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ワールドロード  作者: オメガ
最終章・racrimosa
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招待状

 『前回のあらすじ』

 三騎士は各々の時代・世界へ送り返され、特にシナナメとコトハは数ヶ月、数年の時が過ぎた。

 愛娘や運び屋に運良く助けられた向日葵と再会を果たし、人里離れた山奥で娘と寿命を迎えた二人。

 闇納出現の理由たる呪神の存在が消え、母親のカケハと再会。更に後輩の少女と共に、道を進む。

 リバイバーや邪神達に自らが滅ぼした世界に戻され、ミミツは『概念』に出逢い──新たな道へ。



「……ハッ!!もしかして、寝落ちしてた?!」


 目が覚めると、いつの間にかウチは寝落ちしてて……右手には、ワールドロードの最終巻を掴んだまま。

 また眠気が襲って来て、重たい目蓋を閉じて寝返りをしふと目を少し開けたら、目覚まし時計が映り。

 時刻が七時三十分と表示されていた。…………七時半?!ヤバい!!今日は月曜日で学校のある平日ッスよ!

 慌てて起き上がり、パジャマから制服に着替えて部屋を飛び出し、階段を降りて居間へ駆け出す。


「おやおや、咲妃ちゃん。そんなに急いで誰かと待ち合わせかい?」


「待ち合わせも何も今日は月曜──祝日?」


「そうだよ。祝日は学校も朝練も、無かったんじゃないの?」


「……あ」


 リビングでは椅子に座り、お茶を啜るお義婆ちゃんが慌てるウチを見て、待ち合わせか否かを問う。

 月曜日、学校、朝練、遅刻。それらが頭の中を占拠してたのもあり、条件反射的に言葉を返す途中……

 お義婆ちゃんの後ろの壁へ飾られたカレンダー。祝日を意味する赤文字で書かれた──二月二十三日。

 それを見た後。祝日は学校行事や部活の練習も無いと言われ、勘違いしていたと漸く理解出来た。

 「朝御、飯用意するね」と台所へ向かうお義婆ちゃんの背中を見送ってから、静かに椅子へ座る。


「…………恥ずかし……」


「何か言ったかい?悪いねぇ。今、翻訳補聴器を外してるから」


 自分自身の空回りから来る羞恥心に顔が火照って……俯いて──小さくポツリと呟いた言葉。

 お義婆ちゃんは丁度翻訳補聴器を外してるらしく、内心聞かれなくて良かった……とさえ思う。

 翻訳補聴器──ウチらと人間が使う言葉は全く違う。だから、人間用に過去の遺物を再現する形で。

 小型の耳に装着する物(骨伝導イヤホン)を作った。慣れない人間の言葉で「ナンデモナイ」と言う。

 作ってくれた朝食を食べて、新聞を読んでると……美術館で過去の遺物・遺品展を開くみたい。


「過去の遺物や遺品の展示会……お義婆ちゃんは──行く?」


「お義婆ちゃんは…………止めとこうかねぇ。下手に見ると、未練と後悔が残ってしまいそうだから」


「……?」


 あの小説を読んだからかな?今まではこれっぽっちも興味を持たなかった過去──人類史の遺物。

 それがどんなモノで、どんな形をしているのか。実物を見てみたくなった……と言うのが本音。

 オメガゼロ・エックス──彼に関する遺品も展示されると書かれ、ふと疑問に思った事がある。

 彼に関する物や記録の全ては消えたんじゃないのか?その真偽を確かめたくもあったのも……本音。

 お義婆ちゃんの言った言葉、その意味をウチは──理解出来ない。未練と後悔が残るって、どうして?


「お義婆ちゃんはね……遠い遠~い昔。オメガゼロ・エックス様に救われた事があるんだよ」


「えっ?!本人に直接会ったの!?」


「えぇ。その時は仮面を被ってたから素顔は見れなかったけれど……とても優しく、厳しい方だったわ」


 そんな疑問を頭の中一杯に浮かべていた時……予想外の昔話を言うお義婆ちゃんに驚きの余り。

 両手をテーブルに乗せ、身を乗り出し押し迫る形で訊ねる。それに対し優しく、落ち着いた様子で。

 当時の体験を話す。続けて「心許せる者や家族には迷惑を与える事も時には必要」そう教わった。

 語るお義婆ちゃんは優しく微笑んでいて……何故か胸の奥がズキッと痛み、理由を適当にでっち上げ。

 ウチは家の外──夢想神社へと駆け出していた。街を一望出来て、ボランティア以外人気の無い此処へ。


「はぁ、はぁ、はぁ……」


 家から山中に在る神社へ全速力で走り続けたのもあり、息を切らす中──胸の内に居る『私』が呟く。

 「逃げ足だけは一丁前」と……分かってる。ウチは逃げたんだ。お義婆ちゃんを心から笑顔に出来ない。

 そんな自分自身と逢った事もない相手を勝手に比較して、嫉妬して……自己評価の低さから逃げた。

 神社の境内を越え、落ち込んだ気持ちのまま周囲を散歩すると。神社の後ろに山奥へ続く一本道が──


「未来さん?その先は立ち入り禁止区域。それ以上は立ち入れません」


「えっ?猫……紙……さん?」


 突然背後から呼び掛けられて、背後を振り返った先には──右手に木造の桶を持った猫紙さんの姿が。

 また掃除に来たんだろうか?そもそも、この街に立ち入り禁止区域があったなんて……初めて知った。

 縁側に移り、二人並んで座って遠目に見える街を無言で眺める内──改めて私自身の馬鹿さ加減に。

 ふと嫌気が差した。でも、何でだろう?この神社に居ると自然に気持ちが落ち着くし、安心する。


「あの、猫紙さん。あの立ち入り禁止区域には、何があるんですか?」


「私も詳しくは。ただ、酔って入った者曰く。無縁塚に囲まれたマヨヒガ(迷い家)、と聞きます」


「墓地に囲まれた……無人の家」


 落ち着いたからか。呼び止められてから疑問に思っていた事を、何処か遠くを眺める猫紙さんに訊ねた。

 此方に振り返る彼女の表情は──哀愁漂う微笑みに満ちていて、何かを後悔してる風にも見える。

 一度目を閉じ、作り直した笑みは普段見るものと同じモノに。そう気付いた時、小説で読んだ。

 ペルソナの四文字が思い出される中、禁止区域内部の数少ない目撃情報を話してくれた。けど……

 無縁塚。弔う縁者の居ない死者の為の墓。あの小説に書かれた主人公も、もしかしたら無縁塚に?


「それは──もう読み終わったんですか?」


「……うん。後日談まで読んで、後は気付いたら寝落ちして朝で」


「成る程。正義の反対は別の正義。故に相手の夢と希望を打ち砕く自らを悪と断言する」


 置いて来たと思っていた小説。猫紙さんに言われて、漸く右手に持ったままだと気付いた。

 物語を最後まで読んで寝落ちした旨を話すと、笑うでも馬鹿にするでもなく手渡した本を受け取り。

 ウチが寝落ちした文章を難無く読み進め、最後のページで読む手が止まった。本は余り知らないけど。

 最後のページって最後に~とか、作者のコメントが載ってる部分と思って読んでなかったな。


「……成る程。確かにこれは、強い批判が起きても仕方がない。図星を突かれ、反論出来ない者なら尚更」


「どう言う事ッスか?」


 両手で本を閉じ、感想を述べる猫紙さん。批判が起こった理由も納得した様子で噛み締め、目を閉じる。

 どう言う事かと訊ねれば、渡した小説を返され。猫紙さんが手を止めた、ラストページを開く。

 そこには……「この小説が世に出回っていると言う事は、愚者が蔓延っているのであろう」と始まり。

 「彼ら彼女らが拭った罪をもう一度人の血が犯す時。世界は欲望と滅びに満ち満ちて、星を殺す」と。


「……?」


「著者曰く。私達の遥か遠い御先祖様達の努力を今の私達が台無しにする為、この星は死ぬと書いてます」


「そんな……こ、と……」


 理解出来ない部分を、分かり易く噛み砕いて教えてくれる猫紙さんの言葉に、思わず反論の言葉を。

 そう思うも、過去に起きたウチの家族を殺害した事件や。今までも続いてる人間の超高額売買。

 ゴミのポイ捨て、治安の悪さ、マナーの欠如に事件の多さ。良くも悪くも弱肉強食の世界。

 確かに。図星を突かれて感情的に怒り、批判するのも分かる。分かるからこそ……分からない部分も。


「何やら、納得行かない様子ですね」


「うん。図星を突かれて、感情的に批判したからって。殺されるのはどうしてなのかな?……って」


「死因は全て頭部や上半身の消失としか、判明してません。もしかしたら──私達も」


「あ……そっか。この小説を全部読んじゃったから」


 納得行かない部分。キーワードは図星、感情的な批判、殺害。逃げず寧ろ殺してくれと群がった点。

 頭部や上半身の消失ってなると、高威力の魔法位しか無い。謎を解けば解く程に増える謎。

 猫紙さんの次は私達かも知れないって言う言葉は、確かにその通り。この小説──ワールドロード。

 それを全て読み切った者の前に現れる何者かに、殺される可能性だって捨て切れないのが現状。


「少なくとも。今週の土曜日から開かれる展示会へ行ってみたかったんですがね」


「猫紙さんも、過去の遺物に興味があるんッスか?」


「えぇ。歴史を正しく知り、私達が今後取るべき行動、結果を予測したいので」


 殺されるかも知れない……と言うのに、展示会へ行ってみたかったと後悔を述べる猫紙さん。

 今更歴史を正確に、正しく知ったとしても……何かが変わる事は無いのに。そう卑屈に考えてしまう。

 夕焼けを眺める猫紙さんの眼は諦めや不安と言った、マイナスを含んでいない。それを見てウチは……

 また私自身と他人を勝手に比較して、勝手に落ち込む。視る世界が違う、井の中の蛙だと自覚する。


「そろそろ未来さんの門限も近いですし。今日は解散としましょう」


「……うん」


 勝てない、勝てる見込みが無い。物知りで、面倒見が良くて、ウチが持ってないモノを沢山持ってて。

 気配りだって上手。今だって、ウチの門限を心配した上で言ってくれてる。その言葉に小さく答え。

 お義婆ちゃんが待つ自宅へ俯きながら帰った。赤いポストに眼を向けると──封筒が一つ、入ってる。

 挿入口から取り出して誰宛かを確認する。宛先人は……未来咲妃様、送り主の名前は美術館館長から。


「中身は……入場チケットと、手紙が一枚ずつ」


 白く長方形の封筒を開け、中身を確認。長方形の黒い紙に赤文字でウチの名前を書いたチケットが一枚。

 赤い紙に黒文字で「此度は小説・ワールドロードを全八巻の読破を記念しまして、ご招待致します」……

 一枚の手紙に昔話で聞く脅迫状みたく、大小様々な文字を切り貼りされた招待状。

 何故読破したと知ってるのか?この脅迫状まがいの招待状はどう言う意味と意図があるのか?

 それを確かめる為。今後の土曜日から一週間の間限定の、展示会が始まる美術館へ行く決心を決めた。



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