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ワールドロード  作者: オメガ
最終章・racrimosa
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最後の休息

 『前回のあらすじ』

 逆さピラミッド内部へと降りて来たエックス。その内部は記憶の迷宮さながら、上下左右が滅茶苦茶な空間。

 其処で詠土弥、静久、恋と遭遇。話している内に大山夫妻も合流すれど、マトモに話し合える空間ではない。

 場所を改めて大山夫妻と合流するも、何者かに操られている様子。二人の体と言葉を介して話すのだが……

 エックスは言葉だけで追い返し、意識を取り戻した二人から武具と未来へのバトンを受け取るのであった。


 遅れて来た恋達と合流後。何故か迷宮状態が解けており、お城エリアへ降りる事に成功。

 その後はノエルとデルタに導かれる形で歩き続けお城の頂上、瓦上へ辿り着いた。此処へ来て何故か……

 第六感と言うか。異様な程に感覚が鋭く研ぎ澄まされ、空間把握・感知・予知能力が極めて高い。

 エレベーターで襲撃される前に音で気付いた時、ルシファー達が動く光景も一瞬だか見えていた。

 当然──『この先起こる出来事』も、一部予知している。それが的中するか否かは別としてな。


「改めて見ると圧倒的だな。相手との戦力差が────悪い意味で」


「流石の貴方でも、勝てない?」


「まさか。既に王手投了済み。生かさず殺さずはウチが誇る仕立て屋の十八番(おはこ)だ」


 金の鯱に右手を置き、目標の結晶塔へ視線を向ければ……視界に映るは此方へ攻め込もうとする敵陣営。

 数なんて数えるのが馬鹿らしくなるレベル。何せ敵対する並行世界の人類は無数に対し、此方は……

 想定する志願者を含めても、数十人程。人類史で言えば赤壁(せきへき)官渡(かんと)の戦いレベル。

 屋根上へ出ては隣に立ち問い掛けるサクヤに対し、既に王手を突き付けたと発言すれば彼女は微笑む。


「とは言え、彼女(マキナ)の能力は指定した区域内限定。この世界全ては玩具箱には入り切らないわよ?」


「うん、理解してる。詰めれて精々七~八十億程度、残りは可能な限り足止めして貰う」


 マキナは膨大な時間と継続させれる魔力さえあれば、宇宙すら内包する玩具箱を作れる。理論上はな。

 が……問題は全てが足りないと言う点。現状は人類一つの足止めが精一杯な上、戦闘への参加が不可能。

 残る数も膨大過ぎるが、それは量より質。頼れる数十人と志願者達、戦術・戦略で対処する他ない。

 にしても……向こう側(最終目的地)へ続く道が見えない程の敵軍ってのは、ある意味初体験だわ。


「……貴紀。最上階からの通信で、開戦は今より一時間後。外の時間でヒトヒトフタマルだって」


「十一時二十分に開戦か。ふむ──悪いけどサクヤ、他の皆に伝えて来てくれないか?」


「…………了解。何かあったら直ぐ貴方の所へ駆け付けるから」


 通信機を装着した左耳に左人差し指と中指を当て、聞いた内容と作戦開始時間を伝えてくれるサクヤ。

 開戦時間を確認する形で呟き、右手を唇に当て──通信機を持たない仲間達へ伝えて欲しいと話す。

 すると目を閉じ、何か考える様子を見せたと思えば了承後、此方を心配した返答を返し城内へ戻る。

 アレは十中八九、此方の心情を理解した上での返答だな。全く……勘の鋭い女ってのは怖い怖い。

 とは言え。とは言え──だ。別にあの中へ単身突貫する程蛮勇でもなければ、予定がある訳でもない。


「これが──最後の戦い。沢山の命と(希望)を奪い、沢山の仲間達が散って逝った。これで……終われる」


 ただ単に、一人で居れる最後の時間が欲しかっただけ。過去の旅を思い返し、俯いて呟く。

 奪い、奪われ、奪い返す日々。長い平和が怠惰と退屈を産み、相反する刺激(スリル)を求め、罪を犯す。

 平等など存在しない、ありはしない。お金・衣食住・環境・技術。その全てが不平等、それが現実。

 誰かの幸せは誰かの不幸。負の螺旋階段を解く為、挽回を求めた結果が……ワールドロードを生んだ。

 後は──奴と全人類の夢と希望を完膚なきまでに打ち砕き、終焉を始まりに巻き戻すだけ。


「これで良い。世界はもう一度チャンスを掴み、自分は糞みたいな願いを叶える。等価交換には十分だ」


 等価交換──何かを得る為に、何かを差し出す。物々交換の時もあれば、現金や概念の時もある。

 今回の場合は……後者、概念に該当する。世界を破壊し、もう一度だけダイスを振り直すチャンスを──

 同時に、個人的な願いも叶える。最終決戦の地たる結晶塔へ再度視線を向け、決意を胸に再確認。

 城外へ出ると、其処には詠土弥と小型カメラで自身を写す静久の姿があった。何をしてるのだろうか?


「……丁度良い。写真を撮らせろ」


「いや……自分は記録に残る系統は絶対に嫌だって、静久は知ってるだろ?」


「それは当然……知っている。が……詠土弥は『私』の写真を欲しがっている」


「……………条件付きなら構わん」


 歩いて近付くや否や。此方に気付いた静久は振り返らず、大ッ嫌いな写真(記録系)を撮らせろと言う。

 事情を知る静久に反論するも、詠土弥が『私』の写真を欲しがっている。と言い返され……

 一、撮る写真は一枚だけ。二、他の誰にも見せびらかさない。三、写真がどんな結果でも文句無し。

 その条件が飲めるなら。と確認すれば静久は頷き、詠土弥は不服。


「静久の、写真、だけで、いい」


「阿呆。貴紀と私を含めた龍達は一心同体……一蓮托生」


「決戦前の写真を撮るなら、やっぱり集合写真よね!」


 不満を漏らすが、静久に反論されるもやはり不服な様子。そんな時、右隣に突然現れたサクヤ。

 此方の右肩に左手を置き、右手には一眼レフの黒いカメラを持っている点には流石に驚く。

 そんなこんなで家族・仲間・この場に居る志願者全員が集められ、集合写真を撮る羽目に。

 やはりと言うか何と言うか。誰が自分の隣・近くに立つか?と揉めたのは予想通りとしか言えん。


「はい、チーズ!」


 公平になる様おみくじ筒で出た番号式にした結果──右隣にアイ(真夜)、その周辺にオラシオンの五人。

 左隣はサクヤ。周辺にジャッジ、トリック、マキナ。背後にはマジックこと水葉先輩、その隣へゆかり。

 なんと言うか……アイ側には邪神達や亜人系統が。サクヤ側だと外見人間や同期が集い、器用に分かれ。

 三脚に設置されたカメラは水葉先輩の魔法で遠隔操縦し、シャッターを切り焼き増しされた。


「これで良し……持っておけ」


「あり、がとう」


「さあさあ、残り十二分よ。最後に準備を整えたり気持ちの整理は済ませてね」


「自分は済んだ。師匠や真夜から追加で欲しい小道具も貰ったし」


 焼き増しされた写真の一枚を切り抜き、開閉式の黒い本型ネックレス。開いた内側に写真を貼り付け。

 閉じると紐を持ち、詠土弥に差し出す。受け取る彼女の顔は少し嬉しげで、何も知らない者から見れば。

 双子姉妹のどちらかがプレゼントを与え、受け取っている風に見えるのだろうな。

 最終決戦開幕前の時間が刻一刻と迫り、準備と気持ちの整理を~と言うサクヤと話ながら、門前へ進む。


「……今回は最後の最後まで、私も貴方と共に駆け抜ける事を誓うわ」


「ソイツは有り難い。さて、あの軍勢をどう突破する作戦なのかねぇ」


「火力組が直線的に道を作るから、貴方はsin・第三装甲を纏って少数精鋭と共に駆け抜けて欲しいの」


 開いた門から見える景色は山頂から見下ろす様に小さく、遠い奥まで見える。まあ、実際──

 地盤が浮いとるから、門から先は道が無いんですがね。だからこそヘリコプターが襲撃に来た訳だし。

 なら自分達はどうやって、ヘリコプターで襲撃に来る様な高所から降りるのか?それは勿論……

 先輩が作る魔法の階段改め、滑り台で。サクヤ曰く、火力組の攻撃で直線的に道を作り、駆け抜けろ。

 それが作戦らしい。後は他の面々が食い止めてくれている間に魔神王を倒せば、万々歳って寸法。


「……サクヤ?」


「これが──最後かも知れないでしょ?だから、本音で話したいの」


 時刻と空の明るさが相反して夕焼け空の中、左隣に立つサクヤが此方の左手と自身の右手を繋ぎ。

 指を絡め、恋人繋ぎをし始めた。ヤる時位しかして来なかったのもあり、素面(シラフ)では流石に恥ずい。

 不意を突かれて内心慌てる気持ちを収め、平常心を装って名前を呼び掛け振り向くと……

 彼女の目には涙が溢れ、今にも泣き出しそうな表情のまま──此方の胸に飛び込んでは顔を埋め。

 自分としても……右手で優しく抱き締めてやる位しか出来なかった。その理由も、知っているからこそ。


「ごめんな。弱体化した自分の成長を、見守らせる事しかさせてやれなくて」


「うぅん……分かってる。貴方が私の戦闘力(データ)を相手に与えたくなくて、無理してた事も」


「流石に、手に負えない相手の時は頼っちまったけどな」


「大丈夫。私達は持ちつ持たれつのパートナーで、一蓮托生の関係でしょう?」


 誰にも言えなかった内心の一つを吐露すれば──理解している部分を告げつつ左手で抱き締め返され。

 理解されてない部分を補足するなら。大切で大好きなサクヤに、男として良いところを見せたかった。

 ってのがあるんだけど……照れ臭くて言えず、言い方を変えて情けないと思いつつ言葉を返すも。

 一蓮托生のパートナー、頼れる時は頼って欲しいと言われ……自分の弱さに気付かされ、涙が溢れた。


「静久、行かない、の?」


「阿呆。貴紀はずっと……惚れた女が可能な限り、傷付かない様戦ってきた。その報酬の邪魔は無粋……」


「よく、分かん、ない」


 抱き締め、気持ちを伝え合う中。悪い意味で情報共有が発動し、倉庫の物影に隠れた二人の会話が届く。

 届くと言っても耳に~と言う訳ではなく、心に響く。テレパシーの様なものと言っても過言ではない。

 行かないのか?と言う詠土弥の言葉は、既に時間なのか。それとも静久も抱き締めに行かないのか?

 のどちらだろう?行かない理由を伝えても、恋愛経験の無い詠土弥には難しい様子。今後次第だろう。


「続きは──この戦いが終わって、落ち着いてからね」


「……なら、尚更負けられないな」


 可能なら最後まで行きたいが、如何せん時間がないし、全員集合してるこの場では公開処刑も同然。

 故に、この戦いが終わり落ち着いてから……とサクヤは言うのだが、その時まで生きていられるかどうか。

 けれど、それを言ってしまうとお互いに気まずくなる。少し間を空け、遠回しに勝利を約束し──

 名残惜しさを覚えつつも手を離して少しすれば、皆が集い始める。さあ、泣いても笑ってもこれが最後!


「目標は結晶塔に居るオメガゼロ・ワールドロードの撃破!俺達の役目は貴紀を送り届ける事」


「志願者や協力者達は先に下で潜伏中。私達の動きを通じて、彼ら彼女達も動き出すわ」


「明日を、未来を掴む為に精一杯足掻いて生き延びろ!!それが自分から、皆に送る最後の命令(お願い)だ」


 作戦に参加する大勢の仲間達に、大雑把だが作戦の指示を出す終焉。サクヤは協力者の旨を伝え。

 最後に自分へとマイクを渡され。この最終決戦で死ぬなと仲間達に、思いの丈を伝えたら。

 大歓声と反論が返ってきて、中には「夢を叶える前に死ねるか!」とか「そんな予定無いぞ」と色々。

 そうして最終決戦は幕を開け、仲間達はこの戦いに勝って生き延び、夢を掴むと意気込み。

 先輩が作った魔法の滑り台から下界へと次々滑り降り。自分もサクヤ、終焉と顔を合わせ降下する。



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