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ワールドロード  作者: オメガ
一章・I trust you forever
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準備・後編

 最後に向かうのは北部にある集落・ヴェレーノ。此処へ来るのは二度目か。以外と少なく感じるも原因であり、今や枯れ果てた大樹を眺めながらゆっくりと慎重に集落の入り口へ降り立つ時、盾を持つ左腕が先にガクンと降りては地面に三本爪が突き刺さる。


(何なら俺が代わるぜ? 宿主様)


「まだっ、大丈……夫!」


(はぁ、誰に似たのかしら。執念にも近い負けず嫌いは)


 一度左腕から外し、畑から野菜を引っこ抜く様に両手で引っ張る。筋トレに使うダンベル代わりとして魔力強化は行わず、素のままで未だ抜けない様子を見て助け船を出してくれるんだが……此処で交代すると負けた気になるから提案を拒む。

 誰に似たのか? なんて頬に片手を当てて溜め息を吐く母さ……もとい霊華。そんな呟きに「いやいや、紛れもなくアンタだよ!」と自分やゼロ、ルシファーが同時にツッコミを入れたら偶然か、爪が勢い良く地面から抜けた流れで後頭部を打った。普通に痛い……


「フハハハハッ!!」


「この声、魔力は……アナメと、シュッツ!?」


 両手で盾を持ち上げた途端、アナメ……いや、どちらかと言うとファウスト時の高らかな笑い声が集落から聞こえて来た。もしや精神が魔人に乗っ取られたのでは? 緊急事態と考え、全身を魔力強化し声がする方へ駆け込む。

 人が多い場所へ突入する、感じる魔力からシリアス場面だと察知した三人は「此処から先、俺達は黙るがウォッチの力は宿主様の判断で使え」や「最悪ノ場合、俺達ト交代シロ。パワードスーツハマダ装着スルナヨ?」と助言をくれる。本当に頼もしい限りだ。

 駆け込むと其処には案の定、ファウスト姿のアナメと行方不明だった蜥蜴人(リザードマン)の勇者シュッツが対面していた。武器や甲殻の盾も構え、まさに臨戦態勢。対するファウストは小学一年生位の少女を人質に取っている……コイツはマズいぞ。


「勇者よ。何故もがき、苦しむ? 滅びこそ我が救い。さあ、我が腕の中で息絶えるがいい」


「はぁ、はぁ……止めろ!」


「うおぉぉっ!!」


 間に入り止めるよりも前にシュッツが掛け声と共に駆ける……と言う所で此方の声と姿に二人揃って気付き、構えや変身を解き人質も解放。先程までの魔王口調は何処へやら、普段通りの口調で「どうしたの?」なんて聞いてくる為、盾をボード代わりにズッコケてしまった。一体何をしているのか、息切れ気味なまま尋ねると。


「あぁ。子供達に頼まれて、ね」


「俺も此処へ辿り着き、休憩していたら……な」


「なんじゃそりゃ……」


 子供達に頼まれた。もしくは、せがまれてやったのだろう、自分も経験がある。そん時は小さい子供達相手に鬼ごっこしてたのに何も知らない母親から勝手に不審者扱いされ、不審者出没の注意書が貼られてたけどな。

 だからもう二度と、知らない子供とは遊ばない様になった。不審者扱いしてくれた母親連中は今でも怨んでるし、謝ったって許す気は微塵も無い。心が狭い? みみっちい? 被害者になってから言えや、そんなクソッタレた言葉はよぉ。

 立ち上がるものの呆れ果て、変な疲労感から確認も忘れて帰ろうと思い立ち去ろうとしたら右手を掴まれ、振り返ると申し訳なさそうな表情をした二人が見えた。……何となくこのまま帰っても後々面倒臭くなる予感がしたので、諦めて残る事にした。


「あ……お、お久し振り、です」


「お、おぉ……お久し振りです」


 で、何がどうなってこうなった?! 落ち着ける場所で話をしようって言われて案内された所が、人族代表で会った若者の家なのさ!! 四日前に会ったばっかりだし、話し合いの場でも余り話してない上、向かいの席だから逆にお互い気まずい雰囲気じゃねぇかよ!

 あぁ~……あの連中(真夜)達が此処に居ないのがせめてもの救いか。と言うかなんと言うか、スッゴイ俯いてて口数少なくて話が進まない。右隣にアナメ、向かい側席の右側にシュッツが座っていて、喫茶店の相席で知らない人と座ってる気分。


「まあ、結論から言うと此処の人達、協力する気は更々無いって感じね」


「だろうな。代表に若過ぎる青年を出して来る辺り、そんな気はしてた」


「す、すみません……」


 気まずい雰囲気を破り、話を進めてくれたのはアナメだった。話を進める内に知った事だがこの村……いや、集落。何故か『大人と言う存在が全く居ない』のだ。正直に言うと人族代表って聞いて真っ先に思ったのは、年老いたヨボヨボの老人。

 それが予想を大きくねじ曲げてまさか中学生か高校生位の青年。そりゃ他の住民が幼稚園児や小学一年位しか居ないともなれば、否が応でも出るしかないさ。危機感も無い幼子状態で協力したくても出来ないらしい。


「何となく予想が付くんだけど、話してくれるかな?」


「は……はい。実は──」


 残された青年ムートが語るには、まだ空が黒く覆われていた頃、突然みんなの様子がおかしくなり狂暴になりスカイマウンテン側へ農具を片手に走って行ったと話す。

 あぁ、イブリース復活前にあった北部西部進行騒動か。ムート君は恐怖の余り、家に引き籠っていたそうだ。暫くして騒がしくなり、みんなが戻って来たと思い窓から覗き込んだら幼子になっていたそうだ。

 その時、宙に浮かぶ金髪ツインテールの白いゴスロリ少女を見たと話す為「アイツか……」と思わず右手で目元を覆い呟く。


「アイツとは誰の事だ? 貴紀殿」


「性癖と性別すら歪ませた、青い果実(幼女)が好き過ぎて世界を作り替えようとしてる変態野郎だよ」


「うわぁ……」


 手短かつ簡単に変態野郎こと、四天王トリックを説明したらシュッツは言葉を失い。アナメとムート君に至ってはドン引きした後、小さな声で「キモッ……」と追い打ち気味に言っていた。なんであんな変態を仲間へ加え、力を与えたんだろうか。

 話題を変える為、何かないか思い出している中で頼まれ事や集落・ハイルでの出来事を思い出し、冒険者用鞄を探り会えたら渡す様頼まれていた御守りをシュッツへ差し出した。


「これは、リーベが自作している御守り」


「忘れモンだ。それと」


「俺達、蜥蜴人(リザードマン)の集落で起きた出来事だろう? あぁ、判っているさ」


 御守りを受け取ると、その場でネックレスさながら首に掛けた。ハイルが襲撃された事は知っているらしく、後悔漂う悲しげな表情で「俺もあの場に魔人メフィストとして居たからな……」そう自白した。リーベの読みは当たっていた訳か。

 と言うかだな、この場に魔人が二人揃ってるんだが、もし戦闘になったらヤバくない? 今現在の魔力残量は四分の一、エナジーバレットの数は二発。太陽光を小一時間も浴び続けていれば、八割までは回復するだろうけど。


「貴紀殿は──あの魔王イブリースに、戦いを挑むつもりなのか?」


「本来は放置したって構わない。が、生憎と約束を果たす義理もあり、個人的にも倒す理由が出来てな」


「はぁ……そうか」


 少し考え間が空いた後、此方へ話題を振ってきたので率直な答えを述べる。そしたら何故か落ち込んだ様子で溜め息を吐いて俯き、少ししたら顔を上げて此方を見る。一体なんだって言うんだ。いや、予想しうる答えは幾つか判るんだけどさ。


「イブリースの情報、欲しくないか?」


「──!?」


 まさかまさかの予想外。親玉であるイブリースの情報をくれると言うのだ、流石に驚きが隠せず目を見開きジッと続く言葉を待った。嘘か真かも気になるが、大抵こう言う重大な情報を教えてくれると言う場合、何かしら交換条件が出てくるのが定石。

 それは御使いであったり、御使いをクリアする為の御使いであったり……何だよ。御使いをクリアする為の御使いって。でも伝言ゲームみたく実際にあるから、何とも言えん。しかし相手側も此方の返答待ちなのか少しの間、沈黙が続く。


「もしかして、行方不明だった理由がそれ?」


「あぁ。魔人として、蜥蜴人(リザードマン)として動いていてな。その結果がアレだが……」


「インサニアがハイルを襲った理由、シュッツの裏方行動だったんだ」


「まあな。お陰でとても重要な情報を得れた。イブリースの正体、そして誕生理由も」


 成る程な。シュッツはイブリースの情報を求めて動き回っていた訳か。で重要な情報を得たけれど、それを快く思われず裏切り者への罰として集落・ハイルがインサニアに襲われた。が……其処へ自分達が現れ壊滅は免れた、と。

 そう聞くと情報が本当だと思えるな。よし、何が情報提供の条件か聞いてみるとしよう。今居る家の家主であるムート君を置き去りに話が進んでいて申し訳ないが、今は条件を聞くのが最優先だ。そう思い訊いてみたら……


「今一度、俺達と戦ってくれないか? 勿論、今度はお互いに本気も本気の殺し合いで、な」


「俺達って、アナメも?」


「うん。貴紀が来る少し前に話して決めてね。もし貴紀が私達に勝てるなら、隠し事も含めて全部話そうって」


 対価が何かは知らないものの、並大抵じゃ釣り合わないと思う。少しでも勝率を伸ばす為にはこの勝負、引き受けるしか選択肢はあるまい。シュッツの眼は此方を真っ直ぐ見詰め、アナメも迷惑だろうけどね。的な困り顔だが、続けて見せた真剣な表情から本気だと言う意思を感じる。

 二人の覚悟はきっと自分が思っている以上に強く、説得や言いくるめは効かないし、侮辱するだけだろうと思った。故に敢えて口で返答はせず、短く、ゆっくりと「分かった。その条件を呑もう」そんな意味を込めて頷く。


「ムート殿。丁度良い機会だ、俺達とオメガゼロ・エックスの戦いを見届けてくれないか?」


「えっ?! な、なんで俺が……あぁ、いや、分かったよ」


 すると何を考え思ったのか、シュッツはムート君へ見届け人になって欲しいと提案。流石に予想外だったらしく動揺し何故自分自身に? と思った様だが、現状の集落を思い返して納得し了承したっぽい。

 そりゃあ今、集落・ヴェレーノに住む住民で一番年齢が高いのはムート君しか居ない。精神まで子供化したっぽい大人達に……なんて頼めないしな。あれやこれやと決まり、自分は太陽光を浴び続けてフルチャージさせて貰った。

 これで魔力は満タン。負けた時の言い訳は出来ない、と言うかしたくない。幾らタイマンでは無いにしろ、お互い真っ向から戦って勝利を掴む。依頼や作戦では無い試合などは、仕掛けを使う事は余りない。兎も角、全力でぶち当たろう。


「勝敗のルールは?」


「先に戦闘不可能、もしくは降参した方の負けだ。俺達に勝てば情報を、負ければ仲間を連れてこの大陸から出て行け」


「了解した。で、フィールドは……言うまでもないか」


 双方距離を大きく空け、真っ正面から向かい合いながら勝敗条件と此方側の得る報酬、支払うべき代償を確認。いや、代償と言うには余りにも……成る程、そう言う事か。それなら尚更、此処で負ける訳には行かない。戦う場所として集落の中──

 は流石にマズイが、連中にとっては関係の無い話だ。アナメ達が発動する専用フィールド、文字通り終わった世界である終焉の地を使えばな。まあ例え人数差やフィールドが不利であろうとも、其処は長年培ってきた戦闘経験で補うさ。

 けどまあ。何度見ても殺風景かつ、残された岩や山が絶叫やら悲鳴の表情にソックリなのはいただけないな、悪趣味にも程がある。空は暗く闇に覆われ、少しすれば慣れるだろうが、体に感じる妙な重さと寒気も厄介だ。


「さて──始めようか」


 自分自身と相手に対して言い放ち、気を引き締め魔力を四肢に込めると腕と脚に血管の様な線が浮き出るのを確認後、ブレイブシールドの取っ手を左手で握り締め構える。まだシュッツ達は魔人化していない為、此方もパワードスーツは着ない。時間切れで行動不能とか、笑い話にもならん。






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