表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ワールドロード  作者: オメガ
一章・I trust you forever
74/384

エンドレスワルツ・後編

 遺跡の外は明るいが、体感温度は余り変わらない気がする。青い空に白い雲が浮かび此処へ来てから初めての太陽が見え、冬から春へ移り変わる日中にも似た寒さがやや残る日差しの中、静久に案内されて向かった場所は──


「ドワーフ族の……集落?」


 ハッキリ言って、正直予想外だった。トリスティス大陸へ到着した時や四天王・トリック戦、三騎士・コトハ&闇堕ちウズナちゃん戦で何度か来たが……まさか話し合いとして此処へまた来るとは、誰が予想できようか。

 やはりと言うかなんと言うか。道中は太陽光が有るだけで視界は良く、闇に覆われていた頃より移動速度や安全性も高く予想以上に快適で時間も以前より、ずっと早く到着出来た。数日必要だったあの頃の苦労は一体……

 自分達を出迎えてくれたのは、夢か現か幻かさえ判らない劇場で見たバイキング風の、小柄な男性。そんで付き添いと言うか護衛の盾持ちドワーフが二人。静久が「この男がオメガゼロ・エックス……話し合いに来た」と言うと。


「初めまして……では無いな。ワシはドワーフ族の族長にして王を任されておる、ディザイアと言う者じゃ」


「どうも。オメガゼロ・エックスです」


「話し合いの席に案内しよう。他の者達は皆、既に集まっているのでな」


 初めまして、では無い。その言葉と声で忘れていた記憶が蘇る。そうだ。初めて此処へ来た時、自分に剣を突き付けて来たドワーフだ、この人。そりゃあ一言二言話した程度だから、忘れてても仕方ないが……相手さんは覚えていたのな。これは申し訳ない。

 案内され洞窟の中へ付いて行った先では、蜥蜴人(リザードマン)と人族の代表や護衛と思わしき人物が居た。静久とアナメが石の席裏に立つ所が自分の席らしく、ディザイアに続いて円卓の席に座る。うぅ~む……こう言う会議とかって、眠たくなるんだよね。

 理解出来ないまま理解しようとするから脳疲労が高まって、自然と欠伸が出る──んだと自分は思ってる。人族代表はヴェレーノで会った名も知らぬ若い男性。緊張でか、震えている。蜥蜴人(リザードマン)代表はリーベ、護衛にヴェルターが付いている。


「代表諸君。各々の集落で不幸がありつつも、今回の急な招集に応えてくれた事を感謝する」


「ドワーフ代表……言いたい事は理解してます。俺達があの大樹の実を育て、魔神王軍に売買した事でしょう?!」


「人族代表、今は苦しく辛いだろうが落ち着くんじゃ。その話は全てが解決してからゆっくり話すとしよう」


 やんわりとしたディザイアの冒頭挨拶から始まり、感謝を述べた辺りで立ち上がり罪悪感や不安感からか、感情が爆発し吠え叫ぶ人族代表。だが……流石は族長と王様を兼任するディザイア、年の功もあってか落ち着いた対応と口調で静める。

 我に返り落ち着いたらしい人族代表は「はい……すみませんでした」と言い、座り直す。そりゃあな、知らずとは言えトリスティス大陸を滅ぼすかも知れんモンを嬉々として育て、魔神王軍の三騎士に売買してたとか知りゃあ。

 パッと見、畑仕事多そうな土地に住む真面目そうな青年だし? 事実を包み隠さず話せばそうなるわな。まあ発狂とかして、逆方向に振り切れて壊れる輩もいるが……そん時は片付けてやるから安心しろ、自分も壊れてるから。


「其処に御座(おわ)すは伝説に記されしオメガゼロ・エックス様じゃ」


「ど、どうも……」


 伝説やら名前を利用して三種族話し合いにまで持って来させた自分が言うのも何だけどさ。今まさに会社の面接でお偉いさんを前にしてる気分。軽く頭を下げ、失礼が無い様にする。もしこれが面接なら立ち上がって、一礼と挨拶が基本だけどね。

 正体を知らなかった人族側は驚きが隠せない様子。ドワーフの護衛も「本当に伝説の……?」だの「若過ぎないか?」や「名前を語る偽者では?」とか言いたい放題。此処に絆達が居なくて良かったぁ~……後々面倒臭くなるから。静久は発言が気に入らないのか、眉がピクピクして怖いけどな!


「彼、た……いえ。オメガゼロ・エックス様は御本人で間違いありません。ワタクシ達、蜥蜴人(リザードマン)はそう確信してます」


「他のドワーフ達は疑っているじゃろうが、ワシは信用に足る人物だと思っておる」


「何を根拠に、アンタ達はそう言えるんだ?!」


 リーベとディザイアが信用してくれる反面、人族代表の男は「ポッと出て来た男の何が信用に足るって言うんだよ!」と吠える。信用すると言う二人には悪いが、自分は青年の意見に賛成だ。正直言ってまだ此処へ来て、一ヶ月も経っていない。

 其処まで信頼してくれる程、善行を積んだとは思えないんだよ。蜥蜴人(リザードマン)側は持ちつ持たれつな関係だったから兎も角、ドワーフ側は特に何も無かった。寧ろ牢屋に閉じ込められた思い出しかないよ?

 アレか? 誰か知らず牢屋へぶち込んだ申し訳なさ感から来る謝罪的な信頼なの? まあ確かに、ドワーフ族は義理堅いと言うか受けた恩は必ず返す的な部分はあるけどさ。此方が何か逆に申し訳なさを感じるから!


蜥蜴人(リザードマン)は集落の発展や全滅の危機から救って貰いました。今度はワタクシ達が助ける番です」


「ワシらも……じゃ。ヴェレーノの実や謎多き青い発光物を綺麗サッパリ、除去してくれたと聞く」


「あぁ~……いや、結果的にそうなっただけであってだな」


 言われている通りの事はやった。が……本当、結果的にそうなったと言わざるを得ない。回収目的の結晶、オルタナティブメモリーやヴォール王国で返りを待つ者との約束……違うな。願いを可能な限り叶え自分がやりたい事をしているだけ。

 人助けに理由が要らないのと同じだ。とは言え、仲間達が言うには「やり続けてるそれが、信頼される理由だ」なんて言われている。まあ確かに? 自分自身がやらない、出来ない、やりたくない事をやってくれる仕事は本当に有り難い。

 ただ、それが当たり前過ぎて感謝の気持ちを忘れ、当然だと思う辺り慣れとは恐ろしいモノだよ。大企業も小さな会社に支えられてるからこそ、何時も通りに仕事が出来る。結局は、信頼関係の上に仕事や人間関係ってのが出来上がっていくんだよなぁ。


「信じる、信じないは各々の自由だ。自分はそれに口出しする気は無い。……個人的に愚痴は言うがな」


 けれどまあ、人助けも程々にしないと何時か自分の首を絞める事態になりかねん。自分はソレが原因で更に精神を病み、面倒事を起こす『善意の中毒者』となり世界的名医と仲間達のお陰で復帰するのに、大体一年位は掛かった。

 信用の有無は各々の自由と言うと、リーベとディザイアは短く、ゆっくりと頷く。人族代表は気に食わないらしく、俯いたまま悔しそうな雰囲気を感じる。これは個人的な予想だが、ヴェレーノ関係での憤りを八つ当たりと知りつつ言ってるな。

 多分「こんな事になったのはきっと自身達の責任だ、どうして誰も教えてくれなかった? 止めてくれなかった?」等と己自身を責めていて、心に余裕が無いのかも。故に言葉へ出てしまう……的な事は自分も何度かあるし、今もあるさ。


「辛ければ逃げたら良い。批判罵倒を受けるかも知れん。だけど、己を一番に救えるのは己自身だ、他の誰でもない」


「そ、そんな事……出来る訳がないだろ?! そしたら村が……」


「潰れる? アンタ一人失って潰れる位なら、心まで脆弱で人に頼り切った腐った連中しか居ねぇそんな村、棄てて逃げちまえ」


 本当に個人的で、体験から来る助言兼愚痴を吐いてやった。大抵の会社は人を仕事に繋ぎ止める事は出来ても、人の命や精神を救う事は出来ない。ブラック企業とか良い例だ、あぁ言うのは人材を消耗品としか見てない所が多い。

 壊れたから買い直す。そんな感じさ。逃げれば周りから非難罵倒、説教や愚痴は言われるだろう。だけど積み木ブロックの収納箱に合わない形状の物が入らない様に、無理矢理押し込んだって仕方ない。機械は替えが効くけれど──

 生命が産まれ持つ肉体と精神はアナタだけの特注品だ。壊すのは容易でも、完全に治す事は出来ない。砕けた茶碗を接着剤で繋ぎ直す様なモノだ。ならば逃げろ、壊れる前に、壊される前に逃げ出して心身共にゆっくりと休め。そんな事を言ってやると今度は深く俯いて黙った。


「可能なら作戦に協力して欲しい。だが無理にとは言わん。復活した闇の魔神・イブリースは弱体化した今の自分じゃ手に余る相手だしな」


「勝てぬ、と言うのか?」


「自分一人じゃ無理だな。仲間達の力を借りても勝率は五割。そして恐らく長い月日の果てに蘇るだろう」


「なんと言う事じゃ……」


 そう、自分一人じゃ勝ち目は無い。仲間達と倒しても今回みたいに計画を練って復活するだろう。例えその都度勇者が現れ倒しても、復活・戦争・平和のエンドレスワルツが永遠に繰り返される。これは憶測でしかないが……トリスティス大陸の生命が絶滅しても、繰り返されると思う。

 この無限に続くワルツを終わらせるには、自分に与えられた『終焉の破壊者』としての力とは別に、本当の意味でトリスティス大陸を救うのが条件となるだろう。そう言う意味では、魔人達とも決着(ケリ)をつける必要がある。


「作戦を説明する前に、これだけは言わせて貰う。例え自分達が敗北し大陸が滅ぶとしても、最後まで手伝わず人様に頼り切った連中が自分達に怨み辛みを言うのは見当違い、責任転嫁だ」


 そんでコレが最終通告であり、警告。以前の旅でも決戦前の作戦会議等では協力者や仲間達に話していた……と思う。見当違いな発想や責任転嫁を防ぎ、逃げる奴は此処で逃げて残る者達には全力を尽くして貰う為の発言。かく言う自分も、この発言を受け止める立場なんだよね。

 ハッ……キリ言って逃げ出したい。物語や神話とかで語られる連中程度胸は無く、勇者と言われる程の勇気も無い。何処にでもいる人生に疲れて死を望むも、怖くて死にたくない、恐怖から逃げ出したい連中の一人だ。

 与えられた力が怖くて、手放したいけど他の誰かがこんな恐怖体験をするのも嫌だ。矛盾の塊みたいな自分だけど、だからこそ……『自分に出来る事を出来る範囲だけやる』と心に決めている。多分とか、取り敢えずとか自信の無い発言は不安から来る言葉なんだよ。


「うぅ~む……話だけは聞かせて貰おうか。会議の後にドワーフ全員で話、ワシから答えを伝えよう」


「ワタクシ達は──オメガゼロ・エックス様の作戦に最後までお付き合いします」


「俺、達は……」


「人族代表。今は話を聞いてくれるだけで良いんだ。答えは後々、ゆっくり聞かせて貰うから」


 流石に王様とは言え、国民と相談せず勝手に決める事はしない様だ。蜥蜴人(リザードマン)は……本当にありがとう、これで少しは作戦成功率が上がる。名前も知らない人族代表は苦しそうな──

 答えを出したいけど今此処で出して良いのか迷う声で無理矢理答えようとしている為、今回集まって貰った理由、対イブリース作戦の内容を聞いてくれるだけで良いと話、改善案が提示されるのも願いつつ作戦を伝える。


「ほほぉ~……オヌシ、なかなか面白い発想をするのぅ」


「やられたらやり返す。ドワーフ側としても、やられっぱなしってのは性に合わないだろ?」


「フフン。どうやらワシら、ドワーフ族を良~く知っとる様じゃな」


 円卓にトリスティス大陸の地図を広げ、作戦と手順を話す。途中で「ふむふむ。そうなると此処の四点を使うと良い、竜脈があるわい」と話してくれた。第三者から見れば、自分は頭の回転率が良い人に見えるかも知れん。

 が、実際はそうじゃない。今、自分は……ゼロや霊華、ルシファーと精神面で会議しながら現実的にも会議をしているだけ。霊華が持つ巫女としての知識、ルシファーが持つ悪魔特有の知識、ゼロの常識外れな宇宙的知識を総動員しているのだ。

 正直言って、頭が痛くて発言にすら混乱している……結局、イブリース対策案は夕方頃まで続いた。参加するか否かは別として、な。いわゆる学校で行う意見の出し合い話し合いだ。大人になると大抵は効率的、上司の意見一択みたいなのが多くなるが。

 童心に戻ってじっくり自分の意見を話し合い、相手の意見を噛み締めて聞くのも悪くない。一応三種族の代表へ一人ずつ内容が違う図面を描いた洋紙を渡し、ディザイアから闇堕ちしたウズナに盗まれたパワードスーツを返して貰った。






 キャラクター紹介


名前:天野川静久(あまのがわ しずく)

年齢:不明(本人曰く、幼女やロリとは言えない年齢)

身長:127cm

体重:28kg

性別:女性

種族:妖怪・蛟

設定


 緑色の短い髪と紅い瞳を持ち、容姿や身長・体重は小学三年生程度しかない妖怪。貴紀に協力する最古参の仲間であり、紅絆や天皇恋、賢狼愛とは同じタイミングで仲間となった縁。

 主に水を使った戦法が得意で、攻守に加え回復まで行える戦う回復役(ヒーラー)。反面、素の腕力は人間や小鬼(ゴブリン)以上で中級魔族(オーク)より低い蜥蜴人(リザードマン)程度。前線に出るより後方支援が向いている。

 貴紀の融合パートナーの一人であり、また融合パートナーや仲間・協力者の中で唯一低身長で家事全般が秀でて得意。その為か貴紀の食生活や生活面には口を挟む事もしばしば……致し方ない時は別。


 蛇故か綺麗好きで汚い場所やモノを嫌う。髪と瞳の色はとある理由から、染める等しても変化しないとの事。但しカツラやカラーコンタクトでの変装は可能。服装は基本的に様々なワンピースや上下一体型の服を好む為か、スカート系が多い。

 所有スキルは水関係が多く、攻守共に使えると言う強みが大きい。弱点は貴紀と同じ低温・高温系なのだが、静久の場合は能力とスキル故に凍り付き易く、高温系の場所では水の威力が極端に落ちてしまう。

 逆に水辺だと威力と射程範囲や規模は大幅にアップ。得意フィールドは『水』であるが『汚水』等汚い系は触るのは論外、撃つだけならOK。そちらは妹分の詠土弥(よどみ)が得意とする。



 スキル&技


・『水蜘蛛の巣』

 詠唱後に大気中の水分が集まり、自身や味方に当たらない程度に四方八方へ永続的に魔力で作った水を撃っては蜘蛛の巣さながら張り巡らす技。電気系と相性が良く、他の五大属性の火・風・土とは相性が悪い。

 シャワーと同じく連続的に撃ち出される水は鋼すら切り裂き、射抜く威力を持つ圧縮された水。詠唱は『大気の水よ……邪悪を絡め取る糸となり、射抜き切り裂き殲滅せよ。水蜘蛛の巣』


・『アクア・スパイラル』

 掲げた手に大気中や周囲の液体を集め、渦巻く液体を勢い良く撃つ技。物理的に触れられない相手を押したり、綺麗な水の威力を調整し味方へ撃てば汚物や纏わり付いた存在を洗い流す事も可能。

 海等の水が多い場所では、渦潮を任意的に幾つも作る事も出来る。此方は風属性や氷属性と相性が良い。詠唱は『渦巻く水よ、降り掛かる災厄を絡め取り、我が前に立つ敵を穿て……アクア・スパイラル』


・水神の恵みLv7

 綺麗な水(持参でも良い)を作り出し、対象者の怪我や傷を癒す回復系スキル。但し刺突は傷口が狭い為に治療可能だが、切り裂かれた傷口は例えLv10になろうとも止血等の応急処置が限界。

 個人を回復するタイプと全体回復タイプが存在し、低レベルのLv1から5は単体回復を。Lv6から10だと全体回復が使用可能。一応低レベルでも出来るが、回復量が分散する為オススメは出来ず効果や消費魔力も大きく減る。


・蛟Lv10

 種族専用固有スキルであり、水関係のスキルや技、フィールドで何かしらの恩恵を受けられる。基本的には威力や効果の上昇、消費魔力の半減等々。水を指に集めて放つ水鉄砲等は水辺だとほぼ無制限に撃てる。

 水中では呼吸が可能になり、自由自在に動き回れたり普通なら水圧に潰されそうな深さですら、活動可能な範囲となる。尚、暗闇でも視界が良く海底でも視界は見えると言う。


(まこと)の眼Lv?

 レベルが全く表示されない謎スキル。効果すら分からず、発動すらしているのか不明。静久曰く「スキル名から……嘘や真を見抜ける力がある……と言う訳ではない」らしい。今は解明されておらず、使い道も不明。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ