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ワールドロード  作者: オメガ
最終章・racrimosa
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後日談・Ⅲ

 『前回のあらすじ』

 元々住む、活動中の時代へ帰還する事に成功した紅心、シオリ、エリネ、ディーテと水葉の五名。

 だが水葉以外は『彼』に関する記憶を失い、遺跡の地下で第七の博士と遭遇後、各々別の道を進む。

 オラシオン解散から三年後。ニーアはその実力と医療の発展から有名になるも、誘拐されてしまう。

 そんな彼女を救うは大多数の記憶・記録から消えた『彼』……置き土産の私物と花に彼女は涙する。



 三騎士の剣士、妖刀使いのシナナメ。彼女は自身が元々住む世界、時代へ送り返されていた。

 それは『彼』が最後に与えた慈悲か悪夢か。だが彼女自身が闇納にスカウトされた年とは違う。

 愛用の冥刀が折られ、刀の持つ効果は徐々に薄れて過去の記憶も取り戻した故、違いに気付く。

 恐らく自身がスカウトされてから数ヶ月。もしくは数年経った後だと。それからの行動は早い。


「やはり……城は……」


 悪夢の様な隷属と自身を気にする向日葵との日々。冥刀の魔力や殿と姫の悪行を引き金に。

 暴走し崩壊した悪意と欲望渦巻く城は当然取り壊され……供養の為に神社が建てられていた。

 何気無く境内へ足を踏み入れ見渡す。元々城が建ってた為、敷地は広く観光客の人々も多い。

 耳を澄ませば、ガイド役の水色袴に白装束を着た男が此処で何が起きたか予想を交えて話す。


「昔此処に住む殿様、姫様は底無しに欲深いと聞く。コイツはあっしの単なる予想なんだがね……」


「不老不死……か。何故、人はあんな無間地獄を欲しがる……」


 若いガイドは当時の情報を頼りに、こうではないか?あぁではないか?と口八丁(くちはっちょう)に語り。

 足を止め、遠くから壁を作る観光客達を眺めながら、誰に聞かせる訳でもなくボソリと呟く。

 人の欲望は深く底無しにも思える。それは殿や娘の姫を思い返せば、嫌でも痛感し目を閉じる。

 変化──いや。取り戻した(感情)に思わず左手を胸に当て、良くも悪くも深い溜め息を一つ吐く。


「産まれ出ずる全ての命は等しく皆死を恐れ、遠ざけんとする。不老不死を求めるとは、生きる欲望じゃ」


「──!?……その先が、地獄でもか?」


「あい。人は後の大金より目先の小金に飛び付き、地獄を見る。遠い報酬より、身近な報酬を求め易い」


「そうか……そうだな」


 気を抜いてたとは言え、剣士として高い実力を誇る彼女に気配すら与えず隣に現れる白髭老人。

 薄汚れた灰色のローブを頭から深々と被り、呟きに対し自身の解答を述べる老人に驚き。

 思わず左手を背に伸ばす──が、冥刀はもう無い。深呼吸をして心を落ち着かせ、問い返せば。

 何時得るか不明な大金より身近な小金を取る者が多いと語り、右手に持つ杖で足下の砂に書く。

 そう言われ、再度殿や姫の行動を思い返し納得する。我慢と言うモノを知らず、即決決行だと。


「すまぬが……運び屋にコレを渡してはくれぬか?迎えの出発に間に合わなくてのぉ」


「何故見ず知らずの私に……いや、承った。それで、運び屋は何処に居る?」


 白布で巻いた小箱を渡し、運び屋へ渡してくれと頼まれるシナナメ。当然の反応を見せるも。

 過去の自身と決別する意味も含め承諾。運び屋の滞在場所を聞き、鳥居を抜け一度振り返る。

 しかし老人の姿は無く、何処からか「Moi moi(モイモイ)」と老人の声が聞こえた……気がしつつ。

 指示された場所へ向かうと、冥刀強奪の運搬をしてくれた鉢巻き男。他に女性二名が見えた時。

 娘を運び屋が注意し、侍女・向日葵に瓜二つで紫・桃・白の花を描く着物を来た女性が微笑む。


「あ……母上!!」


 予期せぬ形で娘の元気な姿を見、立ち去ろうとするシナナメに──母と呼ぶ娘に足が止まる。

 自身が母上と言う記憶すら切り捨てたのに。疑問が浮かぶも刀が折れ、効果が弱まったと認識。

 踵を翻し、息を切らし駆け寄る娘と顔を合わす。過去の件があり、中々話し掛けられない中……

 「あの時はごめんなさい!!」深々と頭を下げ謝る娘に、彼女も己の行いを謝り──二人は笑う。


「そうだ……運び屋、これを渡してくれと老人に頼まれたんだが」


「おうよ。ふむ……そんじゃあ、確かに受け取った。そんで──確かに渡したぜ?」


 ふと頼まれ事を思い出し、鉢巻き男へ小箱を渡す。白布には紙が挟んであり、宛先を確認した後。

 受け取った品をシナナメへ返す。不思議そうな顔をする彼女に運び屋は「アンタら家族宛だぜ」

 と言われ中身を見ると……人里離れた山奧に在る空き家の譲渡。証明書と大判小判が少々。

 すると女性は──「アンタはんを思う、えぇ人からの贈り物やないん?」と茶化す様に言われ。

 「……かもな」と返すも『彼』に関する記憶は無い。が──戦った強者を体と脳が覚えていた。


「嬢ちゃん、行ってきな。今がまだ平和な内に、おっかあとの幸せな思い出を作りな」


「せやせや。アタシもえぇ人見付けたし、幸せを満喫するつもりやさかい」


 元姫を送り出そうとする運び屋。確かに今現在は平和だが、また何時戦争が起きるとも限らぬ。

 鉢巻き男の左腕に抱き付く女性からも後押しされ、敢えて何も言わず頭を下げて立ち去る親子。

 その後……戦争は起きず、貰ったお金と自給自足の生活を満喫し。親子二人は刀の力で得た。

 不老不死がゆっくりと消え行く残りの余生を平和に過ごし──仲良く息を引き取ったそうな。



後日談・幸せな終幕──終



 三騎士・呪術士コトハもまた元の世界、数ヶ月先の時代へ跳ばされてから……数年が経った頃。

 呪神・珠沙華(ジュシャゲ)を封印していたお寺は可能な限りの修繕を果たし、再開していた。

 もう封印すべき呪神は存在ぜず、一族の掟や血の縛り等も無い。巫女や修行を求める者達にとって。

 また更生を促す相手に対しても好評な場所。そして……今日もまた、女性の悲鳴が山中に轟く。


「は……母上ぇぇ……流石に頭がヘコむってぇ……」


「っ──逆に私はアンタの石頭加減に、拳骨した右手が痛いわよ」


 紅白の巫女に着替え、目に大粒の涙を浮かべながら両手で頭を押さえ、母親に反論するコトハ。

 対するカケハも拳骨した右手首を素早く返し、門下生達が見守る中で自身も右手が痛いと呟く。

 そう──『彼』の持つバックルに保管された無数の魂達は肉体を取り戻し、元々居た時代で復活。

 理由は明白。原因たる存在を根本から破壊した為、歴史は『魔神王の居ない』世界を取り戻した。


「全く。呪術を無駄に使わなくなったと思ったら、今度はサボり?」


「サボりって言ったって……毎日毎日巫女修行に明け暮れてんじゃん!!」


 言い合う親子。その様子を微笑ましく見守るは、老若男女含む門下生達。止める者がいない辺り。

 これがこの寺の日常。カケハは門下生達へ「こうならない様ちゃんと修行する事」と釘を刺す。

 笑いが起こる中、コトハは不服そうな顔で門下生達に向け、目を細め……後輩の一人を見つめる。

 取り戻した平和な日常。闇納の存在が無かった事に成り、同時に消えた母親と一族殺しの罪。


(とお)~りゃんせー(とお)~りゃんせー。此処(こ~こ)はー何処(ど~こ)の細道じゃ~」


 その日の夜。コトハは童話を歌いながら木造廊下を歩き、どの部屋へ入る事も無く寺を散歩中。

 歴史修正前、呪神・珠沙華(ジュシャゲ)が封印されていた大部屋で足と歌を止め、部屋の奥を視──入る。

 部屋の左右端に灯りはない。が……奥には人影を映す灯りが一つあり、その背後へ足音無く近付き。


「行きはよいよい帰りは怖い~」


「ひっ!?」


 接近に気付かぬ人影の右耳へ口を近付け、囁く形で先程歌っていた童話の続きを歌うコトハ。

 余程集中してたか。それとも彼女が持つスキル・飛翔で常に数ミリ浮くが故に気付けなんだか?

 何はともあれ。相手は大層驚くと正座状態から振り返り、尻餅を着いたまま同時に後ろへ後退。

 コトハは相手が落とした書物を、昔ながらのお皿に火を灯した蝋燭が照らす中から手に取る。


「くひっ……アンタに修行する意思は無い。最初っから此処で封印中の呪術を掠め取る気だったんでしょ?」


「なんで……分かったのよ!!私は先輩と違って、真面目に修行してたのに!」


「真面目に?ぶっふぉ!!アレが真面目ぇ?鬱憤・憤怒・嫉妬……邪念が駄々漏れの状態でぇ?」


 右親指と人差し指で汚物を摘まむ様に取り、前後に揺らし左足で蝋燭付きの皿を前へ蹴り飛ばす。

 灯りに照らされる小学校低学年程の赤髪ポニテ少女。その表情は恐怖と言うより──睨みと怒り。

 真面目にやっていたのに何故分かったか?と苛立ち気味に問い掛ければ……流石は呪術士・コトハ。

 邪念と言った負の感情に人一倍敏感。表面上は隠しても内面は丸見えと煽りながら指摘し近付く。


「最初に言っとくけど……アンタに呪術士の素養は無い。こんな事をしても、墓穴を掘るだけぇ~」


「それでも──私は!!私を馬鹿にしたり、認めない奴らに復讐したいの!」


 少女に呪術の素養は無い。そう言い切り、呪術書を元々封印されていた木箱へ戻しつつ、再度煽る。

 すると少女の感情が爆発。ぶちまけた本心と言葉を聞き、コトハは歴史修正前を思い出す。

 一族の使命・掟を押し付ける母に嫌気を抱えたり、呪神を解き放ち寺を滅ぼしてしまった事を。

 呪術書を戻し終えると少女の前に立ち、視線が同じになる様に座り込めば顔を少女に近付け──


「アンタには、巫女の素質が十二分にある。それを腐らせるも育てるのも……アンタの人生」


「先……輩?」


「行きはよいよい帰りは怖い。アタシらの人生まだまだ長いんだし、無駄に焦る必要も無いっしょ」


「…………」


 呪術より巫女の素質が強い。活かすも殺すもその人の人生。そう語るコトハに疑問を持つも……

 再び口にする童話の歌詞。続けてまだ天命は遠く、無駄に焦らずとも良い。伝えるだけ伝え──

 来た道を戻るコトハ。だが……通路を曲がった所でカケハに遭遇。就寝時間は過ぎてると説教され。

 弁明をする彼女の声を聞きながら少女は封印の箱がある方へと振り向く。次の日の朝……


「ふあぁ~っ……もう、ぜってぇ~お節介としねぇー。善行したら説教とかさぁ~」


「コトハ先輩!」


「ん──ちょおぉぉっ?!」


 長い時間説教を受け、寝不足なのだろう。愚痴を溢しつつ朝食が並べられる大部屋へ向かう途中。

 廊下を歩く中。遠くから自身の名前を呼ぶ声、走行禁止の廊下に響く軽快な足音へ気付いた時。

 何者かが背中に飛び付き、顔面から廊下の床へ予想外の激突。痛む頭を押さえ起き上がると……


「私、カケハ師匠の弟子になります!!それからコトハ先輩と肩を並べて、先輩が誇れる巫女になる!」


 昨晩注意した少女が母親の弟子になる上、自身と肩を並べ、誇れる巫女になると言い放つ後輩に。

 コトハは後輩にあの『お人好し』に近い何かがある……重なる幻影から確信しつつ立ち上がり。

 「母上直々の修行は死ぬ程キチィけど?」と言えば少女は気合いを入れ「承知です!!」と返答。

 朝食へ向かうこの二人が後に、寺が誇る呪術士&巫女の最強コンビに成るのは……まだ先の未来。



後日談・先輩と後輩──終



 リバイバー・真夜・紅瑠美・ハスターの四名に連れられた其処は──建築物や生命すらない世界。

 それもその筈。此処はミミツが影の悪魔・チェルノボーグとの契約で滅ぼした自身の故郷。

 永遠に地平線だけが広がる故郷を改めて目にし──自身の犯した罪の重さ・大きさに座り込む。


「俺達は──もう行くよ。真夜達もやる事(仕込み)があるみたいだし」


「……送ってくれて、ありがと……」


 悪魔に唆されたとは言え、彼女自身が犯してしまった罪故に、慰めの言葉も口に出せぬまま。

 まだやる事がある邪神達に付き添う為、リバイバーは三柱と共に黒紫色に渦巻く穴へ消えて行く。

 正真正銘文字通りの天涯孤独。世界を犠牲にした代償であると受け入れ──立ち上がるミミツ。

 だが……今後は永遠に一人ぼっち。友達や自身に興味を示さない両親、口煩い村人すら存在しない。

 孤独に耐え切れず、黒いミミツの頬を白い涙が次々と伝い、無の世界に落ち続ける涙。


「ひっぐ……ひっぐ……お父さん、お母さん……世界中のみんな。本当に──ごめんなさい……」


 もう誰かと交わす平凡な日常すら永遠に無いのだ……と改めて理解し、泣きながら謝る中。

 誰も居ない筈の世界へ響くミミツの声に気付き、現れるは──レインコートを着た謎の『概念』。

 突然現れた人物に驚き、思わず泣く行為を止めてその人物を見上げる彼女を……相手も見下ろす。

 あなたは誰?どうやって此処へ?浮かぶ疑問を次々投げ掛け、話を聞くと──相手は言った。

 「色々と飽きた時、偶に一人へなりに此処へ来る」と解答。ミミツは懺悔の様に恐る恐る口を開く。


「あの──ね。実は私……」


「…………」


 『概念』に今までの出来事を話すも、相手は口を挟む事無く聞き……最後に彼女の過ちを叱る。

 目蓋を強く閉じ、叱責を受け入れたミミツは自分の犯した罪を贖罪する為、他の世界に渡り。

 世界を平和にすると、自身と目の前に居る『概念』に対し誓う。そして相手へ右手を差し出し。

 「私達、友達になりましょ」と彼女が言えば、顔が見えぬ相手はゆっくりと小さく頷き──


「…………」


「此処から持って行く物は何も……うぅん。此処での罪を背負い、この世界を救う手段を探さなきゃ」


 『概念』は声無き声で持ち物は無いかと聞けば、此処での罪を背負い別世界・この世界に平和を。

 その覚悟を聞き届けると『概念』は真夜が開いたモノと同じ渦巻く穴を開き、先に入って行く。

 ミミツは一度虚無の世界を振り返り「さようなら。今度戻る時は、全てを取り戻す時だから……」

 そう別れを告げ、心機一転。渦巻く穴の中で待ってくれていた『概念』と合流し新たなる世界へ。


「私も……『あの方』に脳を焼かれちゃったのかな?」



後日談・贖罪の旅へ──終

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