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ワールドロード  作者: オメガ
一章・I trust you forever
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奇跡の水・前編

 ナイトメアゼノシリーズと遭遇してから、不思議な夢を不定期で何度も見る。現に今もそうだ。まるで真っ暗な舞台劇の上、頭上からスポットライトが自分を照らし役を演じろとばかりに催促する。

 けれど自分以外には誰も居らず、台本すら無い。何をして良いのか判らず助けを求める様に周囲を見渡す内、別のスポットライトが点きシュッツを自分と同じく頭上から照らす。本当に舞台劇だ、等と思っていると俯いた彼が口を開く。


「俺は……蜥蜴人(リザードマン)の英雄、勇者として産まれ育った。だがそれは、普通では体験しない地獄の日々だった!」


「シュッツ……」


「誰も俺を同様として見ず、接しない。何かを成功しても勇者故出来て当たり前、出来ずしてどうすると言う!」


 顔を上げ、ポツリポツリと語る心情。けれど苦悩を語るにつれ、膝を曲げて屈み頭を抱え叫び出す。偉業を成した人物や芸能人・職人の子供は、親が出来る事を成功しても出来て当然の様に扱ったり認識する場合が多い。

 自信や人格と言うのは成功や失敗、褒められたり叱られたりする事を積み重ね、自然と身に付いて行くモノだ。あの人は誰々の子供だから出来て当然だ。等と言われて誰が嬉しい? それは褒めるのではなく貶している。

 神々は人間を創ったと言う言葉があるが、神々が人間を助けた事はあったか? いや、無いね。寧ろ人間に災いを振り撒いている方が多く、犯罪・殺人行為を平然と行う輩も多い。だから自分は神々って連中が嫌いだ。


「集落の外から来た静久様達だけは!! 俺を対等に見てくれた、接してくれた! だから俺は……」


「おい、シュッツ!」


 突然立ち上がり頭上へ向けて吠え叫んだ後、シュッツを照らしていたライトは紫色へ変わり暗闇の中へと歩いて行ってしまった。追い掛けて肩を掴もうとしたが、姿が消えて空振り。続けて後方で別のスポットライトが二つ点き、照らされたのは──アナメとウズナちゃん。


「私は知っていた。父の苦悩や母の秘密も。それでも良かった、幸せだと感じれていた。だから恨みはしなかった。なのに……」


「ウズナは助けたかったの。お父さんやお母さんを長年苦しめる出来事から。だからウズナは……」


「何なんだよ、コレは」


 まるで本当に舞台劇の上にいる気分だった。いわゆるモノローグパート……とでも言うべき部分。家庭内事情を全て理解していたアナメ、理解は出来てなくとも家族を救いたいと願ったウズナちゃん。二人のライトもシュッツ同様、紫色に変わる。

 ただ……ウズナちゃんの手から飛び出した糸がアナメに付いていた事にワンテンポ遅れて気付く。コトハと女神官がウズナちゃんに近寄り、天井上から降り注ぐ紫色の右手が彼女を掴むとライトは消え、彼女達の姿も消えてしまった。


「はぁ……副王、居るんだろ。出て来いよ!」


 こう言う変な夢は大抵、副王達が関係してる可能性があるので試しに大きな声で呼び掛けてみる。声が反響する事も無く少しの間待ってみたが……誰も反応しない。仮説を立ててみる。此処は自分の無意識下で構築された、言わば深層心理の舞台劇なのでは?

 ……無理矢理感は否めないが、今はそうだと認識しよう。つまりだ、自分はあの三人が真夜の言っていた操り人形だと認識している訳か。台詞が事実か予想かは兎も角として、糸と天井上から降り注ぐ紫色の右手は何だったんだろう?

 ふむ……試しに顔や姿も知らないドワーフ王・ディザイアがどんな人物で、パワードスーツを奪わせた理由が本当は何だったのか、イメージしてみる。すると舞台の少し奥でまさにバイキング的な装備、小柄で濃いオレンジ色の口回りを覆う長髭と後ろ髪が長い人物。

 追加で集落・フールで最初に出会ったローブを纏い顔を隠した人物がライトに照らされた。ディザイアはイメージしたから分かるんだが、ローブ姿の人物は何故現れたのか不思議だった。まあ無意識下だし、そんなモンかと勝手に納得する。


「あれが……自分の予想する、ディザイア?」


「他種族を殺して殺して殺し尽くせ!! 鉱山や手に入る素材、この大陸を我らドワーフの者とせよ!」


「何つうか、ゲームでよくある判り易い悪役の偽者王って感じ。まあ情報量が少ないし、しゃーないか」


 まだ呑気にゲームを楽しんでいた頃。城の王様が魔物や第三者によって地下牢へ送られ、偽物の王様として悪逆やら圧政をしているのを思い出した。逆に本物の王様が悪役で、代理や偽物が真っ当な政治をするのもあったがな。

 まだまだ情報量が不足気味な現状じゃ、こんなモンだろう。そう思っていたら、ディザイアの背後にコトハと紫色をした右手が見えた。もしかして関係していると予想してる訳か? 疑問が浮かぶ中、ローブの人物がコトハと右手へ挑み、返り討ちに合い弾き飛ばされる。


「例え俺がお前達に敵わず計画通りになるとしても、必ず破壊者が現れて野望を打ち砕いてくれる!」


 痛む体を起こし、破壊者の出現と野望の阻止が実現すると吠えた。やっぱり、彼とは何処かで何度も出会い助け助けられ、意見の対立とかで戦った事もある気がする……なのに不思議と名前や顔が全く思い出せない。

 お姫様である麒麟の姉妹、義兄弟の契りを交わした義弟……光の牙? 旧六月、旧十月の呼び方? 絶望から立ち上がる少年……何かとても大切な事を思い出せそうなんだけど、思い出そうとする度に頭痛が酷くなる辺りで目の前が真っ白になった。


「丁度良く起きたか……今から奇跡の水を作るところ」


「成る程。そりゃグッドタイミングだわ」


 変と言うか不思議な夢から覚めたら、もう既に琴姉達が戻っていて奇跡の水を作る直前。まさにグッドタイミング、作り方さえ判れば後々必要になった時とか作れるし。さてさて~、一体全体どんな方法で作るのかな。興味本意に蓮華さんとリーベが水の入った鍋を囲む処へ近付く。


「ワタクシ達の願いと祈りを受けし清らかなる水よ」


「私達から奇跡の力授かり、魔を祓う力宿したまえ……」


「「神聖な奇跡セイクリッド・ミラクル!」」


 祝詞(のりと)、と言うのだろうか。両手を合わせ唱え終わると何の変哲も無い水がキラキラと不思議な輝きを得て、なんと言うか……ゼロとルシファーが苦手な臭いを、顔に出ない様必死に我慢してる時みたいな顔をしていた。

 鍛冶屋だから自作なのかな。硝子の小瓶四本に奇跡の水改め、聖水を汲み入れ渡された。これを使えば、ウズナちゃんを呪術から解放してやれるんだな。恐らく魔物や下級魔族も近付かない様になるんじゃなかろうか?

 持った聖水四本を全部携帯用鞄に入れ、各自聖水入り小瓶を御守り代わりに一本ずつ持つ。もしやポーション(回復薬)も奇跡の力で作れるのでは? と思い聞いてみたが「ぽーしょん……とは何ですか?」と聞き返され説明したが無理だった。


「今すぐリベンジに行くのか……?」


「いや、最低限装備は揃えて行きたい。パワードスーツは盗られちまったしな」


「坊や。それなら原因の一人に頼んでみましょう。ねぇ、大山蓮華?」


 聖水を得た今、リベンジはしたい。が、本格的に挑むなら最低限の装備は欲しい。短剣と盾に籠手や胸当て系の鎧、贅沢を言えば小道具も幾らか欲しいな。多分そんな自分の心情を見抜いてか、琴姉がそう言うと蓮華さんは目を閉じて何か考えている様子。

 少ししてから目を開き「……判りました。余り良い装備は残ってませんが、見繕って来ます」そう言って火事があった洞窟の中へと入って行ったのを確認後、琴姉は此方へ向き直り急いだ様子で話し掛けて来た。


「坊や、良く見なさい。地上では妙な違和感でしか気付けなかったけれど、コレがフールとストゥルティを上空から見た形よ」


「なんだコレ。何かの模様?」


「チッ……そう言う事か。呪術師コトハ……面倒臭いのをやらかしてくれる」


 手書きと思われる皮紙を二枚差し出された。人間の集落・フール、ドワーフの集落・ストゥルティを上空から見た形状だと言うが……『全く同じ形』をしている。店や民家、燭台の位置とかを線で繋いでくれるのを見ていると、魔方陣らしきモノが完成した。

 生憎、魔法や奇跡の類いは余り知らない。けれど静久と霊華達は何かに気付いた様子で、理解していない自分へ手短に説明してくれた。この模様──大規模な呪術の陣らしい。一人一人呪うのでは無く、集落や国一つまるっと呪うレベル。


「もしかして……ストゥルティやフールでコトハと遭遇してたのは、コレを作る為?」


「もしくは陣が崩れていないかの確認、ヴェレーノを売買し広げる為でしょうね。坊やと接触したのは偶然としても」


 やられた……しかもこの呪術陣、語り掛けてくる霊華曰く「これは呪術の中でも『負の陣』と言って、ネガティブ思考や欲望を高める効果があるわ。ジワジワと発動する効果に気付くのが遅れ易い厄介な陣よ」と話す。

 即効性は無く陣の上で何日も過ごさないと効果が無い為、旅人なら拠点じゃないと効果が薄く、効き目が出る前に外へ引っ越しされても意味がない。使い処が難しいとされるが、それを中毒性の高いヴェレーノや大金で補った訳か。クッソ……どうすりゃあ良い!?


「そして厄介な事に、人族とドワーフ族が完全武装して次々スカイマウンテンへ向かってるわ」


「山を掘り尽くす気か……」


「それだけならまだマシ。連中、仲間同士でも殺し合いを始めてるわ。もし他種族と遭遇でもすれば……」


 集落に仕掛けられた陣の効果で狂った人とドワーフ。同族を殺し合いながらの進軍、他種族と遭遇すれば間違いなく殺し合い、残った連中は魔神王軍かナイトメアゼノシリーズの手で絶滅するだろう。

 そして『闇の魔神』が復活し、トリスティス大陸は滅びる。それが魔神王軍や闇の魔神の計画……成る程、確かに自分が使えるアレなら計画を邪魔どころか、完全破綻させる事も出来る。魔人を此方へぶつけたり各集落へ向かわせたのは妨害と時間稼ぎって訳か。

 やられたな。あの大技を使う魔力が残っていない。魔力供給を受けれれば使えるが、貴重な戦力である琴姉が行動不能となる程必要だ。遺跡の聖光石で魔力回復……無理だな、圧倒的に時間が足りん。もしも闇の魔神が復活したら、倒す手段が限られる。


「今、ヴェルター達蜥蜴人(リザードマン)が鎮圧へ向かってるけど、かなり厳しいわね。ウズナちゃん……だっけ? 彼女もいるから」


「最悪……二種族と暴走状態のウズナ、三騎士・コトハを相手に……か。分が悪過ぎる」


 考えろ考えろ考えろ!! 相手は大勢かつ完全武装の二種族、此方の戦力は蜥蜴人(リザードマン)達と琴姉や静久。呪術……聖水……武装、遭遇、解呪。軍師でも無い自分なりにでも、確実性の無い策でも考えて提示し、なんとかするしかない!


「琴姉。二種族は何処から来てる? それと蜥蜴人(リザードマン)達の武装は?」


「北部と西部、蜥蜴人(リザードマン)達は東部。武装は小さい盾と槍だけど」


「廃棄場でドワーフ族が棄てた大きな盾を拾わせろ、武装はそれだけで良い。少数を北、残りを西へ配置だ」


「え……わ、判ったわ。そう伝える」


 押し返す、持ち堪えるだけなら武器は不要。寧ろ武器を持つ分、力が分散される。恐らく廃棄場はナイトメアゼノ・ハザードが誕生した後も、ドワーフ達が不良品を棄てている筈。小さい盾ではなく、身を守れるタワーシールドやカイトシールド系が欲しい。

 北部って事は集落・ヴェレーノ。あの辺りは亀裂や段差が激しく進行には時間が掛かり、底が深い崖もある。段差を上手く使えば進行を完封出来るやも知れん。当然抜けられる可能性もあるが、それはそれで良い。

 次々と策を考え、提示し、修正と合意を繰り返して作戦を決めた。それでも戦力差的に見てもかなり厳しく、分の悪い賭けでしかない。地の利と種族的能力差で可能な限り埋めるしかない。自分達も各々、配置へ着く為移動を開始する時。


「最大限、使える物を見繕いました」


 少し丸みが有る赤と黄色の小さいカイトシールド、小回りが効きそうなショートソード、黒く焦げた胸当て、ゴツゴツした籠手、ナイフを六本貰い装備。蓮華さんは深々と頭を下げ「私が言えた義理ではありませんが……娘達を宜しくお願いします」と言った。

 成る程。どちらへ転がるにせよ『理解している』って事ね。なんと言えば良いのか自分には判らない。だから──何も言わず無言のままゆっくりと一度だけ頷き、自分を呼ぶ声がする方へアナメと二人で向かう。






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