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ワールドロード  作者: オメガ
序章・our first step
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もう一度

 一度離れ離れとなった女友達、未来寧と再会し、彼女の友人でもある心情ゆかりと話し合って別れた後。

 機都・エントヴィッケルンへ到着したと同時にチェックインした宿屋、電気羊の夢亭へ行き、旅の疲れを癒す為お風呂で身も心も休めた一行。

 部屋にあるベッドはふかふか……ではないが、夜間周囲を警戒しながらの野宿よりは断然マシな事もあり、一行は各々深い眠りについた。のだが……


(夢……にしては、随分と意識がハッキリしてるんだな)


 話に聞いたナイトメアの能力か。貴紀はただ一人。何処かの海岸付近で立ち尽くし、自身以外何も触る事が出来ない、半透明状態で宙に浮かんでいた。

 真夏とも思える太陽の日差しは眩しく、攻め込んでは戻って行く波の音が耳に心地よい。青く綺麗な海の向こうを見るも、一面青い海と白い雲の漂う青空があるだけ。

 後ろを振り返り見回ってみれば。何百、何千年と其処にあり続けたのだろうか……まさに御神木と言えよう大層太く、人の身長の何十倍はあろう、大きな大樹があるではないか。


(近くに真水も流れてて、壊れた大型船や折れた大樹をくりぬいて使ってるのな)


 モノに触れずすり抜ける事、浮遊出来る事を利用して周囲を飛び回り、何があるのかを確かめた。そして、ハッキリと分かった事が一つだけある。


(此処、孤島なんだな。無人……なのか?)


「お~い。早くおいでよ、二人共~!」


 今居る場所は孤島であり、高く飛び上がって周囲を見渡しても隣島一つ見付からなかった。人の姿を全く見なかった為、無人かと思いきや。

 海岸沿いの砂浜で何度もジャンプしては、手を空高く挙げて仲間を呼ぶ、黒髪ミディアムヘアーで、黒いフード付きコートを着た少女を見付ける。

 幼さの残るもののその笑顔は何故か、何処かで見た覚えがあり、疑問が残る――以前に、暑そうな格好だなぁ。と言う印象が強かった。


「――、はしゃぎ過ぎだ」


「別に良いじゃない、――。アタシ達以外み~んな、“ベーゼレブル”に付いて行っていないんだから」


「今はRが居るだろうが」


 大樹をくりぬいた家から扉を開け、歩いて出て来たのは……少女と同じ服装の上、フードを深々と被る男性の声をした人物。

 少し遅れて後を追う形で出て来た短髪青髪、青色のパーカーとジーンズ。右手にくすんだ青色の指輪を付けた、蒼い瞳の青年。

 はしゃぐ少女の名前を呼んだと思われるものの、何故か名前だけは間を空けたかの様に、聞こえない。青年を名前で呼ばず、コードネームらしき呼び方で言う。


「そんじゃっ、今日も始めよっか」


 広大な海と綺麗な砂浜、豊かな緑に囲まれつつも孤立した小さな島。此処に来訪客は存在せぬ反面、自然のままに育つ木々や作物は豊富。

 海岸沿いには時々、何処かから見慣れないモノが流れ込んでくる。それは何かの部品、誰か宛の瓶詰めされた手紙や贈り物等々。

 少女の声を開始の合図に始めたチャンバラ。そんな中、木材のぶつかる軽い音が響き、宙を舞う一本の木刀が砂浜に落ち、刺さった。


「今回も俺の勝ち、だな。R」


「はぁはぁ……全力で、打ち込んでるのにっ。軽く流されるなんて」


「にっひひぃ~。これでRの記念すべき百敗目だね」


 尻餅を着いたRと呼ぶ青年の眼前に木刀の切っ先を向け、自身の勝利を宣言するものの。嬉しげな声ではなく、普段通りの声。

 Rは何故何時も敗けるのか、その理由さえ掴めず、砂浜へ仰向けに倒れたところへ。ニカッと笑いながら、連敗記録更新を告げる。


「ねぇ、――。これからデートしようよ」


「あのなぁ……俺達は付き合ってもいなければ、恋人同士でもないんだぞ?」


 軽い足取りで勝者へと駆け寄り、自ら相手の右腕と恋人さながら腕を組み、デートを誘うも二人の関係は恋人未満。友達以上なのは、少女の方だけだろう。


「聞きたいんだけどさ。――は、――の事が嫌いなのか?」


「嫌いではない。だがな、俺達は――だ。そして此処は――――だと話した筈だぞ」


 幾ら耳を澄ませても、直ぐ傍へ近付いても、名前や重要そうな部分だけが聞こえない。青年の問いに振り返り、答える言葉には嘘偽り無く感じる。

 嫌いではない。拒絶していない返答に少女の口角は上がり、嬉しくて抱き締める腕にギュッと力が入る。ベッタリと引っ付くも離そうとしない辺り、本当に嫌ってはいない様子。


「覚えてる。でも、俺が知るあの人は、そんな事気にしなかったけど?」


「それが原因であの悲劇を生み、奴は戦えなくなった。呆れたもんだ」


(多分……これ、自分の事だ)


 話を聞いていく内に、“あの人”や“悲劇を生み戦えなくなった”と言った言葉から、二人が話している人物は恐らく自分自身の事だと思い始めた。

 当人は心当たりがあるらしく、その当時を思い返しては徐々に俯き、悲しげな表情で落ち込む。後悔と罪悪感が心を満たして行く最中、握り締めた両手の平に違和感を感じ、開いて見ると。


(……あぁ、そうだよ。君の事からずっと目を背けて、逃げ続けていたんだ。自分は)


 両手の平の中に有ったモノ。それは――血飛沫が掛かった金のロケットペンダントと、白と黄色の指輪が一つずつ。ペンダントの右側にあるスイッチを押すと、蓋が勢いよく開いた。

 中には背中へ届く真っ直ぐな黄色い髪、紅い瞳に白黒の洋服を着た女性が、お花畑で微笑む写真があった。白い指輪の裏側に貴紀の名前、表側へはタイムの花。

 黄色い指輪は裏側へ名前と思わしき桔梗と言う名、表側はナズナの花が彫られていた。タイムは勇気と言った前向きな花言葉を複数持ち。ナズナはあなたに私の全てを捧げます、と言った意味を持つ。写真と名前を見、目をつぶり二つの花言葉、その意味を思い出す。


(最愛の君を殺したあの時から、君は自分の事を、許してくれていたんだね)


「奴は……紅貴紀は弱い。身も、心も」


「それも、知ってる。だけど、貴紀さんは何時も挫けそうな時、助けてくれる仲間が沢山いた」


「んん~ふふ~ん。そう言う――も、昔は彼と同じだったじゃん。だから、君も立ち直れた」


 どんな出来事を迎え、最愛だと言う桔梗を殺す事となったのかは不明だが。指輪に彫られた花言葉から、最後の時も自身を許してくれていたと感じる。

 身も心も弱いのは、まだ人生経験の浅い中学生云々とは言わない。Rの発言は妙に実際と違うものの、他二人はそれを訂正や気にも留めない。

 フードを深々と被った人物も、貴紀と同じ経験をして立ち直ったと言うと、溜め息を吐き「立ち直れても、足踏みしてるだけじゃ意味がない」と事実を言い切る。


(もう一度、もう一度だけ……踏み出そう。自分と桔梗の夢を、叶える為にも)


 何度か指を曲げて動かした後、ゆっくりと握り拳を作っては勇気を振り絞り、今一度……もう一度だけ戦う事を決意し、大海原へ振り返っては走り出す。

 何度でも……と言うとまた挫けてしまいそうな為、敢えてもう一度だけと、言って。


「全く……世話の掛かる野郎だ」


 三人は貴紀の姿が見えているのか。走り出した背中を見つめ、少女と青年の姿は霧の様に消え、残った人物は「こんな三文芝居をやらせやがって」ポツリと呟き、愚痴った。




 三日後の昼頃。機都の冒険者ギルドで登録を済ませ、依頼を解決しつつ日々の生活費を稼いでいたサクヤと貴紀。終焉は有言実行中の心情ゆかりに捕まり。

 最高位ランクの冒険者、スレイヤーの活躍や魅力を嫌と言う程聞かされ、昼休みも含めて二人と合流。テラス席の喫茶店でくつろいでいた。


「年齢性別住所不明、依頼達成率は平均的に七十五%……」


「随分と覚えたのね」


「話してる途中に問題を出して来てな。正解しないと休憩無しの復習……」


 椅子の背凭れに凭れながらも、呪文や独り言の様にぶつぶつと呟く姿、疲れ切った様子を見て「あぁ。期末試験前とかこんな感じだったなぁ」等と思い返す二人。

「そっちの方はどうなんだ?」殆ど三人と四匹で行動していた事もあってか、自身が一時的にとは言え抜けている現状が気になり、視線を二人に向けて訊ねる。

 苦笑いを向けて「やっぱり、終焉が補ってくれていた攻撃面で苦戦してるわ。貴紀も頑張って、戦闘に参加してくれてるんだけれど……」終焉は普段通り戦えず、苦労してるんだなと理解。それよりも――


「珍しいな。貴紀が自分から戦闘に参加するなんて」


「う、うん。少しでも、夢に近付きたくって」


 この三日間の間に何があって、どういう夢を目指しているかは兎も角。弟の嬉しい心境変化に兄姉の二人は優しく微笑み、灰狼・紅龍・白狐・白蛇と戯れる貴紀を眺める。

 そんな時、最近仲良くなった心情ゆかりが未来寧の手を引き、走りながら「お~い、号外が出てたよ~」右手に持った新聞紙ごと手を振り。

 息を切らしながらも一行の下へ駆け付け、両手で新聞紙に載ったとある部分を広げる。探して駆け付けてまでも、見て欲しかった記事の内容を見た三人の反応は……


「…………」


「へぇ~」


「あ、今日は魚が特売なのな。後で見に行こっと」


 沈黙と、デカでか載った特売の広告に関心を持つだけ。聞きたかった返答、反応とは全く違った為、広げたページを一度確認後。

「ごめんごめん。見て欲しかったのはこっち」間違えたページを開いていた事を謝り、今度は正しい方を開いてもう一度新聞紙を見せる。

 そこに一面デカでかと載った記事――『冒険者・スレイヤー復活』そして三日間の間に達成した依頼の数々に加え喜び、怒りや嘆きの声も幾らか。


「スレイヤーは嫌われているのか?」


「記事を見る限り半々、じゃないかしら」


 依頼を達成し助けて貰いながらも、こんな筈じゃなかった。望んでいた結果じゃない、スレイヤーの所為でこうなった、人殺し、冷血漢……等々、自分勝手な文句や中傷批判も多い。

 自衛隊や警備隊からのコメントもあるが、スレイヤーを悪人扱いしていたり、敵視している事が見て判る。任務の邪魔をされた、証拠物品を横取りされた等々。


「顔は……やっぱり、隠してあるか」


「そらそうでしょ。自分でもそうするよ」


「大半の人は知らないけど、スレイヤー様が受ける依頼は最高危険度。僅かな判断ミスが死を招く世界」


「普通は受けない、公に出来ない依頼だから。あの人が受ける依頼は」


 スレイヤーの横顔を写した写真が載っているが、顔をすっぽり覆うヘルメットを被り、体も装甲付き強化スーツとも言うべき逸品を着込んでいる上。

 声も取材班曰く、機械音声に変換されていて性別や年齢の判断も出来ないとの事。幾ら身元や性別等を特定する様な質問を一度でもしてしまうと、無言で立ち去ると言う徹底ぶり。

 仲間の存在を訊ねても無言。余りにも踏み込んだ質問をしてしまうと、当事やった男記者の相棒曰く「全部相方が悪いんだ。だから、俺の家族にだけは……」

 本人から直接か、はたまた依頼を受けた人物からか……文字通りの最終通告書が届く。これを無視した相方記者の行方は、スレイヤー以外誰も知らない。


「正義の味方か悪の使者……どっちなのかしら?」


(正義は悪人、悪人は極悪人。何も知らぬは愚か者の阿呆、知りたがりは好奇心に殺される間抜け……ってね)


 知恵を絞り、新聞記事から正義か悪人かを考察するのをよそに、貴紀は思う。例え自らの正義を掲げようとも、全ての者がそれを正義だと思う事は無い。

 無知な者が悪行と知らず行うと同じ。知識を求める者は好奇心故に善も悪も無く、死へ向かう愚者。悪人は自らを悪と認めている分、正義の味方よりはマシだと。





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