声・前編
森の神殿を訪れてからどれ程の月日が経ったのか。霊華達はまだ帰らない。
太陽や月も昇らず四季すら機能しない世界では、知る方法もない。時計も気休め程度で、合っているのかさえ不明。
自分は今、木の棒片手に大きな聖光石の在る大樹付近で、忘れてしまった技を教えて貰っている。
「魔閃衝!」
「駄目ダ駄目ダ。振リガ遅イ、溜メルナ、一気ニ振リ払エ!」
「早く覚えてくれよ、宿主様。次は俺が教える版だからよ」
戦いの記憶は忘れても、戦闘経験は体に染み付いている筈だ。例え技を忘れても、再修得は可能。
振り払う棒きれに己の魔力を纏わせ、斬撃と共に放つ技、魔閃衝。手っ取り早い話、斬撃波だ。
これは達人じゃなくとも使え、ルシファー曰く魔剣士の基礎とも言える技。基礎なだけに変な覚え方をすると、危険らしい。
「次ハ模擬戦ダ。ゼロ、何時モ通リニナ」
「あいよ。さあ、死ぬ気で来なきゃ文字通り死ぬぜ。宿主様」
久し振りとなるゼロとの模擬戦。ただ模擬戦と言っても本気で殺しに来る。
何時も通りとは、そう言う事だ。死の先に生を見出だし、恐怖を克服し怖気付かない為には必要だ。
ゼロはスライムとは違うが、姿形をある程度自在に変化出来る。特訓では非常に役立つ為、有難い。
「久し振りに宿主様と同じ姿で戦闘だ」
「まさに影武者、だな」
眼前に映るはまさしく、白い事以外は自分自身の生き写しと言っても過言ではない程瓜二つ。
木の棒じゃ直ぐに折れてしまう為、自分はポケットから単眼鏡を取り出し、魔力を込める。
すると片方のレンズから緋色の刃が生まれ、素早く刃を振り上げた。
「魔閃衝!」
「甘い甘い。頭上ががら空きだぜ」
「なんの……っ」
放った斬撃は飛び上がって回避され、此方を真似して作った白い刃が頭上目掛け振り下ろされる。
振り上げた直後と言う事もあり、防御には間に合ったものの、力負けして押し飛ばされてしまった。
今使っている単眼鏡はアバドンと戦う前に拾っていた物。様々な使い方があるのを最近発見し、手探りで使っている。
「真ッ向カラ受ケ止メルナ、受ケ流セ!」
「だとよ。魔閃衝!!」
「流石にっ、コレは無理だろ。魔閃衝!」
アドバイスは有り難いが、当然コレはゲームみたいな基本操作的なチュートリアルじゃない。
迫り来る白い斬撃に緋色の斬撃をぶつける。しかし悲しいかな、威力不足で打ち消されてしまう。
「何度言ワセル。真ッ向カラ受ケ止メルナ」
「側面からもう一丁。ぼさっとしてたら首が飛んじまうぜ?」
どうするどうする? 正面と左側から斬撃、右側からはゼロが切り掛かってくるこの状況。 上への回避は無理だジャンプは跳躍力が足りず別の機能は使うのに間に合わない。
後方へ下がっても斬撃を受けるだけ。となれば、自分の直感と戦闘経験に身を任せるっきゃない。
「ホウ、ソウ切リ抜ケルカ」
「うぉっとっと、危ねぇ危ねぇ」
直感と戦闘経験が導き出した答えは──
左手に魔力を纏い、正面の斬撃を左側へ受け流しぶつける行為。流石に同じ斬撃、相殺出来た。
相殺を確認後、咄嗟に左手を突き出すも届く前に後方へ避けられた。少しタイミングが遅れたか。
「ソウダ。斬撃トハ言エ魔閃衝ハ魔力、同ジ魔力ヲ纏エバ触レル」
「そうは言ってもよ。土壇場でやられる身となりゃあ、肝が冷えるってもんだぜ」
「戦場ハ常ニ変化スル」
「フィールドを理解し、相手や能力さえ利用しろ。生き残るとはそう言う事だ。だろ?」
よし、良い感じに体が思い出してきたぞ。柔よく剛を制す。戦場では全てが武器になる。
まあ、ゼロの気持ちは解らない事もない。咄嗟の切り返しは戦場ではあり得るが、土壇場は怖い。
呆れた事に、昔の自分は土壇場の切り返しを何度もやった記憶がある。今思い返すと背筋がゾッとするがな。
「覚エテイルト思ウガ、何度モ戦イ派生技ヤ新技ヲ編ミ出セ」
「見切られるな。一手先を読むのは当たり前、敵の意表を突け。だったよね」
「俺としちゃあ、宿主様と戦ってて一番怖いのは何時手足が来るか、だな」
「ソレハ同感ダ。直感的ナ攻撃ガ怖クテナ、下手ニ追イ詰メルト手痛イ反撃ヲ受ケテシマウ」
言われて思い出した。融合獣と戦ってた頃は予想外な攻撃をされてたから、直感任せだったんだわ。
視てから考えると回避すら間に合わないし、人間や魔族相手とも違った行動をする。
捕食攻撃が一番厄介で、個々様々な捕食方法をしてたな。だから相手を抉るとかグロい方法が効果的だった。
さっきの切り返しがそうだ。一直線に心臓を狙った。とは言っても、ゼロの心臓の位置は知らない。
「魔閃衝ニ関シテハ及第点ダ。後は俺達ヲ上手ク使ッタ戦イ方ダナ」
「ルシファーが先にで良いぜ。俺は少し気持ちを落ち着けてぇし」
ゼロやルシファーを使った戦い方、か。今まで選手交替、的な事しかしてなかったけど。
どんな戦い方が出来るのか、不思議な気持ちだ。
「先ず宿主様に言っとくぜ? 俺達は多少なら姿形を変えれる。俺はその中でも『人』が一番得意だ」
「俺ハ『武具』ダナ。俺達ノ得意分野ヲ理解シテ使ッテミロ」
「使ってみろ。ってもなぁ」
有言実行とばかりにルシファーが右手に纏わり付く。
どうすりゃあ良いのか解らず、ヤケクソ気味に右手を大きく振っても何も起きない。
「想像シテミロ。手ニ持ツ物ガ左右ヘ伸ビルノヲ」
「伸びる。細長い棒とかか? っておぉ……」
言われた通り、棒術で使う細長い棒をイメージしてみたら、その通りの形に変化した。
振り回してみても使い勝手が良い、手に馴染むってこう言う事か。なんて思える程手に引っ付く。
「一応ノ注意点ヲ言ウ。ゼロ!」
「へいへい。俺達は人型や宿主様の装備品的な立ち位置の場合、声は第三者にも聞こえる」
「普段の球体だと、第三者に声が聞こえないのにね」
「注意点二つ目。俺は兎も角、ルシファーの場合は疲労が生じる。そん時は休ませてやれ」
注意点としては第三者の前で話し掛けるのを控え、長期的な使用をする際は休憩を挟め、と。
昔もあったが、第三者から見て独り言やら精神異常者とか言われたな。割りと傷付くんよ、アレ。
(オメガゼロ・エックスさん……聞こえますか?)
「あぁ、聞こえてるよ。どうした?」
頭に直接聞こえる大樹の声。シオリからの話で聞いた歴史通りの時間軸なら、彼女を知っている。
五千年前。自分はこの森を浸食し、生態系を狂わす融合獣を倒した。一人の少女の命を代償として。
彼女が居なければ敗けていた。そう思える程に彼女の功績は高く、その存在と行動力は凄かった。
「おっと。これを吹いて欲しいのか?」
(はい。お願いします)
「あぁ~、少し練習させて貰ってもいいかな?」
(えぇ。構いませんよ)
頭上から落ちて来た葉っぱを拾う。彼女が生きていた頃、草笛を教えて貰ったっけ。
久し振り過ぎてやり方を忘れている。何度か試している内に、コツを掴み直したのか吹ける様になった。
倒木に腰を下ろし、二人で奏でた懐かしいメロディーを吹く。あの頃の記憶が鮮明に甦らせてくれる。
(ふふふっ、上手上手。懐かしいなぁ……あの頃に戻れたらどれ程良いか)
「また、覚醒寄生種と戦うのは勘弁願いたい」
覚醒寄生種・ヴルトゥーム。それが緑豊かなこの森を浸食した融合獣の名前。
最初は奴の存在に気付けず、後手に回され続けて生態系の急激な変化に悩まされ、気付いた時には森の半分以上を支配していた。
(……! 誰か来ます)
「ゼロ、ルシファー。悪いが姿を隠してくれ」
誰かが来る。そう言われ慌てて二人を自分の影に隠し身構える。魔獣か、それとも魔物か。
何度も此処へ通っているが、遭遇したのは魔獣や魔物だけ。シオリ曰く、不意打ちされ易いから誰も安易に入らないんだとか。
「あなたは………最近、里で見掛ける人」
「ん? 確か森の巫女。レイシ、だっけか」
茂みの中から姿を現したのは魔物などではなく、里でチラホラ見掛けていた巫女さん。
話を聞くと森の巫女とは、森の声を聴き周りへ伝える他、状態を見て回る役職だとか。今も仕事の途中なんだと。
「余り草笛なんか吹かない方が良いですよ。魔獣達が寄って来ますから」
「ごめん。迂闊だった」
「それに、最近は魔獣や魔物達の突然変異体が急激に増えているので」
「突然変異体?」
音量注意だけかと思いきや、何やらきな臭い話題が出てきた事もあり、聞き返した。
その時。自分はこの世界が滅亡へ向かっている複数あると思わしき理由の一つを、聞く事になるとは思いもせず。
余り知らなかった奴らが、何処から発生しているのかを知った。
名前:無月終焉
年齢:序章時18歳
身長:182cm
体重:73kg
性別:男性
種族:人間
設定
魔神王復活を阻止した三人の一人で、唯一パワードスーツ等を装備しない。魔法と自身の肉体を頼りに、最上級魔族とも渡り合う程。
貴紀とサクヤ。二人とは長い付き合いで本人曰く、気付けば集まっているんだとか。主な武器は己の身体、魔法の黒い炎。
魔力を纏った身体は武器であり、鎧。生半可な攻撃は通じず、逆に怒りを買うだけ。趣味は昼寝、強者との戦闘。パーティー等もスーツは堅苦しい為、ラフな格好で出る。
 




