共犯者
『前章のあらすじ』
最終試練となる七番目の荒廃した人類の未来世界を舞台に、仲間である白兎やマキナと戦い。
更に心情ゆかりの過去にも干渉していたゼノス、終焉の闇トップ戦力たる終焉に闇納、配下の三騎士や融合四天王とも戦う。
全勝とは行かずとも勝ち越し、終焉&ホライゾンとの決戦中に最終目標である双子月に封印されし者。
魔神王の一部・リアクター戦へと移行。戦っていた二人と協力し挑むも、ホライゾンを残し喰われてしまった……
臥薪嘗胆──これまで積み重ねて来た苦心・苦労。その全てはこの一瞬の為に。
そう思える程の長い長い旅路を超えて、漸くこの無秩序な世界へ戻って来た。改めて思う。全ては──
そう。今に至るまでの旅路は全て此処から始まり、此処で終わる。いや……終わらせる。
この身勝手極まりない善意、盲目の正義を。自分と言う存在、悪が──人類最後の希望を打ち砕く。
「と言うか、昔より遥かに無秩序感が増したな」
気が遠くなる程の長い年月を経て、漸く帰って来た……終焉と始まりの場所──ワールドロード。
簡単に言えば、魔神王の中。人間誰しもが持つ、精神世界とも言えるこの場所に、リアクターの本体。
魔神王が存在する。奴を倒せるタイミングがこの時を除いて他に無いのは、この賭けが理由。
数多の並行世界や異世界を喰らい続け、全ての文化が混ぜ合わさった空間に唯一広い空間がある。
持たれ合い、中心の黒紫結晶を支え合う七色の結晶塔。其処へ辿り着く道は一本しかなく、途中には……
「長い長い旅路が遂に終わる──そんな記念すべき場所が此処とは……因果なものですな」
「あぁ。此処で自分は……落ちこぼれからオメガゼロとして、魔神王と対峙する道へと駆け出した」
「その勇気は認める──が、あの邪魔な爆散途中みたいな黒と青紫色の結晶は何だ?」
二つの結晶が行く手を邪魔してるのを、今居る大阪ピラミッド高層東京タワーの展望室から見ている。
何それ?って思うだろうが、自分も思う。突っ込んだ負けと考え、敢えてスルーしてるのが現状。
左側に真夜、右側へ終焉が並び立ち、話をする中で無視していた事実を終焉が真顔で突っ込む。
「十中八九、防衛エリアだろうな。順番に突破して来い!って言う挑戦状」
「フン。魔神王は相当俺達自慢の義弟を恐れる余り、最終決戦前に消耗させたい訳か。分かり易い話だ」
「それだけ貴方が成長した、と言う事実でもある。本当に……強くなったわね」
「あぁ~っ!!何ナチュラルに背後から抱き付いてるんですか!それは私の役目ですよ?!」
そう──アレは魔神王が配置した防衛線。終焉が言う通り此方の消耗が目的。当然……それも想定済み。
だからこそ、オメガ・アーマーでわざと喰われてやった。あの姿ならば、仲間との離れ離れを防げる。
胸元で腕を組み、自分を警戒するのは当然だと発言する終焉。背後から此方の首へ腕を伸ばし。
まるで恋人や仲睦まじい夫婦が抱き付く様な仕草をしてくる水葉先輩へ異常に反応し、食い付く真夜。
「それは義弟が貴女と言うパワードスーツを纏う時だけでしょう?」
「うぐっ……」
「それに──貴女が宿るに相応しい超古代文明の技術で機械を造り強化改修したのは。何処の、誰、かしら?」
「ぬぐぐぐぐぅ……っ!!」
が……誰しもが気付かない。気付かなかった事実を語り、真夜をぐうの音が出ない程に言い負かし。
更には、超古代のオーバーテクノロジーを贅沢にも全て凝縮し造った真夜の体──パワードスーツ。
その恩もチラつかせ、反論感情を押し潰した。直後、勝利の微笑み序でに先輩が呟いた言葉が……
「実は貴方の使う物は全て、私の設計と思想を詰め込んだ物。時を止めて……ね」に、思わず戦慄。
じゃあ寧達や博士達の発明も全部先輩の設計?!まさかこのコートも?と思い視線を向ければ、微笑んだ。
「その女は重度のシスコンだ。超科学を作るその頭脳を、一人の愛する男に費やした結果と諦めろ」
「……別に嫌じゃない。寧ろ何度も死線を救ってくれた物を、大切な女性が造ってくれた事に感謝だよ」
その微笑みは肯定であり、補足で終焉から理由を話され、左肩から不安げな表情を覗かせる先輩に……
本心を語り、隻腕となった左手で先輩の左頬を優しく撫でながら感謝の言葉を伝える。
此方の行動に片や懐いた猫の如く目を細めて堪能し、片や嫉妬と行き場の無い怒りを焔にして燃やす。
「さて……後の問題はアレ、よねぇ」
「あぁ。今度は俺達が、義弟を決戦の場へ完全な状態で連れて行く番だ」
「にしても──あの光景は本当に、我々が『全人類の敵』になった。と嫌でも理解させられますよ」
魔法で体を浮かせ、展望室のガラス越しに外を眺めながらそう話す水葉先輩の視線先には……
様々な時代・国々の人達が各々の国を象徴する武器を手に、誰かを血眼な様子で探している光景。
真夜も下で行われている人々の行動を見下ろし、自身らが全人類の敵になったと自覚する。
「自発的に隷従した愚者共め。俺達の進行を邪魔するか」
「民衆は自ら圧政者に服従し、隷従と言う毒に慣れ、子にもそれを強要して負の連鎖を続ける」
「その習慣が自ら自由の翼を捨て、戦う牙を抜いた。哀れな人類の末路です」
人類とは、世界とは……一つの舞台劇場だと自分は思う。誰しもが何かに成れる可能性を持つ舞台劇。
歌う者は聴く者と広める者が居なければ、その価値は無くなり、無価値な存在になってしまう。
自発的隷従──過去に王へ遣い従えた経験が後世に受け継がれた結果なのか。それとも別の理由か……
よくも悪くも、隷従する行為に人類は慣れてしまった。愚者と貶す終焉、習慣と言う猛毒に慣れ。
自ら翼と牙を失くしたと語る、先輩と真夜。負の連鎖を続けた愚者の末路と貶す。
「掃除すんだろ?この哀れな世界──便所の糞尿を」
「……勿論。汚物は綺麗サッパリ水に流し、腐った便所も破壊して作り直さないと」
魔神王に隷従し平和を得た者達、隷従に反発し平和を乱す者達。もしこの場に第三者が居たのならば……
どっちが悪で、どちらが正義や善に見えるのかな?腐った全人類を便所の糞尿と蔑み、訊ねる終焉に。
自分は汚物で穢れ、蝿にまみれた世界も破壊し、作り直すべきだと追加で言い返す。
自分自身が信じてきた正義が百八十度引っくり返った時、正義とは何か?と疑問を持つか、貫くのか……
それは分からない。けれど、自分が思う正義とは──我欲。故に自分は悪を為し、正義を討つ。
「私達は正義の味方じゃない。悪を為す共犯者故に...…ってね」
「俺達はあの愚者共を突破し、防衛線を越える為の策を考える。お前は下で最後の会話をして来い」
「武器の強化改修を行ってるみたいですからね。細かな調整は扱う者が居てこそ……です」
自分達は正義の味方ではなく。皆が大っ嫌いで、撲滅を望む存在──悪である。
悪党共は殺す。正義の味方も殺す。善すら殺す。故に我が二つ名は──スレイヤー。
数多くの仲間……共犯者を抱え、悪を為す。友や親友など、ドゥーム一人で十分。数が居ても邪魔だ。
己が人生に友の何が必要か?成長の果てに友は去り、孤独に苦悩し仲間外れを受け疎外感を味わう。
三人の言葉を受け、東京タワーの展望室からエレベーターで、高層ビル最上階のBARへ。
「やあ、私だけの御得意様。御注文は?」
「……強化改修は済んでるかい?俺だけの芸術家様」
部屋全体の照明は点いておらず、薄暗い中でカウンター席とブレイブ・デウス・エクス・マキナ──
此方へ視線を送る彼女一人に注がれる照明。それは正しく、夜闇の灯りに誘われる虫が如く。
魅力的で抗い難く、照らされた席へと歩み寄り腰を下ろせば……彼女から営業スマイルで注文を聞かれ。
バーテンダーには似ても似つかない。寧ろ死の商人寄りな言葉とテンションに乗り、返答を返す。
「丁度──私達終焉の闇No.が魂と技術の粋を結集させた一品に仕上がってるよ」
「……人類には絶対使えない代物に仕上げたな」
「スレイヤー様専用オーダーメイド・チューンナップカスタム仕様。誰でも使える物は不要でしょ?」
カウンターに置かれた二挺拳銃。その形・造形に違和感を覚えつつ、マキナの言葉を聞き手に取る。
それだけでコイツは魔剣ならぬ魔銃と判明。人類には不向きな重量と固い引き金で選別し。
仮に引けても弾は出ず、確定脱臼と腕や手首がイカれて魂にすら多大な傷を残し続ける欠陥品。
デメリット無しで扱えるのは生涯で自分のみ。しかも……トリックが魂入済みで基本性能も魔改造とは。
「通常上部バレルから発射する弾を下部に変更。反動大幅減少、発砲後の銃口跳ね上がりも最小限」
「それ──『俺以外』には恩恵だなんて甘ッチョロい代物じゃねぇだろ?」
外見は砂漠の鷹。バレル構造等はキアッパ・ライノ、口径はS&WM500のXフレームを採用。
弾丸はマグナム弾のM500。撃たなくても分かる……コイツぁ、人型が使って良い玩具じゃねぇ。悪魔だ。
マキナが話すメリットも俺以外には発動しない様、御丁寧に銃口が二つありやがる。オマケによぉ……
テーブルに置かれた弾はライフルにシェル、M500とハーグ平和会議で使用禁止の拡張弾頭。
これらを装填可能な無茶苦茶構造な上に、追加フレームまであるじゃねぇか。戦争するには丁度良い。
「この弾丸は私達が作った超特殊弾。四発しかないから、大切に使ってね」
「了解した。この弾丸全部、魔神王に命中させてやんよ」
「そ・れ・と。これは全勢力の技術を注ぎ込んだ一品。是非とも君へ……とね」
置かれた四発の銃弾の説明を聞き返答を返した後、本物と見間違う程に精巧な右腕の義手と。
破壊されたフュージョン・フォン──ではなく、外見的に普通のスマホを差し出された。
試しに機能を確認してみるも、普通の携帯電話。スーツで使うシステムの説明とかはあるがな。
「ちょっと他の事で大量に使って材料不足なんだ。ごめんね」
「いや、別に構わんさ」
義手だの何だと装備を整えてくれた以上、謝られても此方から特に責める理由も無く。
申し訳なさそうに眉を下げるマキナに言い、義手を付けようとするもやはり片手では上手く出来ん。
それを見かねてか、自ら進んで付けてくれた。手を握り、腕を動かしてみる。……以前と変わりはない。
「オマケ機能も付いてるからさ。後でスマホの説明アプリから確認しといてよ」
「了解だ。アナメ達は下の階か?」
「下の階……と言うか、ピラミッドの方だと思うよ?」
「最終決戦前に呪われるってのは、ある意味洒落にならんのだがな」
また何か仕込んだらしく、後で確認して欲しいと言われた。他の面々は高層ビル・別の階に居るか?
と訊ねれば、逆さに突き刺さったピラミッドの方だと言う。探検は良いが、好奇心は猫をも殺す。
棺桶とかその他諸々を弄ってなければ良いんだが……と思いつつ装備品や銃弾等を懐やポケットへ直し。
席を立てばマキナに背を向けてエレベーターの前へと歩き、降下用のボタンを押す。
「大丈夫。私達が信じる君なら、魔神王にだって勝てるよ!」
「ソイツは有り難いお言葉だね。……安心しろ。俺は絶対に勝つからよ──その後の予定でも組んどきな」
エレベーターが下の階から到着するまで待っていると、カウンター席から身を乗り出し。
席に左手を置いて支えにし、此方へと右手を大きく振りながら応援してくれるマキナに気付けば。
此方は敢えて振り返らず、背中を向けたまま返答を返す中。エレベーターは音をベルの鳴らして到着。
振り返ってボタンを操作。扉が閉まる途中、勝利宣言と勇気の紋章を見せ、ピラミッド階層へ降下。




