鍛冶士
『前回のあらすじ』
高層ビルエリアから逆さピラミッドエリアへ降りる中、武装ヘリの攻撃を受け乗っていたエレベーターを破壊されてしまう。
が──ルシファー達の援護により無傷で迎撃しヘリを撃墜。仕方なく別のエレベーターを求めて途中の階で降りる。
其処で出逢ったのは……予想外の援軍として現れたハスター、マイゼル、ベゴニアの三名。しかし、まだ信頼出来ないマイゼル達二人は遊撃部隊へ。
ハスターはエックスに休暇と再戦を約束させ、握手を交わす中。人類の落ちぶれっぷりに毒を吐くのであった。
霊華達に連行される形で別のエレベーターに乗り、高層ビルエリアから逆さピラミッド内部へ。
逆さま故か。重力まで引っくり返ってるらしく、天井──もとい床を歩いている訳なんだが……
その内、頭に血が上りそうでなんかヤダ。そんな感想を抱きつつ、先端側へ向かって進んでいると。
「あ、見付かっ、た」
「やはり、馬鹿と煙は高い所へ上る……か」
「いやいや。ご主人様は状況を把握する為に最上階へ行っただけで...…」
詠土弥、静久、恋の三人とお互いに奇妙な向きで遭遇。この奇妙──と言う理由が……
此方は逆さまなのに対し、恋達は降りて来た階段や通路が捻れており、正常なモノが無い始末。
ピラミッドは墓荒らしに対する祟りやらオカルト云々はよく聞くが、今回はどう言った理由なんだか。
改めて今居る場所を見渡すと……某名もなきファラオの魂を宿したパズル内部、記憶の迷宮風な空間。
四方八方に階段や通路があり、捻れたり上下左右が滅茶苦茶。これも奴に喰われた世界なのかもな。
「ご主人様。ワールドロードを倒すにしても現状、戦力不足だが……」
「邪魔、沢山、居る」
「面倒な事に……並行世界の幻想種も私達の敵側……」
「一番厄介なのがこの空間では相手側に死と言う概念が無く、不老不死な点だ」
覚醒した今、恋達融合メンバーとはリアルタイムで情報共有が行われている為、既に知っており。
ワールドロード討伐作戦、マイゼル達志願組の件も理解した上で訊ねる恋。つまりそれだけ人手不足。
詠土弥と静久の二人が言う様に、奴の思想に飲み込まれた連中は腐る程居り、不老不死の軍隊だとも。
昔っから言っているが、不老不死程度は問題じゃない。要は殺さず、生かさなければ良いだけの話。
そう三人に伝えると、静久達は理解した様子。一人だけ意味が分からず、首を傾げる詠土弥。
「フッ……奴らも運が悪い。選りにも選って、不老不死の対処が得意な貴紀を相手にするとはな……」
「クスッ──そうだね。人類が欲して止まぬ不老不死を得て、悪夢の地獄を体験する事になるとは」
これから戦うであろう敵に対し鼻で笑いつつ、哀れみを込めた表情で小馬鹿にして嘲笑う静久。
恋も同情しつつ、喉から手が出る程に欲したであろう不老不死を、自ら手放したいと願うであろう。
人類の光景が目に浮かぶのか。目を閉じてクスリと笑い、薄目を開けて悪い顔で口角が少し上がる。
話について行けず、静久や恋を交互に見る詠土弥は最終的に此方を向き、その目で説明を求めて来た。
「早い話、我に秘策あり!あって事でしょう?私達の英雄さん」
「少なくとも俺達の……であって、人類からすれば世紀の大罪人なのだろうがな」
「……お前達も歴史ごと此処へ来ていたか。大山和人、それに蓮華……」
「静久様。その節は大変、ご迷惑をお掛けしました」
恋達とは別の階段を下り、現れたのはトリスティス大陸でお世話になった鍛冶職人家族の大山夫妻。
敢えて私達のと言い、限られた者達限定の意味を込めて口にする蓮華と補足を入れる和人。
静久が話し掛けるや否や、二人は頭を下げて跪き、あの時の出来事や迷惑に対する謝罪を述べる。
シリアスな場面で悪い、と自覚してんだけどさ。静久達から見ると……二人は壁に頭下げてんのよね。
「兎も角、場所を変えよう。此処で話すには、異様に首が痛い」
「それには賛成だ。何処かで合流しよう」
会話をするには場所が悪い。三者その意見で一致し、一度解散して別の場所で合流しようと決まる。
が……この通路、階段の何処を進めば皆と合流出来るのか分からず、不明なのは誰も口にしない。
けれど──行動しなくては何も変わらないし、変えられない。自分も今進んでいる階段を降り。
何処かへと続く通路へ入ると、形は長方形で幅は狭く、平均男性一人と拳一つ分のスペースしかない。
暫く歩いていると、向かい側で誰かが此方に手を振っているのが見えた。蓮華と和人夫妻。それに──
「やっと落ち着いて話せるわね」
「……やる気なら『直接』来いよ。お前にその度胸があるのならな」
「ハハッ。何を言って──」
「通訳を通し、話終えたら二人を解放しろ。解放しないのであれば……」
急いで走る等せず、歩いて夫妻の前で立ち止まれば。頭上で振っていた手を下ろし、蓮華が口を開く。
少し間を空け、此方の意見を伝えた。すると和人が突然笑い出し、話を逸らそうとした為。
改めて用件を伝え、目を細めて睨む。次の瞬間、二人は立ったまま力無く俯き、口だけが動き出す。
「何故、完全なる平和を拒む。何故、死に物狂いで抵抗をする?」
「我々が目指す平和。それは誰も傷付かず、悲しみや飢えすら存在しない平等な世界」
「「受け入れよ。この素晴らしき世界を」」
蓮華の声で何故拒み、抵抗するのかを此方へ問い掛け。和人の声だとワールドロードが目指す世界。
その良さを訴え、続け様に二人揃って奴が築く。争いや憎しみすらない完全平和な世界を受け入れよ。
そう、声高に叫ぶ。正直、聞いてるだけで頭が痛くなりそうだ……と言うのが素直な感想。
その叫びは止む事無く、連呼し続けるので呆れ果てた末に首を短く横へ振り、左手を小さく挙手する。
すると続けていた連呼を止め、此方の言葉を聞く姿勢改め、静かにしてくれたので顔を上げ口を開く。
「お前が求め続けるのは──未来永劫不変の今日だ。それがテメェが他者に与える不老不死の正体」
魔神王の語る平和とは、永遠不変の今日。水葉先輩達終焉の闇ナンバーズが掲げる計画、その集合体。
故に、自分はその計画や込められた夢と希望の全てを完膚なきまでに叩き潰し、破壊して来た。
不変……不老不死。老いと死を恐れる生命にとって、喉から手が出る程に欲しい異能であり──悪夢。
変化とは成長であり退化、不変は停滞。例えるなら……自滅や破滅の類いでしかない。
幸せも毎日続けば、日常と変わらない。変わるからこそ良し悪しを感じ分け、喜怒哀楽を感じ取れる。
「子孫も産まれず、毎日同じ事の繰り返し。そんな退屈極まりない平和に、一体何の価値がある?」
「「そ、それは……」」
「侵略・融合・平和の終わらない円舞曲に、今日こそ幕を降ろしてやる!」
進歩や衰退も無く、変化さえ無い日々に価値はない。それを訴えると二人は狼狽え始め、二歩下がる。
変わぬ毎日、予定された幸福。そんなの……退屈でしかない。ただでさえ、平和とは刺激が無く退屈。
故に犯罪や問題が起き易くなるリスクを孕み、与えられた平和が反乱を引き起こすと言うのに。
しかもそれを一方的な自己満足かつ、可能性世界さえも巻き込んで行う迷惑っぷりには、呆れ果てる。
この傍迷惑なエンドレスワルツに終幕を降ろすと、面を向かって言う。
「自分達は人類の親かも知れん。けどな!!過度な干渉は子の可能性を殺す。それをいい加減分かれ!」
後ずさる二人に対し、喋りながら力強く歩み寄り。片手ずつで胸ぐらを掴み、真剣な表情で叱る。
親が受けた嫌な経験を子にさせたくない。それは分かる。それでも選択するのは子供だ!親じゃない。
両親も他人も危険だから、どうせ無駄と可能性や主体性の経験を摘む保守的な思想ばかり。
自分自身に都合の良い事ばかりを子供や他人に押し付け、思い通りにしようとする糞共が増える一方。
相手から未来を奪う行為を、善意・悪意に限らず行うんじゃねぇ!!それじゃあ若葉は育たねぇんだ!
「な、何故だ……私は……全世界を平和に導く為だけに──」
「お前が侵略した世界の住人達全員がそれを望んだか?!個を失ってでも、平和が欲しいと!」
「そ、それ……は……」
戸惑いと驚きが入り交じった表情で口を開き、自身の正当性と弁明を話し始める和人。
フォローを入れるなら、その善意は認める。実際に気が遠くなる程に続けれる行動力、実行力も。
だが!!相手がお前にソレ求め、お前が相手へ我が子同然に無償の愛情を与えない限りはな!
自身と違うからこそ反発し、良し悪し関係無く理解し合い、互いにベストな距離感を掴み合う。
問い詰めて行けば蓮華は言葉に詰まり、表情も後ろめたさを感じてか、ゆっくりと顔を逸らす。
「……悪いが、自分は心に勇気を持って突き進ませて貰う。全てが教師であり、大切な経験値なんだ」
「「…………」」
突き放す様に両手を離し、二人に向けて自分の意見を伝える。生きるとは、学び続けるも同然。
受け入れ、拒み、無視し、はぐらかす。他にもある選択肢から勇気を持って答え、決断して行く。
弱肉強食な野生の世界よりはずっとマシで、集団と孤独の二択を選ぶ残酷な世界。
二人は俯いて黙り、黙秘を続けた後──突然顔を上げ、辺りを見渡す。どうやら、解放された様子。
「う~ん……頭に霧が掛かった様で、意識を失う前後の記憶がない」
「貴紀に私達の武器を届けに来た事までは、覚えているんだけどね。あぁ……丁度良いわ。はい、コレ」
「コレは──」
右手で痛むであろう頭を押さえ、意識を失う前後の出来事を思い出そうとする和人と蓮華。
どうやら自分に渡す物があり、届けに来たと言い渡され受け取った物は──
握り拳で掴む青白と赤黒のミニダガーナイフ二本。後は手斧、縁が白で面積が紅いカイトシールド。
残りは匕首が十本。取っ手以外が刃と言うブーメランに、寧達技術組の改造鎖付き鉄球。
薄茶色の皮袋によくこれだけ詰め込んだな。と納得しつつ、触れた武具を全て粒子に変換し収納中。
「今の盾、V字の縁が刃になってるのな」
「内側にある取っ手も機械技術の回転式を採用していてな。上手く使ってやってくれ」
「それは有り難いが……改めて聞くが、どうして自分達に此処まで協力してくれるんだ?」
カイトシールドの白い縁が刃になっており、白兵戦向けに改良されていると気付き、問い掛ければ。
機械式やら厳重な扉、ハッチで見掛けるレバー機構を取っ手に採用したと自慢気に言う。
これだけ協力してくれる二人に、何故これ程助けてくれるのかと聞けば、大山夫妻は互いの顔を見て。
クスッと笑った後──「自身らが信じる存在にしてやれる事を、出来るだけやった」と言い肩を叩く。
「俺達鍛冶士に出来る最高の戦いは此処までだ。後は任せたぜ、俺達の英雄!」
「私達の……世界中の可能性に満ちた明日を、貴方が取り戻す事を信じてるわ」
そして──『鍛冶士』として行う戦いは、自らが信じる英雄に最高の武器を与える事だと言い。
自身らだけではなく、世界中の未来を取り戻すと信じ背中を押してくれる大山夫妻には……感謝しかない。
敢えて言葉ではなく、ゆっくりと深く頷けば夫妻も頷き、二人は期待を込めて此方の肩を強く叩く。
バトンは受け取った。ならば、後は走り切るだけ。待ってろよ、ワールドロード!
何を考えているのか、昔からお前は直接此方には来ない。なら今まで通り──此方から向かってやる!!




