限界 -danger-
『前回のあらすじ』
遂に始まった、エックス対終焉&ホライゾンの決戦。お互いに激しい攻防を繰り返す。
策を練って行い、破られ、更なる策で対応する中。仲間達のスキルを使い、少しずつダメージを与える。
読み合いを勝ち抜き、決め手の準備を整えるも終焉に仕える黒龍に妨害され、吹き飛ばされるエックス。
各々襲い来る二人と一匹に、狐武装甲を左腕に装備し迎撃の準備を整える。果たして、彼に勝機はあるのか……?
武装甲──限定融合やオメガ・アーマー限定で使える、龍・狐・狼・蛇の頭部を模した手甲。
両者の共通点は彼女達個々の力を凝縮し、扱う点。明確な違いは──凝縮する力の量と質。
限定融合は素で使用した際の負担軽減、sin・第三装甲で運用する為、五割に抑えているが……
オメガ・アーマーでは完全に片腕へ凝縮。更に夢現の『夢を現にする』能力を上乗せし武装面も充実。
左腕の狐武装甲を眺めて微笑み、漸く此処まで来たと短く振り返り……黒龍へと向き直る。
(貴紀様。あの黒龍は私が相手をします。倒すまでは無理でも、白龍族の意地を見せてやりますわ!)
「……頼む。だが、無理は禁物。誰一人として死ぬ事は許さん。それが条件だ」
(えぇ、百も承知です。貴方様は独占欲が強いお方ですもの。如何なる損失強奪干渉等は万死に値する)
そんな時。右腕付け根にある純白の小型シールドウイング自身が発する声に共鳴し、上下に震え。
黒龍の相手を勤めると進言。当人が言い様に、勝率は低い。それでも乱入や援護の妨害は出来ると言う。
最強級二人を相手してる間、黒龍のヘイトを引き受けてくれるのは有難い提案。しかし……
分の悪い賭け。正直、天秤に乗せても勝率は釣り合わない。常人なら拒むか、捨て駒で行わす。
が──私が生存を条件にすれば、白龍一族の遥は此方の意図を理解した上で、黒龍へ飛び出す。
「捨て駒……じゃねぇな。その眼は勝利を諦めてねぇ。俺達に勝つ気とは。フッ……上等だ!」
「熱くなるな!と言うのは無理だな……良かろう。この援護すら捌けぬのなら──所詮はそこまで」
宙を舞う黒と白の龍。二匹の相反する息吹が激突し、大爆破を起こす中。終焉は──
一直線に此方へ飛び込み、右拳で殴り込んで来る。平凡な拳なら避ける動作すら必要無い。のだが……
面倒なのはその拳に纏ったバフ。虚無・アインに建物を塵すら残さぬ黒炎。直撃は避けるが吉。
上半身を右側へ動かして捻り、初撃を避ければ──ニヤリと笑い、全身に黒炎を纏い繰り出す連撃。
だが付け入る隙はある。終焉の連撃はボクシングの動き。背後から迫る肉矢の対処も含めるなら……
「てっ……めぇッ!!」
「やはり、この程度では応えんか」
相手の大振り右ストレートが繰り出される瞬間。右足の爪先を主軸に身を捻り、避け、右手を伸ばす。
掴むは首。勢い良く身を捻った勢いのまま、バランスを崩した終焉ごと反時計回りに振り回し。
迫る肉矢を防ぐ肉壁にして高速一回転する際地面へ叩き付け、狐武装甲から白煙を吹き付ける。
とりま第二段階成功。予想以上にダメージがないのはご愛敬。狙いは他にある為、早急に離れた。
「回避防御攻撃。それらを全て流れ作業が如くやって見せるとは……流石だ」
「多対一の基本は如何に被弾を減らし、同士討ちを誘うかがミソだろうに」
数秒の出来事を見破り、肉矢を散弾の様に発砲。通常の散弾銃に比べ、弾が無駄に大きく。
避けるのは容易い。狐武装甲の口を自身に向け放つ風──RPGで言うバフ、矢避けの加護を纏う。
次に迫るは……某宇宙世紀の精神感応兵器さながら個々が動き、魔力弾を放つ散弾で放たれた肉矢達。
青空を縦横無尽に動き回り半分は射撃、半分は刺突の突撃。更にホライゾンの近接、中距離攻撃も。
「どうしたどうした!!防戦一方では時間を失い、活動限界時間を迎えるだけだぞ?」
「その割りには……距離調整に徹してるじゃないか」
「フフフフフッ。この程度も攻略出来ないのかね?」
矢避けの加護で射撃攻撃は防げど、それに頼れば肉矢の刺突やホライゾンの近接攻撃を許す他。
出力次第では貫通される為、過信は禁物。言ってる事とやってる内容が真逆なホライゾン。
中距離を保ち、近付かない様肉矢達で徹底管理。狐武装甲を真下に向け、口から青い焔を地面に落とす。
線香花火が燃え尽きる様に落ちた焔は私を中心に╳印を描き、突如巻き起こる嵐に包まれ火柱を作る。
マジック、トリックの類いに見えるソレは次第に拡大範囲を広げ、ホライゾンや肉矢達を包み込む。
「確かに、この焔ならば我々にダメージは与えられよう。しかし!それだけでは──」
「勿論、これだけで倒せるとは思う訳が──なかろうて!」
「インファイト?!フッ……何処までも楽しませてくれる!」
狙いはホライゾンと終焉の視界を一瞬でも逸らす事。それは達成し、追加で肉矢を燃やし尽くした。
焔の渦が通り抜ける中。喋ってるホライゾン目掛けて武装甲を解除しながら飛び込み、繰り出すは……
両拳にマナのバフを纏い、打ち込む怒涛のラッシュ。最初こそ虚を突かれ、サンドバッグ状態だったが。
次第にラッシュを繰り出し、激突する拳。その近くで黒龍に首を噛まれ、地面へ叩き付けられる遥。
右手を右側へ大きく振り、ハンドショットを黒龍の頭部に撃ち込み注意を引き付ける。
「良いのかね?わざわざ自らヘイトを買うとは」
「ッ……私は、強欲なのでね。それに、無策でヘイトを買った訳では……ない!」
「何──ッ!?」
指摘された通り、ヘイトを自ら買った行為は相手からすれば、自殺行為も同然に思うだろう。
しかし、あのままでは遥が殺られてしまう。救助と迎撃の二重策を達成する為、敢えて引き付けた。
迫り、暴れ狂う黒龍が邪魔でホライゾンは近付けず、距離を取る以外の選択肢に大きなリスクが付く。
だからこそ離れる。それが……私の罠だとも知らずに。彼に飛び込み、顔面を殴り飛ばした存在は──
「終焉?!一体どうしたと言うのだ!?」
「まぁ~だ立ち上がりやがるか。流石俺達が認めた男。こうなりゃあ、徹底的にやってやるぜ!」
そう。タッグパートナーの無月終焉。何故彼がホライゾンを殴り、お門違いな発言をしているのか?
理由は狐武装甲装備時に吹き付けた白い煙。アレは幻覚幻聴のデバフで、文字通り狐に化かされ。
味方を敵と誤認させるモノ。つまりはこれでタイマン勝負に持ち込めるって訳だ。
それでも終焉を相手に効果は未知数。いつ解けるかも分からん以上、注意と警戒は解けん。
(すみません、貴紀様。持ち直しましたので、黒龍の足止めは再び私が引き継ぎますわ)
「頼む。ファンタズム・リーゼ!」
「──!?!?」
周囲を泳ぎながら長い尻尾で牽制・注意を背後へ向ける様に叩いては、威嚇も含め口を大きく開く。
そこへ遥が左側面から黒龍の首目掛けて噛み付き、念話で話し掛けて来る。自身が再び引き受けると。
痛みの余り、暴れ狂う黒龍。まだ幻覚・幻聴に包まれ、襲い来る終焉にホライゾンは防戦一方。
右腕に虹色のマナを込め、引き締め……同士討ちをする二人に幻想巨人の拳を打ち込み、吹き飛ばし。
次は左腕にマナを纏い、振り向き様に黒龍の顎へ幻想の拳を振り上げ、地面を抉り真上に殴り飛ばす。
「まだまだぁ!」
(こんな所で──負けてられませんわ!!)
再度終焉達二人組へ向き直れば、今度は時間が許す限り、両拳で怒涛のラッシュを打ち込み続ける。
轟く衝撃音、舞い上がる煙。もう少し、後少し。勝機が見える中で、仮面の右頬部分に亀裂の音が……
もう制限時間の限界が?!内心驚きながらも拳を打ち込んでいると……違和感と二つの音に気付く。
一つは地面を抉る衝撃音ではなく、煙の中で別の何かに幻想の拳が次々と弾かれている重々しい音。
二つ目は短く軽い音が無数。そのリズム、ホライゾンの特徴から答えを察し、首を左に傾ければ──
「煙幕の中から射ったにも関わらず、小さな音のみで直感的に位置と距離を把握し、避けて見せるか」
「オラオラオラオラオラァ!!ホライゾン、ラッシュは俺が食い止める。その隙に……ッ?!」
「──っ!!やはり、我々に残された時間はもう、限界を迎えた様だ……」
一本の肉矢が左頬を掠めて過ぎ去り。続けて迫る肉矢は左手を向け、虚無・アインで抹消し対処。
対する終焉は残りのファンタズム・リーゼを全て拳で迎撃し、ホライゾンに指示を出そうとした時──
突如辺り一面を覆い尽くす影に気付き、空を見上げるや否や、戦闘中なのに驚愕の表情で構えを解く。
釣られてホライゾンも空を見上げ、酷く驚いた様子でこの世の終わりが来た……と言いたげな声で言う。
私も何が起きているのか?それを知るべく、二人が見上げる視線を追い、振り返って見上げれば──
「アレは……」
小さな月が……この場に居る誰にも一切気付かれる事無く、遥か上空に浮遊していた。
ただ、アレが何かは分かる。分かってしまう。あの中で脈打つ鼓動、今にも割れそうな浮遊する月。
二人の表情と話から。私の心が吼える様に強く叫び理解する、してしまう。遂に──この時が来たと。
力強く握り拳を作り、決戦の途中だと言うのに月を鋭く睨み付ける。アレは倒すべき存在だから。




