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ワールドロード  作者: オメガ
一章・I trust you forever
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ヴェレーノ・後編

 集落へ入り、大樹の周りを歩いて調べる。幅は……大柄な関取二人分位はありそうだ。詠土弥はこれを腐らそうとした、言っていたが、葉っぱが一枚も無く地面にも落ちていない。本体は枯れた木に残る赤く艶やかな果実、と言った印象だ。


「此処の大樹や畑を潰したのか?」


「そう。でも、不思議。気が付けば、元通りになってる」


「……腐ってはいる。ただ、外側。人間で言う皮膚しか腐っていない」


 折れた枝を観察していた静久から、そんな言葉が出た。植物とは水が多いと中から腐り、少なければ枯れる認識だったが、コイツは外側を犠牲に内側を生存させているらしい。余剰水分も外側へ回しているのか?


「それは、かつて私達が挑んだモノ。欲望(グリード)と言う、人間の闇」


「その声は──」


 大樹の裏側から姿を現したのは……サクヤ、新月サクヤ、本当に君なのか?! 淡く青白い光を纏う君の姿に、自分の目を疑った。幻かと思い目を擦っても消えない辺り、幻覚ではない……のかも知れない。サクヤは枯れた大樹に触れ、此方を見ずにそう話し出す。


「この大樹は失くならないわ。人が欲を捨てない限り、実は巡りめぐって人に食べられ、欲望を引き出して吸い取る。永遠に」


「これは欲望と言う毒を生み出す大樹だと、サクヤ。君はそう言いたいのか?」


「違うわ、欲望は誰にでもある。この実は理性と言う枷を解き放つ切っ掛け。私達が食べた、知恵の実とは違う物」


「サクヤ」


 何時だったか、君の言葉に似た事をユウキが話していた気がする。確か「人の欲望は、どんな植物の根よりも深くしぶとい」……だったか。理性と言う枷を解き放つ寄生虫入りの実、ヴェレーノ。それが無かったあの頃も、政治家や上の地位に立つ者が好き放題やり、国を壊していたな。

 悪くなって行く世界や国の原因を自分達に擦り付け、テレビでも自身らに都合の悪い部分はカット&証拠隠滅。虚実の証拠をでっち上げ、有罪判決を下し嘲笑っている連中もいた。殺す瞬間は必死の土下座と命乞い……無様過ぎて、腹の底から笑いながら殺したよ。

 知恵の実……人間は本当に『知恵』を持つ必要が、価値はあったのだろうか? 今でも迷う。守る価値はあったのだろうか、と。サクヤ、君は有ると言った、自分はまだ守る価値を見出だせず迷ってばかりだ。それでも、守りたいと思う人間もいる、だからその人達だけでも助けたい。


「自分は……君や終焉の様に強くなりたいよ」


 此方を向き、手を差し伸べてくれる君に駆け寄り、思いっ切り右手を伸ばす。お互いの手が触れ合った瞬間──君の姿は光となって弾けてしまい、目の前から姿を消した。


「強くなりたい……ね。貴方の根本的な強さは腕力や魔力とは全く別のモノだって事、忘れたのかしら」


「アンタか、今度は何の用だ。やってたゲームがフリーズでもしたのか?」


 幼い女の子の声に気付き、見上げると大樹の太い枝に座る、麦わら帽子と白いワンピースが目立つ副王を発見した。まだ暗闇の中でも多少見える自分だからいいものの、常人ならその外見も相まってお化けと誤解するぞ。自分の心境なんてお構い無く飛び降り此方を向く。


「失った力の大半と一緒に、貴方が本来持つ強さまで全部無くしたのかしらね?」


「自分が本来持つ、強さ?」


「もし忘れたのなら、思い出した上で必ず取り戻しなさい。『ソレ』は貴方の力なのだから」


 意味ありげな言葉を投げ付けては、此方の疑問にすら答えず消えてしまった。自分が本来持つ強さって、何だよ。仲間と一緒に戦って来た信頼か? クッソ、一体何だって言うんだよ。頭の中がごちゃごちゃしてイライラして来やがった!


「大丈、夫?」


「……悪い、心配掛けた」


「此処から少し離れた場所で休息をする……人が出て来た頃合いにもう一度来る。それでいい……か?」


「あぁ。静久もトリックとの戦闘や移動で、疲れただろうしな」


 余程酷い顔をしていたらしく、顔を覗き込む詠土弥に心配されて少し落ち着いた。此処まで来るのに休息を含んで結局二、三日は経ってる上、戦闘もあった。落ちてる枝を大量に拾い、第四の集落から西側へと離れ、遮蔽物の無い断崖絶壁近くで休む事にした。

 拾った枝を重ね、その上で火打ち石を擦り合わせる。当然やった事なんて無いので時間は掛かったし、最終的には魔力で着火する羽目にもなった。眠ってしまった静久達の代わりに見張り番として燃え盛る炎を見ていると、昔の戦いや出来事を思い出す。


「……どうしろって言うんだよ」


 昔の自分はやる気に満ちていた、と思う。少なくとも今よりは人間に失望もしてなければ、次々と起こる出来事に精一杯取り組んでいた。それが何時しか嫌気が差し、人間に失望し見限り始め、救う人間と見殺しにする人間とを区別し出した。

 まるで子供の頃は大きかった公園が、大人になって小さく見える様な感覚。感動や共感の気持ちすら徐々に薄れて、どうでもよく思えてくる。人間を信じて地球の使徒と戦い倒した……けれど、今は負けた方が良かったとさえ思える。

 炎……あの頃は襲い来る強敵達に心を奮い立たせ、勇気を振り絞って挑んでいたな。それが今はどうだ、信頼出来る仲間も減り、勇気さえも失った自分は。燃え尽きた薪同然じゃないか。


「何か悩み事か……?」


「悩み事と言うか、今の自分は何の為に戦っているんだろう。と思ってさ」


「昔は降り掛かる火の粉を払っていただけ。今がどうかは貴紀の気持ち次第……」


 起き上がった静久に問われ、胸の内を話す。返って来た答えは、戦っていた理由の一つに過ぎない。今求めている答えじゃない。失礼な事は重々承知しているし、理解もしているつもりだ。もう一度横になり眠る静久から、焚き火へ視線を戻す。

 燃え盛る炎の中に……かつて倒した数多くの敵達が映る。奴らは何故暴れていた? 自分は何故、奴らを倒した? 交代の時間が来ても眠れず、休んだ気すらしないまま、出発の時間となりあの集落へ向かう。


「よく来たな、アンタら。此処はヴェレーノ、あの大樹の実から名付けられた村だ。小さいけどな」


「話を聞きたい。あの大樹は、何時頃から存在している?」


「あぁ、アレか。この辺りが闇に覆われる前、魔神王軍の金髪少女が種を植えに来たんだ。数日位もしたらあんな大樹になってなぁ」


 集落……もとい、若い男の村人から話を聞くと、やはりトリックが此処へ来ていたらしい。植えられた時期は三種族が仲違いを起こした前、と見ていいだろう。しっかし、数日で大樹レベルにまで育つって、普通の植物ならあり得ないんだが。


「大樹の実、誰か、取りに来る?」


「あぁ、来るとも。青い眼をした嬢ちゃんがやって来ては、収穫した実を買い取るんだ。村の大切な収入源さ」


 村中の人々と話をしたが、重要そうな情報はヴェレーノの大樹がこの村の収入源である事、一括払いで全て買い取りに来るのは青い眼をした若い女性である点だ。ふと大樹を見る……自分は守りたい者を守る、それは今も昔も変わらない行動理由だ。

 ならば──この大陸を救う理由は何だ? 心に頼まれたから? 和人とのやり取りで意地になったからか? それを守る義理は何処にもないのに。何だろう、心にポッカリと穴が空いた様な感覚がある……大切な何かを失っている、思い出せていない気がする。とても大切な何か──


「ノエル、ユウキ、デルタ……何故、自分なんかを庇って死んだんだ」


 特訓を幾ら重ねて強くなっても、更に強い敵が現れては自分自身の弱さを悔いた。力に溺れるなんて暇は無く、猛特訓しても互角か少し下まで持ち込むのがやっとで、個人で勝った事など一度も無い。敵味方問わず助けられ、生き延びた。

 彼・彼女達が何を思って自分を生かしたのかなんて、分からない。受け取った力は今も尚、思い出と共に生きている……時折何故あの時、死なせてくれなかったのか? そう思い、彼・彼女達へ問いたい気持ちもある。


「ハイルへ戻れ……そんな心境じゃ、足手まといになる」


(オメガゼロ・エックス様。私達を助けてください)


 そんな気持ちを見抜かれてか、自分は蜥蜴人(リザードマン)の集落へ戻れと言われてしまった。また、あの男女問わない声が聞こえる。助けてください。そう言われても、具体的にどう助けたら良いのか分からない。そもそも助けを求めるなら、勇者にでも言ってくれ。と言いたい。






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