ストゥルティ・後編
謎の影を追い掛ける内、ある事に気付いた。明確な意思を持って自分を誘っている、何処かへ誘導しようとしていると。付かず離れず、一定の距離を保ちつつ移動する相手。
後ろ姿から察するに、小学生程度の身長でセミロングの黒い髪。女性用と思われる長袖の服とミニスカートから察するに、女性だろう。時折此方の様子を窺っている。
「何処まで行くんだ」
さっき居た沼地近くから、徐々に離れされて行く。罠の可能性かもと思いつつ飛び込んだ手前、相手の行動が読めない。何が目的だ、何処へ連れて行こうとしてるんだ?
少し立ち止まって地図を開く。ホライズン遭遇場所から大体の通ったルートを調べてみると……鉱山と沼地エリアの中間、合間を通っているらしい。相手を見上げると、やはり逃げる様に進んでいる。
「この辺り、鉱山が近いんだな。もし今、崩れたりしてきたら……うぅっ、想像したくもない」
急な登り斜面を進む中、崩落が起きない事を願いつつも登り切った先には──沼地が広がっていた。あの人影は消えていて、追い掛けるのは無理だと判断、情報収集へ戻るのが吉だと考えよう。
底が知れない今、下手に足を突っ込むのは自殺行為。なるべく陸地を通り進む。当然ながら沼の底は見えない。この沼を越えた先が集落っぽいが、泳ぐなんて出来ない。どうしたもんかな。
沼もよく観てみると生き物がいる。カジキみたいな鋭い……なんだ、頭? と蛇か鰻っぽい胴体を持った魚らしき生物と、自分の知ってるのより三、四倍はある緑色の蛙が時々跳ねている。食用になるか気になるが、あんな魚に突かれたくはないな。
「貴様、見たところ人間の様だが……何用だ」
「えぇ~っと、先ずは矛先を変えてから話を聞いて貰えますかね?」
「否。このまま話せ」
茂みとか陸地から来るかと思いきや、予想の斜め上。蜥蜴人が沼から頭だけ出して、槍を向けて来るとは。さっき見たカジキ紛い魚の頭を突き刺した手作り槍か、相手に優位な場所である以上、下手な戦闘は控えよう。
「ヴォール王国と言う所から来まして、此処での面倒事に首を突っ込んだ者です」
「貴様……馬鹿か?!」
馬鹿正直に言ったけど。自覚してるけど、やっぱ真っ向から言われると腹立つわ。顔見ても「何言ってんだコイツ?」みたいな表情だから尚更ムカつく。畜生、辺り一面陸地だったら戦闘に持ち込むんだがなぁ。
「いや、此処ら一帯では見ぬその姿、本当らしいな。ならば尚更手を引くがいい。よそ者が首を突っ込んでいい事ではない」
「生憎、魔神王軍や他の連中が絡んでる以上、他人事じゃないんだわ。コレが」
「なぬっ、魔神王軍だと!?」
「だから情報を求めて此処へ来たんだけれども」
一応敵対関係らしいから話に出したものの、選択肢を間違えたか? 少し考えた後、槍を収めて沼から出て来た。身長は自分より少し高いな、百八十ちょっと位かな。
胸当てを付け盾も所持してるが、岩っぽい。もしかしてドラコの甲殻を使った防具なのか? 槍も身長と同じ位長く、予想以上の長さだ。体は泥で汚れてるが、内側は白で外側が緑色っぽい色が見える。
「断る。我ら蜥蜴人は強者の言葉のみを聞き、信じる!」
「やるしかない、か」
勝負、か。蜥蜴人の鱗は生半可な刃じゃ通らない、狙うなら内側なんだが……それは予想されているだろうな。急所と見る胸部は胸当てで守られてる、つるはしでやっと欠ける程の硬度。
序でに言えば此処は相手が得意とする領域の沼地、陸地に引きずり出して腹部や脚を狙うしかない。自分が相手なら沼から奇襲と不意打ちを狙うけど、さてはて、どうしたモノか。
「行くぞ、異国の戦士よ」
「止めておけ。ソイツは私の主……強さは私が保証する」
「この声は、まさか」
「静久様!」
いざ勝負──と言う時に、戦闘を中断させる声が聞こえて来た。魔神王討伐の任務を終えて帰る途中、ワームホールこと時空の穴に飲み込まれ、今の今まで離れ離れになっていた静久だ!
沼を迂回する様に跳び、此方へやって来る。自分を此処まで案内していた人影と同じ身長と服装、そして見間違える筈もない緑色の短い髪と紅い瞳。アレは静久じゃなかったにしろ、此処へ導いてくれたのか。蜥蜴人も知ってるって事は、此方で活動してたのかな?
「来るのが遅過ぎる……」
「ごめん。ベーゼレブルとか、色々あったんだ」
「あの暴食野郎か……それなら仕方ない」
遅いと文句は言われたものの、アイツの名前を出したら察してくれた。絆達はベーゼレブルが如何に面倒臭い難敵だと言う事を理解してくれてるので、本当に有り難い。
現状が理解出来ず混乱してる蜥蜴人がポカーンとしている。様付けで呼んでたって事は、崇拝とかされてんのかな? 昔は水神として崇められてたけど。まあ、その人物が仕えてる人って言うんだから、そりゃポカーンだわな。
「此方は人間達は金、ドワーフ族は特殊な工房や素材に目が眩み、魔神王軍に媚びへつらう連中が増え、我先にと他人を蹴落とそうとしている……」
「蜥蜴人達は魔神王軍と敵対関係だと聞いてるけど、静久が居てくれてるからか」
「静久様は我らに知恵を与えてくれた。養殖知識のお陰で食料事情が安定している」
そうか。衣食住が静久のお陰で良くなり、魔神王軍の誘惑にも惑わされなかったと。そう考えると、この蜥蜴人の装備も、静久が与えた知恵の一つ、と言う訳か。
何事かと出て来た蜥蜴人の方を見てみると、原始人っぽい衣服を着ている。鱗の色も濃い紫やら黄色とかあるんだな。正面の沼を迂回して移動する中、色々話してくれる。
「問題はそれだけではない。奴らの鉱山発掘を阻止しなければ生態系が壊れ、この辺りが危ないのだ」
「どう言う事?」
「あの鉱山、スカイマウンテンは雲の遥か上まである……それをドワーフ族は見境無く掘り、人間達は何度も爆破している」
「鉱山であり火山でもあるのだ。ミネラドラコが冷え固まった溶岩塊を食べ、体内で鉱石に作り替えている」
聞いた話を纏めてみる。一つ、あの馬鹿デカい鉱山兼火山の名前がスカイマウンテン。二つ、鉱石の正体は冷え固まった溶岩塊であり、ミネラドラコが食べ体内変化させた物と排出した便の二種類ある。
三つ、人間達とドワーフ族は欲に溺れ鉱山を掘り、爆破している為、火山として噴火する危険を孕んでいる……後は崩落の危険やその影響で生態系が壊れるの四点かな。
「大陸が闇に覆われて外部と連絡する手段が魔神王軍だけ……と思っていた矢先、貴紀が来た。これは幸先が良い」
「あぁ~、ごめん。実は──」
通って来たゲートを召喚するのに必要な物、聖光石をドワーフ族に取られた事。戦闘用強化服・パワードスーツがまだ完全に修理出来ておらず装着出来ない事、アレに必要な物を無くした、と話したら。
「チッ、使えん奴め……そもそも、融合獣相手に優位に立つ為のアレを失くすとか。アホか……」
「辛辣な言葉も久し振りだと、懐かしくすら感じる。必要な素材さえ有れば直せると思うんよ」
「何が必要か……教えろ」
仕えてるって言っても、静久は絆達四人の内で一番口が悪い。てか、辛辣な言葉を遠慮無く言ってくるんで、割りとへこむ時もあれば普通に接してくれるのが嬉しい時もある。
酷い時は普通に死ね、とか此方を見下した表情で言ってくるから絆や恋に注意されている。今はあの二人が居ないから言いたい放題だろうけど、ごもっとも過ぎて言い返せん。
必要な素材を伝えると、右親指を噛んだ後に「役立たずの癖に面倒臭い素材を要求をする……」なんて言われた。うん、現在役に立ってないし、言われても仕方ないんだけどさ。
「その素材は特定の日にしか取れない、特殊な素材……今は見付けられない」
「特定の日にしか取れないって、何時取れるんだ?」
「コロナ鉱石はマグマの近く、ルナ鉱石は満月の夜、エクリプス鉱石が一番面倒でな」
曰く、マグマ近くは今じゃ噴火を待つしかなくルナは満月の光を反射するけど闇が邪魔で特定が難しい。エクリプス鉱石は二つの鉱石を食べた、食べさせたミネラドラコの体内で混ぜさせ甲殻に出たのを掘る。
初めて見付けた奴、相当運が良かったんだろうな。しかし、そうなるとミネラドラコは見境無く掘る人間達やドワーフ族から守る必要があるのか。
「何時の時代でも、欲望に魅入られ恐怖心に駆られた愚か者達は面倒事しか起こさない……」
「仕方ないよ。欲望や恐怖心も、生きるのに必要なんだし」
「お前はアホか……その為に殺された仲間の無念はどうする?! ましてや敵組織に売られた癖してまだ人間を信用する気か……」
静久の言っている事は正しい、辛辣的な言葉も当然だ。自分達の仲間を一番多く殺したのは……欲望や恐怖心に駆られた人間達。少し、思い出した。民間人達に騙され、四天王達へ差し出されもした。
テレビで悪者扱いの報道をされ、魔女狩りさながら追われもした。だから自分は、仲間を守る為に……為、に……人間を殺した。何人も、何人も無惨に、グチャグチャに殺して踏み潰して見下した記憶が……
「……欲望や恐怖心に魅入られ、駆られた連中は貴紀が『守る人間』ではない。あぁなったら悪魔や魔族と同類と考えろ……」
蜥蜴人達の集落。その入り口で立ち止まってしまった自分へ対し、静久はそう言い放つ。酷い言葉だと、名誉毀損だの侮辱的だ侮辱罪だと汚い言葉で罵る人間の姿が自然と、当たり前の様に思えた。
あのギラついた眼、あの醜く歪んだ顔……確かにゴブリンや悪魔と大差なかった。同類だと言う言葉がすんなりと受け入れてしまった。愚か者達、自分が守るべきではない人間。今は──そう受け入れるしかない。
「部屋を一つ用意しろ……今からコイツと二人で話す」
「この者と静久様が二人でですか?! せめて護衛の一人でも付けてくださ──」
「二度は言わない……用意しろ」
「は、はい……」
集落へ入ると、沢山の蜥蜴人達が自分をジロジロと見ていた。二人っきりで話すと静久が言っても、居た場所から門番だと思われる蜥蜴人は大層心配した様子で進言するも。
久し振りに見たな……静久の本気睨み。まさしく蛇に睨まれた蛙ってな位にビビって、落ち込んで言われた通りに渋々従ってるけれど、静久の奴……改めて此処で何をした!?
案内されたのは小さい小屋。此処で一人暮らししてるんだと言われれば、そうなんだ。と頷いてしまう位。二人だけで入ると突然押し倒され、マウントを取られてしまう。
「ど、どうしたんだよ、静久。いきなり押し倒すだなんて」
「何をウジウジ悩んでいる……貴紀が守るべき者は『地球人』だけ。それ以外は切り捨てて考えろ」
「判ってる。判ってるつもりなんだけど」
静久の目を直視出来ず、視線を横に逸らし煮え切らない言葉を返す。目を合わせろ! とばかりに両手で顔を掴まれ、強制的に目を合わされる。怖かった。心の中を覗かれそうで。
「貴紀は英雄や勇者でもない。だから……自分自身に嘘を吐く事は止めろ」
「……うん」
「私達は貴紀と一心同体。その苦しみや哀しみも全部、私達に分けろ……一人で抱え込むな」
「ありがとう。静久」
吸い込まれそうな瞳を見詰めさせられていると──涙が溢れ出して、頬に落ちた。泣いていた、泣かせてしまった。静久を、共に戦ってくれる大切な仲間に涙を流させた事に、心が痛くなる。
そうだ。自分と静久達は今まで一緒に、これからも一緒に笑って泣いて、苦楽を共にして過ごす一心同体の関係なんだ。まだ溢れ出る涙を両手で拭ってやりつつ、心からの感謝を述べた。
今年度、2019年の投稿はこれで最後となります。来年2020年からは1月6日に第四話~第六話を投稿予定。来年度も宜しくお願い致します。




