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ワールドロード  作者: オメガ
七章・ferita che non si chiude
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晩餐 -If you haven't changed your mind-

 『前回のあらすじ』

 戦闘不能状態のエックスを逃がす為、紅心とリバイバーがシナナメの手から冥刀を弾き、チェックメイト。

 の筈が……足下にあったマンホールを拾い、剣術舞を取り入れた舞いに手痛い反撃を貰い、紅心は灰化。

 リバイバーも冥刀で心臓を刺され消滅。追う時、同僚の何も知らないミミツに邪魔をされ、追跡を断念。

 終焉が現れ、俯瞰視点で視ているエックスに決着場所と日時を伝える。決戦まで後──二日。



「おはようございます。ご主人様」


 目が覚めるや否や、オラシオン専用メイド服姿のアイが目覚めの挨拶と共に、ご主人様と呼ぶ。

 誰がお前のご主人様か!とホテルのベッドから起き上がり言ってやろうとするも……声が出ない。

 体は自由に動くものの、声だけが発声されない。本気を使った弊害か、それとも制御不足故か。

 幸い口は動く為、読唇術を使えるアイには通じる。不安要素は当然……コイツが正確に伝えるかどうか。

 取り敢えず。返事がない此方に首を傾げ、右人差し指を自身の唇に当てるアイに現状を伝えると。


「成る程。本気を使用された弊害、もしくは制御不足から来る後遺症と判断された訳ですね」


『では、タイムラグは発生しますが、私と同じく筆談も良さそうですね』


 しっかりと理解し、ホテル内に居る二人のオラシオンに説明してくれたのは、正直助かる。

 それに続き、トワイがスケッチブックに書いた文字から選択肢を貰い、思わずそれだ!と指を指す。

 とは言え、自分は右利き。残された左腕では上手く文字が書けないし、食事もままならない。


「それで?アイツらとの決着はいつ?」


「我らが王曰く、二日後。今現在から言えば、明日の午前十時に相手側の拠点にて……ですね」


「何それ!?わざわざ罠を仕掛けてる場所に、自ら足を踏み込みに来い!って言ってるのと同じじゃん!!」


『しかし、我々に拒否権はありません。貴紀様の寿命は明日一杯が限度。それを逃せば……』


 ベッドの端に座り、胸元で腕を組みながら上半身を捻り此方を見つつ訊ねる。

 いつも当たり前に使っていた言葉。それが突然使えなくなると、想像以上に不便なものだと痛感。

 自分の口パクを通じ、アイが答えるも──シオリの反応・憤慨は当然で、不平等でもある。

 肌が一般的な肌色から褐色へ変わる程怒る。対照的にトワイは冷静沈着。拒否権が無い点を伝える。

 気付けば旅立ちからもうすぐ一年。しかも何の因果か、寿命最後の日が自分の誕生日と言う皮肉。


「……ねぇ、勝てるの?最悪その二人に勝てたとしても、三連戦目で魔神王と戦う確率だってあるのに」


「復活の時期に重ねて来た辺り、その可能性は極めて高い。けれど、勝たなければ我々に未来は無い」


『何か、勝率を上げる方法はないのですか?』


 怒りが収まり、褐色から元に戻るシオリが不安気味に、最悪のケースでも勝てるのかと聞いて来た。

 正直、勝ち抜く可能性は極めて低い。そもそも、残った連中は最強格と準最強格候補者。

 本気を出して勝っても、連戦になればなる程消耗するのは此方。体もそうだが、心が持たない。

 連日残業で精神的、肉体的に疲弊して元気が出ないのと同じ。無理をしても心身が壊れるだけ。

 連戦を乗り切り、魔神王を倒す確率を上昇させる方法はないのか?と聞かれ、アイは目を閉じて悩む。


「あるけど、それを本人が望むか否かは別。我らが王のみならず、私達にも選択を求められるわ」


「……その話、詳しく聞かせて貰える?」


 アイが考える、勝率を上げる方法は──知っている。ただ、個人的には求めないし、聞きたくない。

 そんな後ろ向きな気持ちもあり、三人を残し一人部屋を出る。誰も居ない、ホテルの通路を歩く。

 深紅の床を見ると、義父さんとリバイバーを思い出し、胸が締め付けられる。悲しいのに……

 涙が出ず、泣けない。大切な存在を失った胸の痛みを抱えたまま、エネルギー補給に食堂へ向かう。

 都合良く電気はまだ通っているらしく、一階にあるキッチンへ足を運ぶと──


「いいところに来た……少年、料理を作って欲しい」


「すみません。どうにも、この時代の機材とやらの使い方が分からなくて……」


 生ける炎の紅瑠美と大将──もとい、古き親友・ベーゼレブル(ドゥーム)の一人娘、小山巴が居た。

 どうやら、機械文明の調理機の使い方が分からず、迂闊に手を出せないところへ自分が来たらしい。

 隣に立つ巴に教えつつ、紅瑠美にいつぞやの約束を果たすべく調理を始める。とは言え……

 余り時間はない為、凝ったモノを出せず。出汁巻き玉子、水溶き片栗粉を使った鯖味噌の二品に。


「んっ!?少年……腕を上げた。合わせ出汁と焦げ目の無い半熟玉子の甘味が実にベストマッチ」


「この鯖の味噌、長時間煮込んでないのに味がしっかりしてます!」


 自身の分も含め三人前作ったが、概ね好評らしい。義母の力になり、喜んで欲しくて覚えた料理。

 久方ぶりに作るし、食べるけど……うん、やっぱり味覚が無い。能力を使って無理矢理作ったものの。

 誰かが喜んで食べてくれるのは、心の健康に良い。無理をして報われないギバーよりは、断然良い。


「………少年。旅を止める気は、ない?」


「紅瑠美……さん?」


「少年、気付いてる?この世界は大樹から伸びた細い枝先。例え少年が幾ら頑張っても、先は……無い」


「えっ?!」


 料理を食べ終わった紅瑠美から、旅を止めないか?と提案され、その質問に戸惑う巴。

 彼女らの方へ向くと、問い掛ける様に言葉を続ける。かつて──アニマが言っていた発言の意味を。

 木は枝を伸ばし、成長する。けれど……枝は葉を付け、花を咲かせる他に変化は無い。

 何者かに折られ、切られ。いつかは内側から蟲に喰われたりして、木と共に死ぬ。

 仮に枝先を伸ばせても一時的なもの。木、本体が腐っては意味をなさない。多分、この世界は……


「無駄かどうかを決めるのは彼の心だけ。私達がとやかく言う必要性は無い筈よ?」


「同じ結末に収まる以上……無理に苦しむ必要性も無い。私はそう思う」


 真実を理解する中。琴音がキッチンに現れ、結果をどう捉えるかは、本人次第と口を挟む。

 それに対し、紅瑠美も負けじと反論。当人を蚊帳の外にして言い合う二人に付き合えず、席を外す。

 キッチンの外。ロビーのソファーへ座り、目を閉じ仮説を考える。この世界が手折られたとすれば?

 確かにそのままでは先が無い。が……自分に与えられた二ツ名、世界の破壊者とワールドロード。

 これを挿し木にする職人と捉えたら?小さな世界からまた大きく、可能性も広がるだろう。


「起きなさい、坊や!」


「これまでの疲労を考えれば、このまま寝かせてあげるのに賛成だけど……」


『このホテルに残された食材で、各々最後の晩餐を作りました。どうぞ、召し上がってください』


 右頬を引っ張った上、会話を耳にして目を覚ます。其処はロビーではなく、バイキング形式の食堂。

 そして何故か、アイにお姫様抱っこをされ。シオリは此方を覗き込み、心配してくれている様子。

 降ろされた場所は、十人は囲めそうな円卓の席。ヴァイスに席を引かれ、座れと言う合図と解釈。

 席に座れば椅子を押され、他の八人も各々席に座る。左隣に座ったトワイから晩餐会だと言われ納得。


「決戦前の晩餐会よ。思い残す事が無い様、思う存分食べなさい」


 皆で食卓を囲み、各々談笑や勝ち取った先の未来で何を行い、望むのかと口々に話す。

 其処までは……覚えている。いや、覚えていた──が正しいだろう。目が覚めた時、ホテルには……

 誰も居ない。アレは夢だったのか?断じて否。起きた場所はあの円卓で、皆の衣服が。

 円卓に倒れ込む自分に向け、落ちていた。同時に疲労は回復し、喉の調子も良さげで声も出そう。

 本当は……理解している。故に、自分が座っている椅子に掛けられたロングコートを着て、決戦の地へ。


「……来たか。この先へ進みたければ、私を倒してから行け」


(シナナメ……俺達ノ戦イニ終止符ヲ打ツゾ。後顧ノ憂イハ今、此処デ断ツ。他ナラヌ、我ラガ王ノ為ニ!)


 崩壊したビル群に左右を挟まれた一本道。其処で立ち塞がる様に待ち受ける一人の女剣士。

 此方を一目見るや否や。背中に背負った大太刀を器用に右手で抜き、切っ先を自分に──

 いや。自分の中に居る好敵手、ルシファーに向けて挑戦状を叩き付け、彼もやる気を出す。

 この後に続く、終焉との決戦に余計な邪魔を招かせぬ心遣いから。また、彼女を救いたいが為に。


「十秒待つ。その間に……変われ」


(心配ハ無用ダ。王ハ大将戦マデ疲労回復ニ集中シテイロ。俺ハ必ズ勝ツ……王ガソウ信ジ続ケル限リナ)


「四……三……待ちわびたぞ。ルシファー」


「此方もだ。これは王に協力せし者達が俺の為、延いては我らが王の為に打った刃──」


 これ以上は待たん。と、唐突に始まったカウントダウン。秒読みが進む中、ルシファーと話す。

 自身が此処で戦うのは、終焉との戦いに少しでも全力で挑める為だと。その言葉を聞き、彼と交代。

 三秒前に間に合い、下ろす切っ先。応える様に左手を横に伸ばし──集束する光から取り出すは。

 謎の藍色で細長い袋を掴み、抜き出す……右端は赤と黒、左端に青と白の勾玉が描かれた柊仕立ての鞘。


「私と斬り合う為の新しい得物は……長物の太刀を選んだか」


「否。俺が決着に向けて選んだ得物は──長物の太刀に非ず」


 その長さ……百六十センチ。シナナメからしても、新しい武器は長物の太刀としか思えないらしく。

 思った事を言うも、ルシファーは長物ではないと否定しつつ、両手で柄と鞘の端っこを掴み。

 左右に引き抜く。陽の光に照らされる──右手に真紅、左手に蒼白の刃を持つ刃長・一尺七寸(約51.5㎝)の小太刀。

 蒼白い刀身の根本には『白姫』、真紅の刀身には『黒姫』の二文字が彫られている。


「我らが新たなる刃──麒麟・白姫(しらひめ)黒姫(くろひめ)よ。天裂き轟く雷纏い……その刃にて百邪を討て」


 特に構える行為はせず、姉妹刀を両手に持ったまま、ゆっくりとシナナメに向かって歩く。

 発する言葉に反応する様に、白姫は蒼と白。黒姫も赤と黒が入り混じった雷を、その刀身から放つ。

 意思を持つ刀が放つ雷は持ち主に危害を加えず、触れてもいない地面に軌跡を残し、赤く溶解させる。

 もし君の、あなたの気持ちがまだ変わっていないのであれば……私達は応えましょう。

 両手に持つ姉妹刀が柄を通じて、自分とルシファーの心に、そう語り掛ける。



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