ストゥルティ・中編
ドラゴン……ドラゴンかぁ。確か喉元胸上辺りが旨いんだったな、急所もその辺り。旨いか不味いかは、種類と生息環境次第。殺す必要はないから敢えて急所は外すとして、つるはしが通用するかどうか。
少し観察してみたら、周りの岩や鉱石を食って体に甲殻として纏ってる様だ。食べてから甲殻に現れるまで、約十秒。首と手足は短く、胴体と尻尾が長く蜥蜴に近い……思い出した。ドラコって蜥蜴や竜を意味するんだ。
成る程、それでドラコか。此方から視線が外れたら忍び寄ってつるはしで一発叩き込み、鉱石を拾い撤退。うん、予想通り行く気はしないがやるっきゃない。
「今だ」
幸い相手は一匹。岩を食ってる間に忍び寄り、つるはしを大きく振り上げて一撃! 甲殻へ命中したと同時に高い金属音が鳴り響き、打ち込んだ一部が欠けて落ちる。
「やった!」
「早く逃げなきゃ駄目だよ!」
「うおっ!?」
欠けた甲殻を拾い、喜んだのも束の間。此方に気付き振り向いたドラコは大きく息を吸い、炎を吐き出してきた。流石はドラコ、竜の名は伊達ではないと言う事らしい。
慌てて逃げ出すも、虎の尾を踏む行為をやらかしたんだ。やはり追い掛けて来る、ウズナちゃんを連れたままでは逃げ切れん。仕留めるか?
いや、今の装備じゃ喉元は狙えない、仕留めるのも無理だ。なら──走りながら足元の砂を掴み、迫って来た瞬間を狙い、振り向いては砂を投げ付ける。
「今の内だ、逃げるぞ」
「う、うん」
目に砂が入り、暴れまわる隙を突いて逃げ出す。此方から被害を与えた上、砂を目に投げ付けられたドラコ側が被害者なのは判る、ちょっかいを仕掛けた此方が加害者なのも理解しているが……
少し複雑な心境だ。採取出来た甲殻も握り拳一つ分と少し心許ない。ユウキが此処に居たら「情けない事を言うな。命を奪い合う大自然で情けから与える慈悲は自らの死と考えろ」って言うわな。
本来の帰り道から離れた場所、下層の方で大きな骨と生き物の内蔵らしきモノを穴に棄てる蜥蜴人を見付けた。見付かると面倒なので隠れて様子を見ていたら、次は人間の男が現れた。
「っ……酷い臭いだ」
双方睨み合うも争う様子はない。男も何か大きな袋を棄てた。アレは……糞だな。となると此処は廃棄物場か? 今日は隠れっぱなしな一日だな、畜生。立ち上がろうとした途端──
「お兄ちゃん、あれ……」
「しっ。静かに」
蒼い炎が円を描き、ソイツは突然現れた。ラプターと同じ異形の鋭い爪、スカルフェイスの骸骨を思わせる赤い鎧、焼けた皮膚が泡立つ右腕と筋肉質な左腕と脚。少し見え辛いが……蛇か鰻に近い尻尾を持った人型野郎。
直感が警報をガンガンに鳴らしやがる。アイツとは戦うな、殺されるぞ、と。アイツ、何をしている? 岩影から覗き込むと、青い何かを右手から廃棄物場へ落とした。
「命……廃棄、腐敗、汚染。ストゥルティ」
「畜生。声が小さくて聞こえ難い」
「悪夢、異形、汚染……新たな命を持ち、知らしめよ。ナイトメアゼノ・ハザード」
「何だ、アレは」
途中までボソボソと喋っていたと思ったら突然、名前を言った途端、廃棄物場から黒と青紫が混じった様な存在が這い上がって来やがった。何だ、アレは……
魔族や魔獣なんて存在じゃない。体が腐敗して液状に溶けてやがる。何より悪臭がキツい、よく見たら様々な武具が身体中から飛び出してる。仕方なく、多少のリスクは覚悟して逃げ出した。
追っては来ない、無事逃げ出せた様だ。少し迂回してしまったけれど、なんとか宿泊先であるウズナちゃんの家へ帰り、ドラコの甲殻を渡した日。夜更け頃に呼び出され、居間へ行く。
「座ってくれ」
「失礼します」
「ふぅ。それで、ウズナから何処まで聞いている?」
親父さんは筋肉質で、汚れた白シャツから出る腕なんか鉄に見える程黒い。ズボンは灰色の布生地、年若そうに見えるが白髪だ。余程苦労されたんだろうか、それとも最初からか。青い眼も何か覚悟と言うか、そんな心境を感じる。
座敷に向かい合う形で座り、教えて貰った内容を要点だけ話した。言われて自覚する事もあると考え、家庭内の出来事も質問混じりに話したところ。
「イラついてたとは言え、態度に出ちまってたか。改めて自己紹介と行こう、俺は大山和人。人間とドワーフのハーフだ」
「紅貴紀です」
「話す前に、コイツを返しとく。大半取られてたが、アンタの持ちもんだろ?」
自分の鞄が帰って来た。所持金やポーションの他、聖光石と食料が盗られ、ヴォール王国への帰還手段を失ってしまった。けれど、フュージョン・フォンが手元に戻って来たのは不幸中の幸いか。
「此処の連中は見たか? アイツら、突然あの鉱山は自身らのモンだ。なんて言い出しやがった」
「あぁ、言い争ってた。金のなる鉱山だとかなんとか」
「此処は大抵が自給自足だ。なのにドワーフ族と人族の連中、人が変わった様に魔神王軍へ作った武具を高値で売り捌いてやがった」
「魔神王軍!? 此処に来るのか!」
金のなる鉱山、そう言う意味か。此処は言わば、魔神王軍の武具製造工場。嫌な所を引き当てたな……しかも四天王の下に配属されてる三騎士と言う三人組。
その一人が此処へ視察と売買に来るとか。鉢合わせはしたくないけど、向こうから襲っては来る可能性は棄て切れない。白刃は何時でも呼び出せるが、魔力消費が高い為、抜くのは最終手段だ。
「名前までは知らんがな。噂じゃ見た目に反して結構口が酷く、五月蝿いらしい」
「はぁ~、人は見た目によらないって事か」
「蜥蜴人は魔神王軍を毛嫌いしててな、敵対関係だから沼地へ行くなら注意しろよ」
三騎士の噂を聞いた時、何故かコトハの顔が脳裏に浮かぶも、何故捕まっていたのかと言う疑問に打ち消された。口五月蝿い姿を想像してみるも、印象が違い過ぎて違和感が強く、誰だお前って言いたくなった。
「何故、自分が沼地へ行くと?」
「お前さん、魔神王軍と敵対関係だろ」
「っ──」
「身構なくていい。俺は味方だ。ガキの頃からお前さんの、オメガゼロ・エックスの伝説を聞いて育った身でな」
見抜かれた瞬間、思わず距離を取ってしまったが、親父さんは味方だと言う。本当かどうか怪しく思う気持ちもあり、信じ切れないものの席に戻る。と言うか、自分の伝説?
全く身に覚えがない。欠如した記憶にあるのか、その伝説とやらは。とは言えシオリの先祖も末代まで伝えろ。とか言ったらしいから、他の種族でもあり得る話か。
「その伝説って? それに何故本人だと判った? 伝説とか言われても身に覚えがないんだけど」
「信じた者の為に傷付いた体のまま戦い、闇に消えた友人ってな。ほれ、似顔絵だ。まさか本物に会えるとは……長生きするもんだ」
確かに自分は信じ、守りたい者の為に傷付いた体へ鞭を打ち戦った。闇に消えたってのは恐らく終焉を倒し、調律者を追って時間を越えた時だろうか。
そう考えると……何時になったら住んでた所に帰れんのかねぇ。引っ張り出されて、助けてくれって言うから助けたら延々と求め続けられ、気付けばこの有り様だよ。
本人だと気付いたのは、当時の似顔絵を代々書き続けて残したんだとか。マジか、写真とか似顔絵に残るのが嫌で避けてたのに、何時の間に描いた。
「後生の頼みだ。是非ともお前さんの力にならせてくれねぇか!?」
「申し出は有り難いけど、別に貴方が頭を下げる事ではないでしょう?」
「実は……いや、アメナやウズナ、妻の蓮華の為にも。頼む!」
座る姿勢を正座に直し、深々と土下座をされ家族の名前を出してまで懇願するとか。何か隠してる気がして仕方ないが、今は下手に触れず、自ら話してくれるまで待とう。悪い人には見えんしな。
「分かりました。とは言え、何を手伝って貰えば良いのか……あ、そうだ」
パワードスーツの装甲が傷んでいる事を思い出し、フュージョン・フォンを取り出す。アドレス帳を調べてみたら……やっぱりあった、基地の電話番号。早く出てくれと願いつつ待つと。
『はいは~い。どうしたの?』
「マキ、パワードスーツを此方へ転送って出来るかな」
『ゲートとフォンの現在位置を繋げば出来るけど、まだ装着は出来ないよ?』
「実は──」
フュージョン・フォンの画面に映るマキの顔を見て、内心安堵の溜め息を吐きつつ、事情を話した。そう言う事なら、と言う事でパワードスーツを此方側へ転送して貰い。
転送されて来たスーツを見た時は滅茶苦茶ビックリしていたけど、装甲を見た途端、物珍しげに食い付いてはあちこち触って感触を確かめている様子。こう言うのは職人っぽく感じる。いや、職人だろうし、失言だな。
「コイツの装甲を修理して欲しい。もし可能なら、装甲を今より強化出来たら良いんだけど」
「この装甲、間違いない。エボリュウム合金だ」
「エボリュウム合金?」
「お前さん……末恐ろしいモンを持ち込んだ、いや、命知らずなモンを着込んでるんだな」
装甲に使われている素材の名前が、エボリュウム合金と言う稀少価値が高く、人を選ぶ素材。職人が素材を選ぶ筈だが、コイツは逆に素材が人を選ぶんだとか。
末恐ろしい意味を聞いても、何時殺されるか分かったもんじゃない、自分が居ない時に触りたくないの一点張り。そう言えば、寧とマキは作業用アームで触ってるとか言ってたな。
「わ、悪いが、コイツを弄くるの以外で頼む!」
「いや、装甲が直らないと着れないんだが」
「なら、コイツの強化に必要な素材を幾つか持って来てくれないか?」
必要な素材としてミネラドラコの甲殻、紅く燃えるコロナ鉱石、青白く発光するルナ鉱石、黄金色に輝くエクリプス鉱石の四つを要求された。鉱石に関しては発掘するか、ミネラドラコから採取するかの二択っぽいな。
「集まるのか? この素材」
「最悪、キング級のミネラドラコを倒せば、可能性はある……と思いたい」
どれも稀少価値の高い素材らしい、探すには時間が掛かるだろう。しかも時間帯によって発見し易さも変わるそうなので、遅い時間帯に出歩く事も視野に入れないと駄目そうだ。
必要素材の中で、体験済みのミネラドラコからやって行こう。保存食として干し肉にされると聞いたので、可能なら仕留めて血抜き序でに休憩かな。
血も何かに使えるようで、なめしがされてるこの皮袋なら液体を入れて持ち歩くのも大丈夫そうだ。その日は準備だけして休み、時間にして翌日の昼頃、寝坊しながらも出発した。
「先ずは情報収集だな。ドワーフ族からしたら自分は脱走者、接触は控え隠密行動になる。今回は分かってる蜥蜴人側から」
所持品は昨日の装備とフュージョン・フォンと皮袋に入れた水、火打ち石と親父さんがくれた鉄の短剣七本、この辺りの地図を入れた鞄。昨日鉱山への最短ルートを通り、少し離れた場所に在る沼地を探す……んだけども、高低差が酷くて道を知らないとなかなか進めない。
「参ったな~。高所から見たらこの先なんだけど、登れそうにない……なっ!」
「オメガゼロ・エックス。何故、ストゥルティを救おうと……する?」
「お前は、あの時の」
沼地が見付かったのに、高い壁が進路を邪魔する。人為的と考えられる程掴める部分が全く無く、どうしようかと迷っている最中。直感が背後から気配を感知し振り向く。
同時にフュージョン・フォンを素早く取り出し、動画モードでスキャン中も何かしら抵抗する事もせず、話し掛けて来た。名前は究虚空完全融合体、ナイトメアゼノ・ホライズン。
奴の周りだけ大気汚染、放射能汚染濃度が限界値まで上がって……駄目だ、今もしパワードスーツがあっても、奴に近付く事さえ出来ない。スーツを通して体まで汚染されてしまう!
「何故……ストゥルティを救おうと、する」
「ストゥルティとは何の事だ!?」
「理解不能。サーチ、ライヒェ、リヴァイバル。ペルソナ・ノン・グラータ。メメント・モリ」
闇に覆われた空を見上げてコイツは一体、何を言っている? フュージョン・フォンを鞄に戻し同じく見上げると、赤紫色に光る球体が流星さながら沼地側へ飛び去って行くのが見えた。
「アレもお前の仕業……何処へ、行った?」
視線を奴へ向け直すも、其処にホライズンの姿は何処にも無く、辺りを見渡しても姿が見えない。後ろの高所を見上げると此方を見下ろす誰かが見えた上、自分が気付いたと知った途端、姿を隠した。
此処で立ち尽くしても仕方がないので、罠の可能性も考えつつも、後を追う事にした。少ししか見えなかったが……あの姿を追う理由としては、見覚えがある人物だったからだ。
一章第一話の後半部分、『ウズナの小説を読んだ後の感想部分』を一部訂正させて頂きました。今後は投稿前に再度読み直しをし、こう言ったミスを防ぎます。申し訳ありませんでした。




