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ワールドロード  作者: オメガ
最終章・racrimosa
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呪神

 『前回のあらすじ』

 ミミツの敗北を知り、嘲笑うコトハ。仲間ではないのか?と言う問い掛けに、チームではあっても単独行動がメインだと言う。

 母・カケハとコトハの本名を口にする霊華へ怒りと苛立ちを覚える。しかし、怒りを覚えるのは霊華達も同じ事。

 息子を、主を、模倣元の命を奪ったコトハに怒りを覚える三人。犯した罪は双方大きく、遂に顕現する呪神・珠沙華(ジュシャゲ)

 数多の世界の命運や平和を賭けた勝負に、双方が思う事は真逆。神殺しが果たされるか、希望が打ち砕かれるかの二択である。



 一旦距離を取る恋、詠土弥、コトハの三人。その理由は主に、互いの得意な距離が中距離だから。

 だが……逆に霊華は攻撃に移る隙を与えまいと逆に飛び込み、相手の襟首を掴もうと素早く右手を伸ばす。

 もう少し。腕一本分の距離で届き、流れる形で巴投げに持ち込めると言う刹那──

 汚い河川の鼻を突く様な、酷く不快な臭いが彼女の足下から漏れ出しているのに気付く。


「──!!」


 閃く様に何かを感じ取りった霊華は踏み込んで前屈みになった右足と、上半身を前進ではなく。

 本能的に半歩手前に左足を踏み込み、脱兎の如く二歩三歩と短く軽やかなバック走で恋達の方へ後退。

 次の瞬間。珠沙華(ジュシャゲ)の右手による薙ぎ払いが先程まで居た場所の畳を抉り、小さな窪みが出来。

 後手で先手を狩る待ちを狙っていたのか、コトハの表情は苦虫を噛み潰したかの様。


「チッ……後一歩のところで」


「霊華、大丈夫かい?!」


「えぇ。直感系のスキルが無かったら早々に殺られて退場してたわ」


 舌打ちをし、愚痴るコトハ。相手が呪術士と言うのもあり、物理的に触れられていないか?

 または罠等を知らず知らずの内に踏み、異常状態になっていないか?と心配する恋に対し。

 霊華は直感系スキルのお陰で助かったと返す。三人の戦いに口を出すのは申し訳ないと言うのもあり。

 敢えて口には出さないが……この戦場はコトハが呪神・珠沙華(ジュシャゲ)を呼び、滅ぼしたお寺の大広間。

 右眼が視る用意された戦場──よく視れば燃え盛る当時が再現され、あちこちに罠が仕掛けられている。


「呪神か。まあ、大体の能力やスペックは見えた。後は──」


「それを如何に潜り抜け、急所に打ち込むか……ね。私は久し振りの神殺しだけど、貴女達はどうする?」


「殺る。でなきゃ、怒り、収まらない」


 冷静に呪神の持つであろうスペック、能力に大体の予想を付ける恋と厄介と思考・認識する部分。

 それらを避け、反撃を的確かつ急所へ打ち込むか?と言う神殺しの経験を持つ霊華。流石は戦巫女……

 二人に神殺しの罪を犯す気があるか否かを問い掛けると。恋は静かに頷き、詠土弥は真剣な顔で答え。

 力強く握り拳を作る彼女の両手から茶色く濁った泥水が、赤い血の代わりに滴り落ちる事から。

 その怒りは相当根深く、復讐心が強いと分かる。その背中を見つめる静久は……敢えて何も言わない。


「そんじゃあ恋、面倒な援護は任せたわよ!」


「任された。詠土弥、霊華と無理に動きを合わせる必要はない。好きな様に動くと良い」


「言われず、とも!」


 御幣(ごへい)を右手に、コトハ&珠沙華(ジュシャゲ)へ突撃する霊華。後ろも見ず、前だけ見て援護を指示。

 任された恋は右手に学校で使う一般的な筆、左手に右袖から取り出した御札を手に準備万全の様子。

 更に続けて飛び出した詠土弥へアドバイスを送り、言われた当人が前しか見えていないのを理解済み。

 流石は知恵の紋章を持つ恋だ。彼女になら、二人の援護を心から任せられると言う安心感がある。


「っ……なんで!!踏んでんのに、当たんない!のさぁ!?」


「コトハ、君にはそう見えるだろうね。けれどそれは──君の傲りだ」


 呪術を仕込んだ罠を踏む霊華と詠土弥。罠を探知出来ない、見抜き回避する能力すら無い。

 もしくは、それ程時間に焦っている。そう理解し、呪術の発動と効果に苦しみ叫ぶ二人が目に浮かぶ。

 表情から読み取れる程ニヤケるコトハだが……想定より遅れて発動しハズレる結果に苛立ち、逆に叫ぶ。

 分からない、理解不能、自身と違う相手と結果。だからこそ焦り、苛つく人族の心理的防衛機能。

 その姿と声を見聞きし、言い放つ恋の言葉は更に──コトハの怒りを買い、意識を自身へ向けさせる。


「君はご主人様と何度も戦ったが、何も学ばない事を無意識的に選んだ。それが結果だよ」


「うる……っさい。五月蝿い煩いうるさい煩い五月蝿いッ!!挽・回!全てを呪い尽くせ──珠沙華(ジュシャゲ)!!」


 傲り、鍛練、努力不足。言ってしまえば自身の不甲斐なさや、心持ち次第とも言えてしまう正論。

 意識を話し掛けてくる一人に向けてしまったが故に、左右から迫る二人に気付くのが遅れ頭に御幣。

 上半身に高圧の泥水を受けてしまう。通常なら前者は意識が飛ぶし、後者は最悪骨が折れるレベル。

 が……頭部を強打され、水流で後方に飛ばされ太い木柱に背中から激突しても。

 彼女は意識を保ち三人を睨み、吠え叫んだ直後。挽回を発動し、息を吸い込み──珠沙華の名を叫ぶ。


「っ!?」


「吐き気、止まらない……」


「強力な呪術が広範囲かつ無造作に放出されてる?!貴紀!」


 突如、口と鼻を押さえて足を止める一同。それはコトハを除く大半に襲い掛かる強力な呪神の呪い。

 常人や呪術士程度の呪いなら、跳ね返すか無効化すら出来る霊華と恋が……目、鼻、口から出血中。

 詠土弥に至っては吐き気を覚え、体調不良が深刻に。霊華に名前を呼ばれ、意図を理解して頷き。

 仲間達を連れて結晶の外へ右側を迂回して向かう最中。珠沙華の左手が此方へ伸び、行かせまいとする。

 呪術の影響を受け、走れない仲間達が狙いだと言わんばかりに自分をも巻き込んで掴み取ろうとするも……


「──っ!?」


「アレは……」


 突如青白い雷砲が斜め上から放たれ、二十メートルはありそうな珠沙華の左手を易々と撃ち抜く。

 同時にコトハの左手にも風穴が空き、鮮血が足下の畳に零れ落ちる。呪い返しに近い症状だが恐らく……

 呪神を宿している為、宿主たる彼女にもダメージが共有されているのだろう。振り向いた先には──

 DT-0ことディーテが足裏から魔力を噴射し、宙を浮いていた。確かに機械(メカ)に呪いは通じんわな。


「こんのっ、ガラクタ風情がぁぁ!!」


「狙うなら、今!」


「出来の悪い贋作の分際でぇ……邪魔、すん──なぁぁ!!」


「静久──!?」


 激痛が更なる怒りを産み、コトハが右手を伸ばせば珠沙華も右手を伸ばし、ディーテを掴もうとする。

 左手は負傷、右手は伸ばしており防御には間に合わない。そう判断したのか、詠土弥は人差し指を向け。

 彼女の額を狙い撃つも貫通せず、仰け反るだけ。ゆっくりと姿勢を戻しつつ詠土弥へ視線を向ければ。

 激しい怒りと言葉のままに右手を振り上げ、叩き潰さんと振り下ろされた素早い一撃の直撃が命中。


「詠土弥!?」


「先ずは贋作。次は狐と行って、最後に巫女のアンタを殺してあげる!」


「上ッ……等!!呪神共々はっ倒して、曲がり腐ったその性根……叩き直してあげるわ!」


 畳諸共容易く叩き潰し、振り上げた右手や叩いた場所に詠土弥の姿は全く無く、彼女の名を叫ぶ恋。

 先ずは一人。狙いと順番を口にすると霊華へ痛々しい左手を向け、ぎこちなく人差し指で指差し。

 殺害宣告を告げる。呪いの影響で苦しいにも限らず、ヘイトを買う為に左手で中指を立て、言動で挑発。

 此方への注意が逸れた隙に結晶の外へ移動。右眼の俯瞰視点で霊華達の戦いを観戦しながら、先へ進む。


「とは言え……霊華。三騎士・コトハと呪神を相手に何か、決め手はあるのかい?」


「効くか否かは兎も角、幾つかあるわ。但し、それを行う為にコトハの相手を頼んでも良いかしら?」


「勝って生き残れるのならね。さあ……狐の知恵と巫女の愛情で神殺しを成し遂げるとしようか」


 此方が戦場から抜け出したのを横目で見届けた恋は霊華に視線を戻し、呪神を宿したコトハ撃破。

 それに必要な決め手はあるか?と訊ねれば、分担作業を求められ。自分が言った生存命令を守れるなら。

 を条件に飲む。その上で自身らが持つ紋章を例え話に、神殺しの達成を必ず成し遂げようと言う。


「来い、ジャンクを宿せし者共よ。この珠沙華が汝らに苦痛と醜い死を与えよう」


「「──ッ?!」」


 横に並ぶ霊華と恋を前に呪神は口を開き、意味深な言葉を口にすると左手を二人に向けた途端。

 珠沙華とコトハの左手に出来た風穴は目の前でみるみる内に塞がり、逆に霊華と恋の左手に風穴が空く。

 痛覚や傷の共有はよく聞くが、相手と自身の傷を入れ替えるのは流石に反則だろ!

 回復の術を持つ二人は早急に止血と傷口の回復を行い、同時にコトハと珠沙華目掛けて飛び込む。



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