神と悪魔
『前回のあらすじ』
コトハと呪神を相手に奮闘する霊華達。呪術が効かない、耐性があると睨んでいたが……
耐性を貫通する呪術。恋専用sin・第三装甲の反射機能を無視し、重圧による床の破壊等に苦戦。
しかしお互いに知恵を出し、裏を突き合いコトハに与えられたギフト・不老不死を逆手に取り。
倒せない珠沙華とコトハを封印する事に成功。ゼロとリバイバーに続き、三騎士に勝利したのであった。
呪神・珠沙華とコトハのコンビを倒した霊華、恋、詠土弥の三名。これにて三騎士を全て撃破。
もう魔神王へ続く道の邪魔者は居ない。そう認識する自分達の下に──予想外過ぎるソイツは現れた。
のだが……足を止めた此方の左手を掴み、進むなら今の内だとばかりに駆け出す存在に引っ張られ。
一度瞬きをした直後。気付けば土煙の舞う場所が小さく見える程に距離は離れ、目前には結晶塔がある。
「何故我らが母の愛を受け入れぬ。外なる神よ」
「ハッ。ぬぁ~にが我らが母の愛ですか!押し付けがましいったらありゃあしねぇ」
「這い寄る混沌。お前が言えた義理でもなかろう」
再度俯瞰視点を使い、誰があの場に残ったのか?降り注いで来た相手は誰なのかを確認すると。
残ったのは真夜とハスター、紅瑠美の三名。そして現れた存在は……倒した筈のミミツ。
しかし彼女自身は白目を向き、意識がない様子。まだゼロ達に破れたまま、意識を取り戻していない。
そう思ってると、彼女は糸が切れた人形が如く砂利の多い地面へ俯けに倒れ。
人差し指に嵌めた黒い指輪が鈍く光ると、背中から何かが飛び出す。影の悪魔──チェルノボーグだ。
「私の愛は貴紀さんも受け取ってくれてるから良いんです~!」
「少年の守備範囲は広い...…ポッ」
「何がポッ……ですか!気持ち悪いんですよ!それにアンタじゃ相手を燃やし尽くすだけじゃい!!」
「大丈夫。少年とのフラグは立ってる……ブイ」
なのだが……三人は相手を確認する行為すらせず、いつも通りのギャグ展開を繰り広げる始末。
ポッ……と言い、恐らく赤らめた頬を両手で触れ、身をくねらせる紅瑠美に気持ち悪い発言やら。
事実を突き付けるが、何の根拠があるのか大丈夫発言。フラグ云々と言いつつ、両手でWの字を作る。
チラッとチェルノボーグに視線を向けるハスターは、無視されて怒り心頭な影の悪魔を鼻で笑う。
些細な反応、挑発に憤慨する影の悪魔。怒りのままに右拳を巨大化させ、三人目掛け殴り掛かる。
「それで、アレはどうする?」
「アレは最早世界規模で魔力を手にした化物。放置したら一番ヤベーイかも知れませんので、処理です」
「何故……我を否定する!我は契約者の為の存在。例え我を消しても、既に彼女の未来は確定している!」
「確定してる未来も、その先はまだ未知数……否定される理由を知らぬのは、自己責任」
が……三人を包むハスターの見えない暴風壁に阻まれ、逆に右拳がズタズタに裂ける結果に驚く悪魔。
敢えて気にしてやったハスターの言葉に、アレ呼ばわりをしつつ放置は危険だから処理すると言う真夜。
自身を否定する言葉、内容へ食い気味に突っ掛かり、自身を消してもミミツの未来は変わらないと発言。
確かに、あの未来へ続く道は変わらない。けれどその先はまだ未知数であり、チェルノボーグへ対し。
否定される様な事をしているのは自己責任だと突き放す紅瑠美に、何も言い返せず悪魔は歯を食い縛る。
「よくある話なんですよ。自分からイジメだのパワハラだのしつつ、友達だからジャレてただけ~とか」
「教育してただけ……等と言って、自身の正当性を訴える腐れ外道や詐欺師も多い」
「お前達が言えた義理では無いな。まあそれも全ては──『我らが王』が明日を掴んだ先の世界だ」
「──!?!?」
目を閉じて胸元で腕を組み、二度頷きながら紅瑠美と共に加害者が言いそうな言い訳を口にするも。
それを言う二人に対し、言えた義理ではないと切り捨てる。ギャグ展開で言う事もしばしば……だしな。
直後、真顔で此方を珍しく...…と言うか、初めて『我らが王』と言う。その上で、如何なる未来も。
自分が魔神王に勝ち、明日を掴み取った先にしかないと発言した次の瞬間。悪魔の体が裂け、宙を舞う。
「お前……『我らが王』を鍛え、更に叩き上げをし続けたのが誰か……知っているか?」
「な……」
「そこの這い寄る混沌と魔術師ミズハ・スカーレットが基礎を。叩き上げは──お前ら全員だ、馬鹿共め」
横回転する視界。その中で自身を睨む三つの影と七つの眼。黄色く光る眼の主が口を開き、問い掛ける。
「何の事だ?!お前は何を言っている!?」そう言いたくとも、悪魔の顔は網目模様に裂かれており。
辛うじて一文字喋れた程度に終わる。読心術でも出来るのか、返答を予想した解答を言い──
悪魔に右手を向け。無慈悲に、一瞬で握り潰す様に右手を握る。と同時に、突風が吹き悪魔は細切れに。
「ふ……フハハハハ!!」
「「「──?!」」」
話もソコソコにさっさとチェルノボーグを倒した。そう思ったら……突然その場に響く高笑いの声。
声のする方へ振り向く三人は、目の前で塵となった影の悪魔が集合し復活する光景を目の当たりにし。
此方側へ吹き付ける程に強く、冷たい風圧が放出され驚いた様子を見せる。と言うか、この感覚は……
「驚いたか!!これがミミツの居た世界に住む命!その全てを対価として得た膨大な魔力!!」
「真夜。これはマズイ……」
「えぇ。こ~れ~は~……非常にマズイと言いますか、遊んでる猶予は無さそうですね」
「急ぐぞ。これに間に合わねば、ヨグソトス先輩や姉さんの拳骨程度じゃ済まん!」
影の悪魔──故に身長に際限は無く、三人を見下ろしつつ、対価として得た命や魔力量の大きさを自慢。
確かにこの魔力量、惑星一つ分程はある。着信なり通知なりが届いたのか……
三人は各々ポケットから携帯電話を取り出し、お互いを見ながら非常にマズイ状況だと認識。
携帯をポケットへ戻し、拳骨では済まない結末を迎えない為にも、一斉に頷き悪魔へ対し視線を向ける。
「残り回数に余裕さえ有れば貴紀さんの良い練習相手になったんですがねぇ~……残念無念また来世ですよ」
「あぁ。また見たかったんだがな。人類史が生み出した盆栽──武術を」
「ハスター君が少年との戦いで、下される原因となった……あの技?」
「アレは未だ残っている。姉さんで例えるなら船に激突された様なものか。アレは更に深く重かったがな」
しかしその視線と表情は微笑み、余裕すら見える。自身らが倒すよりも、此方の経験値にしたかったと。
真夜から後悔が聞こえ、それにハスターも悪魔から目線を外し、武術が見たかったと告白。
目を閉じ、仕方あるまい。と言いたげに肩をすくめ、首を短く二度横へ振る。生ける炎曰く──
前戦争でハスターと対峙した際。決め手前に叩き込み、一瞬意識を飛ばさせた脚技を見たかったらしい。
アレ……技名も何もないただの全力蹴りなんだが?今ルシファーに『メヒライネン』と命名された。
「ならば!!コイツも受けてみるがいい!」
「っ……!」
無視されたからか。影を集め、高層ビルにも負けない長さの両腕を作り、三人へと右拳を振り下ろす。
当然とばかりに左右へ散り、避ける真夜と紅瑠美。全力蹴り……メヒライネンの痛みが残ってる為か。
動かないハスターに拳が直撃。好機と見て、両拳と宙に出現させた両足の打撃と踏みつけのラッシュ。
舞い上がる土煙、轟く打撃音、薄気味悪い笑みを浮かべる悪魔。それに対して、真夜と紅瑠美は無表情。
「惑星級の魔力を纏った我の拳に潰され、人の形が無くなりミンチになったな。さぁ、次はお前達だ!」
「……ぷっ!ぷはははははっ!」
「確かに……少年と戦う前のハスター君なら、今のでアッサリと殺られてた」
「なん……だと?!」
アニメとかでよくある、有利展開故に説明口調で心情を語るシーン。予定調和とも言える敗北前の場面。
それに対して笑いを堪え切れず、膨らんだ頬、開かれた口から声高に大爆笑する真夜。
視線だけを未だに舞い上っている土煙へ向け、自分と出会い、戦う前のハスターなら死んでいたと言う。
紅瑠美の発言を無視しつつ、先程と同じ様に──いや。影で両手両足を複製し、二人へ繰り出す。
刹那──複製された影の手足と悪魔の首が宙を舞い、胴体が幾十にも輪切りにされて崩れ落ち、驚く。
「俺達は最低でも、一度は我らが王と戦った。それは何故か?」
「我々が限界をぶち破る為であり、アンタの様なイレギュラーを狩り、あの子の修行相手になる為よ」
「マジックとブレイブは……私達の計画に便乗してくれてた。その分、少年は期待以上に育ってくれた」
土煙が渦巻き、上空へ放出した張本人。ハスターは黄衣を纏い、無傷のまま。よく両手を視ると──
あのデカイ打撃を全て、平手で受け流していたらしい。その上で悪魔へ問い掛ける。
口を開こうとした矢先。言葉を遮る様に真夜が答え、地面に落ちた悪魔の頭……眉間を左足で踏みつけ。
黒い修道服を着たナイアの姿へ変貌。曲げた左膝に左腕を乗せ、見下しながら言い放つ。
補足で紅瑠美は水葉先輩と紅心が自身らの計画に便乗したと言い、それが予想以上の結果を生んだとも。




