続く因縁と怒り・中編
「テメェの直感スキルには弱点がある。それはなぁ、知覚や反応が追い付かねぇ高速系だ」
「っ、その声。ベーゼレブルか……」
今漸く判った。爆炎弾の連鎖爆裂で前方へ注意を強く引き付け、瞬間的な加速で真っ向から掴みに来たのか。
確かに、高速系や時間停止は直感が働いても反応が追い付かん上、連続しての発動は二回が限度。ってか、壁が崩壊する程押し付けるな。
今回はプテラノドンにティラノザウルスの手足を付け足した様な姿かよ。真っ直ぐ立ったら軽く八メートルはあんじゃねぇかお前?!
「建造物より硬いとか、テメェの装甲こそ何で出来ているんだって話だよ」
「照準。ターゲット、ロック」
「丁度良い。テメェが着込むその装甲、アレに耐えられるか。試そうじゃねぇか」
不味いマズイまずい不味いまずい!!
バイザーに検知される右手の熱量、装甲が耐えても被弾時スーツに流れる電磁波で機能が停止する!
脱出と行きたいが、胴体と一緒に腕まで馬鹿力で捕まれてて抜け出せん。頼みの綱となる火事場スキル発動にはまだ、ダメージが足りん。
俺だけの力じゃ駄目だ。バイザーにスーツの機能が並び出でて、使えるのを指示してきた。
「充填完了。電磁光線、発射」
「さぁ、直撃して来な!」
「今だ。ヴァリアブル・エアダッシュ!!」
左手で固定されたDT-0の右手から電磁波光線が放たれたと同時に、ベーゼレブルは俺を光線へ投げる。奴の手から離れた瞬間。
森の神殿で得た機能を使い、落下先の斜め下ではなく横へ軌道を変え真っ直ぐ飛ぶ。後方から爆風と音が響く。
上手く行った、が爆風に押されて落下。慌てて背中の装甲を一部開きブースターを二基噴かす。……まあ、瓦礫の山へ落ちたんだがな。
「効果は一時的で距離も思ったより短いが、使い手次第と言う訳か」
今使える機能はエアダッシュとブースターの他に、両肘にある伸縮性の刃とスキャンの計四つ。
っ、流石に動かないとただの的。マシンガンみたいに電磁弾を撃たれて視界が砂嵐状態だ。
「消耗。エネルギー貯蓄炉の自家発電を行います」
「手短に訊く。此処を襲撃した理由は?」
「返答。それが、調律者様達の命令だからです」
「はぁ……ロボットのお前に訊くのはお門違いか。来い、またスクラップに戻してやる」
ある意味、機械らしい答えだ事。となると以前、四天王達と共に行動してたのも調律者の命令か。
魔神王や調律者、ナイトメアゼノ達の考えは分からんが、やれる事をやるのは何時も通りだ。
敵は正面のDT-0と右側に落ちたベーゼレブルの二体。逃げ遅れた民間人は可能なら救う方面で行く!
「確認。打撃戦へ移行」
「ハハッ。楽しいなぁ、そう思わないか、オメガゼロ・エックス!」
「何がだよ」
一方は地上で打撃、もう一方は空中から爆炎弾と槍みたいに鋭利な尻尾での攻撃。
乱戦は可能な限り、敵の攻撃を別の敵へ押し付けるのがベスト。出来る範囲でやってるが、アイツの尻尾は此方の装甲に傷を付けれるのか。
戦闘を笑い楽しむベーゼレブルの問い掛けに対し、疑問で返す。
「俺達生命は地球と言う肉体に寄生し、暴れまわる病原菌と駆除する抗体だ。違いと言えば学習もせず歴史から何も学ばず、ただただ同じ過ちを繰り返すだけ」
奴の言葉に漫画等を読んでいて思った事を思い返す。
悪役が正論を唱え行動するのに対し、主人公は「そんな事はない」と理想を掲げ解決しめでたく理想は叶う。
だが現実は当然違う。正論は人を追い詰めて殺す凶器であり、理想は人を蝕む甘い毒。そして──
「平和な時代? 一部の富裕層が多くの貧困層を貪る差別と弱肉強食時代の間違いだ」
「否定。学校で勉学し、個性を伸ばす必要」
「ハッ。個性は邪魔だ。学校ってのは社会を動かす歯車製造装置。男は死ぬまで使い潰し、女は子を産む機械だと政治家共は心の中で笑ってるぜ!!」
俺は戦い傷付きながらも、ベーゼレブルの言葉へ対して静かに肯定していた。
学校は鶏小屋だ。飼育し餌を与え、イジメから殺しにまで進展する。
調律者達は社会の裏から徐々に世界を手中に収め、全てを監視し制限する管理者になりたいそうだ。
「皆裕福かつ相手の上に立ちたいが余り、他者を裏切り騙し蹴落とす。愉快なモンだぞ、人間って奴はよぉ」
「不明。何故人間は、そのような事を?」
「思い通りにしたいのさ。己の欲望を満たす為に」
「そうだ。都合の悪い証言は黙秘や嘘八百の言い訳、映像なら青少年の教育に悪いと吠える。全く、こんな面白い玩具は他にねぇ!」
それをこの身で体感した俺は……俺自身が救うと決めた存在を人間と呼び、守る事にした。
故に見殺しや人殺しもした。悪を殺す為に自ら悪役へと落ち、黒い衣服を好んで着る様になった訳だ。コレがな。
勇者やら英雄なんざ糞食らえ。誰がなんと言おうが、俺は世界中に居る一人の悪人だ。
「全く、同感しかねぇよ!」
「うぉっ?!」
突き出して来た尻尾をギリギリ、顔面に突き刺さる紙一重で避け、両手で掴み思い切り振り回し。
距離を取ってるDT-0目掛け手放す。予想外の行動らしく、壊れた民家ごと巻き込んで真っ直ぐ激突。
本来ならストライ~クッ。とガッツポーズだが生憎此処は戦場、昔やったら手痛い反撃貰ったしな。
「探したぜ宿主様。てか、右側は避難地区じゃねぇか。押し返すなりしねぇと不味いぞ」
「気ヲ抜クナ。ホレ、飛ンデ来タ」
重傷者の輸送を終え、丁度良くゼロ達が戻り避難地区が近い事を教えられ、スキャンする。
距離は……百メートルちょい。まだ戦闘に巻き込む可能が十分高いな。上手く誘導するしかないか。
話していると爆炎弾が飛んで来た。試しに右肘の刃を最大まで伸ばし、素早く振り上げて切り裂く。
背に爆風が吹き付ける。刃は最大で約一メートルまで伸び、伸縮時間は一秒位。
「マダ来ルゾ」
「何っ!」
腕を振り下ろした矢先、青白い光が間近に迫る。直感が回避を促すが、数秒じゃ移動は間に合わん。
思わず両腕で顔を守る。咄嗟の行動としては正しい、けれどほぼ視界は塞がってしまう。
真っ暗闇が視界を覆い尽くし、身体中に走る痛みと弾かれた様な感覚が襲った。視界も砂嵐で見えん。
「悪イ……ナ。咄嗟デハ、守リガ甘カッタ」
「すまん、助かった。休んでくれても構わないが」
「イヤ。俺ハマダ、戦エル」
ルシファーが盾に変化し、ダメージを軽減してくれたんだ。スーツの機能が生きてる理由はそれだ。
休んで欲しいが戦うと言う。とは言え、あちこち被害は出ている為、そう言ってくれるのは嬉しい。
「マウント。このまま息の音を停止させる」
「乗っかるな。てか、押し負ける……オメガレーザー!」
腹部に跨がり首を絞めようと伸ばす両手を掴み、全力で押し返すも腕力は相手に分がある。
ゼロと交代したいが、ベーゼレブルの速度に対応出来ないし残り時間が十五分切ったから却下。
一か八か、額にある第三の眼へ魔力を一点手中させてレーザーを放つ。怯んでくれたら儲けモン。
「驚愕。私と同じく眼を使った攻撃手段があるとは」
「体を起こしたな。吹っ飛べ、アローナックル!」
「──!?」
技名なんて叫んじゃいるが、弓矢の動作を手に魔力を込めてやっているに過ぎない。
それでも胸元に直接叩き込んだディーテを後ろへ押し倒す威力程には高く、起き上がるのに十分な時間が稼げた。
「おぉっと。もう起きるのか? もう少し寝てても良いんだぜ?」
「親切は有り難いんだが寝起きが悪くてな。少し早めに起きないと頭が冴えないんだわ」
ディーテの次はベーゼレブルかよ。デカイ右手で軽々と掴み上げ……っ、握り潰す気か。
不味い、奴の口内温度が急上昇してる。一点集中させたビームを撃つ気だ! このスーツ、温度対策機能は無いんだぞ。
直撃したらスーツ内温度は真夏を確実に越える。クソッ、握り潰されるか蒸し焼きの二択か……




