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ワールドロード  作者: オメガ
最終章・racrimosa
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racri mosa

 『前回のあらすじ』

 小説を読み終え、寝落ちした未来咲妃は朝を迎える。寝起き故か、祝日なのに平日と誤解し混乱。

 お義婆さんに言われ、漸く理解。新聞を読むと旧人類史の遺品を展示されると知るが……

 自分自身の弱さ故に夢想神社まで逃げ、猫紙皐月と遭遇。いつの間にか持ってた小説を彼女へ渡し。

 読み終えた猫紙皐月からの言葉と心遣いに、自己肯定感を更に下げた未来咲妃の下へ、招待状が届く。



 気が付けば……振り返ればもう、土曜日の朝。小説・ワールドロードを全巻読み切ったにも関わらず。

 誰かがウチを殺しに来る気配や物音すら無く、警戒してたのが馬鹿馬鹿しく思える程に平和な日々。

 美術館は自宅から徒歩三十分、受付開始時間は午前の十時から。朝食の和食を食べ終えたのが午前八時。

 お義婆ちゃんは今日、教会へお祈りに行くと言って早々と家を出た。ただ気になる点が二つ。

 一つは「なんまんだぶ」と小声で繰り返してた点。もう一つは、普段と違い妙に早歩きだった事。


「今日……お義婆ちゃん、掃除当番だっけ?にしても、普段より家を出るのが一時間も早い」


 疑問は考えれば考える程あった。けど、疑ってても切りがない。そう思い、鞄に招待状入りの封筒。

 チケット、念の為に小説を全巻入れて寝癖など身の回りを整え準備万端。まだ時間がある為──

 暇潰しの意味も込めて、テーブルに置かれたままの今日の新聞を手に取り、読んでみる。

 『今日で遠方、緑豊かなオプティムス王国が滅び、砂漠化が進んで早十一年』と書かれた記事が。


「オプティムス王国。確か、蟷螂(カマキリ)に全員滅ぼされたって聞いたッスね」


 此処から国を一つ、山を一つ跨いだ先にある緑豊かで、中央街・終始町とも友好的な国。

 其処が一晩にして緑と命を食い尽くされ、砂漠化と温度の上昇から蟷螂の巣窟となってると聞くッス。

 前人類史の蟷螂は手の平サイズッスけど、今の蟷螂は最低でも幼子と同じか、大人を優に越える大きさ。

 オマケに雑食。生態系的に単体行動が基本らしいのに、ソイツらは一子乱れぬ集団行動と統率力持ち。

 色々と思い出し、ふと壁に飾られたアナログ時計を目にすればもう九時半……美術館へ行かなきゃ。


「おや。未来さん、おはようございます」


「猫紙さん、おはようございます!十時丁度に到着って、随分早いッスね」


 美術館の入り口階段前でバッタリと遭遇したのは、猫紙皐月さん。なんか、最近よく逢うッスね。

 朝の挨拶もそこそこに疑問を投げ掛けると。そっくりそのまま「それはお互い様では?」と返され。

 例の不気味な招待状の件を話す訳にも行かず、愛想笑いで返すしか無かった。何はともあれ、入場。

 先に猫紙さんが受付を済ませて入り、続けてウチも受付でチケットを出す。背中で見えなかったけど……

 ウチと同じ、黒いチケットだったのかな?二人で館内を見回る内に、過去の遺物展エリアへ突入。


『此方に御座いますは。前人類史が使われていた乗り物で──』


「排気ガス。大気汚染と言う行為自体は、前人類史から続いていたんですね」


「移動時間短縮の為に……ってあるッスけど、結局はエゴッスよね?」


 解説用のパネルに手を(かざ)すと、魔法陣が起動して女性の声が説明を始めたッスけど。

 バイク、車、エフ……ワン?どれもこれも化石燃料を使って、移動時間短縮に使用する乗り物。

 前人類史・乗り物初期に比べれば燃費改善や車体?の性能も上がってるみたい。とは言え──

 大気汚染や事故で最悪命を落としてまで、乗りたいと言う気持ちは分からないッス。


『此方は前人類史の歴史、罪を全て書き残したオメガファイルになります。但し損傷が著しく……』


「電子化で保存するも、何かしらの攻撃を受けて大部分が欠けていますね」


 先程と同じ様にパネルを操作。今度は文章映像が表示されるも……あちこちが欠けて読み難いッス。

 猫紙さんは『何かしらの攻撃を受けて』と言うッスけど、これは明らかに人為的な破壊行動。

 多分、後生へ自身らに都合の悪い記録が残る事を恐れた連中の仕業ッスね。証拠隠滅ってやつッス。

 つまりそれだけ、罪を犯したって証拠。他の所を回るも、つまらない物ばかりで飽き飽きした頃。


「私は上の階で前人類史が描き残した絵の展示を見て来ますので、未来さんもご自由に見学されては?」


 それを見抜いてか、猫紙さんからの提案に頷いて応え。一人でブラブラと見て回っていたら……あった。

 オメガゼロ・エックスに関する遺品展示場所。けど、不思議な事に他のお客さんが見当たらない。

 多分、猫紙さんみたく他の展示を先に見て回っているか。それとも、過去に起きた小説批判者殺害事件。

 その新たな被害者にならない為、敢えて寄り付かないだけなのか。それは兎も角、見て回るッス。


「これが...…実物の恋月と、朔月」


『此方はオメガゼロ・エックス愛用銃・二挺一対の恋月と朔月。拡張パーツで射程と威力を変え……』


 小説でしか見た事のない実物に、思わず息を飲む。絵で見るより綺麗で、気付かぬ内に手を伸ばすも。

 強化硝子ケースに阻まれ、触れない。当然と言えばそこまでッスね。盗難事故とか洒落にならないし。

 ただ、その美しさに見惚れていたら……気の所為だろうか?くしゃみをする様に銃身が動いた気がする。

 名残惜しさを覚えつつ、次の展示品。人間やウチらでも扱い切れる自信の無い戦斧──ジャッジへ。


「百七十……いや、二百メートル?こんな物を軽々と扱ってたんッスか」


『戦斧・ジャッジ。前人類史に記録されるハルバートなる武器に近しい形状と想定外の重量を誇り──』


「小説では活躍の出番こそ限られてたッス。反面、勝利へ導いた影の功労者と言えるッスね」


 間近で見た戦斧のサイズは小説で見るよりも大きく、地面に突き刺さったまま展示されていて。

 まさに伝説の武器って感じが強いッス。オメガゼロ・エックスと魔神王、最後の戦いも。

 戦斧・ジャッジが無ければ勝てたか怪しい。元は同僚なのに作戦で敵に回り、激闘を繰り広げ……

 最終的には和解。苦戦時には駆け付け、勝利に貢献。強敵と書いて友と呼ぶ。男の友情……良いッスね!


「……あ」


「……あら。貴女は──まぁいいわ」


 誰も居ないと思いきや、栗毛色で左肩から胸元へ届く三つ編み、長い揉み上げが特長的な女性に遭遇。

 思わず口を開き、驚いた言葉を吐くと。向こうも此方に気付き振り返ったと思えば……勝手に自己完結。

 目の前の展示品へ視線を戻す。ウチも同じ様に視線を向ければ──黒いロングコートが展示されてた。

 オメガゼロ・エックスが終始愛用し、オラシオンの手で強化され、ニーアさんへ届けられたアレ。


「本──物?」


「えぇ。販売店にある偽物(レプリカ)と違って本物ですわ。そして、塗り潰された心の象徴でもある」


「……えっ?」


 見ている内にポツリと呟いた言葉を、隣の方が答える。てか、レプリカなんて売ってるんッスか。

 続けて口にする、塗り潰された心の象徴と言う言葉に、思わず振り返り彼女の方を見る。

 けれど、ウチには全く興味が無いと言わんばかりに奥へと進む。何の事かサッパリ分からず。

 立ち止まって背中を見送っていたら、急に立ち止まり。首だけ此方へ睨む様に振り返ると……


「過去に怯え立ち止まるは個人の自由。ですが──(わたくし)は貴女と違い、日々前へ進んでましてよ?」


 それだけを言って、また他の展示品を見ようと歩き出す。その背中は堂々としつつも、足運びは静か。

 更に言えば、綱渡りをするかの様に左右の足を真っ直ぐ進めて行く。まるで貴婦人みたい……

 格が違う、生まれが違う、環境が違う。何と言うか──戦う前から気圧され、敗北したと錯覚する程。

 それと。わざと何か引っ掛かる言い方をする彼女に、沸々と沸き上がる何かを感じて追い掛けたッス。


「……あら。まだ私に何か御用?」


「用事と言うか何と言うか……って、これは」


 追い掛けた先にあったのは──沢山の種族が写った集合写真。彼女がパネルに触れると映像が拡大され。

 一番手前、中央ど真ん中で胡座をかいた人物へ。黒いロングコートに黒い髪、飲み込まれそうな黒い瞳。

 小説の七巻で読んだ、最終決戦前に撮ったと記載されていた内容に瓜二つ。ただ違いがあるとすれば……

 小説に描かれたイラストだと、必ずオメガゼロ・エックスの素顔は表記、扉絵すら無かったと言う点。


「遺品は残れど、顔は残さない。あの方が仲間や家族の為、唯一信念を折って写った写真」


「……小説でも、写真や記録に残る事は嫌ってたッスもんね。八巻でも契約で徹底してた位ッス」


「──成る程。全巻読破特典で此処への入場を許されたのね。えぇ、可哀想に」


「……?」


 彼女が口にする言葉は小説の七巻までを読んでいれば、誰でも分かる理由。故に同じ読者と分かり。

 八巻の事までポロリと口に出してしまう。すると此方に顔を向け、成る程と呟けば視線を写真に戻し。

 全巻読破特典とか、此処への入場を許された~だのは分かるッス。それでも、最後の可哀想に……とは?

 何度目かの疑問を抱いた直後。大きな爆発音と美術館全体を揺らす様な揺れに襲われ、尻餅を着く。


「余計な知恵を持つ命は罪をもう一度繰り返し──世界は再び、涙の日を迎える」


「大丈夫ッス……って、あの大きな揺れで直立不動?!」


「逃げたければ逃げなさい。まあ、逃げても不幸は必ず追い付き、絶望を突き付けるでしょうけども」


 何度も繰り返し起こる、爆発音と地震にも似た大きな揺れ。その中ですら彼女は威風堂々と直立を保ち。

 意味深な事を喋るだけ。その堂々とした言動に驚くウチへ向ける言葉は──冷たく突き放すと言うか。

 逃げたって何も変わらない。寧ろ何処までも追い掛けてくる不幸に怯え、絶望するだけ。と言い放つ。

 それでも……兵隊でも軍人でも無いウチに出来る事なんて、無いのが現実。だから──逃げ出した。

 背後から「哀れな娘」と哀れみを込めた呟きを聞きながら、美術館の出入口へ出た先の景色は……


「なん……ッスか。これは……」


 空飛ぶ鉄の塊(ミサイル)が開き、中から降り注ぐ黒紫色の粒子。逃げ惑う住民に降り掛かれば。

 粒子は空中で一点に集まり、あの小説にも登場した事の無い、生物と機械の融合体が現れ……

 住み慣れた街を左手の電動鋸で裂き、逃げ惑う住民達の恐怖を煽り進撃する光景の中……思い出す。

 「余計な知恵を持つ命は罪をもう一度繰り返し──世界は再び、涙の日を迎える」と言う言葉を。

 あぁ……漸く理解したッス。ウチら現人類も前人類史と同じく罪を繰り返し、滅びる運命なんだと。


「あ……あぁ……」


 ただ違いは……英雄(悪党)は前人類史に殺され、現人類史に救世主は全く居ないって事ッスね。

 怪物は一体だけじゃなく、大小含めて六体。確か他国は恐怖から怪物を作る研究中って、授業で……

 って事は、これは他国からの侵略戦争?!そう理解した時、目の前に降って現れた白い人型の怪物。

 ウチに向ける背中をゆっくりと此方へ振り向き、目が合い──力強く引き絞られる右腕。

 理解した。このまま振り下ろされる拳がウチを、トマトを潰す様に殺すんだ……って。



──ワールドロード・完結──

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