後日談・Ⅰ
『前回のあらすじ』
最後の希望が敗れても諦めず、集った仲間達の活躍と策により復活を果たすエックス。
仲間達と繰り出す技、託された物、これまで影ながら支えてくれたサポートメカ達の助力もあり。
徐々に魔神王を追い詰めて行き、今回の旅で初めて魔神王の欠片を倒したスカーレット・ファング。
それを機械で武装強化&アイン・ソフ・オウルを装填した最後の一撃が……魔神王を捉え、決めた。
最後の一撃を決め──爆煙と土煙が立ち上る範囲と魔神王に背を向け、歩いて離れる。
その姿はオメガ・アーマー装備状態ではなく、一張羅の黒いロングコートに腕を通した普段の状態。
周囲や上を見上げれば、次々と崩壊して行く戦闘空間。これで終わった……魔神王を倒したのだと。
自身の旅も、遂に終点へ辿り着いたのだと痛感して軽く息を吸い、心を落ち着ける様に深く吐き出す。
「まだだぁぁ!!まだ、我は!」
「…………」
刹那。爆煙と土煙の中から飛び出しては標的の首を残った左手で鷲掴もうと、指に力を込める。
まだ、終わっていない。まだ戦える、まだ世界平和の願いを叶えていない。潰えぬ戦意、決めた覚悟。
一方的にして、誰よりも優しく押し付けがましい願い。大きく見開いた目は充血し、血涙が流れる。
しかし……その荒々しく燃え盛る心の焔は自身の左手が標的の首をすり抜けた事で理解し、足を止めた。
「貴殿……まさか」
『……恐らく、君は私の残りカスに話し掛けているだろう。だが、これを聴いている時、私は既に居ない』
「……音源はこれか。新月サクヤが耳に付けていた──通信機」
話し掛けるも、相手は振り返らない。足も止めず、声や何も届いてはいない。何故なら……
ワールドロードの眼に映っているのは、自身と死闘を繰り広げた彼の残滓。立ち去る背中とは違う方向。
自身の足下から彼の声が聴こえ、屈んで片耳専用の通信機を手に取って立ち上がり、彼女の物と理解。
内部電池の残量が減ったか。それとも爆風に弾き飛ばされ、故障したのか?音声は小さくなる一方。
右耳に近付け、続く言葉に意識を集中し目を閉じる。少し間延びし、言葉に詰まった様子が続き──
『君はもう自由だ。私同様、誰かに押し付けられた想いや理想に縛られる必要は……もう無い』
「……っ」
『私が倒したのは、君が理解しようとし、融合した人類の願望。後は──君自身の道を進めば良い』
流れた音声は、自身に絡み付いていた人類の願望を破壊し自由の身と言う内容。人類史で言うなれば……
牢獄で刑期を終え、外へ出られたと言うもの。もう、彼を縛るモノは何もない。何をするも自由だと。
理解──言葉と意味だけで聞けば良い意味に捉えがちだろう。しかし世の中には、理解しない方が良い。
理解してはならない真実、理解する事で逆に苦しんだり、自身が歪み変貌してしまう結果すら産む。
故に……君自身の道を進めば良いと伝えれば、通信機から流れる音声は途絶え、大きな爆発音が鳴り響く。
「っ……振り返れば、貴殿はいつもそうだ。相手の事情や立場を理解しつつ、その上で夢を破壊する!」
「そう。彼は理解されるのを諦め、理解だけは決して諦めず、苦悩し続け──泣き顔を仮面で隠し続けた」
「今漸く分かった……彼が倒そうとしていたのは我ではなく!!我を突き動かす……人類の欲望だったのか」
「……私達邪神には貴方を真に救う事は出来ない。理解はするだけ。彼だけが貴方を救う為、立ち上がった」
ワールドロードを魔神王にしていたのは……自らの星を穢した罪を償おうとし、全宇宙の平和を求め。
オーバーテクノロジーを作り出した上、運悪く魔皇の下へアクセスしてしまった人類を理解すべく。
融合に融合を重ね──無知無欲と言うキャンパスが、欲望・願望と言う絵の具で塗り潰され。
幾度も繰り返し上塗りされた為。貴紀は一度強制融合させられた際、それの渦巻く欲望を感じ……反発。
真に倒すべき相手、救う対象を理解し、エックスと成り立ち上がったと……少女姿で現れた副王は語る。
「彼は弱虫で泣き虫。産まれた時から障害を持ち、生きる上で脆弱な存在だった。それでも──」
「我を救う為に……立ち上がった?何故だ?!何故、己の命や存在を賭けてまで……っ!!」
彼を……生きる上で健常者や一般的な常人より生き難い存在と言った後。それでも──と言い留まると。
ワールドロードは、目から透明な涙を流し膝から崩れ落ちて荒野が如き地面に座り込む。
自身を救う為だけに立ち上がったと理解すれど……何故?どうして?と謎や疑問は深まるばかり。
「性格とは、環境が作るもの。彼の根幹には──祖父母と母親の優しさ、不足気味な愛情があった」
「……本当は心弱く……幼くて泣き虫な自身を理解し、愛する母親的存在が欲しかったのか」
「他者を傷付ける位なら、自身が傷付く方が良い。迫る敵を倒す度、彼は仮面の下で泣いていたのよ」
「ペルソナ……そうか。彼は!!長い間仮面を被り続けた結果!仮面が外せなくなっていた……」
祖父母と母親の優しさ、両親の不足気味な愛情を受け育った結果……自己犠牲の性格に成った。
本当は自身の弱さ不出来を受け入れ、包み込む存在を求め。傷付けるよりも傷付く事を良しとし。
本心を仮面で偽り、顔は物理的に仮面を被って泣いてる姿を見せない、見えない様に徹底。
偽りが顔と心に張り付き本心が見えず、本来の目的さえも心を覆う濃霧に隠れ、気付くのに遅れた。
「……何処へ行くの?」
「彼を探す旅へ。きっと──まだ、何処かで残滓が生きている筈」
「無駄よ。契約で依頼達成の有無に限らず彼が消滅すれば、彼に関する全ての情報・記録は抹消される」
無言で彼の残滓を追い掛け様とするワールドロードの背中に、副王ヨグ・ソトースが呼び掛ける。
すると振り向かず、力無い返答を返すと……一粒の希望さえも握り潰す様な、残酷で無慈悲な言葉を聞き。
足を止め──踵を翻し力強く地面を踏み締めながら副王へ歩を進め、白いワンピースの胸ぐらを掴む。
「何故そんな契約を交わした!!」
「彼が自ら望んだ事よ!!人類から自分が居た証拠を消してくれ……って」
怒髪天を衝く勢い、真剣な表情で副王相手に間近で怒鳴るも──彼自身が願い、求めた内容だと返答。
その言葉を聞き、再びワールドロードは膝から崩れ落ちる。きっと分かっていたのだ……と理解して。
自身に関する何かから人類が今以上の愚行と愚考を重ね──ナイトメアゼノ化の未来へ進む可能性を。
全ての宇宙と世界を救った英雄は自ら悪党を名乗り、人類に可能性を与えて消滅したのだと。
後日談・ワールドロード編──終
彼は真っ白な空間で目を覚ます。其処は重力も何もなく、突っ立ったまま寝てる様に浮かんでいるだけ。
白い空間に黒いロングコートは存在感が強く、彼の前へ近付くコートに付いたフード深々と被った少年。
小学校低学年程の少年は何も言わず、握手を求め左手を前へ出す。彼はそれに応え、握手を交わす。
「よく──走り抜いてくれたね」
「約束だからな。まあ……仲間の幾らかには、深い悲しみを与えちまったけれども」
「そうだね。君は──とても多くの存在を救い、求められていたから」
少年は口を開き、走り抜いてくれたと褒める。彼は約束であり、契約だからと返す一方……
残した仲間達に与えてしまった、自身の消滅と言う深い悲しみの結果に顔を曇らせる。
敢えて少年は否定せず、これまで歩んで来た旅路。その中で救い、求められて来た結果だと言う。
本来なら褒められて嬉しい表情をするのだろうが、彼は悲しみに満ちた申し訳無さげな笑みを浮かべる。
「さぁ、もう行っても良いんだ。君の魂は磨耗し続け、輪廻転生さえ耐えれるかすら怪しいけれど」
「……あぁ──行ってくる」
少年は握手する自身の左手に右手を重ね、彼の手を包みながら諭す様に、母親が子を見送る様に言う。
まだ……何かやり残した事でもあるのか。彼は進言を受け入れ、手を離すと突如現れた黒と赤の駅へ進む。
何も言わず、少年はただ、長い長い旅路を終えた彼の背中を見て微笑む。まるで、何かを理解した風に。
「君は新しい可能性を作った。君の活躍と冒険は人類史に残らない。けど……僕達には永遠に残る」
右腕の肘を曲げて右手を上に向けると……無数の小さな黒い光が集いて八冊の本と化す。
その本に刻まれた物語のタイトルは勿論──『ワールドロード』。世界の道を旅し、冒険するお話。
八冊の本は自らの意思で揃って何処かへと一直線に飛んで行き、それを見送った少年は彼へ目を向け。
口を開き「君の眼と知恵を通して視た世界は……とても素晴らしく、醜かったよ」と呟く。
「哀しい……勇気だね。傷と孤独に立ち向かう為に七つの別人格を生み、今度は罪も受け入れるだなんて」
少年は彼の勇気が哀しいモノだと語る。心の傷から自分自身を護り、立ち向かう為だけに生んだ別人格。
それがゼロ・霊華・ルシファー・紅絆・天皇恋・賢狼愛・天野川静久の七名で、対象を上書きしたと。
戦闘で使っていた融合も、当人からすればシャドウ部分と遜色無く、心労も強かっただろう。
更に七つの大罪をも受け入れる事になり、最後の融合など自己否定したい部分を全て直視する必要も。
憧れは『あくがれ』。望む他者に成りたい自己否定。少年はポケットから一枚の長方形の紙を取り出し。
『DUE TO VARIOUS
CIRCUMSTANCES ORDER A REDO』と書かれたチケットを──破り棄てる。
後日談・エックス編──終




