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ワールドロード  作者: オメガ
最終章・racrimosa
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墓穴

 『前回のあらすじ』

 コトハの母、カケハ直伝の技を繰り出し、珠沙華(ジュシャゲ)の左腕を切断する事に成功。しかし……

 相手は実体を持たぬ呪神。斬られた腕も切断面に押し付ければ、再生してしまう。

 コトハの言葉を否定せず、受け入れる霊華。彼女は自身も道を違えば、同じ様な道を歩んだと告白。

 霊華は恋専用の第三装甲を、詠土弥は悪夢を纏い本気で挑む。コトハも異常な殺気と呪力を放ち対抗するのであった。



 双方、お互いに動かない。片や呪術や魔法・魔術・奇跡すら跳ね返す効果を持つ、強欲の罪を纏う霊華。

 片や呪神・珠沙華(ジュシャゲ)の呪力を使い誕生した為、意図せず耐性を持ったナイトメアゼノ・グラッジ。

 本気のコトハは未知数。呪術が反射されればギフトが悪い意味で発動し、生き地獄を味わう可能性も。

 そんな硬直状態を破ったのは──コトハの右中指を立てる挑発行動。ソレを行った途端……


「──!?」


「詠土弥!」


「他人の心配してる場合かっ──てぇのっ!!」


 足下の畳から突如飛び出すは、全体的に黒い棘を生やしたピンポン玉程度の大きさで浮く無数の鉄球。

 それらは部分的にしか装甲を纏っていない霊華──ではなく、全身を甲冑で包まれた詠土弥を狙う。

 呪術への耐性と甲冑による高い防御力。故に効かないと予想するが……その鉄球は右胸部へめり込み。

 次第に回転を加え、強引に貫く光景を見て驚く二人。呼び掛ける霊華に自身へ注意を向ける様に叫び。

 振り向いた霊華達に向け、挑発と侮辱を込めたサムズダウン(親指を下に向ける)の後──強力な重圧が襲い掛かる。


「忘れたの?強欲の罪に、呪術は効かないって」


「くひひ……テメェこそ忘れてんじゃね?その鎧の効果は──『テメェ』しか守らねぇってさぁ!!」


「しまった!!」


 されど、天狐たる恋の強力な霊力を帯びた抜け毛を編み込んだ強欲の装甲には呪術等効かず跳ね返す。

 改めて言わずとも、彼女は分かっている。言われた指摘に対し、指摘を返すコトハの言葉にふと気付き。

 真上──ではなく、真下へ視線を向ける。刹那、右側にある支柱へ飛び出す。次の瞬間……床が陥没。

 そう。敵対者に効かないのであれば、足場や頭上など狙える部分、やり方は思考するだけある。


「やっぱり。珠沙華(ジュシャゲ)をどうにかする必要がありそうね」


「だが、のんびりしていられる時間は無く、そろそろ限界も近──ッ!?」


 支柱から壁へと飛び移り、着地と同時に直ぐ様壁を走りながら第三装甲と融合した恋と話す霊華だが……

 強欲装甲は他の第三装甲に比べて特にエネルギー消耗が激しく、自分ですら短期決戦を余儀無くされる。

 そんな話をしつつ走り続ける最中、一歩後ろを追尾してくる呪術で編まれた針千本。

 その内の一本が霊華の左肩を刺し貫き、耐え難い激痛の余り足を止めて畳の上に落ちてしまう。


「幾ら反射機能があってもさ~?ソレに回すエネルギーが減ったら、反射出来る上限も下がるっての」


「っ……それでも。反射する位は供給してたわよ」


「ぶっほぉ!ぷぷぷぷぷっ……」


「代わりに答えよう。反射とは面だが、我々が行ったのは点による凝縮した攻撃。一転突破だ」


 横に倒れたまま、右手で呪術の針を強引に引き抜こうとする霊華へ近付き、見下ろしながら話すコトハ。

 無理矢理針を引き抜き、返答を返しつつ起き上がろうとする言動に思わず吹き出し、両手で口を塞ぐも。

 背を向けてすら漏れ出す笑い声。それを見かねた珠沙華(ジュシャゲ)が代わりに理由と原因を伝える。

 確かに、盾やバリアと言うモノは面で受ける。が……力を凝縮した一転突破の一撃には意外と貫かれ易い。

 今回はエネルギー供給量の低下、弱まった反射能力を一転突破で狙われてしまった、悪い典型例。


「けど……これで分かったわ。その針の威力と、アンタのオツムが弱いって事がね!」


「来ルぞ、コトハ」


「言われずとも。ほら──えっ?」


 自身に注意が向いている今をチャンスと捉え、言葉で挑発しながら千鳥足で立ち上がった霊華。 

 背後を振り向き語る珠沙華(ジュシャゲ)の言葉に、言われずとも分かってる。と言いたげな自信に満ちた表情。

 目を瞑り、首を右へ傾ければ、背後から飛んで来る呪術で編んだ針が先程まであった頭の位置を素通り。

 撃った本人であろう詠土弥は振り返るコトハを睨む。次の瞬間、彼女の背中から胸元へと激痛が走り。

 胸元を見下ろせば……自身が撃った呪術針が背中を貫き胸元へと出て、赤い血が流れ落ちる。


「油断大敵……人を呪わば穴二つ。倒してもない相手に背を向けるのは、自殺行為よ」


「てンめぇ──っ!?」


「見るべき相手、違う」


「クソ──!!」


 背後から聞こえる声に首だけ振り向けば、先程左肩から引き抜いた針を手にコトハの背中へと突き刺し。

 貫通させた霊華。呪術で瀕死近くまで追い込んだにも関わらず、相手を仕留めなかった性格故の油断。

 誰かを呪う行為は自ら墓穴を掘ると言う、憎み憎まれる戦争や人間関係にも言える悪循環。

 それを指摘され、言葉よりも行動で返さんと振り返り掴み掛かるも……流れる様に右側へ避けられ。

 更に死亡確認もしなかった詠土弥が背中へ突撃。受け壁に激突し衝突の痛みと胸側へ押し込まれる針。


「不老不死、再生能力。全部、呪術が弱点」


「不老不死なんてものは……永遠の地獄。だから私達は、明日を望むのよ!」


 不老──永遠に老けず、いつまでもその恩恵を受けた時の姿で固定される呪い。変化も何もない日々。

 不死──永遠の肉体的・精神的苦痛を味わい続け、幾ら傷付いても死ねず、遂には自ら死を求める地獄。

 どんな傷も再生する不老不死。再生能力の無い、ただ単に老けず死なぬ不老不死。輪廻転生の不老不死。

 その全てが、魂や縁に染み付く呪術を弱点とする。魔神王が与えるのは前者の不老不死故に。

 コトハは傷口を強制的に再生される苦痛と、呪術が肉体と精神を内側から蝕む苦痛を同時に受けている。


「……潮時か。次はもっと楽しめる器を探さねば」


珠沙華(ジュシャゲ)!?」


「誰がっ……逃がすもんですか!」


 コトハに見切りをつけ、自ら彼女より離れて行く珠沙華(ジュシャゲ)。そんな呪神に手を伸ばすコトハ。

 苦楽を共にした相棒的存在に見限られ、涙を流しながら呼び掛けるも……振り返りすらしない相方。

 sin・第三装甲は自ら外れ、身軽になった霊華は背を向け逃げる呪神目掛けて走り出しつつ。

 側方倒立からの高速五連続バク転へと繋げ、後方宙返り。一回半捻りの勢いを利用し御幣で斬り掛かる。


「カケハと私の融合奥義……封印・欠葉(カケハ)


 一瞬で行動を終わらせ、珠沙華(ジュシャゲ)の前方へ着地していた霊華へ手を伸ばす呪神だったが……

 技名を告げた瞬間。呪神の身体はバラバラに裂け、その全てが三角形から十二面体の結界に封じられた。

 一個体の力や怨念等が強く、封印が困難な場合に使われる手だ。個別に分解し、共鳴し合わない様。

 遠く離れた地方にて、長い年月を掛けて浄化する人類の叡知。その一部を利用した技の様子。


「悪夢、の中で。永遠に、生きろ」


「くそっクソッ糞ッくそっクソがぁッ!!テメェら、絶対に呪ってや──」


 詠土弥は左手でコトハの頭を鷲掴み、穢れたる泥水を流し込んで彼女の全身を包む。それとは反対に。

 詠土弥の姿はナイトメアゼノ・グラッジから静久に瓜二つな姿へと戻り、紅い核さえもコトハ側へ。

 怒り、憎しみ、苛立ち。それらを孕んだ言葉さえも飲み込み、傷付いた畳の上へ落ちる紅い核。

 彼女は詠土弥へ与えた呪術と悪夢に、今度は自ら呑み込まれてしまった。人を呪わば穴二つ……だな。


「不老不死、恐るるに足りずってね。倒せずとも、対処法なんて幾らでもあるもの」


「かなり、ギリギリ。でも、筆を使われてたら、危なかった」


「まあ、その辺りは大丈夫さ。その為に僕と霊華が言葉でヘイトを稼いでたんだ」


「カケハ直伝って言えば、母親の強さを知るあの娘なら隙の多い行動は控える様になるから……よね?」


 不老不死の相手は幾度も経験してきた。それこそベーゼレブルやマジックを主な相手として。

 今にして思えば多分、魔神王戦や配下の不老不死部隊を相手取る際の練習をさせてくれていたのかも。

 詠土弥が筆を使われていたら危なかったと言うも、恋と霊華はお互いに顔を見合わせ、理由を話す。

 使わなかったのではなく、使わせなかった……が正しいと。確かによく知る相手の技や動きを知る側なら。

 わざわざ隙の多い行動や動作は控えるわな。そう言う心理的部分を突くとは、やはり心強い味方だ。


「少し休憩したら、私達も貴紀達を追い掛けましょ」


「休憩、大事」


「これで三騎士は全て撃破した。後はご主人様と魔神王の決着だけ……?」


 貫かれた左肩に霊力を纏わせた右手を当て、治療しながら言う霊華に頷き、休憩は大事と述べる詠土弥。

 此処、最終決戦の地へ突入する前にシナナメをルシファーが撃破。最終防衛戦の一つでゼロ達がミミツ。

 そして二つ目の防衛戦でコトハを倒した。これにて四天王と三騎士を全て倒し、もう邪魔者は居ない。

 安堵する恋だったが、何かを察知したのか?狐耳を小刻みに動かし、入り口へ振り向くが……誰も居ない。


「何かを、僕達は忘れている……?」


「何にしても、私達は休憩が先。勿論、火の粉が降り注ぐなら払うけどね」


「……あ」


 見落とし、認識の外にしてしまった何か。それが何なのかと思い出そうとする恋だが、思い出せない。

 そんな恋を見て、先ずは消耗した体力や霊力の回復が最優先だと告げる霊華にゆっくりと頷く恋。

 ふと何かを思い出した詠土弥が一言喋った次の瞬間──此方側に異常発生。何かが上空から落ちて来た。

 俯瞰視点を中断し、舞い上がる砂煙の中に潜む何かに対し、仲間や家族達と共に警戒心を強める。



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