惨状・前編
翌日。自分は人間の集落・フールへ向かうと言った。そしたらヴェルターが突然蜥蜴人だけで会議を始めちゃって、何故か「すまないが貴紀殿、静久様。少し待って欲しい」と言われて暇潰しに携帯弄ってたから、ざっと二十分後、漸く終わったと思ったら。
いきなり「俺も蜥蜴人代表として同行しよう。後の歴史に話す為にも」とか言い出して拒否権無しの強制同行だよ。別に『普通』の相手なら構わんけど、寧ろ有り難いけど……『発狂』とかされると敵が増えて面倒臭さ倍増なんだよ。
それも話したけどさ──「ハッキョウ……とは何だ?」って返答に頭が痛くなった。回復薬や回復系奇跡は持ってないが、発狂したら取り敢えず鳩尾に精神分析(物理)を叩き込んでやろう。今現在は自分と静久、ヴェルターで予定通り集落・フールへと辿り着いた所なんだが……予想通りの結果だな。
「な、何故こんな惨状に……」
「此処の連中は約九割がヴェレーノの中毒性にやられていた……つまりは、こう言う状態は至極当然……」
「そんじゃ、掃除と行きましょうかねぇ」
集落の入り口から堂々と入り、眺めて見る。藁や木材で作られた家やお店は燃え盛り、路上や家の中で死に絶えた老若男女問わぬ人間の屍と血の池が続く。歩く道中、子供以外の死体が次々と痙攣を引き起こしてインサニアへ変貌して行く。
ヴェルターは気分が悪くなったらしく、乱雑に棄ててあった木製バケツに吐いていた。文字通りインサニアに生まれ変わった連中、此方を見付けるや否やお互いの顔を見合い、ケタケタ笑いながら襲い掛かって来た。
今回はコイツらの外皮硬度も知りたい為、武器は使わず素手で挑む……ん? 石で出来た民家の方から飛んで──来た奴らの一体を左腕で払い弾く。少しして「あぁ、久し振りね。坊や」と言いながら琴姉が此方へ歩いて来る。やっぱり、心配するべきなのはインサニアの方だったらしい。
十分後、変貌したインサニアは殲滅し終わった。殴った個人的な感想としてはやや硬くもあり鰻を思わせる妙なヌメッとした感触もあり、直感的に滑りが魔力弾を弾いたんだと予想する。血は腐敗臭漂う紫色。井戸水で滑りごと洗い落とした、次はナイフで解体したい所存。
「気分を害したり情を持つかと思ってたけど、大丈夫そうね」
「人類が作ったクソゲーに散々鍛えられたからな。この程度は全然平気だよ」
修行時代は思い出せるが、恋愛と肉体的な猛特訓と精神修行と言われ嵌められた、一週間監禁状態でクソゲー&クソ映画連続プレイしか思い出せん。特にクソゲーはキツかった……セーブ拒否とフリーズはまだ優しい方で、セーブ記録を自動で消されたり、一ドットの弾なのに当たり判定はデカく一発アウト。
声優は豪華だけど中身が無い……挙げ句の果てにはゲーム販売日に開発会社が夜逃げ、拠点がバグで消滅、誤当地情報を詰め込んだ人生ゲーム。作画やシナリオも崩壊したモノ。映画も人気作品を実写で超低クオリティで再現、原作無印なストーリー。まだ神話生物と殴り合いする方が発散出来る分マシだ。
副王は「時間が有り余って暇だから丁度良いのよ」と言うが、記録が霧の様に消えるゲー霧やら中身が無いゲー無はただただ苦痛でした。サメ映画で主役のサメが本編最後の数秒しか出ないとか、サメが竜巻に乗って都市に襲来するとか、海泳げよ!! とツッコミ入れてたのも懐かしい……多分、死んだ目で言ってるんだろうな。
「貴紀殿。そちらの方は?」
「あぁ、此方へ一緒に来た人。琴音・ドライ」
「よろしく。蜥蜴人の殿方」
「コ、こここここ、此方コソ、ヨ、ヨヨヨよろしく」
一応、途中から戦闘に参加してたのは見えてたけど吐き終えてスッキリしたのな。けど、耐性も無く琴姉の眼を直視したのは失態じゃないかねぇ。なんせ常時発動型スキル・魅了の魔眼Lv7を持ってるから。でもまあ、首にガブッと噛まれて血を吸われないだけマシか。
何度見ても、相変わらず礼儀正しい作法だねぇ。確か「相手の強弱に問わず礼儀正しく笑顔で接せよ、それが強者が持つ余裕と風貌なり」だっけか。ヴェルターは魅了されてバキバキに緊張気味、静久は琴姉を嫌気差してます的な顔して見てる。そう言えば魅了の魔眼は嫌いだったな、静久。
「琴姉、情報交換と行こう。時間が惜しい」
「何か急いでるみたいね。判ったわ、隠れ家で話しましょう」
心強いパーティーが増えるのは良い。丁度前衛と後衛が二人ずつになるしな。……でも、援護する後衛二人が相性悪いと前衛にも影響があるんですよ。それは兎も角、隠れ家へ続く蓋を開け、階段を降りて地下室とは言っても綺麗な部屋へ到着。すると十五人程度の男女が居た。
若い男と老人が二人ずつ、若い女と老婆が三人ずつ。身長的に幼稚園児らしき少年が二人で少女が三人って、アナメが混じってる。相手も此方に気付いてか、駆け寄って来た。……ウズナちゃんの姿が無い。気になって「ウズナちゃんはどうしたんだ?」と訊くと。
「時間的に昨日だと思うんだけど。突然意識が飛んだかと思えばウズナがいなくて……」
「誘拐……いや、単独行動か?」
太陽が昇っても見えない今、アナメがどれ程気を失っていたかも判らない。無防備な状態の相手に背後から奇襲を仕掛ければ、魔力を扱えれるなら低レベルでも十分に気絶させられる。だが……やっぱり『臭う』よなぁ。これは此方から仕掛けるのが吉か。
それはそうと残った住民に話を聞こう。って事で何が起きたのか尋ねてみたら「突然主人が化け物に変異して……」と号泣するお婆さんだと思いきや「お婆さん。あの人はお父さんじゃないでしょ?」そう言って記憶の訂正を言う若い女性も「アナタ、私の旦那と浮気してたでしょ!?」等と変に話が拗れる始末。
「パニックによる記憶障害……なのかな?」
「う~む。証言が一致しない今、判断材料としては信頼性が無い。静久様、どうされます?」
「一度時間を空けて、気分が落ち着くのを待つ……話はその後に個別で聞く」
普通ならそれが望ましい。子供は『大人に見えないモノ』を見る事があり、大人とは違った観点も持つ。故に子供達へ何が起きたのか尋ねて気付いた一つの共通点は『大きな虫を見た』……考えを改める必要性が出て来たな。麻薬で頭がイッてるのか、別の理由か、それとも両方かを。
その日、言い争う大人達からもう一度証言を訊く為、見張りを琴姉と交代して仮眠を取った。気付けば自分はトリスティス大陸を上空から見下ろしており、これは夢だろうか? そう思っていると、ドワーフの集落・ストゥルティに灯りがついている。気になってストゥルティの近くまで浮遊移動。
其処には自分を牢屋へ連行したドワーフ達、此処で会ったコトハ、夢で見た女神官、ウズナちゃんが話している姿が見えた。王冠を被った王様っぽいドワーフが、何やら写真らしき物を見て喜んでいる様だ。駄々っ子みたいに足をバタバタさせて「コレだ!! コレを持って来い!」と言っており。
女神官がウズナちゃんと顔を合わせ頷き、同じ目線になる様屈み何かを言った。けどなかなか決心がつかない様子のウズナちゃんに、もう一度言う。今度は聞こえた、間違いなく「貴女がコレを持って来るだけで、家族全員を救う行為になるんだよ」と、我が儘な子供を諭す様に言った。少し間が空いてウズナちゃんが小さく頷くとコトハが筆を取り出した辺りで目が覚めた。
「夢……にしては、具体的な内容だったな」
「一時間の寝坊よ、坊や。もう話は済んだわ」
「悪い。あぁ~……クッソ、夢と現実がごちゃ混ぜ状態だ」
起き上がると簡易とは言え、清潔感ある白いベッドの上だった。大人達の証言は相変わらず滅茶苦茶で一部記憶や言語が欠けている部分もあったそうだ。若い男性の一人は「ヴェレーノを食った友人が化け、バケ、ばけバケバケばけ……」等と意味不明な発言を繰り返す為、別室に隔離したと言う。
夢で見た光景、出来事が現実だと頭がごちゃ混ぜ状態で整理出来ていない。そうだ。最近、ドワーフの西側とヴェレーノの北側に行ってないな。情報収集も含めて行ってみるか、もう一度、今まで行った場所へ。今度は琴姉やヴェルターも連れて。
「ストゥルティに行くけど、どうする? 残ってくれても構わないし、付いて来ても良い。各々の選択に任せる」
「俺は同行する。何やら、貴紀殿の周囲で異変が起きている様子だしな」
「此処で残るとか……ホラー映画で単独行動に走る阿呆でしかない……だから同行する」
「生憎、玉座でふんぞり返る魔王じゃないのよ。アタシ」
戦えるメンバーは全員同行を選択。そりゃあ生存者は十五人。いや、十四人かな? 恋月をコートの右ポケットから取り出し、霊華から力を借りて淡く青白い弾丸を一発作り装填。そのまま隔離した男が居る部屋へと向かい、周囲の静止を呼び掛ける言葉も全て聞き流して乗り込み扉を閉める。
「スレイヤー……か。新しい眼は本当に優秀だねぇ。要らん仕事も増やしてくれるけど」
「しテ。しテしテしテしテしテしテしテ」
純白な恋月の銃口を男の頭部に向け、愚痴を溢す最中でも壊れたラジオ同然に男は何度も言葉を繰り返す。眼は上下左右と泳ぎ回り、早口言葉さながら口を何度もパクパクさせる。ハッキリ言おう。助からんよ、コイツは。どんな奇跡が起きてもソレは、この男を苦しめ続けるだけ。
もしも救おうと思うのであれば、一思いに殺してやる事が最高の救いだろうよ。藁にでもすがる形相で助けを求める様に、襲い掛かって来た男の頭を──轟音を響かせ、無表情で撃ち抜いた。壁に飛び散った赤い液体と『中身』がポロッと転がる。
転がり出たソレを見た俺は『逃がさない』為にも、右足で力強く踏み潰す。残虐非道? 冷徹無比? それとも殺人鬼? どう言われようが、どう思われようと構わない。罵倒するなら好きに言えば良い。所詮『井の中の蛙』に大海を語ろうと理解は出来ないだろうし。
「さ、行こ行こう。害虫駆除も終わった事だしな」
生存者十四人を残し、同行組とアナメを連れて愚か者が大半を占めた集落から立ち去る。進路は北西、ドワーフ達が居る集落・ストゥルティ。其処にウズナちゃんが居てくれると助かるんだけどなぁ……でもちょっと寄り道して、大山家に立ち寄る予定。
名前:セルウィー=メフィスト
年齢:不明
身長:175cm
体重:89kg
性別:男性(声から判断して)
種族:魔人
設定
一章第十四話『悪魔・前編』より登場。
銀の仮面に黒い眼、黒のウェットスーツと紫のライン、上半身へ銀の装甲に肋骨みたいなパーツ、胸元に光る赤い十字架が有る魔人の一体。戦闘能力もファウストより高い……のだが、続けて現れた存在。
ナイトメアゼノ・アニマの存在感と行動に出番諸共持っていかれた。攻防共にスペックはファウストの上位互換であり、闇魔法・終焉の地を更に上塗り強化する力をも持つ。その効果は発動中常に発揮され──
魔物や魔に属さない存在へ通常重力の三倍を与え、奇跡系効果を三分の一へ低下。魔に属する者は一段階目より闇から得る魔力供給量と回復量・速度や攻撃力防御力の上昇。攻撃力は一般人が素手で岩を砕け、防御力は人間の本気タックルでも倒れない程。
なのだが……戦った相手が悪く、貴紀にはスキルで攻められ、折角のバフも余り意味を成さなかった。貴紀からは悪魔野郎、霊華達には哀れな奴隷と認識されている。余り良い情報は無いが、スペック・戦闘能力は別に弱い訳ではなく強い方。
 




