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ワールドロード  作者: オメガ
七章・ferita che non si chiude
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崩壊 -over and over again-

 『前回のあらすじ』

 遂に始まった、ルシファーと三騎士・シナナメとの決戦。二振りの小太刀と言う選択や構えに想像する彼女。

 しかしそれは、自らの想像力で選択肢を狭める行為。初撃を許し、鎌鼬で切り返すも攻め込まれる始末。

 そして本気を出す彼女だが……自ら冥刀に操られた狂戦士へ変貌。その実力にルシファーは防戦一方に。

 人刃一体。妖刀と呼ばれる冥刀と、麒麟姉妹の意思を持つ姉妹刀。お互い目的の為──主を突き動かす。



 ぶつかり、摩れる金属音が周囲に響く中。不安を表す様に暗雲が空を包み、雨が徐々に降り始める。

 その勢いは急に増し、ゲリラ豪雨が降る。ただ、双方はお互いしか認識していない。

 雨に足を掬われなければ良いが……と心配する中。相手の頭部狙い、右回し蹴りの踵が左頬に炸裂。


(何やってんだよ、ルシファー!オーバーチューンを出し渋ってんじゃねえのか?!)


「っ……オーバーチューンなら既に使っている。それでいてなお、やや押され始めているのだ」


(待ちなさい貴紀!貴方はもう後三回しか戦えないの!!魔神王との決着を考えれば、余裕は無いのよ!?)


 威力を殺すべく、命中する寸前。大袈裟に回転しながら跳び、雨に濡れる地面に右拳を着けて着地。

 互角……いや、違う。徐々に、されど確実にシナナメがルシファーの攻め手を押して返している。

 これはマズイ。そう思い交代に動くも霊華に止められ、決戦や不足の事態に備えろと制止された。

 最後の一回は自分の全てを賭けたモノ。それでの敗北は絶対に許されない為、ぐうの音も出ない。

 以前視た過去。その事柄をぶつければ、弱体化する可能性はないか?一か八か……やってみて貰おう。


「……承知。亡き父親に対し、今の姿は胸を張って見せれるのか!?」


「おおぉぉぉ!!」


「向日葵との約束は!?お前自身の償いや後悔はどうする気だ!!」


(反応が無い……もう、冥刀に心を全て持ってかれたのかしら?)


 此方の策を実行し、彼女へ過去に関する情報を言うも全く反応は無く、返答は咆哮と力強い斬撃。

 反撃をしても押される。冥刀の一撃はアウトな為、防戦一方のまま再度呼び掛け続ける。

 豪雨が地面に強く叩き付けられる音に負けじと、金属の摩れる音が激しく入り混じる戦況。

 霊華の不安を口にする言葉が感染症の様に、自分の心にまで不安が伝染し、込み上げて行く。

 その時、まだ触れていない過去を思い出したが、それはルシファーも同じらしい。


「シナナメ!!お前が産んだ実の娘、姫の事すら忘れて暴走し続けるのか!?」


「がっ……ぐぅ!?」


 姫──本名までは知れなかったが、あの胸糞殿に仕組まれたにしろ、姫は彼女が産んだ娘。

 その名前を出した途端。シナナメの動きは鈍り始め、好機と見たルシファーが攻勢に出る。

 左手は逆手持ち、右手を通常持ちに替え、怒涛の小太刀二刀流連撃を休まずに打ち込む。

 まさに攻守逆転。このまま押し切れば……勝てる!長物が苦手な近距離戦で打ち込み持ち込み続けるも。

 刀身で防がれるが、想定内。更に接近し、零距離跳び左膝蹴りを彼女の鳩尾へ叩き込み、押し倒す。


「これでトドメだ。魔閃衝!!」


「っ──!!」


 シナナメに股がり、振り上げる右手に魔力を込め、黒紫色の刃を突き刺す様に振り下ろす。

 これで終わる。また冥刀で防ぐから今度はへし折る。と思考するも、甘い考えだと思い知る羽目に。

 突然背中を強烈な痛みが襲い、前転する様に蹴飛ばされた挙げ句。立ち上がり様に振り向けば。


「う……うあぁぁぁぁっ!?」


(彼女……本気!?自ら娘と自身の記憶を崩壊させたわ!!)


(おいおいおい!それじゃあ、最後の理性すら取っ払った最悪な狂戦士(バーサーカー)じゃねぇか!!)


 耳をつんざく雄叫び──違う。そんな生易しいモノじゃない。断末魔にも似た、痛々しい咆哮。

 リンクしている為、自分に代わりシナナメの状態を説明してくれる霊華、最悪の展開だと驚くゼロ。

 自分達の反応など御構い無し。技術だけを肉体に残した狂戦士の繰り出す一撃は防ぐ事すら出来ぬ。

 いや。正確には、防いだら得物ごと押し込まれるか、得物諸共ぶったぎられて終わる未来しかない。

 防戦ではなく、回避前提のサドンデス。バックステップやら屈み、跳び、逃げ惑うルシファー。


魔王爪破壁まおうそうはへき!魔王獣牙弾!射抜け──魔閃槍(ませんそう)!!」


 素早く振り上げた左手を振り下ろし、青白い五爪壁(ごそうへき)を展開。今度は右手を大きく振り上げ。

 力一杯振り下ろせば、前方へ飛び散る赤黒い無数の魔力苦無(くない)が隙間から相手目掛けて飛び。

 両腕を引き絞り、オーバーチェーンで速度と威力を底上げし、眼にも止まらぬ連続突きを繰り出す。

 青白・紫・赤黒の計三色。無数の魔力槍が次々とシナナメに襲い掛かる。技のバーゲンセールだ。


「無駄ダ。コノ肉体ハ既ニ、我が依り代ト成りツツあル」


(マジかよ!?)


(ルシファー!これはもう、貴方と彼女の決着戦じゃない。私達も手を……)


「まだっ……だ!技では敵わなくとも──っ、心に、呼び掛け続ければ!!」


 彼女に代わり、冥刀が発する渋い声。防御壁の隙間から迫る技も何のその。呼び掛ける為とは言え。

 中距離遠距離へ距離を取ったのが悪手。刀の一振りから放たれる斬撃波に、二つの技が弾かれ。

 防御壁まで破られ、砕け散る始末。不幸中の幸いなのは、最後の壁で相殺に持ち込めた点だけ。

 斬撃波の後に飛び込んで来た腹部への飛び蹴り、続けて左足で顔面への回し蹴りは直撃。

 辛うじて踏ん張るも押し飛ばされる中、若干何度か足が浮きつつも霊華達に諦めていない旨を話す。


「おい、シナナメ!!本当に姫や向日葵との記憶まで──自らっ!手放したと、言う気か!?」


「えぇイ!!チョコマカと鬱陶しい……貴様!そンな動キ、今まデ見せテイなかッタ筈だ!」


「阿呆!誰が切り札は一枚だけだと言った!!俺は我らが王の戦いを(なら)い、日々成長している」


 崩落した建物の壁を駆け、飛び回り。いつの間にか街中に張り巡らせた魔力糸を指の動きで動かし。

 大岩サイズの瓦礫から民家、半面だけ崩落したビルを左右から挟み込む様に、シナナメへぶつける。

 ……これ、白兎&マキナ戦でお互いにやった戦術やん。冥刀が彼女に代わり話、律儀に返すルシファー。

 何度呼び掛けても反応は無し。幾ら攻め方を変えても奴は即座に対応、彼女が持つ技術で切り裂く。


(うぉぉい!!デタラメじゃねぇかよ、アイツ!本当に勝ち目あンのかぁ!?)


(……あるわ。貴紀やルシファーもまだ、諦めた眼をしてない。寧ろ燃え上がって──シンクロしてる)


 試行錯誤に試行錯誤を重ね、何十回と思い付く限りの手を打つ。わざと接近を許し。

 その上で魔力糸を絡ませた指で無数の瓦礫を手繰り寄せ、相手をミノムシ状態にしてみる。

 結果は拘束時間一秒、魔力放出で脱出から行動までを含め三秒。その間に大きく後ろへ跳躍で後退。

 同時に刀姫を天高く前方へ投げ、両手に手斧を光から出現させ装備。腕を交差させる様に投げ投擲。

 続けて苦無を手元に召喚。周囲の石や瓦礫を魔力で浮かせ、武器は真っ直ぐ投擲、浮遊物は射出。


「コレガ終焉や裏切り者ガ認め、我らが母の求メシ者……なント残念無骨な愚か者──何っ?!」


「自分を否定するな!ならば何故過去を、自分の記憶を否定してまで『姫』を救った事すら隠した!!」


 手斧は大きく左右を迂回し、苦無や浮遊物が直線的に相手へ迫るタイミングで背後から上下に襲う。

 接触まで一秒の誤差はあれど。大太刀の長さ(リーチ)で、地面に触れるギリギリの位置から振り上げ。

 手斧や投擲武器、射出物さえ鋭いナイフでバターを切る様に回転して切り裂く。が……此処が狙い目!

 超低空跳躍で懐へ潜り込めば、追加の回転二連斬りを繰り出され、胸部に刃が迫る。これを──

 膝曲げ仰け反り滑り込みの無理体勢で強引に回避ぃ!!落下する刀姫を手に、振り返り彼女へと叫ぶ。


「──!!」


「大事なモン(記憶)なら手放すな!!必ず生きて守り通すってのが……人間の筋だろうがぁ!」


「う……あぁぁああぁぁぁ!!!」


 予想通り──致命的な一撃(クリティカルヒット)!これがラストチャンスかも知れん。回避牽制から攻勢へ変更。

 再度雷鳴轟く暗雲へ向け二振りの刀姫を真上に放り投げ、新たにダガーとナイフを手に飛び込む。

 右腕を大きく振り切り、逆手持ちのナイフで首を狙えば、冥刀の刃を向けられ逆にナイフの刃を切断。

 刀身の側面にダガーを全力で突き立てるも、追加の言葉に混じり鈍い音と共に此方の刃が砕け散る。

 刹那、即後退し距離を取る中。シナナメは左手で頭を抱え、悶え苦しむも魔力が高まり、溢れ出す。


「我らが王よ。半分──だけで良い。力を……シナナメを救う為、俺に力を貸して欲しい」


 魔力まで暴走を始めるライバルを見て、ルシファーは自分に助力を求め、呼び掛ける。

 本当はお互い、自分自身だけの力で決着をつけたかったと分かる。それだけ、互いを認め合う関係。

 それ故か、半分だけ力を貸して欲しい。と言う言葉にも──妙な葛藤が入っている。彼らしい。

 勿論、貸さない訳が無い。人間一人救えず、世界を救えるか!ルシファーと深く心・体・技を同調。

 彼の魔力放出と共に、自分も霊力を放出。両手を暗雲に向ければ、赤黒と青白の雷が両手に収まる。


(白姫と黒姫の霊力、魔力が溜まってやがる!けど、何でだ?)


(忘れたの?アレは麒麟姉妹の角から造られた刀を再鍛造した二刀一対の姉妹刀)


(そうか!ルシファーが暗雲の中に何度も放り投げてたのは……刀に雷を喰わせる為!!)


(腹一部にも満たないでしょうけど──『それで丁度良い』位よ)


 両手に持った二本の小太刀から、各々刀身と同じ色の雷を纏う。彼女達もやる気は満タン。

 ゼロは白姫と黒姫に疑問を持つが、答えは霊華が言う通り。以前のシナナメ戦で折れた刀。

 それを打ち直し、魔改造したのが小太刀二刀流・白姫と黒姫。元々、自分は剣士より暗殺者向き。

 暗雲の中で雷を喰わせ、威力の底上げをしたが……後は自分達の武器を扱う技量(スキル)次第。


「オーバーチェーン・オーバーフルドライブ!!」


「ホウ……次の一撃ニ全てを込メル。と言う意気込ミ、鬼気迫ル気迫すら感じル闘志」


「御託はいい。仕留めて殺るから──全力で来い」


「良かロウ。スキル発動。有象両断、明鏡止水、感情凍結、空蹴り……お望み通リ、斬り捨テテくれる」


 これまで発動していたオーバーチェーン。それを最大出力に切り替え、先ずは第一段階。

 刀の癖に、闘志やら心意気すら理解しやがるとは……実に面倒な野郎だ。兎も角、時間がない!

 解説に無関心を装った言動で遮り、序でのやや間を空けた挑発に、冥刀が乗った。これで第二段階。

 残存スキル全発動!?……マズイ。挑発をやり過ぎたかも知れん。降り続ける豪雨の中、流れる沈黙。

 勝負は一瞬、判断は刹那。雷鳴轟き近くの電灯に落ちた瞬間──冥刀の一振りが真っ直ぐ迫り来る。


「キ……貴様ァァッ!!」


「ハッ!!悪魔の言葉を間に受ける阿呆め!」


 が……振り下ろされた冥刀は空を斬る事も、ましてや此方を一刀両断に断つ行為さえも満たせず。

 ただ──受け止められる。白姫と黒姫の切っ先で、前の戦闘から何度も何度も打ち込んだ──

 奴の……冥刀の刀身目掛けた、二刀流・一点集中突き!!通常版オーバーチェーンでは反応不足故。

 限界突破のオーバーフルドライブ!コイツを視力・反応速度・技量に回したカウンター待ち狙い!

 自分達の霊力・魔力は腕力増強に使用。これで……突き上げれば、最後の一撃に持ち込めるんだが!!


「フッ……最後の爪ガ甘かッタな。反応出来テ食い止めレても。押し返シ切レマイ!!」


「くっ……!!」


 肝心な事に押し返せない!!そりゃあ体勢的に押し込みと押し上げでは体重が乗る分、押す方が強い。

 しかも相手は一刀に両手を使い、体勢・重量でもアドバンテージがある。対する此方は圧倒的不利。

 寧ろ逆に少しずつ押し込まれ、このままでは時間(バフ)切れで童話・桃太郎の桃になっちまう!

 ニヤリと笑うシナナメの口。冥刀がそうさせているとしても、これは…………チャンスだ。


(とぉ~っころがギッチョン。何故『俺と霊華』が参加してないと思った?)


(貴紀は常に最悪の展開を思考して動く。敢えて言うなら……アンタ(冥刀)は貴紀との智恵比べに敗けたのよ)


「なっ……にぃぃっ!?」


 感情が動いた。即ちスキル・明鏡止水が切れた証拠。更に勝利を確信し、招いた油断。

 針の穴にも満たない、細く狭い道。それを開拓し、突き進む。此処でゼロと霊華の魔力・霊力を追加!!

 二振りの小太刀から放出される雷、両腕に更なる腕力が増幅され……金属を摩り上げる音と共に。

 一瞬で払い上げ、相手に大きな隙を作る。上下半分に分裂した柊の鞘が己の意思で飛び、両腰に装着。


(フルチャージ完了!!行けッ──宿主様、ルシファー!)


「奥義ィィ!!向日葵・姫!」


 此方が納刀すると相手も背中に背負った鞘に冥刀を納め、お互いに腰を据えて居合いの構えに。

 最後の読み合い。どう斬り込んで来るか?タイミングは?差し返すには?より速く斬り込むべきか?

 永遠にも近い一瞬。お互いに最大速力、全身全霊を込めて決着の一撃を繰り出した。



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