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ワールドロード  作者: オメガ
一章・I trust you forever
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すくうもの・前編

 太陽光が唐突に遮られ、ふと空を見上げる。またあの暗雲が空を覆い始め、今回は何度も太鼓を強く連打する様な音が鳴り響き、冷たい風が吹き付ける。

 ん……雨も降り始めたか。幸い四つの集落には仲間が居る、信じよう。それはさて置き、奴をどう攻略するか──だな。


「ふはははは! 見よ、この溢れ出んばかりの素晴らしいパワー。空も恐怖の余り雲に隠れ、泣いている様だぞ? ふふっ……予想以上だ」


「そうか? 俺としちゃ、全然予想の範囲内だ」


 記憶にある対決した連中だけでも、天候やら地形変化なんざ当たり前の様にやりやがる連中ばかり。倒せるか否かは兎も角、安心した。

 あくまでも融合神と名乗る位ならせめて、数分で都市壊滅位してみせろ。イリスの奴は数分足らずで京の都を人口諸共壊滅させたぞ?


「ならばジューダス。その身で体験するといい。進化した我が力……をっ?!」


「五月蝿い。喋る暇があるならさっさと掛かって来い」


 どうして強大な力を得た連中は揃いも揃って無駄話をするのだろうか? そんな疑問を考えつつ懐へ飛び込み、飛び上がる勢いで獅子の顎に右手で掌底を打ち込む。

 当たり所が良かったのか、千鳥足で後退し始める。これはチャンスと見た俺は続けて鳩尾へ右手で掌底、魔力強化した右足の強烈なローキックを奴の左足へ二発。

 前のめりになった瞬間、獅子髪を両手で掴み顔面……は口が邪魔なので顎へ飛び膝蹴りを叩き込み、よろめいた所へ全身魔力強化後、背中から体当たりを打ち込み追加で後退させた。

 見様見真似の武術故、魔力強化で威力は上げれても技術は達人達に遠く及ばない。八極拳とムエタイの連続技だが……どうだ?


「良い威力だ。人間や下級魔族なら悶え苦しむだろう。当然──我には通じんがな!」


「知ってる。けど、敢えてこう言おう。人間舐めんな、ファンタジー!」


 分かってたとは言え、ケロッとしてやがる。本来の俺らしい戦い方からは大きく離れるが、致し方無い。機械じゃなけりゃ、殺りようはあるさ。

 もう一度突っ込むと、野郎は此方のラッシュに対抗し打ち返して来た。文字通り拳と拳の殴り合い。何発か『打ち込めた』し途中、ローキックを何度か混ぜるも何食わぬ顔。


「何を企んでいるかは知らぬが、そんな蹴りなど通用せん……ぞ!!」


 お返しとばかりに腹へ拳を一発。体格・身長・種族差もありそのまま俺の体は簡単に持ち上げられ、蠍の尾が首に巻き付き針が此方を狙う。


「これが貴様の切り札、エナジーバレット。……成る程。凝縮された魔力とは実に美味だ」


「ごほっ……流石に、パワー勝負じゃ押し負けるか。なら」


「知恵と手数と策で勝負。だね!」


「誰だ──!?」


 蠍の尾を右手で掴み、刺されない様に引き離そうとするも、魔力は身体強化で殆ど使い果たした。回復しようと左手で腰に巻いた冒険者用鞄を探ると──

 引き寄せられ、奴が知る筈もないエナジーバレットを……切り札を奪われ、目の前で手持ちの二発を全部飲み込みやがった。悔しいが、これで自力による魔力回復は望めない。そんな時。

 アイツは巻き付く尾を鉄の剣で根元から断ち切り、現れた。何度見ても幼さ感じる顔、鉄で補強した木の盾・鎖帷子の上に革製の軽鎧・革靴を装備した……


「ボクの名はルージュ・スターチス。勇者候補生さ!」


「勇者候補生……? フン。魔王、魔神となった我に勇者候補生とは……舐めるのもいい加減にしろ!!」


「ボクは何時でも本気さ。悔いは残したくないからね」


 まさか勇者候補生が来るとはな……てっきり琴姉が来るんじゃないかと思っていただけに、予想が外れて少し戸惑いつつも立ち上がり尾を引き剥がす。

 野郎も勇者『候補生』と言う侮辱に怒り心頭な様子だが、ルージュは候補生であっても『勇者』と言う立場に誇りを持っているらしい。

 よく見ると鉄の剣は切り落としたであろう切断部分から、ポロリと溶け落ちてしまった。どうやら蠍の尾には鉄すら溶かす溶解液があるっぽいな。


「やるじゃねぇか。ルージュ」


「ふふん。何せボクは勇者だからね。魔王討伐は勇者の専売特許さ」


 ルージュの右隣へ移動し、話し掛ける。自信満々な態度と言動を見ていたら、何故か負ける気が全くしないと心から感じていた。身長差がある、コンビで戦うのは初めて。

 なのに……どうしてだろうな? 相手側を見ず突き出した左拳は、ルージュの右拳とバッチリタイミングすら合っていた事に、何の疑問すら浮かばないなんて。


「行くぞ。ちゃんと合わせろよ?」


「何を言ってるのさ。君と息を合わせる位──ボクにとっては朝飯前だよ!」


「きぃ~さぁ~まぁ~らぁ~!!」


 コートを脱ぎ左腰に巻き付けていた短剣と共にルージュへ投げ渡し、キチンと『コンビ』として息を合わせる様に伝えたらローブを脱ぎ。

 渡したコートを着ながらなんとも心強い返事で返され、苛立つイブリースから赤・黒紫・白・緑の光線や刃型の魔力弾が飛んで来ては、左右へ飛びこれを回避。そして──


「またしても突貫。貴様も学習能力の無い奴だな、ジューダス!」


「そうでもないさ。ダメージを受けた瞬間、お前は魔力で傷を回復してるって見抜いたからな」


「だから、どうしたと、言うのだ!」


 予想通り、注意は此方側へ向いている。幾ら打撃を打ち込んでも即自動回復。大型ダム程の魔力量を持つお前なら此方の攻撃は何百、何千と当てても無意味だろう。

 現に今、即自動回復に頼り切って防御すらせず反撃に殴り掛かってくる始末。肩と足の動きを見て、経験と直感から回避方法を決め、懐へ潜り込む様に前へ避ける。


support(サポート)、霊華。Are(準備は) You Ready(出来たか)?)


「貫け──奴より速く、深く、鋭く!! リボルビング・インパクト!」


 奴の右脇腹へ潜り込む最中、ウォッチを回し起動。すり抜ける間際、輝く七つの黄色い光球を右腕に宿し、捕まれる前に腹部へ拳を打ち込む。

 すると霊力は打撃をスイッチに勢い良く放たれ、二メートルはありそうな奴の体を吹き飛ばした。リボルビング・インパクト──

 これは俺が初めて幻想側でやり抜く、貫き通す想いから生み出した技だが。まさか、埃被ったこの技もまだまだ現役とは……有り難い話だ。


「ふぅ~、理解した。複数の凝縮した魔力や霊力を直接相手に叩き付ける事で防御系効果を最小限にし、打ち抜く技か」


「その首、貰ったよ!」


「実に面白い。コンビネーションは兎も角。としてだが、な」


 ゆっくりと起き上がり、此方の技を理解しやがった。オマケに打ち込んだ打撃ダメージは既に回復済み。されど俺が注意を引いている間にも。

 背後へ足早に回り込んでいたルージュが飛び込み、短剣を抜き斬り掛かろうとした瞬間──獅子の後頭部にある髪が怒髪、天を衝く様に逆立ったと思いきや。

 何かあり得ないモノを見た様な、そんな表情になった直後、黒い煙が後頭部側から吹き出し迎撃。地面に落ち、苦しみ悶えるルージュの首を獅子の腕が掴み上げる。


「ふむ。見れば見る程、我らが同胞……いや、女王に近い顔付きよな」


「ルージュを放せ!! サーキュラーブレード!」


 残る魔力の大半を腕に込め、交差させて縦に振り払い繰り出した大きな緋色の刃。打撃は期待薄でも切断は有効なのは、ルージュが証明済み。

 狙うは勿論掴んでいる右腕……なのだが、集る虫を払う様な感じで、翼に軽く払われ刃は消滅。仕返しにと翼から羽根が撃ち出された。

 魔力消費が激しい今の俺には避ける余裕も無く、魔力を使った防御も出来ない。せめて急所だけは──と受け身をしつつ横に倒れ伏す。


「ふふっ、ふははははは!! 我らが王、終焉であり虚無なる王よ! 今、我らを裏切りし愚か者を倒しましたぞ!!」


 ……少し、倒れるのが遅れたな。背中に十数本は貰ってしまったか。いやまあ、サンバ衣装みたいにフッサフサじゃないから構わんのだけれども。

 どうする、どうすれば救える? ウォッチは俺専用、共有用も含めて後一回ずつ。仕掛けはまだ作動しない、仕込みが機能するのは後もう少し掛かる。

 しっかし、ルージュが奴らの女王に似てる顔付き? んん~、あぁ~……顔や理由まではハッキリと思い出せんが、確か終焉の闇No.01・β(ベータ)とNo.03が似た顔付きなんだっけか。


「だが、悲しいかな。女王は其処のジューダスと共に裏切った同胞No.03に倒された。勇者候補生、貴様が生まれ変わりならば命はと思ったが止め──!?」


「ルージュ!?」


 長々と話している最中、銃声が鳴り響き獅子の眉間に風穴が空いた途端。五つの悲鳴が奴から聞こえ、掴んでいたルージュを傍に放り捨てて酷く苦しみ始めた。

 俺は奴から距離を離す為、何を見たのか確かめる為。此方へ背中を向けている今がチャンスだと見て体当たりを繰り出し、少しだが距離を離せた時──


「ウズ……ナ?」


 見た、見てしまった。イブリース復活の際に取り込まれ、生死さえ不明だったウズナの変わり果てた姿を。ゾンビ風のメイク……は見た事あるが。

 顔面蒼白、顔も半ば溶けている状態で「お"に"ぃ"……じゃ、ん"……」と此方を呼ぶ。いや、まだ助けられる。奴が『迂闊な行為』を取って時間が経過した今なら。

 巣食われている連中を全員救える可能性がある。さてはて──ドロドロに溶け始めたイブリースから見付けれるかどうか。


「がら、だ……溶け……何故。何故『ギザマば溶げない』? 何故だ?」


「俺をアダムと呼ぶから知ってると思ったら、どう言う意味と立場かまでは知らん訳か」


 他人(ひと)のモンを何も知らず盗み喰うからだ、馬鹿野郎。ルージュを連れて一度距離を取る。先ずは被害者連中を捕らえている核を探せ。

 魔力探知で見付けれる筈だ。黒紫色のヘドロさながら溶けるイブリースを見る。ドス黒い魔力の中に俺の魔力と……リーベのお守りが見える。多分アレだ。


「一意専心、男は度胸。為せば成る、為さねば成らぬ何事も、成らぬは人の為さぬなりけりってか!!」


「どげ、溶げル……ぞウ、だァ。ギザマ、ギザマヲ、取リ込メばァァ……!」


「残念だったね……ボクはまだ、戦えるんだよ?」


 やらぬ後悔よりやる後悔。与えられた不幸にグチグチ言うより、自ら不幸を選んだ方が受け入れ易いってなモンだ。どちらに転ぼうが時間制限付きの二者択一。

 他人の愚痴や文句なんざ右から左だ。左腕に装備した盾を外し勇気を胸に飛び込む中、俺を取り込もうとするイブリースだが──

 サブマシンガンな連射性能を持つ朔月の連射をまだ微かに残る獅子顔に浴び、怯んだところへ手を伸ばし……胸の奥で虹色に光る結晶・オルタナティブメモリーよりも白い光球を両手で掴む。


「人間っ、舐めん……なぁぁ!!」


 光球に絡み付く血管らきしモノを強引に、力任せに引き千切り呑み込まれない様急いで駆け出すも転け、援護射撃を続けるルージュの隣へ倒れ込んだ。






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