すくうもの・後編
「普通にいてぇ……と言うか、物語の主役みたく格好良く行かないもんだな」
何気に顔面から滑った上、魔力強化によるステータスアップ効果も無いので普通に痛い。けれどまあ、回収したブツを滑って転んで割る……
なんてギャグにならず済んだのは幸いか。それでも背中に野郎の羽根がまだ刺さってる辺り、傍から見ればギャグに見えるのかも知れんな。
取り敢えずウォッチを通し「お母さ……ん。悪いんだけど、静久の所へ持って行って欲しいんだ」と頼み、黄色い光球姿で持って行って貰った。
「それで良いと思うよ。だってその方が君らしいし、人間性があるじゃん」
「そうかねぇ~っと、無駄話は此処までだ。アレは……俺の不始末だな。スマン」
出来ればもっと話していたかったが、そうも行かん。お母さ──霊華が結界に封じ込めたナイトメアゼノ・ハザードが此方へモモンガさながら飛んで来た。
そう言えば此処は廃棄物場付近。奴らにも帰巣本能はあるのか? そんな事を思いつつ、存在をスッポリ忘れて放置してた不始末を謝りズボンのポケットからフュージョン・フォンを取り出しスキャン開始。
汚染濃度や異臭は大幅に低下、大きさもリス程度。何が目的で此処へ……しまった!! そう思うも時既に遅く奴は自らイブリースへ入り込み、廃棄物場へ落下。
「これは勇者としての勘、なんだけどさ……マズイ状況じゃないかな?」
「俺の直感もヤバい状況だと言ってる。身構えろ、この時代最後の戦いだ」
廃棄物場の穴から出て来た相手は深緑と橙色が混ざった汚物に近い色。姿はまさしく飢餓に陥った黒紫色ドレス姿の異形者、その一言に尽きる。
背中と腰にカラスを連想させる黒い翼、肋骨と脇腹から追加で生え合計六本の痩せ細った腕。恐らく腐り剥がれたであろう、獅子頭をフードさながら蛇の様な長い頭に被っていて。
異臭・悪臭も遭遇時や対決時より酷く、思わず二人揃って手で口や鼻を覆う程。違うな……それ以上だ。呼吸すら満足に出来ず咳き込むレベル。
「王……復活。裏切リもノ、捕らエ、違ウ……抹殺? 生贄? 哀シむ……誰が?」
「あぁ~、こりゃ相当混ざってるな。思考と言葉が滅茶苦茶だ」
「どうするの? 物理的な攻撃も、魔力も、全部防がれるんだけど……」
ナイフを投げる、朔月で撃つ。どれを行っても六本の腕に付いている様々な武具で、的確に対処している。暗い中で怪しく不気味に光る奴の紅い眼は十中八九。
腐り、溶け落ちた代わりに魔力で補ったモノだろう。スキャン結果は……汚染濃度は消失、液体系から固体系へ変化済み。物理は通ると確認後。
ポケットへ戻し、外したブレイブシールドを左腕に装着し直す。万全の状態でも避けれる、避けれないはあるので、普通に盾は有り難い。
「連携攻撃で畳み掛けるしかあるまい。お互い体力、魔力共にヤバいだろ?」
「あはは……バレてたか。うん、インサニアの大群相手に頑張ったからね。結構、ギリギリだったりする」
人の心に巣食う奴が、悪夢の異形に巣食われてんじゃねぇよ。内心愚痴りつつ、お互いに限界が近い為、一気に畳み掛ける方法で合意。した直後──
「こ、コイツ!?」
「よイ、子……ヨい、子。太陽、昇らない。ナニ、も、残らナイ。世界……君臨、スル、王」
「見た目以上っ、に……!!」
目の前の視界から黒い闇に呑まれ消えた。そう認識した次の瞬間、二人揃って首・胸・腹を五段で切断されるイメージが脳裏を過り、ルージュの頭を押さえ俺自身も深く屈む。
後ろを振り向くと何時の間にか奴が背後に平然と立っており、抱き締める様に腕を振り切った後。避け切ったと思っていたが、右肩の肉を少し切り落とされていた。
傷口を押さえつつ慌てて離れるも、続け様に六本腕を振るい攻撃してくる。避けようにも直感に体の反応が追い付かず、盾で致命傷を防ぐのが精一杯。
「っく。うわぁ~、鉄で補強した盾がズタズタ……」
「腐ってもドワーフが造った武具だ。不出来と棄てても人間から見れば、上等だろうよ」
二人仲良く大きな盾で押し飛ばされ、倒される始末。あの猛攻を各自持ち前の盾で防いだものの……見事にズタボロ。
ミネラドラコ製のブレイブシールドも傷だらけ。そりゃこんな切れ味じゃ、鉱石ボディや相当強力な魔力強化でもなきゃスパッと殺られる。
「月、割れ、吼エル……宇宙。静寂、虚無、裁キ……ノス・イウーディカーレ・スケルスゥゥ!!」
追撃が来る。と思いきや暗雲に包まれた空を見上げ、訳の分からん呟きが終わると嘆き、喚きに近い男女の声で呪文らしき言葉を叫び、両手を大きく広げ掲げた。
すると上空に空間が空き、追尾機能持ちの光が俺達へと降り注ぐ。威力も相当あるらしく、尻餅付いたルージュが持つ盾は防いだにも関わらず穴が開き。
庇う為前へ出てブレイブシールドで防ぐも、受け続ける内に被弾箇所が砕け始め立っていられず、思わず膝を着く。奴は一向に止める気配は無く、此方が力尽きるまで続ける気だろう。
「ま、だ……動くな、よ?」
「──うん。何か策があるんだね? 此処まで来たらボクは最後まで君を信じるよ」
盾で防ぐ度、眩い閃光が弾ける中。ゼロを潜らせ背後から奇襲を仕掛けるべく、時間稼ぎに持ち堪えていると──
巨大な岩石が猛スピードで奴の左側面から激突し、弾き飛ばす。同時に光弾も止み、予想外な事続きだがまあ……うん。助かった事に違いはない。
そんで岩石だと思っていたソレは自ら動き、ダンゴムシの如く体を伸ばし正体を現した。多分、アレが大山和人から話に聞いたキング級のミネラドラコだろう。
「ご飯を横取りされたから、報復に来た?」
「かもな……っと!」
助けて貰った。と言う認識はせず、結果的に助けられた認識で問題無いだろう。ブレイブシールドも半ば真っ二つに割れ、セットだった爪部分と盾が別々に。
なぁ~んて考えをしてる暇すら与えてくれんらしい。地面を突き破って血管触手が伸び、執拗に身体中を叩いて来たり足を掬って妨害して来やがる。
「痛っ、痛い痛い……た、叩かないで……お願いだから」
「クソッ、離れろ。離れろって言っ……てぇぇ!?」
幾らかナイフで迎撃していたが手を叩かれ、落とした直後仕返しとばかりにルージュを袋叩きにし始めやがった。打たれ弱いのか、頭を抱えて屈んで動かない。
手間の掛ける……等とは何故か微塵も思わず、自然と体が動き手刀でだが触手を払う。コイツら、何を目印にしているのか分からんが、足に巻き付いて俺を投げ飛ばしやがった。
「っ──マズッ!」
受け身も取れず、ゴツゴツした岩へ左側面から直撃。息を整えつつ仰向けに寝転がりゆっくり目を開くと天国からお迎えの天使……じゃねぇ。野郎がゆっくり降下して来てる!
「さっきの閃光で少しだが、魔力は回復出来てる。食らえ、アローショット!」
「光……吸収、増幅、反射」
「いぃっ、 マジ──!!」
不幸中の幸いで回復した魔力を練り、中距離版アローナックルを迎撃に撃ち胸元のドレスを貫く。怯んだ……と思ったのも束の間、奴はメフィストが持つ奥の手。
エクリプス鉱石の特徴と同じく吸収・増幅・反射で俺自身の技を全身に浴びる事となった。幸いなのは、撃った威力が弱かった程度。それでも加速した自転車から放り出される位には痛い……
いやいや、そんな場合じゃない。武器の生えた腕で全身滅多刺しとかマジ勘弁! 地面に転げ落ちた時、野郎の腕を含む動きが止まった。いや、正確には光の縄に巻き付かれ引き留められている。
「ちゃんと生きてる様ね。坊や!」
「どう、して」
「話は後。先ずはコイツを……倒すのが先!」
操り人形の如く光を巻き付け、上空から琴音が奴を両手で引っ張りこれ以上迫らない様にしてくれていた。ホッ……と一安心の溜め息を吐くと。
獅子頭を被った細長い頭が此方へ近付き、隠れて見えないが口と思わしき部分からインナーマウスがカメレオンの舌同様に伸ばしては、何度か歯を鳴らしている。
「いい加減にしろよ。窮鼠猫を噛むって言葉、その口に教えてやらぁ!!」
「──!?!?」
形態変化だ何だとあり心底疲れてたのもあるだろう。恐怖心や我慢も一線を越えればなんとやら。腹が立った俺は右手を奴の口へ自ら突っ込み、インナーマウスを無理矢理引き千切り捨てた上。
左手に握っていたブレイブシールドの爪部分をこれまた無理矢理、奴の口内へねじ込むと流石に痛みの余り力尽くで拘束を破り、滅茶苦茶に暴れ始めた。
「琴音。各集落や仕掛けはどうなっている!?」
「大丈夫。インサニアは全部倒したし、仕掛けも丁度今起動して──来るわよ」
「ふぅ。漸くか」
空にいても仕方がないと判断してか、琴音は俺の隣に降りて来た。仲間達や仕掛けが気になり、問い掛けると丁度のタイミングで起動&霊華がウォッチに帰還。
四方から地を走る巨大な光が此処、スカイマウンテンへ集結。正確には『廃棄物場』へ……が正しい。奴へ視線を向けるとやはりと言うか、両手で胸を押さえ苦しみ始める。
「ギザ、マ……貴様ギザマ貴様ァァ!! ジューダス、ギザマは一体、何者……だ!?」
「今更か。俺は終焉の闇No.02・破壊のディストラクションであり、終焉の破壊者ことオメガゼロ・エックス。もう一つ名前があるが……悪いな、忘れた」
苦しみ悶えながらも俺が何者か問い掛けられた時、自然と答えていた。あぁ、そうだ。俺はNo.01・βこと無月終姫達、全七人で終焉にして虚無なる王に仕えていた。
離反した理由は確か……救う為、だった気がする。何を、誰を? と問われても、追加で思い出せるのは終焉の闇No.で離反したのは俺以外にもいる、って事だけ。
「はぁ、はぁ……間に合った様だな。オメガゼロ・エックス」
「大山和人。何故此処へ?」
「ディザイアが言ってただろ? ドワーフの意地で一矢報いる為に決戦兵器を造ってるって。コイツがソレだ」
決着前の土壇場に駆け付け、息を切らす大山和人。彼が担いで持って来たのは──海賊船に積んでそうな大砲。パッと見、玉は装填されている一発だろう。
そして──ナイスタイミング。漸く打撃と一緒に打ち込んだ魔力が奴に溶け込み、動きを鈍らせ始めた後、綺麗な水と澱んだ水が蛇の如く奴に絡み付く。
どうやら、静久と詠土弥も駆け付けてくれた様だ。奴の左右から手足を拘束し、何やら追加で弱らせている様だ。大人しくなり始めた。
「コイツが決まれば、イブリースは……って、アイツは何処だ?!」
「アレがイブリースだ。良かったな。無駄にならず、タイミングも丁度良くバッチリだ」
「何ァ~故ェダァ!! 何故、我が脆弱なギザ、ギザマらにィィィ……」
何故格下の俺達に負けるのか? そう言いたいんだろうが、理由は単純にして簡単だ。お前が無くし、俺達が持つ形無きモノ──それが勝敗を分けた。ただ、それだけ。
「照準良し……発射!」
「天高く轟け雷鳴、吹き荒べ嵐。我が手に集いて敵を討て──疾風迅雷!!」
雨の中じゃ湿気るだろ。と思っていた大砲は何事もなく発射され、途中で砲弾が割れ青い中身が奴の身体中に深く食い込んだ様子。突如両膝を着き、俯く。
駆け出した俺より速く雷を包んだ複数の風が槍の様に、真っ直ぐ飛んで行く。狙いは頭部、無抵抗故見事的中……と思ったら刺さる直前で全て掴み止め、俺へ投げ返した。
「ゼロ、準備はいいか?」
(このサヨナラ逆転ホームラン的な場面を切り返すのに俺を選んでくれる。やっぱり宿主様は最高だ!! attack、ゼロ。Are You Ready? Let's go!!)
ウォッチの共有回数、今日最後の一回を使用し走りながら一回叩く。両腕に黒く人体とは異なる異形の手を宿し、投げ返された魔法を掴み、此方も真っ直ぐ投げ返す。
再度駆け出し俺専用の使い方。サポートして貰う色を好きな数・何かを選び、最後に俺自身を表す緋色を使う能力に合わせて叩く。今回は二回。
(ability・Ⅱ。finalattack、フュージョン・ブレイク。Are You Ready?)
「コンな……モ、ノ。幾ら、投ゲ返そウト……!?」
「──!!」
駆ける両脚に俺達の魔力が合わさり、後は距離を詰めて終わらせるだけ。その時、再度掴み投げ返そうとする奴の腕が、体全体が止まり痙攣を起こす。
何事かと一瞬思ったものの。幻影かも知れんがアナメやウズナ、シュッツの他に光に包まれた女性が奴の動きを止めてくれているのだと知り、琴音の魔法が刺さると同時に懐へ飛び込んだ。
「哀れなる魂を救う為に──奴を噛み砕き、打ち砕け。スカーレットファング!!」
「理解、不能。何故、ストゥルティに、我が……我、ガ……」
着地と同時にサマーソルトキックで顎を蹴り、やや斜め上へ打ち上げたら最後の仕上げは勿論、大好きな特撮系やアニメでお馴染み。
決着や戦いを締め括る必殺技を決めるべく俺自身も飛び上がり、相手に噛み付く様に両脚で胴体へ挟み蹴りを繰り出し、二度三度と噛み付く様に挟み。
「「「貴紀!!」」」
「シュタイナー!」
四度目。挟む位置を胴体から首へ、脚から太腿に修正。自身の両太腿では挟んだままバック宙をする要領で大回転、地面に頭部から放り投げフィニッシュ。
これが今、魔力を消費し過ぎた俺が出来る最大限の必殺技。サマーソルトキックで打ち上げ、シザーキック、フランケンシュタイナーのコンボ。
まだ空中回転中でも奴が俺達の魔力を受け続け、体内爆発を起こしたのがよく見える。と言うか、埋め込む形になったからか。爆発の火柱が立ってる……




