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ワールドロード  作者: オメガ
序章・our first step
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悪夢

 終焉とサクヤの二人と別れ、薄暗い霧が漂う森の中で入口を探し、周りを見渡し歩いていたが……二人の時と同様、景色と風景は変わる。

 薄暗い夜空の町。数多い数々の民家は燃え盛り、逃げ遅れた子供達は座り込んで泣きわめき、住民達は悲鳴を上げながら、次々と逃げ惑う。


「んん~……何処? 此処」


 サクヤの時は悲劇を、終焉では迷いを映し出した。されど、貴紀は今映っている景色、風景に覚えがない。


「逃げろ、悪夢(ナイトメア)が此方に来るぞ!」


「あ、あのっ……あぁ~、行っちゃった。ん? ナイトメア……って悪夢、て意味だよね。それが来る?」


 話し掛けても此方が見えないのか、聞こえていないのか。誰も足を止めず、呼び掛けに答えてくれもしない。

 逃げ惑う人々の声に耳を傾けると。揃って同じ事を言いながら、逃げている。

「ナイトメアが来る!」酷く恐れる声で言う辺り、その存在がこの町を襲っているのだと理解出来た。

 気になった。それ程に恐れられる存在の奴はどんな姿なのか、どんな力を持っているのかが。

 子供が好奇心で何かをする心境のまま、一歩も動かずナイトメアの到着を待ち続け、現れたのは――


「ピポポポ……」


「人の形……に近いと言うか。うん……何ッ?!」


 人型に近い黒紫色の存在が此方目掛け、肩の動きだけで鞭の様な両腕を振り、走ってくる。

 胴体は悲しみと迷い、顔には怒る仮面が有り、相手の全体を視界に入れると、胴体の左側は哀で右側が迷い、頭が怒と見える。

 人の言葉を一切話さず、信号らしき音を鳴らすだけ。言うなれば、半分ずつの仮面に人間の四肢を生やし、頭へ追加で尖った仮面を付けた存在。


「ピポポポ……ポォォッ!」


「ん?! 消え――いぃったぁぁっ!?」


 逃げ惑う人々同様、此方が一切見えていないのか。隣を素通りして行った為、貴紀が振り替えるも其処に姿はなく。

 なんと背中目掛け、背後から背負っている荷物にすら構わず、ドロップキックを仕掛けて来た。

 思わぬ攻撃を受けて勢い良く前方へ倒され、起き上がり様に後ろを振り向けば。


「よっ、こおぉぉ?!」


  左側面から一気に飛び出し、尖った頭で脇腹へ頭突きを繰り出された。内臓へ届く程に深く食い込む激痛。

 驚きの余り悲鳴じみて出た言葉以降が出ず、目は大きく見開き、酸素を求めて金魚みたく口をパクパクさせるだけ。

 呼吸も一瞬だが停止。押し込まれたまま転げ倒れ、痛む左脇腹を手で押さえ、体を起こすと――


「マジっ……かよ」


「ピポポポポ」


「速、いぃっ!? 目が、全く追い付かなっ!」


 燃え盛る民家の数々を、トランポリンで遊ぶかの如く四方八方を自由自在かつ、身軽に跳び回るナイトメア。

 跳躍力の高さを利用した、一撃離脱を繰り返すヒット&アウェイ戦法に全く対象出来ず、袋叩きにされてしまう。


「いやいや……っ。はぁはぁ」


 座り込み、息を切らしながら「魔法や奇跡、異能すら持ってない中学にぃっ、こんな化け物が倒せるかってんだよ」と正論を唱え愚痴る。

 魔法や奇跡に異能。これらが有れば、確かにナイトメアと戦い、勝てる確率は無能力者よりはずっと高いだろう。

 ましてや、所持品が全て料理関係。武器として使えない事はないが、使えば確実に壊されるだろう。


「考えろ~考えろ~。今の手持ちと場所で、素早い敵を倒す手段を」


「無駄無駄。このナイトメアは、無能力者程度じゃ絶対に勝てない。早く負けないと死んじゃうよ?」


「ピポポポポッ」


「ひっ……」


 辺りを見渡しながら考える。周辺には何があるのか、荷物の中には何が入っているのか。また、素早い敵の倒し方を。

 まだ燃えていない四階建てマンションの屋上より戦闘を眺めつつ、貴紀には勝ち目が無い事、早々に敗北しなければ、死ぬ事を呟く。

 一歩、また一歩。今度はゆっくりと歩いてくるナイトメアに、死の恐怖を感じ体が、足が震えて動けなくなる。

 頭の中が、死と恐怖心に包まれる最中……まだ燃えていない民家を見付け、其処へと一目散に駆け出す。


「ほぉ~……逃走かぁ。でもまあ、ある意味それが正しい選択かねぇ。無駄だけど」


(体も、息も、全部が苦しい。だけど、走れ! 生きて、やりたい事をやり遂げる為にも)


 溜まった疲労、身体中を走る痛みで、ゆっくりとしか走れない。そんな敗走、逃走にも思える行為に。

 半分呆れつつも、勝てない相手へ無理に挑む方が阿呆らしいと思い、惨めな後ろ姿を見る。

 ゆっくりと追い詰めたいのか。敢えて走らず、追い付かない程度の歩行速度で、目標を追うナイトメア。


「ですよねぇぇ! くっそ。こんな非常時に戸締まり万全かよぉぉ。いやまあ、それが当然なんだけどさ」


 一軒家の玄関から入ろうとするも、当然ながら木製の扉には鍵が掛かっており、無断侵入は出来ない。

 一人漫才でもしているのか。頭を抱えて屈んだりした後、何処か逃げ込める場所はないか? 裏口、換気用窓。兎に角室内へ入れる所を探し回った結果。


「あった。ちょっと狭いけど、贅沢は言ってられない」


「逃げても無駄だよ。夢でもよくあるだろ? 怪物や異形から逃げ切れない事ってのは」


 風呂場の換気用窓が開いた状態。丁度、小学生や中学生なら入れそうな幅と形状。

 先に背負っている鞄を入れ、その後に風呂場へ換気窓から侵入。謎の人物は双眼鏡を片手に、貴紀の行動を監視。

 窓を閉め、ロックすれば息を乱したまま風呂場を出て、部屋を見て行く。

 寝室は二つ、トイレと洗面台、台所にリビング。食材はほぼ無いが、小麦粉と言った粉類は沢山ある。


「人は居ない。戸締まりもほぼ完璧。すみません……この家、使わせて貰います」


 両手を合わせ合掌。此処に居ない住民に謝れば玄関扉の鍵を外し、自ら居場所を教えるように扉を全開に。

 窓際がカーテンで外から見えない事を確認した後。鞄から赤いバンダナを取り出して口や鼻を覆い、戸棚やリビングを物色。


「非常時用のガス缶が六本に、古いタイプの発火式ストーブ。一か八か……きっ、来た!」


 戸棚よりガスコンロ用のガス缶と懐中電灯、リビングで熱を持つまで少し時間が掛かる、旧式の灯油を燃料に電気で燃えるストーブを発見。

 懐中電灯を鞄に入れた直後、子供が無邪気に駆け寄ってくる様な足音が聞こえて来た。

 再び沸き上がる恐怖、恐れに震える心と体。玄関先へ振り替えった瞬間――


「あ、がぁっ……」


「くる、し……い?」


(喋っ、た? と言うか、何だ。この、流れ込んでくる感情は……)


 玄関から伸ばした両の鞭で首を絞められ、鞭の収縮を利用して間近に迫り、此方をじろじろと観察している。

 言語を学習したのか。人語を話始めたナイトメアから貴紀は、鞭から流れ込んでくる感情に戸惑う。


「こ、のっ。人間っ、なめんじゃ、ねぇ!!」


「ピポポッ!?」


(チャンスは、今しかない)


 鞭の一つを引っ張り、力の限り噛み付いた。予想外の反撃に驚き、少し離れた瞬間。

 鞄から小麦粉が入った袋を取り出し、袋の口を開けたままナイトメアへ投げつけた。当然、小麦粉は宙に舞う。

 その隙にストーブの電源を入れ、台所へ回り込み、未使用の小麦粉を開けてリビングに撒き散らす。

 白い粉が視界を奪い、貴紀を見失い辺りを見渡す中。玄関の扉が閉まった音が聞こえ、向かう時。


「ピポ……!?!?」


 強烈な熱を感じ、後ろを振り向き理解するも―――時既に遅し。

 突然の大規模な熱と赤々しい火炎が一軒家を襲い、爆破炎上。爆風に乗り飛び散った民家の破片が、辺り周辺へと落ちて行く。


「ふぅ……小麦粉を使った粉塵爆発。ガス缶付きの大爆発になっちゃったけど。これで倒せた筈」


「倒せる力は無くとも、知恵と勇気で一矢報いた。って訳かい。やるじゃないか」


「とは言え。本当に申し訳ない事、しちゃったなぁ」


 近くの曲がり角へ避難しており、降り注ぐ破片をフライパンで防ぎつつ、爆破した民家を覗き見る。

 密閉状態の民家でストーブの熱を導火線に小麦粉とガス缶を連鎖爆発させ、家を爆破した行為に罪悪感が沸き胸を痛め、胸元を自ら掴む。

 謎の人物も突然の民家爆発。その危険な知恵と、危険に立ち向かう勇気に称賛を送る。


「もしかして、サクヤと終焉は……アイツに?」


 浮かぶ不安。別れた二人がこれだけ大きな音を響かせたのに、駆け付けない事から。

 自身が遭遇する前に奴と遭遇し、あの厄介な身動きに翻弄され、敗北したのでは?

 胸の中に沸き上がる不安と迷い。心配な表情で空を見上げると、薄暗い空を灰色の暗雲が覆っていた。


「……うん? 今、空に目玉が見え……ま、まさか」


 爆破した民家を背に、見上げた夜空に浮かぶ二つの目玉を見た……ような気がしたが。

 目を擦り、もう一度見上げるも、全く見付からない。連続して不思議な出来事が続き起こる為、首をかしげ眉をひそめる。

 そんな疑問、不安。心の迷いを吹き飛ばすように、何か重たい物が吹き飛び、地に落ちる落下音が響いた。

 後ろを振り向き確認すれば、確かに迷いや不安は吹き飛んだ。いや、恐怖心がまた沸き出した、とも言える。


「ピポ、ポポポッ」


「マジ、かよ……」


「ふふふっ。ま~だまだ。悪夢は続くぞ」


 瓦礫山の中から立ち上がったナイトメアは仮面が全て割れ、内側に身を丸める男女の姿があった。

 逃げていた人々が空から降り注ぐ闇に当たった途端。闇に包まれたある人々は肉を失い、干からびたミイラと化す。

 またある人々は骸骨化した上に、古びた剣や弓矢、盾や半壊状態の鎧を見に纏った骸骨戦士へ。

 謎の人物が夜空を見上げ呟くと暗雲に二つの目玉が現れ、一つは地上に落ち、もう一つは暗雲の中から身を乗り出して来た事へ、絶望は深まる。


「ゲームのラスボスでも、序盤からこんな無理ゲーはしねぇぞ……」


 目玉は巨大な体を銀色甲殻で守る蜘蛛と、空に吊るされた薄暗い肌色をした一つ眼巨人へ化け、甲殻虫は目玉から赤い光を、巨人も負けじと殴り掛かってくる。

 RPGで言えば、無限湧きするザコ敵と中ボスを相手にしつつ、ボス三体を同時に敵に回すも同然。

 アクションゲームならば、主人公を操作する腕と装備次第では勝てるだろうが、ただの一般人かつ中学生に勝てる訳がない。


(はぁ、はぁ……畜生ぉ。どうして……)


 ただひたすらに逃げて逃げて逃げ続け、時には物影に隠れてやり過ごすしか、何も出来なかった。

 背負った鞄に放たれた矢が刺さり、四肢にも掠る。盾で胴体や顔を殴られ、掠った切り傷が熱を持って痛い。

 それ以上に戦いたくない自分の心に、戦わなくては生き残れない事実が突き刺さる。サクヤと終焉、更には学校に居た他の生徒や先生達。

 皆が戦う知恵や力、勇気もあるのに、何故戦いたくない自分にも戦う事を強要するのかと。これがゲームの世界ならば……そんな考えも、絶望を徐々に深めて行く。


「ヒッヒッヒッ。惨めだねぇ。見ていて気分が晴れてくるよ。あんな空っぽな器を持った人間、初めてみたよ」


 逃走と隠伏を繰り返す姿に謎の人物は笑い、ローブ下の赤い一つ眼が光る。恐怖と自責の念が、貴紀の心を支配する。

「また逃げてる。相変わらずの落ちこぼれだ。なんで小鬼程度に苦戦するんだか」迷いが幻聴を生み、泣きながら逃げ続けては転け、物影に隠れ身を震わす。


(煩い煩い煩い! 自分は戦う力や知恵も、勇気があっても……もう二度と、戦いたくないんだ!!)


 曲がり角の物影に隠れ幻聴へ言い訳をしていると、足元のマンホールがカタカタと動き出し、森の外で見た穢れし魔力が溢れ出し泥溜まりを作る。

「なんだこれ、何なんだよ!」今にも泣き出しそうな大声で叫び逃れようとするも、それは魔物や魔族を引き寄せるだけ。

 徐々に貴紀は魔力の泥に飲まれる中。情けかそれが当たり前なのか――――胸を、腹を、喉を魔物達に刃物で刺され、貫かれた挙げ句。

 魔力泥から伸びる黒・黄・緑・青・紅の布に巻かれ――ドップン!

 深い絶望を感じながら魔力泥に飲み込まれてしまい、貴紀はその場から姿を消した。





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