真実
副王に連れられ、何時の間にか既に暗い劇場の赤い座席に座っていた。此処が何処なのかは……考えない様にしている。何故か? 他の惑星とか銀河に拉致られた事もあるからだ。
座席の位置は舞台全体が程よく見える程に離れている。丁度始まり幕が上がると、トリスティス大陸を真似た舞台セットが見える。
「全ては──真っ暗な空を切り裂く一筋の黒紫色の闇と、それを追う形で大陸へ降り注いだ赤い光によって始まった」
薄茶色い長髪、碧眼の若く穏やかな印象を受ける女性が右側より舞台へ現れ、話し始めた。闇と光……何処かで聞いた覚えがあるけど、何処だったかな?
「私は大地の女神ガイア。誕生したトリスティス大陸へ落ちた原初の闇の欠片を監視、封印する役目を受け赴いた者。けれど……」
「この俺。闇の欠片の一つであるイブリースの封印には力が足りず、住民達が掲げる赤き光の欠片、オルタナティブメモリーを使い封じ込めた」
女性は自らを女神ガイア、続けて左側より現れた若い男性はイブリースと名乗る。当然ながら声は違う。登場した流れのまま、封印された経緯を話す。
成る程。女神ガイアとトリスティス大陸の住民が力を合わせて、初めてイブリースを封じ込めるのに成功したのな。
「住民達は私を女神と崇め、霊脈が一点に集まるスカイマウンテン付近へ祠を建てました。ですが……」
「残念な事に。女神ガイアは俺の封印に力の大半を使い切り、トリスティス大陸を命と緑で満たせず苦しんでいる時」
「イブリースの魔の手が住民の心を蝕み、私達を逆に取り込もうとしました」
二人が話している最中、後ろでは舞台セットが忙しく動き回り、住民改め……人間・蜥蜴人・ドワーフの三種族が挑むも破れ、各種族代表らしき人物が三人で七色に輝く結晶を掲げる。
するとスカイマウンテンの奥底へ、イブリースは吸い込まれた。女神は大陸に命と緑を戻せる程には力が残っておらず、作物は年々不作続き。動物は死に絶え──
辛うじて蛙や魚、木々が残った程度。更に地上へ置き土産にと『残された小さな闇』は三種族の心に小さな不安、疑心暗鬼を生み出し、年月と共に育ったそうだ。
「女神様。若い娘を生け贄に差し出します故、どうか、どうか……大陸を救って下さい!」
「違うのです。私は生け贄など、求めていません……動物が死に絶えた事で、私は彼らに声を伝える術を失い、罪の無い生け贄は何度も続きました」
三種族が各々の種族から若い女性を一人殺害し、何度も繰り返し献上した。それは神の怒りを収める為に行っていたと言う行為そのもの。
でも女神に必要だったモノは生け贄……ではなく、信仰心。動物は神の声を伝える役目を持つ場合が多く、蛇や狼・狐が神の使者な時もあるんだが。
トリスティス大陸の住民達が知恵を絞り出し合った結果が……生け贄。けれどそれは『神聖な神を穢す』行為。とまでは、信仰心やら使者云々も含めて知らなかったんだろう。
「我は考えた。復活するには、三種族を利用し女神を穢し取り込むのが近道だと。計画通り、奴らは動き見事復活した」
「闇が、闇が……我々を蝕んで、異形に!!」
「当時の三種族は長い年月の時に息絶え、子孫達は過去の歴史をただの伝説、作り話だと考え誰も信じなかったのです」
当事者達に取っては、忘れ難い出来事。知らぬ者達からすれば、過去の出来事か与太話。嘘か本当か確かめようと、好奇心から封印解除やら余計な事をする連中は今尚多い。
イブリースはそんな心を利用し、復活。悪夢を広げようと心の弱い者達を魔人インサニアへと作り替え、残った者達に餌である負の感情を抱かせるべく襲わせた。
「だが……足りない。全く足りない!! これっぽっちでは終焉にして虚無なる王を、赤く丸き檻よりお救い出来ん!」
「三種族を殆ど全滅まで追い込んで尚、負の感情が足りないと感じたイブリースは、とある計画へ動きました。それは……」
「永遠に繰り返し続く悪夢を作り、生者死者共を王復活に必要なエネルギーで大陸を満たす為、生かし続けるのだ!」
それは科学が当たり前の時代で言えば自転車発電で、大都市の電力を賄おうとする位非効率的な事。余りにもエネルギーが足りず、生産者の数も極めて少ない。
ならば『永遠に繰り返し続く悪夢』を作り出し、住民自らが祠へゴミを棄てさせ滅亡へ追い込む、復活し滅ぼす、リセットの繰り返しが舞台セットで行われている。
「全てが順調だった。そう……憎き裏切り者、オメガゼロ・エックスが此処へ辿り着くまでは」
「私達神々の間では、彼を世界の破壊者。もしくは悪魔……と呼んでいました。でも、それは古い考え方だったのかも知れません」
スポットライトが何故か観客席の自分を真上から照らすも、舞台上では何事も無かった様に話が進んでいる。演出……と言うモノなのだろうか?
「三種族が生存を賭け、殺し合う中──奴は現れ、圧倒的不利な条件下で我らを倒し、小さな箱へ封じ込め遺跡に封印した」
「ですが……彼は心身共に疲れ切っており、私の時同様、小さな闇を見逃してしまった。結果」
其処から先は、真夜やイブリースから聞いた通り。大山一家の祖先が唆され、自分を殺害し現在に至る──と、そう言う訳らしい。自分が勝つ為に仕掛けた罠は、全部で四つ。
東西南北に在る集落へコトハがやった呪術、それの応用版と霊脈の流れを利用した策だ。各集落で全く違う陣を描いて貰い、それを霊脈に乗せ中心へ運ぶ。
破邪・信仰心・浄化・聖域の力を女神の祠へ四方向から集め、女神自身に力を与える。そうする事で内側から妨害して貰い、相反する力で弱体化を狙った。
「彼をあの時代のトリスティス大陸に呼び寄せたのは私です。でもまさか、魔皇に関係する者だったなんて……」
魔皇……魔神王や琴姉とは別の?
続きが気になり演劇を真剣に見続けてもそれらしい台詞は一切出ず、此方の集中力が切れ、失礼ながら眠気の余り欠伸が出る始末。
「我が敗北した歴史は我らが王の使者の導きによって──もう一度チャンスを得た可能性と言う世界線」
「けれど世界線は破壊され、歴史は正されました」
丁度演劇が終わり、舞台の幕が降りる。少しして劇場の舞台証明が点くが、辺りはまだ明るく照らされず、他の観客達も動く気配がない。
まだ何かあるのだろうか? そう思い、じっとしていた自分の手を取り舞台上へと駆け上がって行く副王。身長差から妹に手を引かれる兄だろうが……
ハッキリ言って外見だけ良い妹は要らない。弟や兄、姉でもな。成人すれば大抵、兄弟は他人の始まりになるんだろうけど。
「さあ、これから私が直々に稽古を付けてあげる」
「稽古……ねぇ」
これから先、イブリースを余裕で越える実力者達や異形と戦う羽目になるのは、もう目に見えている事実、もしくは決定事項。
故に副王が稽古を付けてくれる。と言うのは此方としても願ったり叶ったりで嬉しい……が、問題は手加減をしてくれたとしても。
此方はデコピン一発でも受ければ、文字通り消滅って事だ。オワタ式の稽古……だれが好き好んで受けるものか。まあ、時間を気にする必要が無いのが救いか。
で、観客達が見てる中で何の稽古を付けてくれるって言うのか尋ねてみると──
「ブレイクダンス。ほら、曲も鳴り始めたわ」
「いやいや。ブレイクダンスで何と戦えと?」
「ダンスは嫌い? その癖誰もいない事を確認してから家で一人、動画を見ながら曲に合わせて……」
「あぁああぁぁー!! クッソ、やりゃあ良いんだろ。こん畜生!」
これがあるから副王の稽古は嫌なんだよ。わざわざ人様の恥ずかしいプライベート、もしくは黒歴史を掘り返して拒否権を無くしてくるのが!
あぁ、そうだよ。歌って踊る系の動画を見ながら見様見真似で一人寂しく踊ってるよ! 恥ずかしいのと、努力してる姿を見られたり知られたくないから隠してたのに……
肝心の曲は──うん。ノリの良い四拍子で、体が自然とリズムを取る。ブレイクダンスって確か、激しい踊りだったよな。チラッと視線を福王へ向けたら。
「良いノリじゃない。琴音って娘に稽古で負けて以降、相手を研究する為にダンスを始めたんでしょ?」
「残念ながら、それは再燃する切っ掛けだ。インドア派だが元々、体を動かすのは好きでね」
自分に近い身長へ変化し、鏡合わせの如く踊っている。そんで「私の動きに付いて来られる?」的な手招きで挑発を受けた。ふっ──やってやろうじゃねぇか!!
「ふぅ~ん、見て行動し覚える。伊達にスキル・積年の努力を持つだけはある、か」
「神様に嫌われてる以上、努力して少しでも自分自身を磨かないとな」
「えぇ。神聖な神々には嫌われてる反面、私達邪神には好かれてるものね」
近距離で向かい合ったまま、デュオで左右逆の動きを踊ったり、少し離れてソロダンスもやった。結局何時間、何十時間踊ったかなんて覚えていない。
そもそも、副王が居る空間では時間なんて概念は関係無い。進んだ時計の針を指で動かし、戻す様な行為を平然とやらかす相手だ。
何事も見て行動し考えて学ぶ。それが基本。自分が持つ能力は全て『人間が実行出来る』何か。早い話、幻想側で能力に成長するまで努力し続けたんだよ。
「視聴する側から見ると、修行回って面白く感じないのが多い。でも、無ければ強くなる仮定が省かれ矛盾が発生する場合もある」
「はぁ、はぁ。何だよ、いきなり」
本当、突然何を言い出すんだか。こちとら、踊り過ぎで息は切れ切れ、足はパンパンで満足に立てないって言うのに。けれど、まあ──
修行回ってのは戦闘回に比べてドキドキも迫力もなんか今一つに感じちゃうけど、無かったり飛ばしたりすると、何時の間に拮抗する程強くなったの?
なぁ~んて思っちゃうんだよね。料理だって同じものばっかりだと飽きちゃうし、味の変化や休憩は欲しい。そう言う感じなのかな? 修行やら日常パートって。
「出会い・別れ・再会・決別。そのどれもが何気ない日常に伏線として隠れ、誰かの行動に反応し唐突に現れる」
「っ~……つまり?」
「人生を変える為には、良くも悪くも行動に移せって事。当たり前のモノに日々感謝しながらね」
「あ……うん。そうだな」
出掛けるから他人と出会い・別れ・また再会し、時には決別もする。それは全て、誰かの行動によって良し悪し関係無く心が引き起こす様々な出来事。
名前や住む場所、何気なく日常にある様々なモノ。食べ物だって農家や沢山の人達が頑張るからこそ、自分達は自分自身の事に集中出来る。
名前と住所があるからこそ、大抵の会社は雇ってくれる。勉学は自身がやりたい事を増やす為、望む仕事に就く為必要不可欠。全部当たり前過ぎて、忘れがちなモノだ。
「さて──暇もそこそこ潰せた事だし、時間を巻き戻すオマケで好きな行き先へ飛ばしてあげるわ」
「そりゃ助かる。準備不足で死地へ放り込まれる強制イベントじゃない分、尚更な」
まだ立ち上がる元気の無い自分へ対し、手を差し伸べて有り難い申し出をしてくれる副王。何の躊躇いも無く手を取る辺り、自分自身、ある程度信頼しているのだろう。
「何があろうと、真実がなんであれ、貴方は貴方自身以外の何者でもない。それを忘れず、心の支えにする事ね」
「は? いやいや、何の事だよ」
時間は巻き戻り、帰還場所もヴォール王国の道具屋付近と有り難い。送り届けた後、去り際に訳の分からない言葉を言って姿を消した。
なんでこう……頭の良い連中はわざわざ遠回しな、謎々風に言うんだろうか? どうせ言うなら、全部分かり易い様に言って欲しいもんだ。




