看破
『前回のあらすじ』
遂に始まる──魔神王との戦い。猪突猛進な魔獣形態の突進を難なく躱すも、其処は天井や壁すらも見えない真っ白空間。
超音波を発する技で空間問題を攻略。続けて弾幕を回避すれど、背後からの奇襲に対象出来ず、緊急装着されたパワードスーツにも亀裂が発生。
愛専用sin・第三装甲に救われつつ、イフリートと命名された相手と音速で攻防を繰り広げる二人。
サクヤの援護もあり、一度は倒すも即時復活。絆専用装甲に切り替え、イフリート改め──イフリートシャドウと再度命名。再び勝負を挑む。
「欺いて壊す!愛するから殺す!利用し、裏切り、この平凡な人生から!!平凡以下の人生から成り上がる!」
憎いやら認めろだの、愛し守り救って等と被害者側発言を言ったかと思えば、今度は加害者側発言。
シャドウの集合体と理解済みだから納得は行くが……初対面やら理解してないと支離滅裂な精神異常者か。
相当ヤバいキチガイと思われる。コイツも、無限に増え続ける可能性世界の被害者なのかもな。
それはそうと……何をするにしても今は暴走を始めた魔神王を強引にでも倒し、落ち着かせねば!
「どうするの?倒してもさっきみたく復活され続けたら、幾ら私達でもジリ貧で押し込まれるわよ?」
「それは理解しています。ただ、その仕掛けを理解しない事には──っ!!」
蘇生後、不安定状態になった魔神王を見てか……サクヤがどうするのかと此方に訊ねて来た。
どうするもこうするも、ジリ貧へ持ち込まれる前に奴の蘇生・復活の条件等を理解しない事には……
何度倒せても結果は同じ。絆が言い返す中、突然発生した竜巻に巻き上げられてサクヤと分断され。
竜巻の中心に居るシャドウへ向かう為エイド・マシン、フェニックスで突っ込み、加速した瞬間……
突如急激な減速が起きWARNINGの文字と体中を掴み、纏わり付く存在がバイザーに表示される。
「羨ましい……許せない、僕も欲しい」
「……ではお望み通り、差し上げますよ」
「ぎ──ギィヤァァァ!?」
小さな人の上半身を真似る黒い液体の正体は……竜巻を巻き起こす魔神王から漏れ出たシャドウ。
子泣き爺紛いの行動と糞餓鬼も同然な要望で此方を羨ましがり、勝手に許せないと言い、欲しがる。
少し間を空けて考え……経験を分け与えてやった結果。強酸でも被ったかの如く蒸発し始めた上。
断末魔の悲鳴を上げ、蒸発して消え失せた。まあ要するに──『隣の芝生は青い』って話だ。
光の栄光しか見ない阿呆共め。その光が救いではなく、破滅と破壊を与える可能性だと何故考えん?
「実の父親に何度も棄てられ、殺され掛けるマイマスターの経験は……流石に耐え切れなかった様ですね」
そう。あの餓鬼共に分け与えてやったのは、自分の死に繋がる幼少期から小学校までの体験。
そして──魔神王が望む理想郷に最も不必要な不純物。まあ未練と言えば、親父を殺し損ねた事か。
拘束するシャドウが消えた為、改めて竜巻の中心で棒立ちの魔神王へ超音速の加速状態で突撃。
頭の鋭利な角で奴の土手っ腹を突き刺し、そのまま渦巻く暴風を突き破って押し出す事に成功。
「生きたくない、死にたくない、楽になりたい……死ねぇぇ!!」
「支離滅裂の情緒不安定──っ?!」
押し出している時。自殺衝動に駆られる者が抱え易い症状、苦しみの原因を取り除く攻撃的な意識。
その叫びが轟く中、何かを聞いた瞬間──突然減速……いや、加速が無くなり無防備状態で停止。
何が起きたか理解の追い付かない此方に魔神王が視線を向けた途端、第二・第三装甲の融合が解け。
敵の眼前で突然の強制武装解除&強制送還に頭の中は大混乱。……まさか、話に聞いた奴の能力か!!
「全てはZEROに始まり……ZEROに終わる。我が固有能力は──全てのZEROを操る力」
話の内容から察するに、魔神王は数字のZEROを操る。単なる予想だが奴はスーツの残り時間……
即ち六分。丁度三百秒で能力を発動し、数字のゼロを二つ取り除いて残り三秒に操作したのだろう。
確かに全てはZEROから始まり、終わればZEROに還る。成る程、副王達が自分に頼る訳だ。
「援護するわ!」
「援護射撃等無意味」
「私の撃った弾丸が……着弾寸前に消失した?!」
何もせず、ただ此方へ視線を向ける魔神王の背中へ狙撃銃を構え、後頭部や左背中へ三発ずつ発砲。
しかし撃ち出されたマナを凝縮した弾丸は対象へ近付くにつれ、速度と形状を失い自ら消滅。
先程と違い、視線を向けて発動と言う訳ではない様子。ならば、常時発動型と見るべきか?
だがそれだと、先程まで攻撃が通じた理由には繋がらない。脳内を駆け巡る情報に頭は更に混乱。
……?事前情報があるとは言え、何故アレが奴の能力だと断定した?抑圧した性格や欲望、感情……
「見抜いたぞ、魔神王!アンタの固有能力はZEROを操る能力なんかじゃない。無意識を操る能力だ」
「無意識を?それがZEROを操る能力と、どう勘違いされると言うの?」
「仕掛けは単純。奴は此方の無意識を操り、条件反射的な攻撃を誘導し自ら攻撃を外させる」
数多の経験と長い旅の先で成長した心が魔神王の固有能力を看破し、伸ばす左手が奴の右手を掴む。
熱い!!手の皮膚が焼け、神経が悲鳴をあげる様に脳へ痛みの信号を瞬時に、継続的に送り続ける。
マナで保護してこれだ。平気そうな顔を痩せ我慢と意地で見せ、サクヤの疑問に答えつつ義手に──
マナを込め魔神王の顔面を殴り飛ばす。同時に全力の威力に耐えられず、思わず左手を離す。
「……初めてだ。誰かに手を握られたのも、顔をぶん殴られた……と言うのも」
「っ……だろうな。目ぇ覚めたか?覚めたならその序でに──抑圧したモン、全部吐き出せ!」
無機質な義手に意識・無意識は無く、効果の範囲対象外と確信出来たが、二度目が通じるか怪しい。
と言うか、全力のリボルビングインパクトを顔面に受けて仰け反り無しとか……どんな耐久力じゃ。
左手は完治後まで攻撃に使えない。が──それを知られたら左側を重点的に狙われるのは明白。
故に──二等一対の姉妹小太刀。麒麟・白姫と黒姫を呼ぶ為、マナで両手に緋色の雷を発生させ。
「未知なる明日を切り開く為、天裂き轟く雷纏いし刃にて──安定と言う今日を破壊し焼き尽くせ!」
「黒き新月纏いし刃よ。漆黒の衣で真実を覆い隠し、舞台劇に幕を下ろせ──No Life Queen!!」
自身を鼓舞する言葉を叫び、両手の雷を目印に現れる姉妹刀。口元に召喚された破王の柄を咥える。
サクヤも右手に持つ狙撃銃を頭上に掲げ、詠唱を唱えれば……光沢すら闇に飲まれた銃が刀へ変化。
右手に真紅、左手に蒼白、歯で咥えるは白銀の刃。今出せる最善策はこれしかない!
奴の前後から挟み撃ちと──今度は能力を使わず、高速で此方の連撃を最小限に避ける。
「今度は──能力を、使わないっ……のね!」
「性格には使えないっ……使っても意味が無い、ってのが正しい!」
「…………」
自分が前衛で斬撃や打撃を繰り出し、背後に居るサクヤが此方の攻撃後に発生する隙をカバーにと。
後ろから横へ飛び出し、攻撃の動作で姿勢を低くした瞬間に自前の拳銃や刀で追撃&フォロー。
繰り返して見切られる頃、前後役割交換。相棒が飛んだ直後に両手の小太刀による突きを繰り出し。
防ぐor避けたら時間差でサクヤが上空から降下し、更に追撃。左手に装備済みの人形遣いの指輪。
姉妹刀を指輪から伸びる不可視の糸を通した雷で遠隔操作し攻撃、空いた右手に朔月を持ち撃つ。
「……オメガゼロ・エックス。貴殿はこの連携を我に対策させぬ為、敢えて構成を無視し続けた訳か」
「臆病な性格でね!確実に倒す、他に目撃者が居ない状態でないと、真の切り札は切らない口でな!」
「貴紀が目立ってくれたお陰で──私は潜入捜査や情報収集が容易になった。ある意味、構成通りよ」
魔神王が言う通り、元々自分とサクヤは互いの短所を補い合うのが基本だが……敢えてそれを無視。
相手に連携情報を与えず、逆に相手の情報を探る。その分、自分の攻略難易度は爆上がりだがな。
それでも、人間として成長する為に必要だった。でなきゃ、魔神王と初めて相討った意味がない。
此方の速度に慣れたのか。魔神王は猛攻を足の軸移動や上半身を捻る最小限の動きで避けながら。
此方へ手足の爪による切り裂きや掴み、回避行動の隙を防ぐ様に弾幕まで撃ってくる始末。
「何……ッ!!」
「きゃっ!」
辛うじて隙を突き、奴の両眼へ姉妹刀の先端が命中した……が、刀と腕の震えが止まらない。
直感が見せる死の未来を回避すべく大急ぎで距離を取り、武器を背に一歩後ろへ跳んだ瞬間。
双方の間で不可視の爆発が起き、強烈な爆風に吹っ飛ばされ自分は踏ん張れどサクヤは間に合わず。
バランスを崩し、倒れるところを左腕で支え、言葉よりも互いの顔を見て頷き構え直した時──
「「──?!」」
「我が能力を看破したのは素直に褒めよう。だが……見落としている部分がある」
「まさか、能力の複数持ち?!例えそうだとしても、能力に偏りが……」
「あるだろう?能力複数所持の抜け道と、黒き月の隣に解答者が。我も似た事をしたまでよ」
武具からマナが消え、自我を持つ姉妹刀は伝達機能を失った指輪の糸と共に下へと落ちて宙吊りに。
挙げ句の果てには自分達の足場も一瞬で消え、慌てて際設置し転落を免れたのを見届け……
奴は口を開き、嬉しげに話す。サクヤは発言から気付き、能力複数持ちの苦悩──偏りを話すも。
全てを言い切る前に、抜け道を看破した解答者を……右手の人差し指で──自分を指し示す。
「能力は個人に一つ。だが……彼は魂を分割し、再度融合した事で抜け穴を見付け、複数持ちを実現した」
「……アナタも同じ様な再現をした。と言っていたわね」
「似た様なモンをな。我は敢えて個体を産み落とし、汝らに倒させ、獲得した能力と魂を吸収していた」
そう、能力は個人の魂に一つ。魂が複数あっても、誕生時に得る能力は一切の例外無く一つだけ。
魔神王が言う通りだが……自分は誕生後、もといゼロとの融合後にデトラやアインの二名が帰還。
予期せぬ、想定外の複数持ちを実現した。相棒は奴と会話をしながら思考を巡らせ弱点を探す。
視線に気付いた上で敢えて無視。如何に自身が此方と似た方法で複数持ちを再現したかを語る。
なら今まで倒して来た融合神イリス達や終焉の闇メンバーが持つ能力を……習得している──と?
「感謝するぞ、オメガゼロ・エックス。貴殿のお陰で我は──また、限界の壁を越えれる」
「──ッ!!」
獲物を狙う鋭い目付きで目を閉じ、開く時。優しい……信頼する親友や愛しいペットに向ける様な。
そんな眼差しと感謝の言葉を向け、全身から黒い泡が吹き出し続けて弾け飛んだと思いきや……
其処に居る魔神王は全身が黒く、フルフェイスの西洋兜を頭に。痩せこけた人体を思わせる体へ。
パッと見はヒョロガリの勉強野郎と思うが──現実は違う。コイツ、まだ変化を残してる!
「貴紀……アレに勝つには、ファイナルフュージョンしかないわ」
「分かってる。十のペルソナと罪を融合して挑むしかない。ファイナル・フュージョン!!」
恐らく……本気と成った魔神王の底知れぬ恐怖心と存在感から此方も本気で挑むべきと言うサクヤ。
それは重々理解してる。だからこそ今──分離した十の別人格を再び受け入れる時だと心に決め。
左手の甲で緋色に輝く太陽・勇気の紋章を相手に見せ、最後の融合を宣言。
勇気の紋章に重なり集う絆達が持つ八つの紋章。自分に重なる十の別人格と罪を背負いし装甲達。
それらと融合を果たし──今、改めて『私』は再び魔神王の前へ立つ。未知なる存在として。




