したい。どう返す、どう返答すればいい!? 何か良い返答を思い付け!!
「ナンテ言ウカ、うん。鍵を使ったら此処に飛バサレタ挙げ句、戻れなくナッタ……みたいな?」
アホか自分は!! 多少内容をはしょったにしても、結局はバカ正直に言ってんじゃねぇか!
しかも言葉は緊張と恐怖心でカタコトになってる。
まるで嘘吐くの下手な癖に、無理して嘘吐いてる感丸出しだぞ、コレ!
「あ……うん。そうなんですね」
「う、うん。ソウナンデスヨ」
デートする時は女性はエスコートを受ける、男性は行うって認識が強いけどさ。何時までもその考え方って古いと思う。
現に今コレだよ。一生懸命悩んで話題や行き先を決めてもツマンナイとか、そんな発言や態度だと男性もやる気や好感度すら失せるわ。
中には女性から誘った癖に、当日面倒臭くなってドタキャンするパターンもあるしな。そんな女の方が面倒臭い奴だよ。
「それだけで……その、右腕を失ったんですか?」
「いやぁ~、その、少し。うん、少しドンパチしてね」
「武術を嗜んでいる紅くんをそこまで」
気付かれた。てか、武術云々は一切話してないぞ!? そう言う意味でも血は争えないって訳か。
右腕は見えない様に心情さんの左を歩いているのに。本当、相手をよく見ているよ。
ベビドに初見で武術を見抜かれた時と同じ感覚だ。それとは別に、そんな悲しそうな声で言わないでくれないか? 申し訳なく思うから。
「あ、あの! 私に、紅くんをサポートさせて貰えませんか!?」
「……はい?」
緊張した様子で言う言葉を、思わず聞き返した。言葉は理解出来る、意味も理解出来る。
けれど──理由と心を理解出来なかった。何故、その結論に至ったのかも。
「いやいや。心情さんには」
「船員としての仕事もちゃんとしますから!」
「あ、はい……」
予想外な強引さと真剣な表情に、思わず押し切られてしまった。しかし、何がソコまで彼女を追い詰めているのか?
感じ取れた心情は少しだけ。後悔と罪悪感。けれど、理由までは分からない。
かつて最強と言われ、対等に戦える相手はアイツ位だったのになぁ……今じゃこのザマだ。身体中傷だらけで、右腕も失って。
「それじゃあ、船の中も案内しますね」
何時しか、心まで弱くなって。今も母さん達のいない現状を寂しく想う。
哀しくて、苦しくて、真っ暗闇の中でずっと孤独に震え耐えている心境。
ナイトメアゼノシリーズ。奴らと戦う度、不思議とそんな気持ちに襲われる。どす黒い底無し沼へ沈む様な……そんな感じ。
手を取られ、海賊船へと俯き歩く中。仲間達の顔が思い出され、立ち止まる。
「紅、くん?」
「少し。待ってくれないかな? 仲間達も連れて来なきゃ」
不思議そうに此方を見る彼女に対し、今出来る精一杯の笑顔を作った後。
繋いだ手を離し、店へと逃げるように走る。心情さんは此方へ追い掛けてくる様子はない。
「静久、寧、マキ!」
助けて欲しい。今、胸の中で心はそう叫んでいた。何から助けて欲しいのか?
孤独感や不安、恐怖心。そして──何よりも弱い自分自身から。一心不乱に、母親の胸へ助けを求めて飛び込むように走った。
装備紹介・No.Ⅰ
第一装甲・サヴァイブスーツ
装甲と名が付いているが、素材は熱に強いミネラドラコの皮と血液を丁寧になめし、消臭処理後。
オラシオンのシオリと琴音に頼み、効果付与をして貰い作られた、貴紀専用の伸縮自在な黒色インナースーツ。
このスーツを着ないと第二装甲の全機能が起動しない為、受ける衝撃も100%ダイレクトに貴紀へ伝わる。
サヴァイブスーツは、季節の低温高温程度はモノともせず。物理・魔力・霊力による脅威軽減も出来、精神異常を感知すると後ろ首に極小の針が自動的に刺さり、精神安定薬を注入する。
無酸素空間や空気の悪い場所だとスーツ自身に染み込まされている魔力を自動的に使い、十分間酸素を生成し命を繋いでくれる生命維持スーツ。
一応この姿でも戦えるが、第二装甲のような身体強化機能は無い上、頭部だけは丸出しなので油断大敵。
初登場は序章・第九話『滅亡への序曲』。この時はまだ、衝撃緩和と第二装甲の機能起動程度の機能しかない。関節部からチラッと見えていた。
全身が見えたのは二章・第一話『武器』で、ホライズンに第二装甲を大破された時。確かに第二装甲は大破されたけれど、貴紀は守り切っている。




