攻防一体
『前回のあらすじ』
後顧の憂いを断つべく始まった、ゼロとリバイバーの二名による三騎士・ミミツとの戦いは……
相手の特性により、常人と大差無い彼には全く役に立つ活躍は出来ず、有効打を与えれるゼロ頼り。
ミミツに優位なフィールドを描き消す為、ゼロは今までエックスが苦しめられた終焉の地を発動。
薄暗い世界で影を限り無く失くすも、彼女自身の影たる体は自身で弄れるらしく、爪を伸ばし襲い来る。
ハイリスクハイリターンの賭けは失敗に終わり、距離を保ちながら円を描く様にゆっくりと動く二人。
お互いの距離は約二メートル。これなら多少は攻め込みにも反応し、回避行動が取り易いかも知れん。
双方攻撃は仕掛けず、後手対応の様子見が続く。互いの攻撃が有効打かつ、致命的になり得るからだ。
迂闊に仕掛ければ容易く避けられて致命傷を貰い、即死も十分あり得る。故に仕掛けれない。
(俺の刀じゃ、ミミツに有効打や致命傷は与えられない。影を捉えられないからだ。けど、ゼロさんなら)
(今一番注意すべきは、あの白い破壊者。私を捉えれる上、盾で防いでなお脚が痺れる程の威力……危険ね)
(とは言え、俺だけじゃミミツの速度に真っ向から追い付けねぇ。ブラフと相方を最大限使う他ねぇな)
そんな中、三人の心中が読めた。ゼロを頼りにするリバイバー、警戒すべき相手を見抜くミミツ。
スピード負けしている為、攻撃を与えるには使えるモノは全て使わなければ……と考えるゼロ。
光源は封じたが、ミミツ自身の影と言う概念だけは封じれず、彼女の身体や一部を武具に変化は可能。
暫し続いた沈黙と睨み合いを破るゼロは、何の相談も無しにミミツへと突っ走る。
「ゼロさん!?」
「何か策があるとしても。その行動──迂闊にも程があるわよ?」
リバイバーに対し、何の相談も合図も無く行う行動。それが衝動的にしろ突発的だとしても。
こう言うのは信用に足る相棒と行うモノだ。が……居ないのであれば使えるモノ、全て利用する他ない。
味方は突然の行動に足を止めて驚き、逆に敵は冷静沈着でゼロの一挙手一投足に対応しようと身構える。
右腕を力強く引くのを目撃し、拳が来ると読み空振りさせる隙を突くべく後方へ滑る様に下がると……
「大抵はそれが普通。苦痛と死から逃れる方法としてはな。だが!」
「地面を殴っての……急加速?!」
「ゼロさんの機械にも通じるパワーを、瞬間的な加速力に転じさせるなんて」
ゼロは転ける様に上半身を前へ倒し、地を踏んばる左足の面対称に引いた右腕で地面目掛けて殴り込み。
左足の地を蹴る行為と、右拳の殴る行動がまさに──馬が駆ける際の足並みが如くタイミングは一致。
瞬間的に得る加速力は、常識を覆す程に。例えるなら、車の加速力がF-1マシンに変貌した様なもの。
圧倒的な速度で懐へ潜り込み、眼前に迫る顔で視界を奪い、既に引いた左腕が彼女の胸部を捉え穿つ。
「やった!!ゼロさんの左腕が、的確にミミツの胸元を打ち貫いた!」
「ッ……テメェ!」
「──!?」
四方、どの位置から見てもリバイバーが言う通りゼロの左腕はミミツの胸元を通り、背中へ出ている。
にも関わらず、攻め込んだ本人の表情は苦虫を噛み潰したかの如く苦痛に耐え、右拳で顔面へ殴り込む。
その結果を見てリバイバーは理解し、青ざめ言葉を失う。何故なら、ゼロの拳は彼女を貫いていない。
自身の影たる体を操る特性を失っていない。それは爪を長く伸ばせた時点で判明済み。ではどうしたか?
直撃の瞬間命中箇所に風穴を開けて素通りさせ、反撃のチャンスを作ったのは流石三騎士と言うべきか。
「ミキサーに腕を刻まれる光景と悲鳴を間近で見聞き出来るのって、最ッ……高に楽しいと思わない?」
「そう思えるのはキチガイかグロ好きやサイコだけだろ!」
ミミツは自身の四肢をタコ足に変化。両腕をゼロの首に絡ませ、両足は胴体へ巻き付け逃げ道を奪う。
仕上げに風穴の開いた顔と胸元内部へ無数の短い刃を生やし──穴を締めて密着させた状態で問う。
発言から察するに、ミキサー宜しく腕を切り刻む気だろう。実際に回そうとするも、ゼロが突然発火。
青い焔を両腕に宿し、突然の行動に焼かれながら自ら風穴を広げ、両腕で焔を払う仕草をしつつ。
後ろへ下がる中で躓き、転がりながら砂を纏い焔を消すミミツ。双方攻防一体のやり取りだ……
「その両腕──!?」
「影によるダメージってのは、敵になると厄介な能力だぜ。両腕は使えねぇか」
ゼロも距離を取り、リバイバーと合流。彼は血に塗れた両腕を見て、余りの痛々しさに言葉を呑み込む。
その傷痕は仮に人類が受ければ縫合が出来ず、時と共に腕が腐り落ちてしまう程に間隔が狭く疎ら。
自分達が使う戦法を相手も使うのは想像以上に厄介で、両腕は負傷で使えないと判断したゼロは……
何か策が有るのか?リバイバーに耳打ちを行い、彼もまた真剣な表情で頷き、ミミツへと向き直る。
(あの青い焔……魔法と同じく、神秘の塊ですのね。だからこそ、影の体を持つ私にすら通用すると)
「宿主様……見てろよ。これが野性、大自然の弱肉強食で生きる為の──死に物狂いだ!!」
『change……Seven Deadly Sins・Dragon Sin!!』
倒れ伏した状態より起き上がりながら、青い焔が持つ力を分析するミミツに対し、ゼロは──
この戦いを見守る自分に向けて叫び、自身の腰にバックルを召喚。更に第二装甲も無いまま。
憤怒のsin・第三装甲を纏い再度ミミツへ突撃。その背後には愛の第三装甲と彼の姿も。
ゼロ、狼形態の第三装甲、リバイバー。一直線に並び、後方は最前列の背に隠れる様身を屈め走る。
「狙いが見え見え──ですわ!!」
「それこそが俺達の狙いだ!テメェの愚かな両親に代わって……」
「な──っ?!」
直線的な動き・並び故に狙いが筒抜けと言い切ると影の爪を伸ばし、右手を前方へと突き出す。
しかしそれはゼロ達の狙い通りでもあり、胸元へ迫る爪は咄嗟のスライディングで地面を滑って回避。
だがそれすら見破られており、串刺しにしようと左手の影爪がゼロの胸元目掛け狙いを定める。
最中──強制的に装着を分離。同時に彼が強烈な閃光を向け続け、動きを止める事に成功。
上空へ昇る龍の第三装甲。弧を描き大きく跳ぶゼロはリバイバーの刀に宿り、狼形態の第三装甲は分離。
「俺とゼロさんが叱ってやるよ。こんの──分からず屋!!」
彼の体に第三装甲を無理矢理装着させて得た瞬間的な加速力、ゼロの宿った刀を力強く握り締め──
ミミツの右脇腹から左肩へと流れる様に、素早く振り上げる。通常ならば、絶対に影を捉えられない。
能力も何もない。ほぼ常人と大差無い彼ならば、それが当然の結果。なのだが……今この瞬間だけは違う。
影を捉えるゼロを宿した刀を持ち、殺人的な加速性能を誇る愛専用のsin・第三装甲を纏っている。
それを身を以て理解するミミツは斬られる感覚を覚えながら、痛みと死の恐怖に顔を歪め──失神。
「ッ?!た、貴紀さん……こんな頭の血管が切れそうな激痛にも似た憤怒の中で、戦ってるのかよ……」
「やっぱ……宿主様、すげぇって思うよな。数秒間纏った俺達ですらこれなのに、平然としてるんだぜ?」
「「ははっ──本当に……凄いや」」
右手で刀を振り切った後。本人の意思に反して手は大きく開き、掴んでいた刀を地面に落とし。
軽い音が鳴り響く中。リバイバーは左手で酷く痛む頭を掴み、膝から崩れ落ちては……仰向けに倒れ込む。
刀から飛び出したゼロも倒れ込んだ彼の頭上に倒れた状態で現れ、第二装甲無しで纏った感想を述べ。
ミミツを倒した事で維持されていた特殊空間、それを上塗りした終焉の地も天井から崩れ去って行く。
「少し休んだら……宿主様、追い掛けねぇとな」
「俺は此処で後続を待ってから追い掛けるんで」
「そうかい。なら伝言を──いや、いいや。どうせアイツは此処まで来る気はねぇだろうし」
「……?」
二人とも倒れ伏したまま会話を続け、片や休憩してから追い掛ける。片や後続を待ってから~と分かれ。
後続の誰かに対し、伝言でも伝え様としたのだろうが……此処までは来ないと判断し、取り止めた。
誰に対して、誰を指した、どんな伝言だったのだろう?そんな表情を浮かべるリバイバー。
まあ確かに……アイツを指してるって言うのなら、読み通り面倒臭がって来ないだろうな。
「霊華、ルシファー。俺が合流するまで宿主様の事──頼んだぜ」
ゼロ&リバイバー対ミミツの戦いがゼロ達の勝利で終わったのを見届け、自分は俯瞰視点を閉じる。
道中にも人類の人海戦術や戦術・戦略的妨害を受けたが……仲間達の援護と殿組のお陰で。
次の防衛戦・青紫色の結晶体前へと辿り着けた。先程の黒がミミツなら、この中で待ち受けるのは──
『オマケ・アイツ』
ミミツを撃破する数分前の出来事。不老不死を魔神王から頂き、僕として動く並行世界の人類達。
であったが……今やその姿はない。人類『であったモノ』は深紅の刀を持つ男の左手に乗っている。
デコが見える程に短い黒髪、ダークグリーンのシャツに灰色の長ズボンを穿き、背を向ける人物。
「まさか、貴方が志願者に紛れてるとは思わなかったわ。貴紀の元友人さん」
「別に、手伝う気は元々無かったわ。ただ……劣性な方に手を貸しただけじゃ」
「変わらないわね。貴方が家族をベーゼレブルに喰われた復讐の為だけに、幻想の地へ赴いた時と」
「それはこっちの台詞じゃい。まだこんな旅を続けさせとんのかい」
決して顔を見せず、背を向けながら話す彼こそ……幻想の地へ導かれて戻ったエックスの元友人。
ベーゼレブルに家族全員を喰われた復讐を果たす為、止めようとするエックスと何度も死闘を行った。
水葉の魔法で四角形のキューブに閉じ込められた肉塊……人類を手に愚痴をこぼし、先へと進む。
迷惑を掛けた償いか。それとも魔神王の目指す世界平和を拒んでの行動かは……本人しか知らない。




