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ワールドロード  作者: オメガ
一章・I trust you forever
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再会の娘・後編

 帰宅し食料を少し分けて貰い、幾らか睡眠を取った後、静久の発言が気になりパワードスーツの有無を確認する。鍛冶部屋の隣りに置いてあり、チェックをしたら外へ出る。


「ドワーフ族は最後にするとして、先ずは人間の集落へ行ってみるか」


 まだ人間の集落なら、まだ顔はバレていない筈。赤く燃える松明を片手に、道具一式を持って山道を道なりに進んで行く。双子山はドワーフ族の集落がある西側にあり、南側へ行くにはスカイマウンテン経由で行くしかない。

 ミネラドラコに注意しつつ移動、と言う事もあってなかなか前へ進まない。体感的には何時間も移動している気がするものの、漸く目的である人間の集落へ到着した時は溜め息すら出た。


「あんた、此処だと見ない顔だな。外から来たのか?」


「あ、あぁ。手持ちは無いがな」


「なら気を付けた方がいい。此処の連中は金にがめつく、簡単に他人を欺く奴らばっかりだから」


「あ、ありがとうございます」


 ローブを被った人物が此方へ近付き話し掛けて来た、と思いきや、この集落の人間に注意しろと言うだけ言って外へ立ち去って行った。松明も持ってなかったが……大丈夫なのか? 声からして男性だった様だけど。

 でもさっきの人、何処かで何度か会った気がするんだよなぁ……集落を見て回ると普通に露店もあるし、売店もある。ただ、なんと言うのか、どの人達も誰かを睨んでるんだよな。警戒している、と言った方が正しいか。その中で、見覚えのある後ろ姿を見付けた。


「あれは……」


「おやおや。お久し振りですね」


「コトハさん、でしたよね。お名前」


「そぉ~ですよぉ~」


 この大陸へ来た矢先、牢屋へぶちこまれた時に出会った女性、コトハさん。まさかこんな所で再会するとは思わなかったな。左腕に手提げバックを持ってはいるみたいだが、中身は何も入ってなくスッカラカンっぽい。


「買い物の途中ですか?」


「買い物と言うよりは~、売りに来たって方ですねぇ。本日最後の一つですが、どうですか~?」


「いえ、生憎手元がスッカラカンなんですよ。すみません」


 着ている羽織が大きいのか、袖から手が出ず垂れ下がっていて気だるげと言うか、声に覇気が無いと言うか……数日ぶりに再会した今ですらそんなイメージを強く受ける。何かを売っていたらしく、自分にも売ってくれるそうだが。

 生憎、今現在は財布も取られてて無一文。買い物が出来る状態じゃないので、理由を伝え丁寧に断った。でも本当に何を売っていたんだろう? 手持ちを売ったであろう露店のお店では、小さな箱を売ってる様だ。


「それはそれはぁ~、残念ですねぇ~」


「ところで、何を売っているんですか?」


「それはですねぇ~、秘密ですよぉ~」


 自身が売る物を買えなかった自分へ対し、大層残念そうな顔で言って来た。売り物が何かを聞いたが、まあ、そうだろうだな。と言うごもっともな答えが返された。妙に間延びした喋り方を聞くと気が抜ける。


「ではではぁ~、おさらばですぅ~」


「お、おう……何だろう、本当に気の抜ける喋り方だな」


 もう用事を済ませたんだろう。だらしなく垂れ下がる袖を振り、人混みの中へと消えて行った。そう言えばまだ頭に包帯を巻いてたが、アレは中二病的なモノなのか、本当に怪我をしていているのか、どっちなんだろう?

 立ち去る後ろ姿を見ていると、ある事に気付いた。寒いんだとしても、何で巫女服を羽織っているんだろう? と言う点と、羽織っていても寒いのか、歩きながら体が震えている……視線を前に戻せば、大抵何処へ行っても目立ちそうなメイド服の人物が近付いて来た。


「貴紀じゃない。無様にも生きていたのね」


「琴姉!」


「だから琴姉は止めなさい」


 漢字で書くと琴音だから、自分は琴姉と呼んでいる。本人は仮にも魔王を親しく呼ぶんじゃない、と言う。メイドやってる時点で魔王もクソも関係ないと思うんだけどなぁ、琴姉はそうは考えていないらしい。

 良い意味か悪い意味かは分からんが、メイド服だから目立って逆に人を寄せ付けていない。視線は集まるみたいだけどな。話し掛けられてから視線を凄い感じるのが、何気に辛いッス。悪い意味で有名人になった気分。


「他のみんなは?」


「え? 坊やの方に居るんじゃないの?」


「うぅ~ん……マズったな。離れ離れか」


「そう簡単にやられる程弱い連中じゃないけれども、帰還する時に面倒ね」


 みんなの事を尋ねてみたが、一緒ではないらしい。琴姉は自分とみんなが一緒だと考えていた様だった。うぅ~む、戦力的にも行動するにしても離れ離れじゃ色々と心許ない、今は魔神王軍や三騎士とも遭遇してないのが唯一の救いだが。


「琴姉、人気のない所へ移動しよう。情報交換したいんだ」


「はぁ……分かったわ」


 琴姉と言う呼び方へ反対するのに疲れたんだろう、溜め息混じりに提案を乗ってくれた。そして「話があるなら付いてきなさい」と言う琴姉へ付いて行くと、ボロい家の地下へ案内された。

 部屋は上のボロい家とは違い、殺風景ながらとても綺麗に掃除されていた。仕事がら、汚い部屋は許せなかったのかな? 静久は掃除が行き届いていない所は住みたくないから、これは良いな。それは兎も角、向かい合う形で席に座る。


「それじゃ、何から情報交換しましょうか」


 先ずは自分から話した。此処が魔神王軍の領土であり、三騎士の一人が視察や売買で訪れている点。人間とドワーフ、蜥蜴人が現在進行形で仲違いをしている事、オラシオンや選定組とは違う仲間一人と再会出来た等々。


「領土に関しては知ってる。けれど……三騎士、ね。売買は此処じゃ大抵の人間がやってる。仲違いの原因を、ね」


「仲違いの原因?! それは一体」


「麻薬よ。それも依存性が強烈な、違法性の麻薬」


 流石に領土に就いては知っていたらしい。逆に教えてくれた情報は、予想外な内容だった。三種族を仲違いさせた原因が、まさか麻薬だったとは……麻薬は麻酔とかにも使われるが、琴姉が言うのは違法性の依存性が高い代物。

 誰が始めに使ったか、持ち込んだかとかまでは不明らしいんだけど。麻薬を使う者や他人を蹴落としても欲しい、と考える者が爆発的に増加。今は魔神王軍から販売される麻薬を求め、鉱石を無差別に掘り、武器を作り等価交換として売っている事が改めて分かった。


「麻薬を摂取した者は強烈な多幸感を感じる反面、反動として時間が経つにつれ幻覚に襲われ疑心暗鬼になる。そしてもう一度、多幸感を求めて麻薬を欲する」


「一度手を出すと悪循環のループが待ち受けて、信頼感を失う訳か。恐ろしいな、麻薬って」


「お酒と同じよ。酒は百薬の長と言う反面、酒は飲んでも飲まれるな、とも言うでしょ?」


 面倒なのは『どの商品に麻薬が含まれているのかまだ判明していない』と、琴姉は話す。何かに紛れて販売されている事までは分かっているが、この集落の人間達は、ほぼ麻薬使用済みで判断が難しく。

 かと言って自身が摂取してしまい、ミイラ取りがミイラになるのは避けたい。症状に関しては住民を観察し続けて理解し、今は麻薬商品特定に目を凝らしていると言う。


「麻薬商売人の情報は得れた。けど、見た目に反してかなり口五月蝿いって情報程度なのよ」


「その特徴……自分も聞いた。三騎士の一人だ」


「面倒ね。今のところ、麻薬は解決策が全く見つかって無いのよ」


「急に止めろ、と言っても無理だもんな」


 視察なり麻薬商売で来た三騎士の一人を倒すなり、捕まえるなりして麻薬の成分を調べないと、被害は止まりそうに無いか。もっと他の特徴はないのか、なんでみんな『見た目に反して口五月蝿い』しか言わないんだよ。

 ……もしかして、ソレが一番印象深過ぎて他の特徴が霞んでるとか? 例えだ、例えで考えてみろ。学校で虐められてる根が暗い生徒が、発狂して笑いながら口五月蝿く話す……あぁ、そりゃ一部が悪目立ちするわな。


「そうだ。ナイトメアゼノシリーズを二体、新しく発見した」


「冒険者の報告にあった異形ね。魔族や魔物とも全く違う」


「一体目は悪臭がキツい体の溶けた奴、名前は不明。二体目は……バラバラな特徴を合わせ持つ奇妙な奴だった」


「報告はもう少し、ハッキリさせないと意味がないわよ?」


 忘れる前に、第三と第四のナイトメアゼノシリーズを見た事を伝えた。報告に文句は受けたけれど、形容も名状もしがたく言葉に詰まる奴らで説明するより、アイツらは見た方が分かり易い。

 そもそも、琴姉は自身で見たモノしか存在を信じないタイプ。そうなんだ~、的には聞いてくれるけど、それは自身が確かめる為の情報って意味合いが強い。噂じゃ心とアイに完敗したのが、慢心だと知って今の考えに変わったそうな。


「それで、これからどうする気? 大半は麻薬中毒者で魔神王軍に下った様な連中ばっかりだけど」


「三騎士の一人と接触する。可能なら捕まえ、出来ずとも麻薬に関する情報を引き出す。後は個人的な調査とか諸々」


 高望みするなら、捕まえて麻薬商品のサンプルを入手、解毒薬なり解決策を得て三種族の仲違いを解決させたい。多分それが、この大陸を覆う闇を払う手段だと思う。その後の麻薬後遺症とかまでは、面倒見切れないが。

 後は本当に個人的な私事だ。大山一家の調査、行方不明のナイトメアゼノシリーズを可能なら倒す、パワードスーツの改修。優先度としては麻薬関係が一番だけど、何事も臨機応変で行こう。


「私は此処で情報収集するから、何かあったら此処へ来なさい」


「分かった。琴姉も注意してね」


 琴姉と別れ、人気が無い頃合いを見計らい地下室から出て出入り口の仕掛けを戻す。恐らく此処とドワーフの集落に姿を表してると思うから、この二つを行き来する形になるかな。

 あ、琴姉に言い忘れてた……赤紫色をした球体の事。それはまた会った時に話すとして、今は人混みの中で見付けた、あからさまに挙動不審な男女の集団を追い掛け外へ出る。

 松明すら持たないが、よく平気で動き回れるな。そう言えば此処へ着いた時に話し掛けて来た男や、集落の人間達は松明の灯りが少ない中で、さも当然な感じで歩いてたな。麻薬の効果か?


「何処へ行くんだ、あの男」


 多少デコボコな道を進む、髪もボサボサで衣服も薄汚れた集団。地図と現在位置を照らし合わせると、人間達の集落・フールの真後ろへ向かっている様子。そっちへ行っても断崖絶壁と海しかない。

 忍び足で追跡するもやはり、在るのは断崖絶壁と下で波打つ海だけ。幻覚を見ての投身自殺……とも考えられる、そう思いつつ岩陰に隠れた矢先、あの赤紫色の発光体が姿を現した。


「もっと、もっと俺達に金をくれ!! 俺達はアレが欲しい……アレを買う金の為なら心でも、何でもアンタに渡す。だから!」


「良かろう。契約成立だ」


 あの集団が言う『アレ』とは、麻薬商品の事と言うのは何となく分かる。求める様子からして極度の空腹で泥棒をする、とか、喉の渇きを求めて水を欲するみたいなレベル。

 カンダタの糸……とも思えるな。神様を崇める様に懇願する集団の訴えに発光体は応じ、空からキラキラした何かが落とし、それを我先にと拾う集団から黒と紫の帯が発光体へ伸びる。いや、吸収しているのか?

 吸われた人達は力無く俯き、来た道を一列になって帰って行った。何を吸ったんだ? 帰って行く人達からは生気を感じない、まるで死体か人形でも見ている気分だ。今回の声は成人男性っぽかったけれど。


「其処に居るな? オメガゼロ・エックス」


「──!?」


「光がある限り闇がある。その逆は無く、闇が晴れる日など二度と来ない。闇は無限に広がるのだからな」


 此方が隠れている事を見抜き、名前まで言い当てて来やがった。発光体が地面へ降り、闇が集まって姿を形作る。人型で紫のウェットスーツに黄色のラインが入り交じった姿、胸に赤い十字架。ピエロを思わせるメイクの顔を覆う仮面を被り、黒い眼が此方を見詰めていた。

 自分がアメナから聞いた言葉を、皮肉を込めてか悪く言い直しやがった。盗み聞きしていたのか、それとも偶然かは知らん。可能ならフールまで逃げて琴姉に合流したい……戦いつつ、集落まで撤退してみよう。






名前:コトハ

年齢:14歳

身長:155cm

体重:56kg

性別:女性

種族:人間

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 トリスティス大陸・ドワーフ族の集落。其処の牢屋にて出会った少女。黒いボサボサ髪の頭に包帯を巻き、薄ら笑いをよくする根暗な印象が強く間延びした話し方が特徴。くすんだ青色の瞳には光が無く、陰湿なイメージを強め、根暗感が増している。

 暗めの灰色ワンピースの上に、暗めの青い巫女服を羽織っている。人間の集落・フールで何かを売って生活しているのか、第六話で再会した時は手提げバッグを持っていた。何故か黙っている時は、体が震えている。

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