人生と言う道
『前回のあらすじ』
チェルノボーグと戦う邪神三名。だがそれは戦いと言うよりは遊び。それ程に次元が違う実力差。
何故魔神王はお前達邪神を警戒しないのか?と疑問を投げ掛けるも、魔神王は自身ら以上だと語る。
更にエックスは魔神王の天敵として最誕、元友人は魔神王の血縁者。三名はギャグ空間を広げつつ。
三名の攻撃で不老不死のチェルノボーグを魔力吸収効果のルナ鉱石へ封印に成功するのであった。
結晶塔内部は万華鏡やテーマパークで体験した、ミラーハウスの様な空間だと勝手に決め付けていたが……
実際に見てみると『何もない空間』としか言いようがない。いや、正確には『何か』はあるんだ。
真っ黒な空間にある、足場の一本道だけが照らされている。とは言えど……これを道と呼んで良いものか。
「貴紀。この暗闇、貴方のスキル・スレイヤーで周囲を見渡せそう?」
「……無理だな。普通の闇じゃない。この闇は生前からよく知ってるし、何度も目にしてるから分かる」
道の幅は成人男性一人分程度。しかも底まで伸びてる訳ではなく、サーカスの綱渡り宜しく宙ぶらりん。
材質は凝縮させて固めた土っぽいが、所々欠けてたり亀裂が入っている為、安全とは言い難い。
追加で言えば此処の闇に触れると希死念慮に襲われ、触れずとも進めと照らす先は垂直型の山登り。
そう……生前に何度も此処へ訪れ、死を願いオーバードーズや包丁で自分自身の左胸を刺そうとした事か。
「この崖を登るしか──道はなさそうね」
「道はあるんだ。ただ暗闇に『視界』を、常識に『可能性』と『選択肢』を塗り潰されているだけ」
「……詳しいのね」
「まあな。生きていれば、大抵は条件を揃えて『此処』へ辿り着く。自分は来る頻度が人より多いだけ」
断崖絶壁とも言える、約九十度角の崖山を登る選択肢を選ぼうとするサクヤに待った!
と言う形で他に道はあると伝え、見えない理由や標識があっても通れません。とばかりに塗り潰され。
発見出来なかっただけと話せば少し間を空け、彼女自身全く知らない場所・現象に詳しい此方へ。
然り気無く疑問を投げ掛けて来たんだが……理由は簡単。自分は何度も繰り返し、此処へ訪れていたから。
「正直な話。人間個人差があるのを理解してない、してても決め付けている奴らが多いのも事実だ」
「……?」
「此処はある意味、第三のワールドロードなんだよ」
だからこそ分かる。自分は自分、他人は他人と言う言葉がある様に、人間とは全く同じじゃない。
ステータス、性格、好み。限りなく似通った部分はあれど、異なるのが人間。なのに──決め付ける。
話の意図が理解出来てないのか、首を小さくかしげるサクヤ。なので説明は省き、答えを先に伝えた。
すると少し間を空けて考え、納得なり理解なりしたのか。小さく頷き此方へと視線を向け直す。
「確かに、人間の人生は数多に枝分かれした道だものね」
「一番厄介なのは、他人や友人、親・親戚等の他者からの善意・悪意を問わぬ介入なんだよ」
「そうね。当人の行き先へ一々文句やら自身の常識を押し付けられるって、選択肢を狭める原因よね」
己が人生の主人公は己自身。人生と言う世界の数だけ、無数の道がある。介入──またはお節介。
当人が運転する車や漕ぐ船へ勝手に搭乗しては、運転手の行き先や、やりたい事へ無責任に口を出す。
自身の行動が成功すれば「運が良かっただけ」と言い、失敗なら「言った通りにしないから」と言う。
極めて無責任かつ無自覚な人殺し常習犯。まあ……介入者はその事実を否定するだろうがな。
ふと気付き、自身の首に左手で触れると……鎖付きの首輪がある。首を覆う小型の物が複数個。
「貴紀?どうかしたの?」
「サク……ヤ?」
名前を呼ばれ、心配する相棒へ振り向いた時──彼女にも首輪がある事に気付き、思わず疑問系に。
視線を手元に向ければ、右手には此方の首輪に繋がった鎖が一本。自分の右手には『父親殺害』が。
左手には『近親殺人』……うん。確かに生前、現在共に血の繋がった他人は殺したい程に嫌いだ。
俺は親の操り人形でも、都合の良い銀行でもない。頼られる行為は嫌い、任せられるのも嫌い。
一人が好き。落ち着く音色のクラシックは大好き。それを邪魔する連中は親であろうと……殺意を覚える。
「私を敵視してる表情だったけど」
「あぁ~……いや、うん。此処に来るのは久し振りで、感情のコントロールが不完全みたい。あはは……」
「そう?なら、良いんだけど」
言われて気付く。何故か、サクヤとアレを重ねていた事に。そりゃあ敵視もする。アレは──
自分が改名をしたい理由であり、初めて人を心から殺したいと真剣に思った相手なのだから。
けれど、それを伝えるのが怖い。自分勝手な決め付けから思わず嘘……ではないにしろ、本音を隠した。
心配そうに此方を見る彼女の眼を直視出来ず、目を逸らして乾いた作り笑いで返す。何をしてるんだか。
「辛かろう。幾ら勇気を振り絞り、歩み寄ろうとも。汝の心境とは真逆に、簡単に否定されると言うのは」
「誰?!」
「理解等されぬ、求めてはならぬ。故に我は融かす。肉体を、心を──全てを、一つに」
「この声……魔神王オメガゼロ・ワールドロードか!」
勇気が出ず、自分勝手な決め付けで心閉ざす自分自身に嫌気が差す時──此方の心境を見透かす様な。
されど理解され、心の中に広がる濃い霧が少し晴れる様な……理解者が居る嬉しさと心強さを覚えるも。
サクヤの何者かと言う問い掛けに我を取り戻す中、話を続けるオメガゼロ・ワールドロードの声。
辺りを見渡し呼び掛けるも、返事はない。寧ろ照らされていた足場が闇に覆われ、身動きが取れない。
「哀しみ等不要。憎しみ等不要。不要は不純物、不純物は除去。責任を取らぬ者、社会等は不要」
「何を馬鹿な事言ってるのよ!」
「…………」
哀しみは感情を沈め、心に雨を降らす。憎しみは感情を滾らせ、心に火事を発生させエネルギーを喰う。
馬鹿な事──と真っ向から切り捨てるサクヤに対し、自分は思うところがあり、俯いて足下を見る。
仕事でミスる度、怒られる度に何度も思った言葉……『心なんて無ければ良いのに』を思い出す。
無責任なアドバイス、助言に何度苦しめられたか。何度……相手を恨み呪ったか。過去に浸り、続く沈黙。
「戦争も、比較も、決め付けも一切無い。全ての世界に完全なる秩序を!!永久に続く平和を!」
「魔神王……アンタ、可哀想だな」
悲愴と憎悪を生み出す戦争。マウント合戦で優越感と劣等感を生む比較。他の選択肢を奪う決め付け。
全人類が秩序を、ルールを守り続ければ、平和が永遠に続くのだろうか?多分……答えはNO。
例え全人類が秩序とルールを守り続けたとしても、自然に人工的なルール等関係無い。
災害が人類を襲う。それを踏まえた上で魔神王の背後に居る存在が見た時、可哀想だと思わず口にでた。
可哀想なのは──背後に見える存在じゃない、魔神王だ。コイツは余りにも、救われなさすぎる。
「……我が力を盗み取りし反発者よ。何故我の邪魔をする。我が前に立ち塞がる?」
「数多の旅路を通し、アンタの間違いを正そうと思い直したからだ」
「…………反発者。貴殿の計画と結果を視るに。我へ向けられた言葉と意味を、そっくりそのまま汝へ返そう」
「悪いな。蛇は執念深いんだ。一度怨めば成し遂げるまで死んでも忘れないし、実行し続けるからな」
此方の言葉に反応してか。話し掛けて来た魔神王は何故、どうしてと疑問を投げ掛けて来た。
最初はアンタの計画が余りにも無謀過ぎるのと、自己満足かつ一方的だったから止めたかった。が……
ワールドロードを通して数多の出来事を経験した今は違う。アンタの勘違いや思い違いを、正す為。
そう返せば──此方の未来を視たらしく、吐いた言葉をそのまま返された。まあ結果と結末を知れば。
大抵は言い返される。でもな……俺は何年、何十年前の怨み辛みも復讐を果たすまで忘れない。
「……反発者であり復讐者、別人格にして偽装者。成る程……流石は『ジャンク』だ」
「ジャンクだって使い方次第だ。オメガゼロとしても、そうなる前も。狙いはずっと同じだ」
発言的に、此方の正体を見抜いたであろう魔神王。敢えて返すなら人類は『何にでも成れる』存在故に。
学園にいた頃、フェイクにジャンクと呼ばれバレた?!と驚いたが……違った。ある意味正解だったがな。
両手の本を奈落の底へ落とし、此処の原理を覚え、右手に『親を殺す「ふつうの子どもたち」』を生成。
全人類、全世界平和の為に~とは言え、俺を取り込んだのが運の尽きだ。俺は──スレイヤーだからな。
「……世界の未来を守る為──貴殿だけは確実に倒し、抹消せねば成らぬのか」
「あぁ。スレイヤーなんぞ、アンタの求める世界には不必要な不純物だからな!」
周囲が闇に覆われた直後。全ての闇が目の前に集い球体と成りながら世界や未来の為、俺を倒すと宣言。
あぁ……これで良い。魔神王を倒すのに、自分は奴の事を知り過ぎた。敵を倒すなんざ、赤の他人で十分。
でなきゃ、余計な情が湧く。正義の反対は『別の正義』、故に──『殺す事』が俺の正義と言える。
闇の球体は四足歩行で、筋骨隆々な……トリケラトプスを思わせる三本角を持つ真っ黒い何かへ変貌。
右前足で何度か足場を蹴り、一本道を全速力で走り此方へと突っ込んで来る。回避は……間に合うか?!




