未来永劫
『前回のあらすじ』
進行を妨害・阻止しに降り注いで来たのは、三騎士・ミミツ。だが彼女自身は白目を向き意識無し。
貴紀達を結晶塔へ送り飛ばし、現場に残る邪神達三名が迎え撃つは──彼女が契約した影の悪魔。
ミミツが世界を対価に出し、得た惑星規模の膨大な魔力を拳に纏い、立ち塞がる邪神へ打ち込む。
勝ったと認識し、高笑いをするも……三名は全くの無傷。寧ろ逆に全身を風に裂かれるのであった。
「さあ──とっとと終わらせて貰らうわよ。此方も緊急の用事があるから」
「ナイスキャッチ……前世は神の手をやってた?」
「それは前世に稲妻十一でマジン役をやっていた。と言う意味か?」
眉間を踏みつけている左足を退かすと同時に爪先を顎に当て、誰もいない前方へ蹴り飛ばすナイア。
冷めた目線を向ける三人の前で影を集め、両手を作るや否や蹴り飛ばされ、縦に高速回転する頭目掛け。
サッカーのゴールキーパーさながら左右から挟む様に掴み、ホッと一息。影で作った体へ付け直す悪魔。
右手でグッドサインを作り、ネタを挟む紅瑠美に遠回しなツッコミ……と言うか、質問を返すハスター。
「とっとと終わらせる……だと?!貴様ら風情が、惑星規模の魔力を得たこのチェルノボーグを──っ!?」
巨大な図体故に三人を見下ろし、沸き上がる怒りのまま言葉を吐き出す悪魔は相手に自身との格の違い。
所有する魔力の差を見せ付けようと放出する中──気付く。否、気付かされる。自身が挑む相手の規模。
誰を相手に行っているかを。威嚇・威圧の意味で放出した魔力。それを容易く上回る圧倒的な何か。
感じるのは魔力や霊力ではない。そんな『子供遊び』の範疇を超越した、感じる事すら許されぬ威圧感。
『次元が違う』と言う表現が正しい。が……感知出来る程度に実力を控えた途端、重圧に押し潰される。
「ば……馬鹿、な。これ程の力を持ちながら、何故……我らが母が脅威としなかった……?!」
「その疑問に対する答えは至極簡単……」
「あぁ。我ら等、脅威と感じぬ程度と言う事だ。魔神王に取って我らは……別次元の存在だからな」
「三次元が二次元に干渉出来ないのと同じ様に──但し、貴紀達だけは別。あの子達は運命に選ばれた」
目の前にし、直に感じる圧倒的な実力差。普通に考えれば、真夜達邪神勢を一番の脅威と視るのが正解。
チェルノボーグの疑問は正しい。その問いへ答えを出す紅瑠美とハスター。気になる単語──
別次元の存在。補足をする様にナイア姉が口を開き、運命に選ばれた自分達だけは別と言う。
『達』と表現したが、他には誰が居るのだろう?そう考えた時、思い出したのは……元友人の拓。
オメガゼロと成る前の生前、成った後に幻想の地へ向かう前、辿り着いた後。アイツは共に居た。
「運命って残酷よね。世界や概念にすら干渉して、天敵を生み出す」
「──っ!」
「魔神王の天敵とは……自身から誕生したオメガゼロと、自身に直結する遺伝子か血筋を持つ者」
運命と言うか、食物連鎖とは面白いものだ。自然界には天敵が大抵生まれ、自然のサイクルが回る。
そう話すナイア姉の頭上に出現させ、潰さんと振り下ろす右拳だが……左手一本で容易く受け止め。
邪魔と言わんばかりに左側へと受け流す。自身より遥かに小柄な体型から出る腕力に驚く悪魔。
続けて話すナイア姉は魔神王の天敵について話す。前者は自分が該当するが、後者は……?
「前者は貴紀。後者は──彼の元友人。オメガゼロと魔神王の血縁者が友人関係って、運命と思わない?」
「限りなく近く、限りなく遠い。貴紀が前世に居た世界こそ、魔神王誕生に繋がる唯一の道にして」
「魔神王を唯一倒せる……直線道。だから私達も、本気……」
ならばと両手両足を無数に作り、残像が残る程の猛ラッシュを繰り出せど──見えない何かに弾かれ。
一撃もナイア姉達に当たらない。よく視ると左手だが、手の届く範囲に相手の手足が侵入した途端。
速度の速い順に捌き続けている様子。それを維持したまま自分と元友人の関係を運命と言い。
続けてハスターの言う『限りなく近く、限りなく遠い』と紅瑠美の言葉……自分の生前に居た世界が。
まさか魔神王誕生ルートの未来に繋がってるとはな。そんでアイツが魔神王の血縁者っておい……
「ならば!!我らが母より生まれし我々に貴様らが干渉出来る訳が無い!」
「拱手傍観……私達も少年と戦ったり、交わって……歩み寄った」
言われてみれば、確かにそうだ。魔神王に関係する奴らを相手にしていたのは主に自分だ。
別次元の存在、もしくは実力者相手だと干渉出来ない。のであれば、ナイア姉達が影の悪魔──
チェルノボーグに干渉しているのはおかしい。そう思っていたら、紅瑠美の言葉からある程度察した。
何度も戦ったり共に過ごして親密になる事で、対象の纏う力の影響を受けていたのか。
「私達じゃ干渉出来ないのなら、干渉出来る存在に付きまとって影響を貰うだけよ」
「と格好良さげに言うも……ミイラ取りがミイラになった訳なんだが」
「ハスター君も、人の事言えない……私達と少年の交尾……盗み聞きしてた」
「ばっ!!……お前らの喘ぎ声がデカ過ぎるんだよ!家の隣まで響かせやがって!!」
言い方は悪いが……風邪を引いた相手へ近寄り、意図的に風邪を貰う様なもんか。
まあ、そこまでは良いんだ。ミイラ取りがミイラになる云々も納得もする。が……交尾言うな!
いやまあ、やったけど。襲われたけども!てか、顔を合わせて馬鹿言い合う最中も全く被弾しねぇ。
寧ろ、ラッシュを繰り出してる悪魔の手足が途中で粉砕されてはギフトで再生、また粉砕されるんだが?
「ヌオォォォッ!?」
「ハスター、クトゥグア?準備はもう出来てるわよね?」
「任セロリ……少年の青臭さとツンデレから接種出来るほのかな苦味も大好物」
「勿論、準備万端だ。夏の暑さは駄目だが、セロリは好きだからな」
生成した全ての手足を粉砕され、痛みの余り吠える悪魔。今が好機と捉え、二人に呼び掛けるナイア姉。
駄洒落かと思いきや、単にセロリが好きだと告白する紅瑠美。いや、今言うべき事じゃないんよ。
ハスターは真面目に答えたと感心した途端、ボケ出した。アンタはそっち側に行かないでくれ……
「ハッ!我らが母より不老不死のギフトを得た我々を倒す事など……き、貴様ぁぁ!!」
「さあ──未来永劫、苦痛を味わい続けるが良いわ」
クトゥグアとハスター。邪神が手を向かい合わせ生み出した、青い焔を包む風。それを影の悪魔。
チェルノボーグへ向け放ち、上半身に命中すれど何も効果は無い。見掛け倒しと笑い飛ばす中。
ナイア姉が足下に集めた闇き左手を入れ、取り出すは青白く淡い光を放つ片手サイズの石を相手目掛け。
優しく投げ込んだ。次の瞬間──チェルノボーグと奴を包む焔と風を吸い込み、軽い音を鳴らし。
別れの言葉を投げ掛けた後、地面に落ちた。石は青白い色から青の周囲を包む黄色に変色。アレは……?
「考えたな。魔力を吸収するルナ鉱石を使うとは」
「ルナ鉱石をイブリースに撃ち込んだ時、魔力を吸収したのを見てたからね」
「デカいのを使ったから……私の焔とハスター君の風も同時に吸収した。あの中……ずっと地獄の業火」
「仮に中央の焔から端に離れても、超高温の熱で蒸し焼き。不老不死なんぞ、成るべきではない」
石の正体は、旧第三装甲に使われていた鉱石の一つ……魔力吸収能力を持つルナ鉱石。
振り返れば、イブリースにトドメを刺せたのも──事前に撃ち込んだルナ鉱石で原動力たる奴の魔力。
それを吸収してくれたからだ。今回の旅で序盤に出会った物が、悪魔を封じ込める切っ掛けになるとは。
三人の勝利と此方へと歩いて向かう姿を見届け、俯瞰視点を解除。振り返り、結晶塔を見上げる。
「行きましょう。私達の旅における、最後の決戦に」
「……あぁ。行こうサクヤ。全てに決着をつけ、明日を取り戻す為にも」
左隣から話し掛けられ、自身の左手に優しく指を絡ませてくるサクヤの気持ちに応える様に。
絡ませて来た指を離さない様に、力を込めず、優しく握り返し言葉と行動で応答し彼女の目を見て頷く。
空いた手で結晶塔に触れると、水面に波紋が広がり此方の手を飲み込み、そのまま奥へと進む。




