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ワールドロード  作者: オメガ
七章・ferita che non si chiude
356/384

絶望 -Demon King-

 『前回のあらすじ』

 終焉&ホライゾンペアに黒龍まで追加され、白龍一族の遥が自ら黒龍相手に挑みヘイトを買う。

 持ち堪えてくれている間に善戦するエックス。されどダメージは少なく、攻撃の手は増える一方。

 狐武装甲の力を上手く使い、突破口を開き同士討ちを引き起こしたり等立ち回る中、限界が迫る。

 それはアーマーの活動時間であり、双子月の片方へ封じた。倒すべき存在の封印が解ける時間……



 中から漏れ出す鼓動音は次第に強く、速く──遂には大きな亀裂が入り、月と言う胎盤から零れ落ちる。

 その轟音響かせる巨体の奴を例えるなら……まだ目も開かぬ、生まれたての赤子。そう聞けば可愛らしい。

 が……コイツが放つマナを浴びればそんな砂糖菓子同然の甘い発想は、カカオ九十五%の沼に沈澱してろ。

 それ程にアンバランスなのだ。この魔神王──オメガゼロ・ワールドロードが持つ容姿と力の差は。


「……我が唯一無二の友よ。その姿での戦闘は、後どれ程出来る?」


「無理をすれば、後三分は出来る」


「それは重畳。完全に目を開け、覚醒する前に我らでアレを倒すぞ」


 奴を視ていると、何故か無性に……母に逢いたくなる程体が震え、足が竦む。

 そんな私の背を見てか。ホライゾンが左隣に並び立ち、活動限界時間を問い、嘘偽り無く答えれば。

 この上なく満足と言い、魔神王討伐の共闘を持ち掛けて来た。私の右隣に並び立つ終焉も頷き、求める。

 元々私が進む道。旅の目的は魔神王の討伐、もしくは封印。故に共闘の申し出を断る理由等無く、頷く。


「終焉、我々で我が友の道を作る。それで良いな?」


「異論はねぇ。最大火力だけで言えば、俺達より貴紀の方が遥かに高けぇからな」


 二人は顔を見合わせず、魔神王から目を離さぬまま話を進め、左右に散って注意を得る為に走り回る。

 ホライゾンは左腕の弓から肉矢を射ち、奴の額や喉に直撃を射ち込むのだが……

 応えている様子が全くない。終焉は背後へ回り込み、黒炎を纏った両拳によるラッシュを首に叩き込む。

 それでも痛がる様子は見せない。何かの仕掛け(ギミック)でもあるんじゃないのか?とさえ疑ってしまう。

 ふと……ある事に気付いた。コイツ──最初っから『私』しか見ず、他の二人には興味も無い様子。


「……成る程。お前の眼中にあるモノは、私と言う欠けた半身と見るべきか」


「まんま!」


「前言撤回。半身ではなく食料としてとはな!」


 何をされても二人は眼中に無い。つまり、魔神王から融合能力を奪った私しか敵と認識していない。

 そう考えていたが……突然四つん這いで動き出し、私を御飯と言いながら、玩具を掴む様に右手を伸ばす。

 少なくとも、奴に喰われて能力を奪取される訳には行かない。そうなっては何もかもが終わってしまう。

 奴は四つん這い時で高さは十メートルある。ならば、その倍以上を跳べば問題はない。

 ハイジャンプで六十メートルまで跳躍。左腕に狼武装甲を装着し、下へ口から飛び出した砲身を向ける。


「──なっ?!」


「だぁ~だぁ~!!」


 直後──奴は立ち上がるどころかジャンプまで行い、右手を伸ばし。バスケットボールの選手が……

 相手のゴールを阻止する為叩く様に、此方を空中から地面へと叩き落としたのは……予想外も予想外。

 殺意や敵意も無い。されど無意識ではなく、好奇心と興味だけが向けられていると分かる。

 アレだ。年端も行かぬ子供が、虫の脚や羽を捥いで遊んだり、落ちている物を口に運ぶ無邪気そのもの。


「コイツ……俺達の猛攻を全く気にしていやがらねぇ!」


「おかしい。何故我々の攻撃が効いてない。虚無・アインの効果か?にしては、触れても消えていない」


「出血の一つでもあれば、ダメージの通りが見えるって言うのによぉ!」


「出血?ダメージの通り?もしやコイツは……だとすると、奴を倒す術は……」


 たった一撃で………数秒間とは言え意識を失ってしまった上、全身の装甲に亀裂まで入るとは。

 気付けば私を掴もうとする巨大な左手が迫る中、終焉が間に割り込み怒涛のラッシュを打ち込む。

 愚痴る言葉に何か思う点があり、思考を巡らす。疑問──出血が無い点から何らかの閃きがあった様。

 「さっさと離れろ!!」終焉のキツい言葉に心がズキッと痛みながらも、迫る左手から後方へ距離を取ると。


「クッソ!!なんだコイツは!脂肪の塊を殴ってるみたく、手応えが──!?」


「終焉!」


 最後まで左手の平を殴り続け、愚痴る彼に魔の手は伸び……握り潰す様に掴む。

 それだけならまだ良い。いや、良くはない。魔神王は終焉を握ったその手を──口の中へ突っ込んだ。

 あの終焉がいとも容易く、携帯食料を手軽に口へ頬張る様に突っ込まれた光景に、思わず叫んでしまう。


「あんむあんむあんむ」


「我が友よ……奴を倒す術は視えないのか?!」


 此方の心情等全く意に介さず、口の中へ頬張り込んだ終焉を、恐らく無いであろう歯で何度か咀嚼。

 喉を鳴らして呑み込み、下品かつ二リットルの炭酸飲料を一気飲みした様な、長いゲップを一つ。

 ホライゾンの左隣に下がると、魔神王を倒す術が視えるか否かを問われる。当然最初っから視ているが……


「……視えない。奴を倒す術が、何処にも存在しない」


「何だと?!では奴は──完全無欠の存在だとでも言うのか!?」


「正確には、あの赤子を模した容姿たる存在は魔神王本人ではない。原子炉──reactor(リアクター)


「赤子の容姿で……成る程。確かに子供と言う存在は、何でもかんでも口に入れたがる。それを利用したか」


 アレを倒す術は存在しない。奴を対象とする如何なる能力や攻撃も、数値を零にされては届く訳がない。

 私の言葉に驚き、完全無欠の存在と言うのか?と言われたが、正確には視るべき視点が違うのだ。

 奴は全てを喰らう原子炉(リアクター)。倒すべきはその裏に居る魔神王本人。幾らコイツに攻撃しても餌と化す。

 ホライゾンの発言通り、子供と言う存在。そのあり方を上手く利用した形態とも言えるが、何より……


オメガゼロ(終わりにして始まる)ワールドロード(世界の道)とはよく言ったものだ。皮肉にもな」


「どう言う……そうか。終焉と生誕。成る程、人類を滅ぼし、人類より産まれ出でし者か」


「あぁ。私が破壊すべき存在──魔神王(善意により)オメガゼロ(滅亡し取り込まれた)・ワールドロード(並行世界の人類達)


 あの劇場で観た全ての始まり(元凶)。それが例え全世界の平和を謳うモノだとしても、選択肢を与えない。

 皮肉にもそんな一方的かつ強制的な押し付けが、私の平凡な物語を破壊し尽くし、再構築しやがった。

 故に私は元凶たる人類を破壊する。如何なる罪も背負い、数多くの誰かを傷付け、不幸に落としてでも。


「ならばどうする?コイツを倒さなければ、本命は現れないのではないのか?」


「…………」


 では、このリアクターをどう対象するんだ?と言われ、何をどうしたら良いべきかと考える。

 幾ら攻撃しても、それを餌として吸収されてしまう。なら、エネルギーに変換された餌は何処へ行く?

 人間であれば食物は喉を通り、胃で溶かされ腸が栄養を取り込む。……コイツに取っての腸は、何処だ?

 赤子の奴は四つん這いになり、ハイハイで轟音を響かせ、近くのビルへと近付いて行く。

 親目線では愛らしい光景だが、虫視点だと恐怖。視点の違い、その恐ろしさと認識の大切さを痛感した。


「コイツの攻略法を探る。全身に攻撃を叩き込むぞ、ドゥーム!」


「フッ……了解した。我が友よ!」


 とは言え奴を放置しても良いと言う訳ではない。放置すれば現在の様にビルや瓦礫を駄菓子の如く食べ。

 遂にはこの世界すら喰い尽くし、再び別の並行世界へ赴くだろう。それだけは許してはならない。

 攻略法を探るべく、二手に分かれた途端。奴の意識がビル等から此方へと視線を向け、迫って来た。やはり、一番の狙いは私の様だ。


「丁度良い。ドゥーム、奴のヘイトは私が買う。その間に攻撃を!」


「承った。お互いに生き残り、再びあの頃の様に笑い、語り合おうではないか」


「それは──良い!その時は是非ともっ!!君のお手製お餅シリーズを抹茶で……頂きたいモノだ──ね!」


 右手を振り上げ、掴もうと振り下ろすリアクターの攻撃方法は単調かつ大振りで、回避は容易。

 私が狙いならば囮を引き受け、ドゥームに攻撃役を頼み、彼に視線が向かない様方向に注意し逃げ回る。

 互いにこの決戦を生き延び、古き良き時代の頃と同じ様に語り合おうと言う、嬉しい誘いを受け。

 掴めずに苛立ち、地面を叩く速度を上げるリアクターの猛攻を左右に跳び避けながら返答を返した後。


「誘導もお手の物だな。表面への攻撃を吸収するのであれば……体内はどうだ?」


「だぁ?」


「爆ぜろ!!」


 ドゥームは奴の後方を位置取り、会話中に巨大化させた左腕の弓。その下端を地面に突き刺し、固定。

 右腕を巨大な爆弾矢へと変え、弓につがえ──リアクターの肛門目掛けて射出。

 突然受ける異常な感覚。奴も爆弾矢を尻穴に撃ち込まれ、爆破されて前のめりになる経験は……初だろう。

 続けて上空より黒龍と白龍が垂直降下しつつ、黒と白の塊を吐き──リアクターの背面へ続々と命中。


「主を喰われ、奴にヘイトが移ったか。この好機を上手く利用せねば……何ッ?!」


「まぁんま、まぁんま~」


 合わせ鏡の様に途中で左右に分かれ、距離を開けて奴の手が届かない範囲外から息吹(ブレス)を放つ二匹。

 ゲームでもある射程外からの攻撃。だが奴は腕の長さに(ゼロ)を加え、骨の硬度は零へ。

 ゴム同然の腕に変換。逃げ惑う黒龍と遥の体を鷲掴めば、暴れる二匹を口に頬張り麺類さながら丸呑み。

 生きた魚類や椀子蕎麦の丸呑みを家族や友人に置き換えてやられると……衝撃展開に思わず言葉を失う。


「本当に……我々はコイツに勝てるのか?チートではないか。こんな生物……」


「……カテゴリー、外部接触干渉無効、内部干渉有効、ダメージをエネルギーに変換」


 終焉、黒龍、遥。喰われて行く戦力、与えてもエネルギーに変換されるダメージ。

 外部からのスキル(能力)、攻撃の無効。逆に自身のバフは無効には成らず、内部爆発は有効だが再生範囲。

 ……視えた。奴の攻略法!何故これ程簡単な方法に気付けなかった?手札はある。が、今の現状。

 彼女は動けるのかが不明。攻略法にだけ向けた思考が加速する中、奴の両腕。その動きに反応が遅れ──


「我が友よ!!今助け……」


「──!?!?」


「キャッキャッ!」


 右腕に絆、左腕に愛の武装甲を纏い回避から攻撃へ移る瞬間……両腕を掴まれ、掴み上げられた直後。

 両腕は強引に、力任せに左右へ引っ張られ──付け根から引き千切られ、私は支えを失い地面へ落下。

 ドゥームの援護も間に合わない、好奇心旺盛な即断即決。その結果に笑い、二人(絆と愛)を頬張り呑み込む。

 無理矢理起き上がるも、捥げた激痛、止血する仲間達の努力を嘲笑う様に漏れ、噴き出す紅い液体。

 隣に駆け付けた友の額に、私の額にある第三の眼から赤い光を照射。直後、右足で友の腹を蹴り飛ばす。


「友よ...…」


「後は任せた。私の長い生涯において、唯一無二の友となってくれたドゥーム」


 後生の別れ。そう思わせる彼の悲しげな声を耳にし、信頼する唯一無二の友に言葉を投げ掛け……

 私は──口を大きく開けて前のめりに倒れ込んで来たリアクター。奴の口内へと消え、丸呑みにされた。

 こうして……魔神王は奪われた力・能力の全てを取り戻し、完全復活を遂げた。全世界(一方的な正義)完全平和(・身勝手な善行)は近い。



~THE END~

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