monere・前編
今回は少し調子が出なかったので、前編だけ投稿します。来週には後編は書けてる……と思う。
自分とシュッツは互いを目指して駆け出す。距離として後一メートル──と言う所でカジキ紛いの手作り槍で右眼を狙い、突き込んで来るイメージが強く、鮮明に浮かぶ。慌てて踏み込んだ左足を体ごと左側へ捻る。
「流石に見切るか! ならば──」
見切る? 直感と長年培った戦闘経験が無ければ良くて即死、悪ければ激痛続きの果てに酷い顔で死ぬ所だったわ、こん畜生!! てか顔目掛けての連続突きに移るな、上半身だけ動かして直撃だけは避け続けてるけど。
所々掠ってて心臓に悪く寿命が縮む!! 体を捻り胸部狙いの鋭い突きを避けた──と思いきや、尻尾が右足首に巻き付き文字通り、足下を掬われ仰向けに倒れた所へトドメの一撃。
とばかりに飛び込み、跨がる形で両腕を踏み付けられ、左胸へ槍を突き立てられた。のだが……服の下には胸当てがあり、鈍い音と共に矛先を弾いてくれた。
自由に動かせる左足でシュッツの尻を蹴り、退かして立ち上がる。さあ、此処から盾を使って行こう。今度は真っ直ぐ顔面目掛けて突き出す槍を、下から右斜め上へ爪部分で大きく弾く。
「な……なん、で……あんなに、動ける、んだ?!」
「本当にね。この空間、終焉の地は普通なら貴方みたいになるんだけどね」
チラッと聞こえ視界に入る二人の会話。ムート君は立つ事も叶わず、途切れ途切れな言葉で肘を着き四つん這いで悪影響に耐えている。
そりゃまあ、通常の二倍重力が働いてるっぽい感覚は悪霊が纏わり憑いているも同然だ。常人なら通常の半分かそれ以下で動くしかなく、常時心霊体験で精神的にもキツいだろう。
右手で爪部分を内側から取り外し、鉤爪もしくは棘付きメリケンとして防具の無いシュッツの腹へ殴り込み突き刺す。突然発生した痛覚と言う身体的火災で少し反応が鈍った所で、盾を壁に左肩から体当たり。
追撃と押し倒す事で更なる追撃へ繋げれそうだ。初見で話を聞いた時は闇鍋扱いしたが、実際に使ってみると、いやはや……本当に良い仕事をしてくれる。
「それじゃあ、私は行くから」
「なん、で……アンタ、まで」
向こうも話が終わったらしい。疑問を投げ掛けるムート君にアナメは「誰の心にも闇はある。願望を叶えようとする本当の姿がある事を伝える為に、私は敢えて悪魔の囁きに乗り、道化師になった」と言う。
確かにな。知的生命体だから賢い、と思っている人間を自分は嫌っている。だからと言って別に天才が嫌いとは言わない。ずる賢く自己中心的、心まで腐った連中が嫌いなだけだ。そしてそれに何も考えず、引っ付く奴等も。
「敢えて道化師になった、か。凄い勇気だな、アナメ」
「ううん。好きな人に告白する勇気さえないんだから全然。さあ……道化師の遊戯に付き合ってよ!」
(此方モ本気ヲ出セ、王。来ルゾ……『本当ノ心ヲ解放』シタ姿ガ!)
シュッツへ追撃したい所だが少し離れ、距離を作りアナメと向かい合う。敢えて道化師になった勇気を褒めるも、また違う意味で使う勇気が無いと褒め言葉を払い除けられ、ファウストの遊戯へ強制的に付き合わされる事となった。
何度も見た魔人ファウストへ闇を纏い変身した──が、まだ闇を纏い終わらない。ドンドン大きく膨れ上がり何倍、何十倍にも巨大化して行き、押し倒そうと倒れ込んで来た。まともに食らえば即死。
の……筈なのだが直感が働かず、回避する方法すら判らず全員纏めて押し潰された。しかし痛みは全く無く、手の感覚や体も潰されてはおらず無事。ではアレは一体なんだったのか? 浮かぶ疑問は今現在、自分が見ている光景と立っている場所に気付く。
「いつぞやに見た夢の劇場?」
「そう。でも、コレは夢じゃない。私──ファウストが見せる悪夢と闇の劇場……異能発動、悪夢の道化師!」
そう。ってまさか、アレや今起きているコレはアナメの……いや、ファウストが持つ固有能力って事か!? 相変わらずの暗さ、自分一人だけを照らすスポットライトが天井にある中……
その天井から蝗の大群が此方目掛けて飛んで来ては、身体中に纏わり付く。幾ら手で払い落としてもまた纏わり付く為、気持ち悪さと身体中を噛み付く様な痛みが同時に襲い掛かる。
床に思いっ切り倒れて転がって払ったり潰そうとするんだが……そう言う時に限って離れやがる。で、また纏わり付くと言う悪循環。
「これ、は……思い出した。悪魔アバドンが操っていた、黙示録の蝗」
「ファウスト専用固有能力『悪夢の道化師』、発動範囲内の者の記憶や出来事を鮮明に再現する」
「クッ……そぉい!! 変身!」
準備運動は終わりだ。とも言いたげな態度、言葉で闇を纏い魔人メフィストへと変身するシュッツ。自分の眼で見て「あぁ、本当にお前が魔人なんだな」と痛感させられた。やはり心の何処かで、嘘であって欲しいと願っていたんだろう。
体の内側から魔力を軽く放てば小さな衝撃波が発生し、纏わり付く蝗達を一気に弾き飛ばす。その隙に立ち上がりコートと盾はその場に脱ぎ捨て、フュージョン・フォンを取り出して一連の動作を行い此方も変身。……よし、スーツに異常は無い。
「消えた……何処だ、何処にいる?」
これで真っ向からぶつかり合える。そう思った矢先、以前の夢で見た通り闇に消えたメフィスト。あの時とは違い、今は寧達が造ってくれたパワードスーツを着用している。バイザーをスキャンモードに切り替え、見失った姿を探しゆっくりと、されど不意打ち等に注意しながら見渡す。
「これは直感頼……りぃっ!? クッソ、また此方の記憶を再現してるのか」
「さぁさぁ! 貴方はこの時、どうやって乗り越えたのかしら!?」
「思い出してみろ。出来ぬと言うならば──走馬灯を眺めつつ死ぬがいい!」
なんと言う事だ。スキル・直感が全く発動しないとは……いや、逆に考えろ。寧ろ今まで強制的発動の直感に頼った戦法が多かったんだ、少しは自分の頭で考えるチャンスだと思えば良い──とでも言うと思ったか、この野郎。
国語算数社会歴史数学、基本的に五点満点評価で一点か良くても二点止まりな成績だぞ? 戦闘訓練と好きな事へ時間を割いた結果、出来る・出来ない事が両極端なのは嫌でも身に染みてて、思い出す必要すらないわ!
今度は闇の中からディーテが現れたと思えば青白い電磁砲弾を此方へ連射。煽る様な発言をするファウスト、試す様に思い出せと言うメフィストの声が何処からか聞こえる中。
次から次へと現れるナイトメアゼノ・ラプターの飛び掛かりならぬ、辻斬りの連続。何とか盾を振り回し当てるも、幻影さながらすり抜けて効果は無い。直感が使えない……となれば、魔力探知ならどうだ!?
「ッ!?」
(此処ハファウストノ魔力デ満タサレタ場所。魔力探知等スレバ、処理ガ追イ付カナイノハ当然ダ!)
視力が無理なら魔力を探ってやれ……と思ってやった結果、拳骨で頭をグリグリされる様な痛みが頭痛として走った。そんでルシファー、そう言う重要な情報はやる前に話してよ。
さて、どうするべきかな。此処は復活した能力で突破するべきか? 普段使うスキルや種族専用の固有スキルとは違い、これは似て非なるものっぽい気がする。
そんで今まで通りならば、負担がアホ程高く使用回数も一日合計三回。但し連日使用回数全部使った場合、体が持つかと聞かれれば……まあいずれ、否が応でも判る時が来るさ。
ウオッチの矢印を緋色へ合わせ、一回だけ叩く。するとゼロは相当暇なのか、それとも分かり易くする為に某特撮番組のオマージュ……リスペクト? 的な台詞。
(ability・Ⅰ。Are You Ready?)
なんて低く渋い声で言いやがった。その内、パワードスーツを装着する時ですら何かしら台詞を言いそう。……うん、いやまあ、自分や寧も夢中になれる位好きだから構わないんだけどさ。
「──ッ!!」
「自らもがき苦しむとは、何を企んでいる?」
「ははっ……ちょっくら『覚えた』だけさ」
覚える能力を発動した直後、当然とばかりに『反動』が頭に来る。コイツ……が、割とキッツくて、な。アドレナリンが大量分泌される生死を賭けた戦闘や興奮状態なら、痛覚も鈍化するから助かるんだが。
今は一人称も俺にならない程落ち着いている。つまり、狭い場所で頭を打つ様な激痛が頭痛として、また襲って来ているんだよ……体験する本人しかこの痛みは分からない。
例えるなら常に持病持ちの人と何時も健康体な人位の違い。で、覚えた内容だが──攻略方は大体分かった。が……自分の力だけじゃ無理だな。
(成ル程。ナラバ俺ガ代ワロウ……ト言イタイ所ダガ、霊華ニ任セロ。今回ハ力ヲ貸セン)
「何か、考えがあるんだな。分かった、行くぞ霊華!」
(任せなさい。魔力の障壁も霊力で作った結界だろうと、壊れるまで干渉すれば関係無い!)
多分『異能』と思われる三つの能力は、自分達全員で情報を共有するらしい。故に先手を打ち、ルシファーは自身よりお母さ──霊華の力を使う様に言う。出番を減らしてまで言うって事は、きっと何かあるのだろう。
ウォッチの矢印を紅白へ回し、連携を取る為にも呼び掛け返事が返って来てから三回叩こうとした瞬間──舞台劇のセットが動き、周りの景色がトリスティス大陸のスカイマウンテンへ変わった。
「まるで演劇の舞台劇場だな、こりゃ……あ?」
「ああぁ……うわあぁぁぁっ!!」
「な、なんだ……ムート君の悲鳴に、闇が反応して……」
率直な感想を述べていたら突然……絶叫にも近い悲鳴が聞こえて振り向けば、今なお苦しんでいるムート君に闇と幻影の他にファウスト、メフィストが集まり──包み込み漆黒の球体となり少しした次の瞬間、飛び込んで来た情報に光闇戦争でのとある出来事を思い出させる。
「ハァ~、ハァ……アオォォ~ン!!」
「っ、この……姿は」
犬の様に舌を出したまま深呼吸を数回繰り返した後、耳を塞ぎたくなる程の遠吠えを行うその姿は……半ば強制的に引き出される桔梗との記憶。嵌められ殺し合う中、桔梗が変貌した姿に近い。
間違いない。アレは幾度となく戦った『融合獣』だ。周囲の物質・無機物さえ取り込んで変貌する恐ろしい奴。世界に巣食う闇が形を持ち、具現化した存在を自分達は融合獣と呼んでいる。
バイザーをスキャンモードに切り替え、天井目掛け吼える融合獣を調べたら──『譎詭変幻融合獣ケルベロス』と出た。ケルベロス……地獄の番犬が持つ名前だったか。桔梗のは二つ頭だったから、オルトロス?
ガッシリとした二足歩行の体格に腰辺りからシュッツの尻尾、両腕には鋭利そうな二本の鉤爪。名前らしく狼顔……と左右、両肩部分にチェスの駒みたいなファウスト、メフィストの上半身が生えている。
(monere、カ)
(何よ。そのもれーね、って)
(思イ出サセル、気付カセル、警告スル、忠告スル。ト言ッタ意味ヲ持ツ異国ノ言葉ダ)
今目の前で起きた現状を簡潔に、一言で語るルシファーに霊華が疑問を投げ掛け、意味を此方にも分かる様に教えてくれた。
確かに色んな事を思い出させ、気付かせ、あらゆる存在が融合獣へと成りうると警告し、忠告してくれているが……ッ。
コイツは桔梗が変貌した存在じゃないと、頭では理解している。なのに、どうして──桔梗の姿と重ねてしまうんだ?! これもファウストの固有能力なのか!?




