第二の遺跡・中編
「で、仕事か何かあったんじゃなかったのか?」
此方に背を向け、屈む背中に呼び掛ける。少し前に真面目な顔して別れた癖に、こんな再会方法を選びやがって。シリアスな空気が台無しだよ。そう内心ツッコミつつ、携帯電話の通話を先に切る。二人には悪いが、コイツの詳しい事情は秘密にしておきたい。
「此処での仕事はチャチャっと終わらせましたよ~っだ。それに何ですか、あの戦い方は。全然なってないじゃないですか」
「オフの姿で接触までして来て、言う事はそれだけか?」
「あんな魔人擬き。今の状態でも本気で対処すれば倒せるのに、どうして倒さないんです?」
興味がある事や好きな事が仕事の先にあるならば、手っ取り早く終わらせて帰る。真夜はそう言う奴。あの戦いを一部始終見てたらしく、疑問系で本当に謎って感じに聞かれた。確かに本気で対処すれば倒せる、倒せるんだが……
本気で戦えない条件と理由がある。先ず太陽光の有無、次に魔力残量、そんで体調。大体はこの三つ次第だ。特に太陽光が差し込まず、聖光石の無いこの大陸では、自分は魔力回復の手段が無い。仲間からの魔力譲渡が今現在、一番早く回復出来る手段。
とは言え、全快まで貰う訳事は出来ない。そんな事をしたら、大抵は干からびてミイラか灰にしてしまう。実はもう動けない程魔力を消耗してんだけど、ゼロとルシファーに分けて貰っている。
「まあ十中八九。太陽光と魔力残量、体調だって言うのは分かり切ってますがね。今も魔力量がギリギリだと言う事も」
「なら聞くなよ」
「此処なら魔力の回復は出来ますよ」
流石に見抜かれていた。判っているなら何故言わせようとするのか。までは、何時もながら理解出来ん。元気に明るく、自分の手を引っ張り駆け足で別の通路へと案内されるがまま進むと──緑色の宝石を抱え持つ女神像らしき物が祭壇っぽい部屋の奥にポツンとある所へ辿り着いた。
天井に付けられたであろう円形の聖光石が、この部屋を外より明るく照らしている。が……発光が余りにも『弱々しい』為、全快まで回復するには余裕で二、三日は必要と見る。恐らくだが、この聖光石は一ヶ月も持たない。良くて半月が限界だろう。
ふと壁に目をやると、どうやら壁画の様だ。残念だがこんな古代文字っぽいのは読めない。読めない筈なんだが──描かれた光景から自然と内容は判る。四角い箱から『黒い何か』が飛び出し、人・ドワーフ・蜥蜴人に取り憑いている。昔話である、パンドラの箱に近いな。
「紅き光が封印せし原初の闇。己が欠片を七つ解き放ちその一欠片・闇の魔神、光を継ぐ者と戦いとある箱へ封じ込められる」
「とある箱?」
「その箱を厄災の箱と名付ける。何人足りとも箱を開けてはならぬ。再び開けし時、空は闇に覆われ魔に魅入られし二人、魔の人となり魔神復活に動く」
「二人の魔人。それって、ファウストとメフィストの事か!?」
真夜が読み上げてくれた内容は遥か昔、この惑星に降り立った光が闇を封じ、光を継ぐ者と闇の魔神が戦う物語。語ってくれてた事で、壁画を『見る順番が間違っていた』と気付く。箱から『飛び出す』のではなく、箱に『吸い込まれる』方か。
この壁画を描いた奴は未来予知でも出来たのか? 現状とほぼ一致してるんだが。それにしても……二人の魔人。奴らはウズナちゃんが夢で見た光景、出来事を描いた小説にも出ていた。あの小説では魔王だったが、表現の違いかな。
「この遺跡は封じ込めた闇の魔神を保管する場所でした。しかし悠久の時を経て、伝説と遺跡は民から忘れられた」
(成る程な。そうとは知らず何処かの誰かが持って行ったか、何処かへ放棄しちまった訳か)
「そう。封印の鍵となる虹色の結晶、オルタナティブメモリーごと」
(オルタナティブメモリー、ダト?!)
此処はいわゆるピラミッドで、何も知らない人物がミイラ入りの棺を鍵ごと持って行った。そう言う事か……どちらにせよ、回収目的のオルタナティブメモリーを手に入れる為には、闇の魔神とやり合う必要があったんだな。面倒臭い話だ。
何に使うのかは──また今度、副王に会った時にでも訊いてみるかな。今やるべき内容は二人の魔人を倒し、厄災の箱とオルタナティブメモリーを回収。闇の魔神の撃破もしくは再度封印……かねぇ。そうなると誰が持っているか、聞き込む必要が出てくるのかぁ。これまた面倒臭い。
驚き何か策を考えねばと考え込む様子のルシファー。持ち去った、放棄した。どちらにせよ、何時頃に起きた出来事かすら判らない現状で、何が出来るだろう? そう思う自分の前に、玄武のお面を被り白く大きなダボダボシャツを着る少年が突然現れた。
「ねぇ。人は、助ける価値があるのかな? 助け続けても……歴史は繰り返されるのに?」
「臭いものには蓋をする言葉の通り、都合の悪い歴史に目を背けた結果が今の歴史だと思う。だから自分は……人類は助ける価値は無いと考えてる」
あの時──悪魔・アバドンと戦う前、聞かれた質問をまた言われ、自分が正しいと思う答えを返す。考え込む様に俯く少年へ「それでも、自分が守りたいと思う人達は可能な限り助ける。助けたいんだ」と付け足して。
「聞いても……いい、かな?」
(NOって言ってもどうせ訊くんだろ。判ってんだよ)
「君が信頼する人って……どんな人? その人は君の事、本当に信頼してるのかな?」
(ドウ……言ウ意味ダ? オ前ハ何ガ言イタイ)
続けて不思議そうに聞かれた質問に、自分は思わず考え込んだ。自分が信頼する人、信頼する相手が自分を本当に信頼しているのか? それは判らない。自分は他人では無く、思考も心も読めない。だからこの質問に対して、何も返答出来なかった。
言葉はハッキリと判る。けれど『何故そんな発言』をしたのかが判らず、ルシファーでさえ動揺しながら思わず聞き返し、言葉の意味と真意を求めて逆に此方が聞き返してしまう程だ。聞き返された少年は不思議そうに首を傾げ、黙ってしまった。
「君の素顔は……どんな顔? お面の下の顔は、本当に素顔なのかな?」
(だぁ~……なんなんだコイツは!! 何が言いたい!)
(同感ダ。何カ意味ガ有ル様ニモ思エル反面、言葉ノ真意ガ判ラン)
素顔……お面。そう言えばあの魔人達の素顔、正体は一体誰なんだろう? 少年が言う『お面』とは多分、物理的な物と心情的な物を指しているんじゃないだろうか。自分が着込むパワードスーツと同じく、魔人達が纏う仮面と装甲の事を。
表面的な顔を『素顔』と見るか、内面である『心』を素顔と考えるかで、答えは変わりそうだと思う。嘘が上手い奴らは言葉巧みかつ顔さえ演技でコロコロと変える。ならば素顔とは何を指す言葉なんだろうか?
副王ならアッサリと答えるだろうけど、自分には答えられない。物理的、内面的にも仮面を被り戦い続けた結果、本当の素顔すらも忘れてしまった自分には、出せる答えは無かった。心から言える人がいるなら、是非とも理由を聞かせて欲しいものだ。
「誰かを心から信じる勇気……君には、あるのかな?」
「信じる、勇気」
勇気は困難・不安・恐怖へ挑み、拭う感情。あくまでも自分の認識はそうだ。少なくとも苦楽を共にした仲間達は──心から信頼している……筈。裏切られる恐怖心や不安も大きいけど、それはリスクを回避しようとする生存本能なのかな?
女神像が抱え持つ緑色の宝石が輝き、胸元へ一筋の光が差し込む。これは……魔力供給だ。体の底から魔力が溢れてくる。多分それだけじゃない、直感とスレイヤーのスキルもレベルアップしている。精度アップと視界の強化。だけど、同時に不安も増した。
「泣かないで……君は……今、新しい不安と真っ直ぐ向かい合おうとしている」
「教えてくれ。君は、誰なんだ?」
「泣かないで……夢は何時か必ず終わる。そしてまた、新しい夢が始まるから」
此方の心情を読み取る力でもあるのか。的確な言葉を言い放つ少年は、自分の顔をじっと見ながら話す。親友との別れが辛くて、我が儘が通じなくて泣きじゃくる子供へ言い聞かせる様に「泣かないで……」と何度も繰り返しながら。
夢……夢か。もし此処で必要な事を全てやり遂げたら、ウズナちゃんが見る夢も終わって、あの小説も書けなくなるのだろうか? 例えそうだったとしても、夢は必ず終わる。そしたらまた、新しい夢を見れば良い筈だ。伝えたい事を言い終わると、少年の姿は消えていた。
「残酷でも救われる終わりにするか、絶望的で救われない終わりとなるかは──任せます。私は犯人と魔人の正体も知ってますが」
「話す気はない。演劇の結末を役者が全て知ってしまっては、役になり切れないから……だろ」
副王は過去・現在・未来の全てを知り、一部を真夜に伝えている。真夜本人も自身の足と目で調べ擦り合わせをしているそうだ。言わば、演劇に置けるシナリオ製作側。そして自分達は世界と言う劇場で踊る役者、らしい。
「少し、昔話をするしましょう」
何を思ったのか。突然一方的に、過去を懐かしむ様子で昔話を始める。──昔、ナトゥーア大陸のユーベル地方に牧場が二つ在った。歳の離れた姉妹が運営するケーフィヒ牧場には活気と笑顔があり、事故で両親を失った姉妹の為に通う人も多かった。
一方、ブルート牧場の主である兄弟はそれを良しと思わず、自身らも馬に乗り、狼に乗る小鬼を連れて配達途中の馬車を何度も繰り返し襲い野菜や牛乳瓶を割ったある日。姉は配達先の森で行き倒れている一人の旅人を見付け、心配の余り連れて帰る事に。
彼は姉妹にお礼として少しの間だけ、姉妹の牧場で働く事にしました。何時もと変わらない時間。その日の配達先はヒルフェ城下町。旅人も同行し、向かう。当然と言った様にブルート牧場の兄弟と小鬼達が妨害に来るけれど、旅人の放つ弓矢で撃退される。
(おいおい。それって……)
「ふふっ」
此方を見て微笑むと、再び語り出す。──小鬼は倒され、馬にも振り落とされた上に逃げられ兄弟は怒り心頭。一方城下町へ全部配達出来た姉は旅人へ感謝し、翌日以降の配達も無事に届け終えた。三月程して、旅人は姉妹の牧場から旅立つ旨を伝える。けれど、姉妹はこう言った。
「貴方さえ良ければ此処に残って欲しい。私達も本当の家族が出来た様で嬉しいの」姉妹の事情を知り過ぎた旅人は悩んだ。食卓を囲むテーブルに身を乗り出してまでも訴えて来る姉妹の願いに。旅人には途中ではぐれた仲間がおり、やり遂げなければならない使命もある。
旅人は悩んだ末「判りました。後一ヶ月、はぐれた仲間を捜索して見付からなかった時は残りましょう」と言った。姉妹は申し訳ないと思いつつも両親の形見である宝石に願う。「どうか、どうか。あの人の仲間が見付かりません様に……」と。
(……ソウカ。ソレデ)
(宿主様)
「大丈夫だ。あぁ、大丈夫」
心配してくれる二人。霊華はまだ疲れが取れ切れてないのか、眠っている様子。真夜は此方の顔色を見つつ途中で語る口を止め、また話し出す。──宝石が願いに応えたのか、連続大量失踪事件が発生した。日に日に消え行く人々、事件を解決しようとする旅人の前に一人の『魔人』が現れた。
『フルヒト』と名乗る魔人は旅人の記憶を読み取り、変化する力を持っていた。何度も戦い勝利を掴んだ旅人は暴いた魔人の正体に姉妹が哀しみ、姉妹の牧場から旅立った。魔人の正体は……姉妹の亡くなった父親だったからだ。事件が切っ掛けでブルート牧場は詐欺行為がバレ。
一月もしない内にユーベル地方から消えた。……語り終えたらしく「どうですか、どうでしたか?」と煽る様に聞いてくる顔と言動に腹が立ち、右手でアイアンクローをかます。「痛い痛い痛い!」そう言いつつ右腕を叩くので、反省したと見て放してやる。




