声・後編
静かな森の中でレイシは森の声から聴き、直接見たと言う現状を話してくれた。
同時に語る現状は自分の予想を大きく外れ、斜め上を行く内容過ぎて、大抵は嘘扱いされるだろう。
「放射性物質?」
「うん……生命の有無に関わらず取り付いて融合すると、血管みたいなのが生えて自身を増やす存在」
その言葉に大方当てはまる存在を、自分は知っている。融合獣だ。
奴らの本体であるマザー。覚醒寄生種・ヴルトゥームを此処で倒し、全て解決した……筈だった。それがまた、蘇ったのか。
「どうも五千年前。破壊者と言う方に倒された時、仮死状態でやり過ごしたみたいで」
「仮死……状、態?」
「今は復活に必要なエネルギーを溜めているらしいんですが」
「奴は何処だ! 何処にいる?!」
奴が生きている。その事実を聴き今すぐ、今度こそ奴を倒してやるんだと怒っていた。いや、焦っていた。
レイシの肩を何度も揺すり訊いても、地中奥深くへ避難しているらしく、此方から手が出せない。
歯がゆさと詰めの甘さ、彼女の死を無駄にしてしまった自分に対し、悔やむ気持ちと後悔が胸に残った。
「そう言えばさっき、青色く光る大きい鳥っぽいのが飛んでったよ?」
「何それ。と言うか、それがどうかしたの?」
「君のフルネーム、栗原貴紀でしょ? その鳥っぽいのが君の名前を何度も叫びながら飛んでいて」
鳥っぽい。と言われても心当たりは天狗しかいなく、それでも青色の天狗は知り合いにいない。
此方の名前を呼ぶって事は、少なくとも自分を知る存在に違いはない。身体的な特徴を訊くと──
大きな翼、カラスの嘴を長くした様な口、細い手足と長い尻尾があったと言う。
ちょっと待ってくれ。心当たりが全くないんだが……可能ならソイツを直接観てみたい程だ。
「漸く……見付けた。こんな所に隠れていたか」
「だ、誰? 誰なの?!」
「奴らより早く発見出来たのは、此方側としても有り難い。獲物を横取りされずに済むからな」
突然森の中から聞こえて来る低い声。
一ヶ所から、じゃない。暗闇の中から今、自分達が居る聖光石と言う光源に守られた範囲を囲む様に聞こえる。
誰かと問うレイシの声に対する返答はなく、自分勝手な言葉を一方的に押し付けている風に思うが。
もしかしたら此方は見え、声を送れるが聞こえはしないんじゃないか? とも思えた。
「一つ、面白い事を教えてやろう」
時たま思う事がある。何故自分が優位に立っていると思う連中は、冥土の土産とばかりに教えたがるのか?
それで自滅だの、対処されて逆転される奴とか多く見てきたんだがな……
もしかして流行りか何かか? それとも死ぬまでに一度は言いたい言葉ランキング上位とかなのか?
「今、何処かの城が襲撃を受けている。負傷者は増加の一途らしいぞ?」
(宿主様。この声は──)
「下級魔族の軍隊を率いているのは……ハハッ。青い瞳と黒茶色の髪をしたガイノイドだ」
まさかとは思っていたが、ゼロも同じ答えらしく聞き間違えではない様だ。
笑いながら特徴を話してくる中で、ガイノイドと言う言葉を聴き誰が率いているのか分かった。
ガイノイドとは、女性型アンドロイドやロボットを指す言葉。思い出せる戦闘経験の中でも、女性型ロボとの戦闘はアイツだけ。
しかし肝心な襲撃場所が分からない。そもそも、この世界の地図すら手に入れていない。
「何故わざわざ自分に教える?」
先程の会話から望む返答は返ってこないと知りつつ、問いを投げ付ける。
例え求める答えが返ってきたとしても、今の自分に何が出来るだろう?
子供と言う姿なだけで子供には関係のない話やら、危ないから大人に任せてあっち行きな。と言われる始末だ。
「あの国がどうなろうと知った事じゃねぇが、俺の獲物はテメェだけだ」
(何度も俺達に敗けてる癖に。まだ諦めてねぇのかよ)
「だが──奴らのやり方は気に入らねぇ。正攻法だろうが気に入らねぇモンは変わらん。ならどうするか?」
話の中で幾つか疑問が浮かんでいた。
元々アイツは調律者達が造ったアンドロイドであり、奴らは機械兵や改造兵しか使わない。
調律者達は心と言う不安定かつ脆いモノを嫌い、安定性があり裏切らない機械で支配しようとしてた連中だ。
それが下級とは言え魔族を率いて侵攻するとは思えない。となると、別の組織かと話も聞かず疑ってしまう。
「テメェを呼び寄せ、奴らの計画とやらをぶっ潰させる方が俺としても万々歳って訳だ」
(ドウスル、王ヨ。言葉ノ裏ニアル思惑ガ丸見エダガ、ソレデモ乗ルノカ?)
確かにこれはどう考えても、自分を呼び寄せる罠、もしくは口実の一つにしか思えない。
昔は信頼出来て心強い仲間が居たから、罠だと知りつつ飛び込み、撤退とかでサポートも受けれた。
しかし今回はそう出来ない。予想から導き出されるイメージには、一番避けたい光景しか見えない。余りにも分の悪い賭け過ぎる。
「どうするかはテメェが決める事だ。見殺しにするか、火中の栗を拾いに行くかはなぁ!」
言いたい事を言うと最後に笑い声だけを残して、奴の声は徐々に消えて行った。
損得勘定で答えるなら、助けに行くメリットは薄い。薄情だと言う連中も居るだろうが、同じ立場となったら手のひらを返すだろう。
縁もゆかりもなく、自らの命を危険に晒してまで助けても、利益すらない赤の他人を助ける行為は。
「漸く見付けた! ヴォール王国が魔神王率いる軍隊に襲われてるって、伝令が届いて……」
「ヴォール王国って確か、シオリ様が仕えている国ですよね?」
「えぇ。下級魔族だけなら対処出来るらしいんだけど、異国の将に前線が崩され気味で」
茂みから出て来たシオリは所々、木の枝で付けたであろう傷が目立ち、息切れをしており。
彼女が何を言いたいのか、自分に何を求めているのかを自然と察し、奴の言葉が本当だと理解した。
「あそこには、心国王と霊華王妃様が!!」
国王? 王妃? そんな疑問よりも頭へ飛び込んで来た言葉は、未だ帰って来ていないあの二人がヴォール王国に居る事。
そして……無限郷時代。過去へ飛ばされた先で起きた異変解決大詰め時、自分を庇い、二人は死んだ。
本人達は満足げな顔をしていたが、自分からすれば未然に防げたかも知れない大きな失態。
定まっていた過去は変えられない事実を、今更ながら痛感した出来事が記憶として蘇った。
「今から行っても……間に合うのか?」
「此処からヴォール王国だと、馬を目一杯飛ばして一時間半。ううん、一時間位かな」
「普通ならそれ位は掛かるけど、今はアイテムでも移動は出来るし、転移の符を使えば直ぐに着く」
一瞬ご都合とか思ったが、ルシファーの力を借りれば自分だって魔力を大幅に消費して瞬間移動が出来る。
母さ……霊華だって事前に転移先へ護符を貼って必要な技法をすれば、精神力を大きく消費して転移出来ていた。つまりはソレの単発版だ。
防げるのなら、未来を変えられるとするならば。今動かなきゃ駄目だって事位、嫌でも分かる。
「一緒に連れてって欲しい。何が出来るか分からないけれど、やれるだけの事はやらせて貰えないだろうか?」
「……勿論。その言葉を待ってたわ」
上手いこと奴に誘導されている感はある。
魔力は……会話している間に聖光石の光で消費した分は回復済みか。長期戦にならなければ問題ない。
雑魚は王国の兵士達やシオリに任せたい。いや、任せないと魔力が足りない。十中八九、奴らを相手にする未来が見えるしな。
再確認だ。今、パワードスーツを装着するには音声認証が必要。稼働時間は通常で二十分、フル稼働で十分が限界。
一度装着して解除すると光源で魔力充電し、再装着するのに最低で一時間は掛かる。一度の戦闘で蹴りをつける必要があるな。
「出来るならサポートを頼む。十中八九、今の俺一人じゃ手に余る」
「分かったわ。それじゃ、転移開始!」
念の為サポートを願い、差し出された右手を取ると。
シオリは転移の符を取り出し、目を閉じる。恐らく転移先となるヴォール王国を強くイメージしているのだろう。
視界が一瞬眩い光に照らされた次の瞬間。暗い森の光景から赤く燃え盛る都市が視界一杯に広がり。
奴の姿も見えた。相手も此方に気付いたらしく、突撃して来た瞬間──
「変身!!」
瞬時にパワードスーツを装着。この王国を襲い、下級魔族を率いている将とも呼べる存在。
正式名称は対・破壊者用兵器、Deletetorture。
略して機械兵・DT-0との戦闘が始まった。




