罪と呪い
『前回のあらすじ』
飛び込む霊華に迎撃を繰り出す珠沙華。されど直感系スキルにより危機を察知し、呪神の一撃を間一髪の回避に成功。
事前に設置された罠も陰ながら行う恋のサポートにより発動が遅れ、当たらず苛立つコトハは呪神・珠沙華を召喚。
強力な呪力によりエックスと仲間達へ悪影響を与え、掴み取ろうとするも──無機物の体を持つDT-0こと、ディーテが救援に入り脱出に成功。
珠沙華に叩き潰された詠土弥、恋の次は霊華を殺すと宣言するコトハ。三騎士・コトハと呪神・珠沙華を倒す術が二人にはあるのだろうか?
「カケハ直伝」
「母上直伝?!それは流石に……珠沙華!!」
「「──ッ!?!?」」
力強く踏み込んだ右足に霊力を込め、強化した脚力で珠沙華の頭部まで高く跳躍した霊華は。
コトハの母こと、カケハから直々に教わった技の一つだと知らしめる様に宣言、技へ続く行動へ移る中。
娘故に知る母の強さ、技の内容的に直撃は危険と即断したコトハは自身の背後に立つ珠沙華に向け。
声を掛けるも、時既に遅し。身を翻した空中縦一回転の勢いに乗せ、繰り出された右足による一撃が……
呪神の左腕を付け根から切断。断面が薄く黄色に光るも直ぐに消え、苦痛に顔を歪める彼女へ恋が追撃。
「縛符──」
「縛れ!!カースド・チェーン!」
「ノータイムで呪術の発動!?」
右手に持った御札を手に言霊で効果を発動させる瞬間。怒りと苛立ちを孕む大声が部屋中に響き。
飛び込む恋と空中の霊華は突然上半身を縛られ、片やバランスを崩して、片や着地に失敗し倒れ込む。
コトハの呪術は特製の筆を使い、対象に文字を書き染み込ませて漸く発動するタイムラグの大きなモノ。
しかし今のは宣言からの即発動、更に文字を書く素振りすら無し。罠だって空振りに……まさか!
「珠沙華を顕現させたアタシの呪術が、一発で終わる使い捨てな訳無いじゃん」
「この感じ。部屋中に呪力が充満しているのか」
「アタシは母上から何も教わらなかった。代わり……ヤベーお方から呪術のイロハを教わった」
「まあ──私はそれを否定しないけどね。どんな道を歩むかは、当人の自由であり責任だもの」
コトハは二段構えの罠と策を仕掛けていた。一段目の罠は当たっても外れても構わないモノ。
二段目は一段目で当たった、外れてこの空間に霧散した呪力を再利用し、筆を使わず宣言で済ます呪法。
言霊を利用し、己の弱点を補強する新しい方法。親が望んだ方向とは違い真逆なれど天晴れと褒めたい。
コトハの得手不得手を一目で見抜き、努力ではなく楽しいを追及させて育てた結果……か。
彼女の言葉に霊華は否定等せず受け入れた上で、その行動・自由に伴う責任と向き合えるなら……と語る。
「私だって……継ぎたくもない巫女を無理矢理継がされた上、嫌な修行もやらさせられた。一歩違えば、コトハと似た道を歩んだ可能性だってある位──よッ!!」
両腕と上半身を共に縛られた状態で立ち上がり、自らの過去と修行嫌いを告白。その上で霊華は……
道を違えば呪術ではないにしろ、相手を苦しめたり殺害する事に快楽や愉悦を覚える道に走ったと話す。
故に自分達は努力を無理矢理と思考し認識する。好きで楽しいなら、無理矢理行う努力なんて不要。
霊華は両腕に力と霊力を込め、呪力で編まれた黒紫の鎖を強引に引き千切り、コトハは驚きの余り唖然。
「ただ……私みたく得意と好きがイコールではない。そんな奴も居るのよ、この世界には山程ね」
「ソウ。故に我らが母君は不完全デ不平等な世界全てを融合、統合シテ平等にする為に動いている」
そう。好き嫌いと得手不得手は決してイコールではない。好き=不得手、嫌い=得意も当然あり得る。
だが!駄菓子菓子。もとい、だがしかし。それは決して魔神王にアナタが望む世界に作り直しても良い。
と言う答えにはなり得ない。やり直しが効かないからこそ、不老不死ではないが故に。
命は一生懸命生き、死に、産まれてを繰り返す。まあ……国のお偉いさんがクズや外道の場合。
その国を動かす外道を排除しない限り、肉体的・精神的な苦痛の果てに国ごと死んで行くだろうがな。
「誰しもガ思う。最高の選択ト結果を、我らが母君ハ平等に与えよウと言うのダ」
「っ……その考え方は結局、不幸の上に成り立つ幸福だ!完全な公平とは言えない!」
「くひひ……だから──全並行世界、全生命体の頭脳を魔神王様と繋ぎ、全てを共有するんじゃ──んッ!!」
確かに、大抵の人物が一度は思うかも知れない。あの時、最善の選択を取れていたなら、平等なら……と。
喋りながら切断された左腕を右手で掴み、切断面に押し付けて接合すると支障が無いかと左手を動かす。
されど恋の言う通り、結局は不幸の上に成り立つ幸福であり、平等・公平には程遠い。
嘲笑うかの様に笑い、並行世界の生命体と魔神王の脳を繋ぎ、全てを共有発言後。
恋に向け勢い良く左手を伸ばせば珠沙華も同様に動き、擦り潰さんと床を抉る中──飛び出す影が一つ。
『sin・fusion。change……Seven Deadly Sins・Fox Sin』
「悪いけど──そんなプライバシーも何も無い世界、僕と私は求めていない」
サモン・サーヴァント形態。白狐姿のsin・第三装甲に憑依し、脱出と回避を両立しつつ。
各部パーツを分解しながら、バックルを腰に出現させる霊華へ飛び込み──ゼロ達同様に無理矢理装備。
バックルのランプは黄色く光り、喋る声も何処か二人の声が混ざり合っていると言うか、ほぼ同時。
更に心内も全て共有され、秘匿も何も出来無い世界を二人して拒み、御幣を両手で握り締めて構える。
「成ル程。我らガ母君に、全人類及び知的生命体へ反旗を翻す罪──と言ウ訳か。その鎧ハ」
「ギフトでアンタ達の未来を視たけど……ぶっほ!!勝っても敗けてもお先真っ暗、明日すら──無いッ!」
sin──即ち罪を纏い、背負う装甲を身に付けた霊華を見て、魔神王へ向けた反旗を翻す罪と勝手に解釈。
いや、正確には七つの大罪と力を背負ってでも成すべき事を成す。そう言うコンセプトなんだがな。
納得する珠沙華、ギフトで自分達の未来を事前に視たと言うコトハは笑いを堪え切れず吹き出し。
勝ち負け云々以前に、自分達には未来が無いと笑った後……霊華に向けた右手は周囲に漂う呪力を集め。
コトハが両手を霊華に向ければ珠沙華も同様に動き、両手で包み握る様念入りに力を込める。
「いつまで持つか……いぃっ!?」
「コヤツ……」
「それにその姿!なんでアンタが!!」
捏ねる様に握る最中。コトハの背中に唐突な激痛が走り、思わず手を離してしまう。
彼女に傷は無いが、珠沙華は背後から入る着ぐるみが如く、背中が大きく左右に開いている。
斬撃。それも神に届く刃と切れ味を誇る銘刀か、魔剣妖刀の類い。二人が振り返る先の存在に大層驚く。
早々に叩き潰した詠土弥──いや。正確にはコトハが呪術にて産み出したナイトメアゼノ・グラッジ。
その第二形態が右手に黒い大剣を持ち、重々しい甲冑のまま着地して立ち上がる瞬間だった。
「この姿の核、静久のsin・第三装甲の中。私が使えば、またこの姿に成れる」
「そうか。安全に変身しつつ、奇襲を仕掛ける為に泥水化して姿を消していたのか」
「ブイ。この体、珠沙華の呪力で出来てる。だから、神をも殺せる」
旧第三装甲を全て腐敗なり破壊され、苦汁を飲まされた姿なだけに嬉しさ半分、苦々しい気持ち半分。
そう言えば確かにそうだ。譲り受けたが、被害者が使えばまた人工ナイトメアゼノには成れるわな。
しかも殺られたと見せ掛け、油断を突く……あの時にしていた静久との会話を実行するとはね。
更に珠沙華の力で生まれた姿故、当の呪神本人にすら届きうる刃……人を呪わば穴二つってか?
「ッ……珠沙華、本気で殺る」
「承知」
コトハは歯を強く噛み締め、目を細めると背後に居る呪神に視線を向け、本気で霊華達を倒すと発言。
その殺意を覚悟として受け取り承認。直後──珠沙華の体は溶け、宙に浮かぶ九つの球体と化す。
端から見れば猫背かつ、両腕を力無く垂らしているだけで隙丸出しだが……霊華達にはそうは見えない。
下手に攻めれば、良くても返り討ち。悪ければ即死すらあり得ると読んでいるらしく、距離を保つ。
「この殺気と呪力──個人が持って良いレベルを遥かに越えてるわね」
「この場の空気。肌、痛い」
「命乞いも後悔も……もう、無意味。残酷に、無惨に──呪い殺す」
黒結晶から離れた自分達の所まで届く、肌に突き刺さる殺意と冷や汗が止まらなくなる悪寒。
もしこの殺気と呪力を持ったまま世界に戻らせたら、緑と命豊かな惑星も一日も経たず死の星と化す。
この場でコトハと珠沙華を倒さなければ……全ての星も命も死に絶える未来しかない。
霊華、恋、詠土弥。頼む……必ず勝って、世界すら殺す呪いを打ち破ってくれ!
自分の届かぬ願いを撃ち抜く様に、コトハの冷たくも細く鋭い眼差しと言葉が三人へ向けられる。




