続く因縁と怒り・後編
どうするどうする!? 焦りながらも出来る限りの行動を起こしてみる。先ずはオメガレーザー。
駄目だ、左手で防がれて効き目が薄い。お次はブースターを全力噴射、序でに肘のブレードも右手に突き刺してやる。
「テメェ、いい加減にしやがれ!!」
抵抗する程右手に力が入り、地面や建物に叩き付けられスーツの損傷箇所が次々とバイザーに表示され。
今度は地面に押し付けられ……コイツまさか、地面に吐き出して辺り一面を焼き払うつもりなんじゃ。
「それじゃあな。あば……むぐっ?」
「油断。貴方がしようとしている行為は危険」
「ブリキ人形風情が、俺の邪魔をするかぁ!」
それは余りにも予想外な援護だった。ディーテが奴の後ろから右腕を飛ばし、嘴に巻き付けた上。
避難地区の真逆方向へと、ベーゼレブルの尻尾を左手で引っ張っていた。よし、注意も逸れた。
「切り裂け、魔閃衝」
「ガアァァア!!」
刃に緋色の魔力を纏い長さを増加。そのまま右肘の刃で俺を掴む腕を切り落とす。
青い体から紫色の血が苦痛の叫びと共に吹き出る。今尚踏ん張るディーテへ駆け寄り、二人で尻尾を掴み避難地区の真逆方向へ投げる。
「助かったが、何故俺を助ける様な真似を」
「否定。調律者様が支配した後、管理する生命を守っただけ」
「へいへい。そうかい」
そうは言うが、横に居るだけでも熱気が伝わる。恐らく動力源がオーバーヒートしてるな。
機械だから涼しい顔ってのも変だが、ワイヤーが巻かれ戻る右腕を見て不思議に思う。
今さっきのはただの命令か、それとも自己判断した結果かは不明だがな。少し離れ──ッ!
「掌握。その行動も全て解析済み」
「クッソ。なんて……馬鹿力だ」
距離を取ろうとした矢先、また右腕を飛ばして此方の首を掴み、両手で絞めて来やがった。
行動は予想済みって訳か。こう言う分析系とか機械系はやっぱり苦手だ、やり難い。
何とかして距離を離さないと。そう思っていたら、俺達の間からベーゼレブルの尻尾が伸びて来た。
「うおっ!? あっ、危なかった……」
「確……認。損害箇所、頭部右側面」
「チッ、外したか。ブリキ人形をマトリョーシカみたいに割ってやる気だったんだがな」
間に割って入った尻尾はディーテの顔半分を大きく傷付け、目隠れしていた髪も切り裂いた反動で。
首絞めから解放された反面、肝が冷えたぞ。狙いは胴体真っ二つとか、想像しただけで背筋が──
冷える。そう思ったけど、爆炎弾の直撃は欲しくなかった。体は……少し動けそうにない。
「丁度良い。喰えねぇブリキ人形を鉄屑にした後、テメェを潰してやる」
「早く起きろ宿主様。まだ戦闘は続いてるぞ」
熱い痛みが左腕全体を襲い、気絶もさせてくれない。ゆっくり体を起こす中、奴らの戦いが見える。
奴の尻尾。その先端はディーテの複合装甲を切り裂けるらしく、なぶる様に身体中を傷付けて行く。
ゼロ達に影から背を押して貰い、立ち上がった時にはもう、ディーテはボロボロな姿だった。
「王、覚エテイルカ? 白刃ヲ使ウゾ」
「白刃ってルシファーお前、あんなモン地上でぶっぱなして良い代物じゃねぇぞ!」
「白刃ヲ使ウ以外、奴等ニ勝ツ方法ハナイ」
白刃……思い返す。俺を好いてくれた白い麒麟のお姫様やみんなの顔を。
イメージする。俺の為にと白いお姫様と黒い麒麟のお姉さんの角を使い、打たせた俺の為の武器を。
見上げる闇を突き抜け目の前に刺さったソレは、黒く円錐形で紅い線が無数にある槍に似た代物。
「ハッ。御大層に何を呼び出したかと思えば、古風な槍か。もう一度寝てな!」
「続く因縁を穿ち、唸れ。麒麟・黒刃」
柄を握り締めて引き抜けば、奴が吠えまた爆炎弾を此方へ放つ。正直、今の体では避け切れない。
けれどまだ戦える力はある。握り締めた柄に魔力を注ぎ、迫る脅威へ突き出せば──黒刃は唸りを上げて回り出す。
三ヵ所の高速回転は爆炎を拡散させ、火花にしてみせる。このままでも威力は十分。でも使い回すには体力と魔力が足りない。
「ハッ、ハハハハハッ! 良いぞ良いぞ。益々面白くなって来た!」
「悪いが……これで終わりにする」
「何を言って──ッ!!」
予想外の出来事に喜びを感じたんだろう。高笑いをするベーゼレブルを突き放す様に。
殺すと意味を込めて小さく言った。聞く必要は無い、言う必要も無い。俺はただ単に『鞘』の取っ手を掴み、ゆっくりと引き抜く。
奴が何を感じたかは知らない。ディーテを掴み、空へと飛び上がる。
「何か知らんが、ヤバい事は判る。やられる前に殺るが吉だ」
「宿主様。アイツ、この辺り一面を焼き払う気だぞ」
抜いた鞘を後ろに突き刺す。右手に持っているのは、白銀の刀身を持つ綺麗な刀剣。
ハッキリ言って血脂や刃こぼれが嫌だから使いたくない。当時、初めて麒麟・白刃を視た感想だ。
「危険。緊急と認識、最終手段へ移行」
「燃えろ。人間共を焼き払え!!」
「クソッ。奴ノ方ガ早イ」
両手で柄を握り締め、奴を静かに見据える。残った全ての魔力を注ぎ込むと。
それに呼応するかの如く、刀身に彫られた文字が紅く浮かび上がる。その文字とは──『緋想』
「ゼロ、ルシファー。俺に魔力を回してくれ。スーツの稼働すらヤバい……」
「よっしゃ。有り余った分、持ってけ」
「急ゲ、奴ハソロソロ溜メ終ワルゾ」
活動限界が迫り、魔力経路が点滅していた。そもそもスーツの稼働用魔力を注ぎ込んでいるから。
活動限界の時間は当然減る。そこで二人の魔力を譲渡して貰い、時間延長。その間に奴の方が溜め終わったらしい。
此方はもう少し時間が掛かる。後十秒だけ時間があれば……
「焼き尽くせ。ヘル──誰だ?!」
「今の内だ、宿主様」
誰かは知らないが、注意を引き付けてくれた間に二人からの魔力譲渡を終わらせる。
ちょっかいを仕掛けた誰かを探している間に終わり、後は持てる魔力を全てこの一太刀に込め、一撃で奴らを倒すだけ。
「クソッ、溜め終わったか。まあいい、全てを焼き尽くせば済む話だ。ヘルブレイズ!!」
「魔力解放。一撃必殺!!」
撃ったのは奴が僅かに先だった。目眩ましにディーテを投げて来た上、赤い炎を収束させたような光が此方へ迫る。
着弾すれば周囲を燃やし尽くす。直感的に、容易くディーテの体を貫通した事からそう理解した。
此方は動揺もあり、ほんの一瞬遅れて斜め左下から、一気に右上へ空を切る。技名なんて上等なモノは何も無い一振り。
「──!!」
そんな馬鹿な……そう言いたかったのだろうか。
斬擊により解放され、襲い掛かるは白と赤黒い稲妻を帯びた魔力。その威力は被害者に断末魔すら許さぬ程に凄まじく。
奴を瞬く間に消し飛ばした。少し地面を擦っていたらしく……沸騰した水の如く地面が泡立っている。
「やったぜ。と言うか、掠った地面がマグマみたいになってやがる」
「御苦労様。良クヤッタ」
「毎度の事ながら、疲れた……」
終わった安堵感から、その場に座り込んだ。確かに凄まじい威力だけど、あの一撃だけで疲労が凄い。
一発で活動時間を二十分も消費とか、予想外過ぎる。空を見上げると、斬擊の後が残っていた。
「双子月が出てるぜ。もう夜だったのか。へへっ、赤い月と見慣れた月だ」
「あの月、何時から増えたんだろう」
切り裂かれた闇と雲から覗き込む双子月に、昔を知る自分なりの疑問を呟く。
誰がその疑問に答える訳もない。よく頑張ったね。と褒めるそよ風が吹いた気がしていた。
「返答。超古代時代より在り、通常の月と重なっていたと記録に残っている」
「なっ──」
「その声、ディーテか。何処にいる、出て来い!」
勝利の余韻をぶち壊す声が聞こえた。慌てて周囲を見渡すもアイツの姿は見えない。
そもそもベーゼレブルの一撃で融解した上、此方の斬擊で消し飛ばしたのにどうやって生き延びた?
もう一度空を見渡すと、ディーテの右腕が空を飛び話し掛けている事に気付いた。
「敗北。損傷度、甚大。撤退します」
「こん畜生っ。あの野郎、右腕が本体だったんだ。まんまと逃げられちまった」
「構ワン、放ッテオケ。ドノ道、王ハ戦エルダケノ余力ガ……オイ、王?!」
逃げて行ったのを見送った後。突然パワードスーツの各所が次々に爆発を起こして、意識が遠くなって行った事だけは何となく覚えている。
糸が切れた操り人形さながら、横に倒れた事も。何度も呼ばれた気がするけど、眠たくて仕方がなかった。




